【第133回】無実のクレアチンを責めるのはやめよう~クレアチンは肉離れを引き起こさない!
「クレアチンの摂取には、肉離れを引き起こすっていう副作用があるからやめといたほうがええで」
日本中で1日50件は行われているであろう会話の内容ですが、それは本当なのでしょうか?
本日はその疑問の答えの1つとなる研究を紹介します。
そもそもクレアチンとは?
人間の筋肉を動かすにはATPという物質が必要で、そのATPが枯渇しないように再合成をする必要があります。
その再合成のためのエネルギー源は複数あるのですが、クレアチンはそのエネルギー供給において大きな役割を果たします。
つまり、クレアチンはホルモン剤でも薬でもなんでもなく、ただのエネルギー源なのです。
クレアチンの効果
先述した通り、クレアチンは運動のエネルギー源です。
そのためトレーニングと合わせてクレアチンを摂取することで、より大きな筋力の向上・筋肉量の増加が達成できると国際スポーツ栄養学会もレビュー論文でまとめています(3)。
また、そのレビューの中でも『クレアチンの安全性』について触れられており
・肝機能などの健康面
・傷害発生率
などにおいて副作用は認められなかったとしています。
クレアチンは怪我を増やさないどころか、、!
先述のレビューでも引用されている研究なのですが、NCAA Dv.1のアメリカンフットボールのチームにおけるクレアチンの使用と傷害の発生率について検討した研究を紹介します。
この研究では
・クレアチン使用者
・クレアチン未使用者
に分け、シーズンを通して起こった怪我を記録し、グループ間で比較しました(2)。
※同一人物内での再発はカウントせず、傷害を負ったかどうかで分類
その結果、筋痙攣(脚のつり)と肉離れについて、以下のような結果に。
クレアチン使用者は筋痙攣や肉離れを増やすどころか、むしろ未使用者と比べて少ない発生数を示しました!
ランダム化比較試験ではないのでエビデンスレベルがそこまで強いわけではないですが、この結果からもクレアチンで怪我が増えるということは考えづらいでしょう。
なんでクレアチンが怪我を増やすって言われてんの?
クレアチンの摂取は怪我のリスクにならないというのは科学的なデータでも立証されています。
一方でなぜクレアチンがそういった怪我を引き起こすと言われているのかについてですが、以下のような要因が考えられます。
●先入観があり間違った認識をしてしまっている
●クレアチンの摂取+誤ったトレーニングで実際に怪我が増えた可能性もあり
先入観
クレアチンが怪我を増やすというのは根拠はないものの、広まってしまっている情報ですよね。
一方で、パフォーマンスを高めるということも最近は広まってきてしまっているので、摂取している選手も増えてきていることでしょう。
そこで起こるのが、先入観による勘違い。
例えば今年肉離れを受傷した選手が6人いて、5人がクレアチンを摂取していたとしたら
「やっぱクレアチンってあぶねーな!」
ってなりますよね?
けど冷静にこの表を見てください。
もしこのような人数分布になっていたとしたら
クレアチン使用者→100人中5人が受傷(5%)
クレアチン未使用者→10人中1人が受傷(10%)
と、むしろ肉離れを受傷した人の割合はクレアチン摂取者で少なくなっています。
クレアチンを摂取して肉離れをした選手がいたとしても、クレアチンを摂取していて肉離れをしていない選手がそれ以上に多かったら、リスクとは言えないですよね。
もしもこれが『肉離れをした6人のうち、5名が普段から米を食っていた』だとしたら、何言ってんねんってなりますよね。
こういった先入観による勘違いが起きないように上記のようなクロス集計表を作るのはチームの傷害発生を調査するには必須です。
クレアチン+誤ったトレーニング
一方で、クレアチンを摂取することによる怪我の増加も、色々なことが重なると起きなくはないかなとも思います。
例えば、クレアチンを摂取しながら上半身はバカほどトレーニングをしたものの、下半身はまったくしなかったパターン。
これだと上半身の筋量が大きく増加することによる下肢の負担も起こりそうですよね。
もう1つのパターンは、モモ前のトレーニングはしっかりと行ったものの、モモ裏のトレーニングを怠ったパターン。
ハムストリングのリスク因子についてのレビュー(1)でも
・膝伸展の筋力の強さ
・Functional H/Q比
・垂直跳びの能力
がハムストリングの肉離れのリスクになり得るとしています。
クレアチンを摂取した状態でもも前ばかりを鍛えると、モモ前とモモ裏の筋力の乖離がより大きくなる可能性もありますよね。
これらを考えたときに結論として言えるのは、『悪いのはクレアチンじゃなくてトレーニング方法じゃね?』ということ。
まとめ
最も誤解を受けているサプリメントランキングで堂々の1位(佐々部調べ)だったのでつい弁明をしたく、今回執筆にあたりました。
(別にサプリメントメーカーからの献金は受けていません。関係者の皆さんシェアはご自由にどうぞ!)
サプリメントに限らず、スポーツ科学、トレーニング科学の世界にはこういった逸話がゴロゴロ転がっています。。
少しでもそういった誤解を解けるよう、今後も頑張って更新していきますので、良かったらシェアをお願いします!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
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参考文献
- Freckleton, G and Pizzari, T. Risk factors for hamstring muscle strain injury in sport: A systematic review and meta-analysis. Br. J. Sports Med. 47: 351–358, 2013.
- Greenwood, M, Kreider, RB, Greenwood, L, and Byars, A. Cramping and Injury Incidence in Collegiate. Methods 38: 216–219, 2003.
- M., KC, Wilborn, CD, Roberts, MD, Smith-Ryan, A, Kleiner, SM, Jäger, R, et al. ISSN Exercise & Sport Nutrition Review: Research & Recommendations. J Int Soc Sports Nutr 7: 7, 2018.