【第166回】ウエイトリフティングエクササイズの代替種目の効果
ウエイトリフティング種目は重量物を速く動かすことで大きなパワー発揮をし、パワー向上効果が期待出来ます。
パワーリフティングでも用いられるようなベーシックな種目(スクワットやデッドリフト)で筋肉量や基礎筋力を向上させ、ウエイトリフティング種目やプライオメトリクスでパワーを向上させるというのがよくあるパフォーマンスへの転移の流れかと思います。
ウエイトリフティング種目は基本的なレジスタンスエクササイズ(スクワットやデッドリフト)に比べてジャンプ力向上への効果が大きく、プライオメトリクスと同等の効果があることが報告されています(Hackett et al., 2016)。
着眼点を変えれば、習得にやや時間がかかるウエイトリフティング種目ではなくプライオメトリクス種目を実施することで下肢のパワー向上を達成することが出来るとも考えられます。
しかし力にフォーカスを置いた種目(上記図左)、力と速度にフォーカスを置いた種目(上記図真ん中)、速度にフォーカスを置いた種目(上記図右)と、これらのカテゴリで発揮する力の特性が異なるので、様々な刺激を身体に与えることで成長を促せるケースもあると考えられます。
(例えば、プライオメトリクスをずっと行う中でパワー発揮能力向上が停滞し、そのタイミングでウエイトリフティング種目を導入して停滞を打破できる。など)
しかしこの図の真ん中の種目(中程度の力×中程度の速度)って、ウエイトリフティング種目じゃないとあかんのん?
っていうのが今回の内容です。
ウエイトリフティング種目 vs 負荷ありジャンプスクワット
Oranchukら(2019)はハングハイプルとヘックスバーを用いてのジャンプスクワットの効果を比較したところ、垂直跳び向上への効果に差がないことを報告しています。
差は有意ではないものの、反動なしの垂直跳び(SJ:Squat Jump)においてはヘックスバーでのジャンプスクワットのほうが大きな効果を示したようです(d=0.56)。
しかしながらこの2つのエクササイズは扱っている重量が大きく異なっています。
ハングハイプル群はクリーン1RMの70%
ヘックスバージャンプ群はヘックスバーデッドリフト1RMの20%
でそれぞれ実施しています。
仮にそれぞれのマックスが100㎏と180㎏だとすると、70㎏でのハイプル vs 36㎏のヘックスバージャンプの比較になります。
ここも考慮して解釈する必がありそうですね。
ウエイトリフティング種目 vs ケトルベルスイング
一方で、ケトルベルスイングも重量物を素早く動かす種目の1つになります。
これとバーベルでジャンプスクワットを比較した研究だと、それぞれのジャンプ力向上への効果には有意差が認められませんでした。
一方でこの研究ではグループ間でトレーニングボリュームに大きな差がありました。
ジャンプスクワット群では1セッションでトータル12-32レップを実施した一方で、ケトルベルスイング群は30秒を12セットを実施しています。
少なく見積もって2秒に1レップだとしてもトータル180レップとまあまあなボリュームになっています。
その上向上率は
ジャンプスクワット⇒24%
ケトルベルスイング⇒15%
と有意ではないものの若干異なるため、レップ数を揃えたらジャンプスクワットに軍配が上がったでしょう。
しかしながらケトルベルスイングはそもそもジャンプスクワットよりもレップ数を稼ぎやすく、着地のストレスのない種目なのでレップ数を揃えるという発想自体がナンセンスかもしれません。
まとめ
今回紹介した研究上では、ウエイトリフティング種目、負荷を用いたジャンプスクワット(ヘックスバージャンプ含む)、ケトルベルスイングでパワー、ジャンプ力向上に有意差は認められませんでした。
しかし上記の理由から実施時間や労力というコスト面ではケトルベルスイングはやや劣るかもしれません。
ただしケトルベルスイングは『股関節のヒンジ動作からパワー発揮する動作を身に付けるエクササイズ』としては非常に優秀だと考えられます。
そこで覚えた動作をリフティングやジャンプスクワットに転移するという使い方はおススメです。
一方、ウエイトリフティング種目と負荷を用いたジャンプスクワットでは負荷がやや違うものの効果に差はなかったようです。
ウエイトリフティング種目の良さは他にもありますが、いかんせん『動作習得にやや時間がかる』というのが難点です。
人によってエクササイズの目的設定は違いますが『ジャンプスクワットになくてウエイトリフティンングにしかない恩恵』を設定、習得出来ない場合はウエイトリフティングエクササイズを実施するメリットは薄いでしょう。
(僕が思う『恩恵』が何かを説明するとまた長くなるのでまた別の機会で。。)
そちなみに僕は基本的にはその恩恵を得るためにウエイトリフティングエクササイズも指導しますが、『週1回以上の指導頻度が取れないチーム指導にはウエイトリフティング種目ではなく代替種目を実施する』ということが多いです。
フォーム習得に時間をかけすぎて、パワー向上効果が見込めないと意味がないですから。
1つの手法にこだわらず、ケースバイケースで各エクササイズを使い分けられるようになりたいですね!
大学院の実験が1つ終わりました。このまま次は執筆&実験2です。
着実にレベルアップ出来てる感はあるので引き続き頑張ります!
参考文献
1 Hackett D, Davies T, Soomro N, et al. Olympic weightlifting training improves vertical jump height in sportspeople: A systematic review with meta-analysis. Br J Sports Med 2016;50:865–72. doi:10.1136/bjsports-2015-094951
2 Oranchuk DJ, Robinson TL, Switaj ZJ, et al. Comparison of the Hang High Pull and Loaded Jump Squat for the Development of Vertical Jump and Isometric Force-Time Characteristics. J Strength Cond Res 2019;33:17–24. doi:10.1519/JSC.0000000000001941
3 Lake JP, Lauder MA. Kettlebell swing training improves maximal and explosive strength. J Strength Cond Res 2012;26:2228–33. doi:10.1519/JSC.0b013e31825c2c9b