【第167回】ラントレは筋力向上を阻害することもあれば筋力を向上させることもある?

『野球に走り込みやラントレは必要か?』

この問いに対してはある程度トレーニングに関する勉強をしてきた人の多くが『No』と答えるようになってきているのではないでしょうか。

個人的にはここをもう少し掘り下げて考えると実は、、、

というのが今日の内容です。

ここを議論するには、まず「『走り込み』や『ラントレ』って言葉の定義あいまいじゃね?」ってところから。

『走り込み』『ラントレ』ってなんやねん。

マラソン選手が行う『走り込み』と

100m走選手が行う『走り込み』って、

おそらく違いますよね。

なので野球チームAが行っている『走り込み』と、野球チームBが行っている『走り込み』もたぶん違うんですよね。

また、『走り込み』と『ラントレ』は似たようなニュアンスで語られることが多いですが、走り込みのほうが若干長距離走的な意味合いが強いのかな?という印象です。

おそらく『走り込み』及び『ラントレ』は大きく以下の3つのように分類できるのではないでしょうか。

①長距離走的ラントレ(10㎞走とか)

②HIIT的なラントレ(十数秒~数分のランを繰り返すもの)

③スプリントベースのラントレ(数秒~十数秒のランをそこそこレストを取りながら繰り返すもの)

これらの種目では身体に及ぼす影響が異なってきます。

『①長距離走的ラントレ』はLT速度程度もしくはそれ以下

『②HIIT的なラントレ』VO2max速度周辺

『③スプリントベースのラントレ』はSITやRST周辺もしくはそれ以上の強度になります。

(それぞれのトレーニング効果の詳細はこちらの記事で)

この特性の違いが、身体に与える影響の違いにもなってきます。

①長距離走的ラントレ

長距離走的ラントレをレジスタンストレーニングと並行して実施すると、筋力やパワーの向上及び筋肥大の効果を阻害することが分かっています(Wilson et al., 2012)。

#24 Wilson et al., 2012

阻害といっても半減~2割減くらいの阻害なので、まったく効果がなくなるわけではないです。

バスケやサッカーの場合は持久力を高めるためにはそういったトレーニングが必要かもしれませんが、野球やアメフトなど瞬発力に特化した競技の場合は長距離走的ラントレの優先順位は低いでしょう。

また、実施時間が長ければ長いほどこと阻害効果は大きくなるのもポイントです。

②HIIT的なラントレ

HIITとは、High Intensity Interval Trainig(高強度インターバルトレーニング)のことで、運動と休息を交互に繰り返します。例えば、1分走って1分休みを10本、といった形です。

運動時間は十数秒~5分程度と様々ですが、長距離走的ラントレよりも強度が高い分、実施時間は一般的に短くなります。

このHIITでもレジスタンストレーニングの効果を阻害してしまいますが、

✓筋力向上への阻害効果はあるが筋肥大は阻害しない

✓レジスタンストレーニングと24時間以上空けると阻害効果なし

と報告されているので(Sabag et al., 2018)、長距離走的ラントレよりは阻害効果の心配はなさそうです。

#31 Sabag et al., 2018

③スプリントベースのラントレ

レストをしっかりとりながらのスプリントトレーニングは、レジスタンストレーニングの効果を阻害しません。

なんなら、スプリントをすることで筋力やパワーが向上することすら報告されています(Markovic et al., 2007)。

#93 Markovic et al., 2007

これは意外かもしれませんが、『短い時間で全力を出す』という点は筋トレとも似ているのであり得ない話ではないですよね。

まとめ

①長距離走的ラントレ
✓筋力向上を阻害
✓筋肥大を阻害
✓パワー向上を阻害

②HIIT的なラントレ
✓筋力向上を阻害(別日なら大丈夫かも)
✓筋肥大は阻害しない

③スプリントベースのラントレ
✓筋力向上効果あり
✓パワー向上効果あり

一方でRST(Repeated Sprint Training)と言われる形式のHIITは全力に近いスプリントを繰り返すので、②HIIT的なラントレと③スプリントベースのラントレの間くらいの効果があると考えられます。

筋力向上を阻害するかもしれないし、むしろ筋力向上を促進するかもしれないという微妙な立ち位置になりますね。

このように①~③は明確に分けられるようなものではなく、グラデーションがかかったものになります。

「野球のような瞬発的な競技にラントレは不要か?」と言われたときに、一概にNoとは言えないんじゃ?というのはそのためです。

ただし明らかな①のカテゴリのラントレは野球にとっての優先度は限りなく低いですよね。なんなら②も。

「③は走塁があるバッターには必要だが、打席に立たない投手にとってどうか?」と聞かれたら、個人的には必要かと思います。

筋力向上効果を狙うなら筋トレで良いじゃんという意見もあるかと思いますが、若干違う目的で用いることが出来ますからね。

ラントレに限らず何事も言葉の定義をきちんと定めることは大切です。

是非今回の記事で頭の中を整理してください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


2022年度は色々あった1年でした。

アルバルク東京ユースチームでも働き始め、大学院修士時代のデータを初めての査読付き英語論文にアクセプト。

結婚して9月からは大学院の博士課程にも通って先月子供も産まれました。

S&Cコーチ、学校教員、大学院生、父親として、4足のわらじになっちゃいましたが2023年度も頑張ります!


参考文献

Buchheit, M., & Laursen, P. B. (2013). High-intensity interval training, solutions to the programming puzzle: Part I: Cardiopulmonary emphasis. Sports Medicine, 43(5), 313–338. https://doi.org/10.1007/s40279-013-0029-x

Markovic, G., Jukic, I., Milanovic, D., & Metikos, D. (2007). Effects of sprint and plyometric training on muscle function and athletic performance. Journal of Strength and Conditioning Research, 21(2), 543–549. https://doi.org/10.1519/R-19535.1

Sabag, A., Najafi, A., Michael, S., Esgin, T., Halaki, M., & Hackett, D. (2018). The compatibility of concurrent high intensity interval training and resistance training for muscular strength and hypertrophy: a systematic review and meta-analysis. Journal of Sports Sciences, 00(00), 1–12. https://doi.org/10.1080/02640414.2018.1464636

Wilson, J. M. J. M., Marin, P. J. P. J., Rhea, M. R., Wilson, S. M. C., Loenneke, J. P., & Anderson, J. C. (2012). Concurrent training: a meta-analysis examining interference of aerobic and resistance exercises. Journal of Strength and Conditioning Research, 26(8), 2293–2307. https://doi.org/10.1519/JSC.0b013e31823a3e2d

 

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