【第175回】バスケ選手必見!おすすめ持久力トレーニング『セブンティーン』の簡単な個別タイム設定方法
「ラントレって実は楽しいよ!」
普段バスケ選手を指導することが多い僕ですが、育成年代の選手にはこれをよく伝えます。
これだけ聞くと「こいつ頭おかしいんか?」と思われるかもしれませんが、少し変わっている点は否定できません。
先日ふと思い立って20mシャトルランをやってみたのですが、見事に100回しかいきませんでした。
大学のときは140回くらいだったので、記憶にある限り中学生以降の人生のワースト記録です。
30歳超えた成人男性が思い立ってシャトルランをする時点でちょっとだけ頭がおかしいかもしれないですが、選手に筋トレをやらせて、ラントレもやらせてという立場なので、たまには自分自身も体験する必要もあるかと思いまして。
冒頭の「ラントレって実は楽しいよ!」についてですが、ラントレをしている間はきついです。楽しくありません。
ただ、
✓定期的な測定で記録が伸びていく楽しさ
✓競技(バスケやサッカーの試合)で最後までハードワークしながらやりたい戦術を遂行する楽しさ
を感じられるような設計にすると、ラントレ(持久系トレーニング)の楽しさが少し見えてくるかもしれません。
試合で最後までハードワークをするには筋力など他の体力要素の影響も大きいとは考えられますが、もちろん有酸素的な能力も重要です。
ではその有酸素的な能力を高めるには?どんな負荷でどのくらいやれば良いのか?
以前のブログ(【第172回】体力測定の結果は思った以上に活用出来るので、くそ程使っていきましょう!)にて持久系の測定からのラントレの負荷設定方法について紹介しました。
トレーニング指導の専門家の方の場合、この記事を読んでもらえればMAS(最大有酸素性速度)から適切なLong HIITの負荷設定は出来るかと思います。
今回の記事では特にバスケットボールの指導者・選手向けに
シンプルに20mシャトルランの数値から『セブンティーン』のタイム設定をする方法をお伝えします。
セブンティーンとは?負荷設定の方法は?
セブンティーンとはバスケットボールコートのサイドライン間(15m)を8.5往復(サイドラインを17回タッチ)するラントレです。
セブンティーンという単語を聞いただけで頭が痛くなる元バスケ少年も多いことでしょう。
伝統的に60秒や70秒といったタイム設定で実施されることが多いようですが、チームで一律のタイム設定だと
✓全然楽勝な選手
✓ちょうど良い負荷の選手
✓いくら頑張っても絶対間に合わない選手
が出てきます。
「そのタイム設定で入れるように」という1つのノルマ・測定基準として用いるのであればそれでも良いかもしれませんが、普段のトレーニングとして実施するのであれば効率的ではないですよね。
ウエイトトレーニングは最大挙上重量からの%で個別に設定することが多いように、持久系のトレーニングも個別の負荷設定をすることは重要です。楽すぎず、しかし達成可能で、頑張れば超えられるハードルを設定し、それをこなすことで実際に体力の向上に繋がる。このためには個別のタイム設定はめちゃくちゃ大切。
セブンティーンのように走る距離が決まっているトレーニングの負荷設定は
✓タイム設定
✓ワーク:レスト比
✓本数
をどう設定するかが非常に重要です。
まずは実施本数についてですが、1本のみの実施だとあまり効果がない可能性が。
HIITのプロトコルに関するメタアナリシスでも総セッション時間が5分未満だとある程度のトレーニングレベルがある選手の場合は効果が薄いことが示されています(Wen et al., 2019)。
個人的には3~5本程度、2列での実施(ワーク:レスト比=1:1)が費用対効果的にもおすすめ。
ちなみにこちらは先日僕がトレーニングとして実施したセブンティーン5本、設定タイム67秒でワーク:レスト比=約1:1で実施したときの心拍数になります。

総セッション時間が11.1分なのに対して、REDゾーンといわれる最大心拍の90%以上の時間が7.3分となっています。
球技スポーツ選手のHIITとしてはREDゾーンの時間が5-10分程度が推奨されているので(Buchheit, 2013)、十分刺激が得られているかと。
ただしゲロクソにきつかったです。
出勤前に体育館にいた同僚のATを誘って一緒にやったので頑張れました。一般企業だとランハラスメントになるかもしれませんね。
初めて実施する場合は2~3本からスタートし、徐々に本数を増やすのが良いでしょう。
さて、気になるタイム設定ですが、MASの計算、%MASの設定、有酸素的能力以外の体力の考慮など、実際僕が現場で指導する場合は他にも細かい設定をするのですが、ざっくり20mシャトルランの数値だけでもこんな感じで設定できます。

例えば男子高校生(ある程度の下肢の筋力もターンのスキルもあり)で20mシャトルランが123回の場合、64秒の設定で走るといった形になります。
たぶんこの設定で1本走れと言われたらけっこうイージーです。
ただ、3本、4本、5本となると最後のほうは入れたり入れなかったりとなってくるので、そこを入れるように頑張りましょう。
低すぎるハードルではなく、高すぎるハードルでもなく、ちょうど良いハードル。
これがトレーニング効果の面でもモチベーションの面でも大切です!
まとめ
今回紹介したラントレ『セブンティーン』は、Long-HIITという形式に分類されるものの1つです。
僕は実際にはシーズンを通してShort-HIITなど他の形式の持久系トレーニングも処方するのですが、その場合スプリントの測定などでMSS(最大疾走速度)なども算出する必要があるので、ここでの紹介は割愛させていただきます。
ただ、育成年代においてはLong-HIITやLSD(長時間のジョグなど)で土台の有酸素性能力を高めるということも非常に重要になるでしょう。
ただ、そのためにラントレに30分も使うのはもったいない。バスケを上手くなるにはバスケ、サッカーが上手くなるにはサッカーの練習が一番です。
そこに加えて最後の10分程度をラントレに充てることも場合によっては有効だと思うので、今回は時間的効率の良いおすすめのトレーニングの1つとして紹介させてもらいました。
また、20mシャトルランを測定するとなると選手は嫌がるかもしれませんが、記録が伸びていたら楽しいはずです。僕も100回から1か月ちょいで106回に向上したのでちょっと嬉しかったです。自己ベストまであと34回。いけるわ。
きちんと計画されたトレーニングを実施して、食事も睡眠も十分にとれていたら2~3か月である程度数値は伸びるはず。
測定、トレーニングをモチベーション高く選手に取り組んでもらうコツはとにかく『成長を実感してもらうこと』
何も考えずに一律でラントレのタイムを設定している場合も多いと思うので、是非今回の記事を活用し、『成長の実感』につなげてください!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
来週は大学院博士課程の公開審査です。2022年9月に博士課程に入学して7年ぶりの学生生活、ここを乗り切ればなんとか3年で卒業できます…!あっという間の3年でしたがめちゃくちゃレベルアップ出来ました。最近はブログの更新頻度も減っていましたが、大学院生活が落ち着いたらその分皆さんにもまた定期的に役立つ情報を届けられると思います🙌
参考文献
Buchheit, M. and Laursen, P.B. (2013) High-intensity interval training, solutions to the programming puzzle: Part I: Cardiopulmonary emphasis. Sports Medicine 43, 313–338.
Wen, D., Utesch, T., Wu, J., Robertson, S., Liu, J., Hu, G., et al. (2019) Effects of different protocols of high intensity interval training for VO2max improvements in adults: A meta-analysis of randomised controlled trials. Journal of Science and Medicine in Sport 22, 941–947.