【第34回】スクワットの深さ②Quarter SQを使うシチュエーション?
前回の記事で、
浅いスクワット(Shallow, Partial, Quarter SQ)と
深いスクワット(Deep, Parallel, Full SQ)との効果を比較し
①柔軟性獲得
②筋肥大
③筋力向上
④間接的なパフォーマンス向上(ジャンプ力)
への貢献においては、
すべてDeep SQのほうが上回るという話でした。
Quarter SQのほうがジャンプ力を向上させる場合もある?
しかし今年、Matthewら(2016)により「Quarter SQのほうがジャンプ力向上させたぞ」っていう研究が発表されました。
研究の方法は前回の記事で紹介したHartmannら(2012)のものとよく似ていますが、なぜこのような結果になったのでしょうか。
下の図にて比較してみましょう。
Hartmannら2012(Deepのほうがジャンプ力向上させた)
Matthewら2016(Quarterのほうがジャンプ力向上させた)
この2つの研究の大きな違いは、【被験者特性】です。
Hartmannら (2012)の研究では
Deep SQのMax⇒85㎏
垂直跳び⇒39㎝
と、トレーニング初心者を用いています。
一方、Hatthewら(2016)の研究では
Deep SQのMax⇒130㎏
垂直跳び⇒76㎝
と、トレーニング上級者を用いています。
(ちなみに、トップアスリートの中にもトレーニング初心者はごまんといます。競技レベルが高い=トレーニング上級者 ではない)
まず注目してほしいのは、Hartmannら(2012)の研究にくらべて、Matthewら(2016)の研究のほうがトレーニング期間は長いにも関わらず、筋力の向上が小さいということ。
(Quarter群のQuarter SQ向上率
:38% vs 12%)
(Deep群のDeep SQ向上率
:30% vs 17%)
これは、筋力にしろスピードにしろ、能力の高い選手のほうが向上が難しいからです。
ウサインボルトが100mの自己ベストを0.1秒縮めるのと、そのへんの小学生が100mの自己ベストを0.1秒縮めるのだと、難しさは段違いですよね?
Hartmannら(2016)の被検者においては、Deep群でQuarter SQの筋力は向上していません。
これはDeep SQでQuarter SQの局面を通過するものの、その局面での負荷が、トレーニング上級者にとって小さかったことが原因でしょう。(このメカニズムについては、過去記事)
一方、Quarter SQではDeep SQより大きな重力を扱えるので、Deep SQでは得られなかった、Quarterの局面での筋力向上が得られたものと考えられます。
ここからは少し推測も入りますが、Hartmannら(2012)とMatthewら(2016)の結果がまったく逆になった理由としては、以下のようなことが起きていたからではないでしょうか。
Hartmann et al, 2012
Quarter SQ群
↓
・Quarter SQの筋力向上
↓
ジャンプ力変化なし
Deep SQ群
↓
・Quarter SQの筋力向上
・Deep SQの筋力向上
・下肢の柔軟性獲得
・効率の良い動作の習得
↓
ジャンプ力向上
Matthew et al, 2016
Quarter SQ群
↓
・Quater SQの筋力向上
↓
ジャンプ力向上
(すでに柔軟性、効率の良い動作を獲得している場合は、Quarter SQの筋力の向上はジャンプ力に大きく貢献?)
Deep SQ群
↓
・Deep SQの筋力向上
(柔軟性獲得済み)
(効率の良い動作獲得済み)
↓
ジャンプ力変化なし
今回の研究の比較から考えると
トレーニング上級者(Deep SQを130㎏近く上げる場合)に限り、Quarter SQをパフォーマンス向上のために用いるのはありかもしれませんね。
でもべつにQuarter SQじゃなくてもよくね?
しかしながらQuarter SQは、筋肉よりも関節や靭帯に大きな負荷がかかるため、怪我しやすいんじゃね?危ないんじゃね?と言われています。(Hartmann et al, 2013)
Quarter SQの筋力(≒下肢軽度屈曲位での筋力)というものを分解すると、以下のように考えられます。
①股関節の軽度屈曲位での筋力
②膝の軽度屈曲位での筋力
③下肢軽度屈曲位でのコーディネーション
※伸展位というよりは、軽度屈曲位といったほうが正しいかもしれません。
①については以前の記事で紹介したヒップスラストを用いれば、Quarter SQよりももっと効率的に鍛えることができます。
②についてはレッグエクステンションで代用できそうですが、高重量のエクステンションは膝の前方剪断力(前十時靭帯への負荷)が非常に高くなるのでなんとも言えません(これは高重量Quarter SQも一緒ですが)
③についてはQuarter SQよりも下肢軽度屈曲でのドロップジャンプとかハングクリーンのほうがジャンプには貢献するような気がします。
①股関節の軽度屈曲位での筋力
個人的には①②③の中でも、特に①が、下肢軽度屈曲位での筋力に貢献しているのではと考えています。
実際、ヒップスラストとフロントスクワットでのトレーニング効果を比較した研究でも、Isometric Mid thigh Pullで測定した下肢軽度屈曲での筋力においては、ヒップスラストの方がフロントスクワットよりも向上率が高かったことが報告されています。
(9.2%↑ vs 1.5%↑)
なので下肢軽度屈曲位での筋力は、Quarter SQではなく、ヒップスラストでおぎなえるのではないでしょうか。
まとめ
現時点で、トレーニング上級者においてはDeep SQよりもQuarter SQのほうがジャンプ力を向上させる場合がある、というのは間違いではないので、選択肢の1つとしてはもしかしたらありかもしれません。
ただ、高重量Quarter SQ傷害のリスクもありますし、下肢軽度屈曲位での筋力はヒップスラストやハングクリーンでも鍛えることは可能です。
今回の記事では紹介できませんでしたが、バーベルにチェーンやゴムバンドをつけて、伸展位に近づくほど負荷が高まるようにする(可変抵抗)といった方法もありますしね。
Deep SQを正しいフォームで3ケタで行う段階に至ってないアスリートは、まずDeep SQを120~130㎏程度は持ち上げられるようになることを強くお勧めします!
参考文献
H.Hartmann
INFLUENCE OF SQUATTING DEPTH ON JUMPING PERFORMANCE
Journal of Strength and Conditioning Research, 2012, 26(12):3243-3261
Matthew R.Rhea
JOINT-ANGLE SPECIFIC STRENGTH ADAPTATIONS INFLUENCE IMPROVEMENTS IN POWER IN HIGHLY TRAINED ATHLETES
HUMAN MOVEMENT, 2016, 17(1):43-49
H.Hartmann
Analysis of the Load on the Knee Joint and Vertebral Column with Changes in Squatting Depth and Weight Load
Sports Med, 2013, 43:993-1008
B. Contreras
Effects of a six-week hip thrust versus front squat resistance training program on performance in adolescent males: A randomized-controlled trial
Journal of Strength and Conditioning Research Publish Ahead of Print, 2016
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