【第139回】筋力向上と持久力向上の両立のためのHIITの活用
筋力トレーニングと持久力トレーニングを同時期に実施することを『コンカレントトレーニング』と言い、ここ最近注目されている分野です。
コンカレントトレーニングを実施すると、筋力トレーニング単体で実施した場合よりも、筋肥大、筋力・パワーの向上が小さくなる、いわゆる持久的トレーニングによる干渉作用が発生します。
前回のブログでコンカレントトレーニングについての書籍(佐々部の後輩が執筆)を紹介したのですが、その書籍で引用されている研究が2017~2018年あたりまでであり、発展途上の分野なのでそれ以降の研究も拾っていく必要があるという内容で締めました。
そこで今回はその書籍で紹介されていないここ2~3年の研究と、そこから考えられるトレーニングの戦略を紹介していこうと思います。
持久力トレーニングの強度による違い
持久力トレーニングは大きく分けると2種類
●一定ペースの持久的トレーニング
●HIIT(高強度インターバルトレーニング)
に分けられます。
実はその2つだと筋力トレーニングへの干渉作用もまた少し違ってくるようです。
HIITの筋力トレーニングへの干渉作用
先日のブログでも紹介した通り、持久的トレーニングは(特にランニング形式であれば)
・筋肥大を妨げる
・筋力向上を妨げる
・パワー向上を妨げる
とされています。
一方で、それをHIITに限定するとどうか?というメタアナリシスも2018年に発表されていて、それは以下のように
・筋肥大は妨げない
・筋力向上は妨げる
加えて『別日の実施であれば筋力向上を妨げない』
といった結果が示されています。
このように、HIITであれば一定ペースの持久的トレーニングよりも筋力トレーニングへの干渉作用は小さいことが示唆されています。
一定ペースの持久的トレーニングよりもHIITのほうが強度が高い分、ボリューム(総運動量)が抑えられることが多いことも、干渉作用が小さくなった理由の1つとして考えられます。
実際、先述したWilsonら(2012)のメタアナリシスでも運動量が多いほど阻害効果が大きいことが報告されています。
HIITの強度をさらに細分化して考える
さらに今年発表されたレビュー論文(Vechin et al., 2021)にて、「HIITの中でも強度設定がまた細分化出来るんやから、それによっても干渉作用が違うんじゃね?」といったことが示唆されています。
前回のブログで紹介した書籍の中でも触れられていますが、そもそも筋力トレーニングに対する持久力トレーニングの干渉作用は、疲労の影響だけではなく代謝的な要求の違い、それに伴う分子的な適応からも影響を受けます。
つまり、ウエイトトレーニングにより近い代謝的要求のHIIT(言い換えると、より強度の高いもの)を実施すると干渉作用が小さくなるのでは?というのがVechinらの主張です。
以下にBeccheit&Lauren(2013)のHIITのレビューを基にHIITの中での分類の図を作成しました。
特にSITやRSTといった分類のHIITは強度が高いということになりますね。
そしてVechinらのレビュー内でも、
・Short HIIT
・Long HIIT
は筋力向上の阻害効果があったと示す研究がある一方で
・RST:Repeated Sprint Training(3~10秒のスプリントを繰り返すようなトレーニング)
・SIT:Sprint Interval Training(30~45秒の強度の高いスプリントをレストを挟みながら実施するトレーニング)
あたりは、特に干渉作用が小さい可能性が示されています。
(このあたりのトレーニング方法は、大学同期で東京大学研究員の竹井くんのブログに詳しく載っています)
まとめ
🔻HIITだと一定ペースの持久的トレーニングよりも筋力トレーニングに対する干渉作用は小さそう
🔻特に筋肥大への干渉作用は限りなく小さそう
🔻HIITの中でも特に強度の高いRSTとSITは筋力・パワー向上への干渉作用がさらに小さそう
今回は前回紹介した書籍ではカバーしきれていない、筋力・持久力向上の両立のための情報を紹介しました。
この分野で出来る工夫はまだまだたくさんあるのですが文字数がとんでもないことになるのでいったんこのくらいで。。泣
基礎が分かっているとこういった応用も幅が広がります。
是非前回のブログで紹介した情報と合わせてこのあたりの最新の知見もチェックしてみてください!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
3月中に前回、今回のブログの内容をもっと掘り下げた内容や、肉離れ予防に関するセミナーを開催しようと思っていたのですが、色んな仕事が立て込んでおり一旦開催を見送ることにしました。。
ありがたいことに4月からはまた活動の場を新たにいくつか頂いたので、来年度に向けてしっかりと準備していきます!
参考文献
- Buchheit, M and Laursen, PB. High-intensity interval training, solutions to the programming puzzle: Part I: Cardiopulmonary emphasis. Sport Med 43: 313–338, 2013.
- Sabag, A, Najafi, A, Michael, S, Esgin, T, Halaki, M, and Hackett, D. The compatibility of concurrent high intensity interval training and resistance training for muscular strength and hypertrophy: a systematic review and meta-analysis. J Sports Sci 00: 1–12, 2018.Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29658408%0Ahttps://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/02640414.2018.1464636
- Vechin, FC, Conceição, MS, Telles, GD, Libardi, CA, and Ugrinowitsch, C. Interference Phenomenon with Concurrent Strength and High-Intensity Interval Training-Based Aerobic Training: An Updated Model. Sport Med , 2021.Available from: https://doi.org/10.1007/s40279-020-01421-6
- Wilson, JMJM, Marin, PJPJ, Rhea, MR, Wilson, SMC, Loenneke, JP, and Anderson, JC. Concurrent training: a meta-analysis examining interference of aerobic and resistance exercises. J Strength Cond Res 26: 2293–2307, 2012.Available from: http://journals.lww.com/nsca-jscr/Fulltext/2012/08000/Concurrent_Training___A_Meta_Analysis_Examining.35%5Cnhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22002517