【第140回】「背中を鍛えろ!」には4通りくらいの意味があるから、どの意味かを理解しないと目的は達成出来ません
「背中はピッチャーにとって重要だから鍛えろ」
「背中を鍛えることで姿勢が良くなってパフォーマンスが上がるぞ」
「背中をうまく使えないと怪我する」
「前方向の加速には背中を中心とした背面の筋肉が必要だから」
スポーツ界において、背中の重要性を説かれる場面は非常に多いと思います。
そういった話を耳にした選手から「佐々部さん、背中を鍛えたいんですけど良い種目はありませんか?」って聞かれることも多いです。
その時の僕の脳内では毎回「この選手の言う『背中』っていったいどこのことなんやろ。。?」という問いが繰り広げられてます。
何でかというと、『背中を鍛える』という言葉は色んな意味を持つんですよね。
『背中』の分類
まずは以下の図を見てみてください。
見て分かる通り、背中の筋肉といっても色んな筋肉があるんですよね。
図に記載してある通り、それぞれの役割も異なりますし、鍛え方も違ってきます。
棘下筋・小円筋
肩の外旋筋群(棘下筋・小円筋)は、投球動作時のブレーキの役割を果たします。
ここが弱いということは要するに投球動作中のブレーキがきかないということ。
ブレーキを効かせられないのにアクセルばっか強化したら、そりゃぶっ壊れますよね。
実際、シーズン前に肩の外旋筋力が弱かった投手ほど、肩の怪我の受傷率が高かったという報告もあるようです(Byram et al., 2010)。
代表的な強化方法としては、チューブを用いた肩の外旋のトレーニング等が挙げられます。
広背筋
ご存知広背筋は、筋が付着している部位も腱板等よりも遠位で筋長も比較的長いので、大きな力・パワー発揮をするために重要な筋肉になります。
腕を振り下ろす動作や掴んだものを引っ張る動作など、投球系競技や格闘技においては特に重要になってきますかね。
懸垂やベントオーバーロウ等、腕を大きく動かして引く種目で鍛えられます。
僧帽筋下部線維
この筋肉も非常に重要で、肩甲骨の安定性や上方回旋のサポートに関わってきます。
先ほど紹介した棘下筋等と同じように、投球傷害の予防においても非常に大切だと考えられます。
またこれは個人的な経験なのですが、この部位を刺激してからのほうがクリーンのキャッチやフロントスクワットの安定感も増す感じもします。
円背姿勢(猫背)の改善にも繋がると考えられるので、人によってはこの部位が使えないことが腰痛の原因にもなってるかもしれません。
「ここを鍛えるのにはこの種目をやっておけば良い!」というのは断言出来なくて、やり方次第で全然刺激が入らない場合もありますし、バチバチに効かせることも出来ます。
例えば懸垂をする時も、正しいフォームで実施すれば使うことが出来ますし、フォームを間違えると全然使えません。
★意外と意識出来てない懸垂のポイント
肩甲骨を寄せながら上げることはもちろん、『上げる軌道』を意識することも大切。
胸を少し上に向けたら、遠回り(3,4回目)をせずに最短距離で上げること(1,2回目)。
ここを意識するだけで僧帽筋下部等肩甲骨をコントールする筋肉を使えるようにもなります。 pic.twitter.com/urNONaKUrO
— 佐々部孝紀(Koki Sasabe) (@tyr7bbb) March 30, 2021
なかなか難しいという場合は、軽重量のラットプルダウンで
・肩を落として(耳と肩の距離を開けて)
・肩甲骨の間の下のほうに絞っていくイメージで
実施すると感覚をつかめるかもしれませんし、ウエイトトレーニングの中で使うのが難しい場合は腕をYの字に上げた状態で肩甲骨を寄せるエクササイズから始めるのが良いかと!
脊柱起立筋群
これは背中~腰にかけての筋肉ですね。
スプリントやジャンプなど、スポーツにおいて重要な動作課題を行うとき、股関節の伸展の力で地面を蹴るというのは皆さんご存知かと思います。
一方で、股関節の伸展の力発揮をするうえで、骨盤を安定させる力を出せるということも非常に重要です。
(股関節伸展筋は骨盤後傾作用があるので、その作用に負けないように腰部の筋で固定する必要がある)
実際、スプリントのスタート局面では股関節の伸展トルク以上に腰部の伸展トルクが発揮されているという報告もなされています(Sado et al., 2020)。
ここを鍛えるには、RDL等、股関節を動かしながら体幹部が屈曲しないように耐える種目が適していると考えられます。
たまには遊んでる動画だけじゃなくてトレーニングの動画も。
RDL130kg×3回
今の時期なら全然ストラップなしでもいけるんですけど、暑くなると手汗で持つのしんどくなるから筋トレに関しては冬が一番好きです。 pic.twitter.com/oT7CVSGrFD
— 佐々部孝紀(Koki Sasabe) (@tyr7bbb) February 20, 2021
あえて背中~腰を曲げたところから伸展をさせて筋の伸長⇔短縮を出して鍛えるという方法もあるのかもしれませんが、アスリートの場合はこの次の段階として、クリーンやジャンプトレーニングで『体幹部を安定させたまま股関節でパワーを発揮する』というトレーニングに繋がるので、基本的には固定した状態の力発揮が良いでしょう。
まとめ
『背中』と一言に言ってもいろんな意味を含むということが分かっていただけたかと思います。
それを把握せずに
背中大事って聞いた⇒Google『背中 鍛え方』⇒「お、これなんか良さそう」
だとうまくいかない可能性もありますよね。
度々主張していることになりますが『アスリート自身が最低限の身体の知識を学ぶことは非常に重要』です!
掘り下げていくとなかなか楽しいので、是非これをきっかけに背中を掘り下げていってください!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
明日からいよいよ来年度ですね!
新しいチャレンジが色々あるのでめちゃくちゃ楽しみな1年です!
参考文献
- Byram, IR, Bushnell, BD, Dugger, K, Charron, K, Harrell, FE, and Noonan, TJ. Preseason shoulder strength measurements in professional baseball pitchers: Identifying players at risk for injury. Am J Sports Med 38: 1375–1382, 2010.
- Sado, N, Yoshioka, S, and Fukashiro, S. Three-dimensional kinetic function of the lumbo-pelvic-hip complex during block start. PLoS One 15: 1–13, 2020.Available from: http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0230145