【第100回】《まとめ》アスリートのカフェインとの上手な付き合い方~効果と注意点~

『カフェイン』

コーヒーや緑茶、エナジードリンクにも含まれ、アスリートに限らず多忙なビジネスマンのパフォーマンス発揮にも使われていますよね。

国際スポーツ栄養学会のレビュー(2018)でも、アスリートのパフォーマンスを高めるためのサプリメントとして、A~Cランクの中でAランク(効果が高く、安全性も保障されている)に分類されており、その効果は確かなようです。

一方でWADA(世界アンチドーピング機構)の2019年監視プログラムの対象物質にも含まれており、摂取のしすぎは健康への影響が懸念されてもいます。
(監視プログラムの対象物質は禁止物質とは異なります⚠)

また、一般的に認知されている副作用として『睡眠の質への影響』や、『利尿作用の促進による脱水』なども考えられますよね。。
使って良いの?悪いの?ちょっと考えますよね。

結論から言うと、
・カフェインは様々な面からパオーマンスを向上させる
・普通の使用量で、使うタイミングを考えれば問題なし

と、僕は結論づけています。

以下にカフェインがどんな効果があるのか、どんなことに気を付ければいいのかを紹介していきます。

カフェインのパフォーマンスへの効果

パフォーマンスと一言に言っても、色々なものがありますよね。

カフェインの摂取では
・認知機能の向上
・筋力、筋持久力の向上
・持久力の向上
などの効果があります。

けっこう盛沢山ですね。

認知機能の向上

Ruxtonのレビュー(2008)ではカフェインの健康な被験者に対する認知機能への効果を検討した研究をレビューし、その結果16個の研究のうち14個の研究で認知機能の向上が認められました

認知機能のテストには
・反応速度
・注意深さ
・短期記憶
などが含まれます。

どれもスポーツに必要な能力ですよね。

また認知機能というくくりからは少しはずれますが、RPE(主観的な努力感)の低下も認められています。

つまり、同じ強度の運動をしていても『つらさ』『頑張っている感』が薄れる⇒激しい運動中でも頭の余裕が生まれるということ。これもなかなか大事ですよね。

筋力、筋持久力の向上

Warrenらのメタアナリシス(2010)では最大筋力に関するデータが27個、筋持久力に関するデータが23個採用され、それぞれ以下のような結果を示しました。

#47 Warren et al., 2010

筋力で4%の向上というと、スクワットのマックスが130㎏⇒135㎏になるということ。
5㎏の向上って意外と大きいですよね。

またこの研究では、電気刺激を用いた過最大の出力へのカフェインの摂取の効果も調べていますが、その場合はカフェインの有意な効果は認められなかったようです。

電気刺激を用いた~っていうのがどういうことかというと、人間は筋肉をマックスに使おうと思ってもリミッターがかかっていて100%使えていないっていうのは聞いたことがありますよね?

例えば筋肉を75%しか使えていない人(75%ぶんの命令しか脳から筋肉に行ってない人)に対して、外部の電気刺激を加えることで、残り25%を無理やり使うことができるのです。

その状態にカフェインを加えても効果がなかったということは、つまりカフェインもその外部の電気刺激と似たような効果があった、つまり神経からの命令の増加で筋力・筋持久力が向上したと考えられるのです。

前回のブログで紹介したクレアチンなどとは違うメカニズムで筋力を向上させるんですね。

持久力の向上

Higginsら(2016)のシステマティックレビューでは、コーヒーが持久的パフォーマンスに与える影響について調べています。

先ほどの『筋持久力』は一定の重さやを何回挙げられるかといった、代謝ストレスがかかるような(筋がパンプするような)もの。
ここでいう『持久力』は長距離走などの運動課題の能力を指します。

Higginsら(2016)の研究では

●疲労困憊に至るまでの時間
⇒24.4%の向上

●タイムトライアルなどの持久的パフォーマンス
⇒3.1%の向上

を示しました。

上記2つの異なる持久的パフォーマンス、どちらも向上を示していますが、『疲労困憊に至るまでの時間』のように、スピードよりも根性(?)がより関わるような形式のテストのほうがカフェインの作用(RPEの低下や中枢神経からの命令増加)とは相性がいいのかもしれませんね。

またこのレビューに含まれる研究で、コーヒーvs無水カフェイン(錠剤のカフェインなど)を比較した研究が2つあったようなのですが、どちらもコーヒーと無水カフェインでは効果に差がなかったとされています。

どのようなものからカフェインを摂取するかはあまり関係ないようですね。

競技パフォーマンス

じゃあ実際の試合のパフォーマンスはどうなの?
というところも気になりますが、筋力も筋持久力も持久力も高まるのなら、試合の運動強度も高くなりそうですよね。

実際にClarkeら(2019)はラグビーの試合を模した運動課題において、カフェインの摂取が運動強度・走行距離を増やすことを示しています。

#48 Clarke et al., 2019

『実際の試合ではカフェインの脱水作用によってパフォーマンスが落ちるんじゃないの?』といった意見を聞くことも多いですが、そんなことはなかったようです。

そのことについても詳しく後述します。

摂取タイミング、摂取量

カフェインの血中濃度は摂取後60~90分でピークになるようです。

なのでその時間を逆算した摂取タイミングを考えればよさそうですね。

必要な摂取量については
目安として体重×3㎎(体重70㎏の選手では210㎎)
これはコーヒーでいえば400ml弱、大きめのボトル缶のコーヒーサイズですね。スタバでいえばトール~グランデです。

けっこう量としては多いですよね。

参考までに、缶コーヒー、スタバの各サイズの量と、そこに含まれるカフェイン量を。100mlあたり50㎎のカフェインとして計算してます。ホットコーヒーだとこれより少しカフェインは多くなるかも。

ちなみにお茶類はこの約半分のカフェイン含有量です。

一方認知機能の向上が目的であればこれより少なめ(体重×1~2㎎)でも大丈夫そう。

身体的なパフォーマンスにおいては体重×3㎎が目安ですが、カフェイン耐性が低い人(カフェインが効きやすい人、もしくは普段あまり飲んでない人)はこれより少なめでも効果はあるのではと考えています。

先述の研究でも筋力と持久力に関しては×3㎎をオーバーしてもさらなる効果は期待できなそうとされていますし。

一方で筋持久力に関しては×3㎎を超えてもDoes-Response効果(摂取量が多ければ多いほど効果あり)が認められているので(Warren et al., 2010)、悪影響が出ない範囲で多めに飲むのもいいかもしれません。
(摂取したとしても体重×8㎎が上限かと⚠)(Higgins et al., 2016)

カフェイン使用の注意点

冒頭にも述べた通り、カフェインの使用は『睡眠への悪影響』『脱水』といったデメリットも考えられますが、それはどの程度のものなんでしょうか?

以下に解説していきます。

脱水

Ruxton(2008)はプラセボ、ダブルブラインドの研究に限定したシステマティックレビュー(?)を行い、カフェインの脱水への影響を調べました。

結論としては、摂りすぎなければ大丈夫。と言えそうです。

以下が採用された8つの研究のそれぞれのカフェイン摂取量と、有意な脱水(尿量の増加)があったかどうか、あったとしたらどの程度の増加かを示した表です。

有意な尿量の増加を示した研究は、比較的カフェイン摂取量が多い研究ですよね。
カフェインを体重×9.6㎎なんて、コーヒー換算で1Lオーバーですからね。笑
(これらの研究は錠剤のカフェインを用いたものが多いですが)

先ほど紹介した通り、筋力や持久力の向上が目的であれば体重×3㎎のカフェインで十分。

その程度の量であれば利尿作用による脱水の心配はあまりなさそうです。

ただ、プレワークアウト系の錠剤のサプリの場合は、コーヒーよりも過剰摂取をしやすいので注意が必要ですね⚠

睡眠への影響

睡眠への影響に関しては以下の研究が参考になります。

#49 Drake et al., 2013

400㎎のカフェインを就寝直前、もしくは就寝3時間前に摂取した場合は寝付くまでの時間が約3倍に。

就寝6時間前に摂取した場合でも寝付くまでの時間が約2倍になっています。

22時に寝る場合、16時のカフェインが睡眠に悪影響を与えうるということです。

ただ、この研究は注意点が2つほどあり

●カフェインの摂取量が比較的多い。※スタバのベンティサイズ(590ml)以上!

●カフェイン摂取群の寝付く時間の標準偏差が大きい⇒カフェイン耐性が人によって大きく異なり、眠れる人は眠れるし、寝付く時間がもっと長くなる人もいるということ。

一般的な摂取量であればここまで大きくは入眠を阻害しないかもしれませんが、水分補給の多くをお茶やコーヒーに頼っている人は注意が必要です。

また「いくらカフェインをとっても寝れるぜ!」って人もいるでしょうし、一方で人によっては夕方にちょっとでもカフェインを取ると寝つきが悪くなる人もいるでしょう。
ちなみに僕は後者なので15時以降はカフェインをとらないようにしています。

まとめ

☑カフェインは認知機能を高める

☑カフェインは筋力、筋持久力、持久力を高める

☑カフェインには利尿作用があるが、通常の摂取量であればそこまで心配なし?

☑午後のカフェイン摂取は入眠を阻害する可能性あり

カフェインは上手に付き合えば競技力向上に貢献してくれます。

一方で摂取量・摂取のタイミングを誤れば、睡眠を阻害してリカバリーがうまくいかないかも⚠

それと日常的なカフェイン摂取量が多すぎると、カフェインを摂取していない状態の認知機能が低下してしまう可能性も(Ruxton, 2008)。

また効き目には個人差が大きいので、紹介した研究の摂取量をベースに「自分はこれくらいの摂取量で効果がありそうだなor睡眠に影響しそうだな」ってことを把握しておくことも大事。

効果を最大限活かすためにも、正しい知識を身につけましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


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参考文献

Kerksick, C M, Wilborn, C D, Taylor, L, Campbell, B, Almada, A L, Collins, R, Cooke, M, Earnest, C P, Greenwood, M, Kalman, D S, Kleiner, S M, Leutholtz, B, Lopez, H, Lowery, L M, Mendel, R, Smith, A, Spano, M, Wildman, R, Willoughby, D S, Ziegenfuss, T N, Antonio, J, and Kreider, R B
ISSN Exercise & Sport Nutrition Review: Research & Recommendations. Journal of the International Society of Sports Nutrition 15:38, 2018

Warren, Gordon L., Park, Nicole D., Maresca, Robert D., McKibans, Kimberly I., and Millard-Stafford, Melinda L.
Effect of caffeine ingestion on muscular strength and endurance: A meta-analysis. Medicine and Science in Sports and Exercise, 40(2):1375-1387, 2010

Higgins, Simon, Straight, Chad R., and Lewis, Richard D.
The Effects of Preexercise Caffeinated Coffee Ingestion on Endurance Performance: An Evidence-Based Review. 26(3):221-239, 2016

Ruxton C.
The impact of caffeine on mood, cognitive function, performance and hydration: a review of benefits and risks. British Nutrition Foundation Nutrition Bulletin, 33, 15–25, 2008

Drake, Christopher, Roehrs, Timothy, and Shambroom, John
Caffeine Effects on Sleep Taken 0, 3, or 6 Hours before Going to Bed. Journal of Clinical Sleep Medicine, 9(11), 1195-1200, 2013

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