【第132回】その日に身体パフォーマンスを高める裏技集~スポーツ科学を活かしたコンディショニング
大事な試合、大事なトライアウト、、どうしても結果を出したい日ってありますよね。
しかしその日だけやる気スイッチを入れたとしても、根本は日ごろの積み重ね。
付け焼刃の小技だけで大きな結果を出すのは難しいです。
とは言いつつもその日の過ごし方でパフォーマンスが左右されてしまうのも事実。
今回はその日、その時にパフォーマンスを高めるための科学的方法をお伝えします!
その①栄養・サプリメント
まず王道のものとして、栄養摂取・サプリメントが挙げられます。
代表的なものとして
・糖質
・水分
・カフェイン
等が挙げられます。
糖質
糖質いついては、数日前からの糖質摂取を多くして、身体にグリコーゲンを蓄えるグリコーゲンローディングが良く知られていますよね。
(詳しくはこちら→【第90回】アスリートが絶対に知っとかないといけない栄養のこと②~十分なエネルギー摂取はパフォーマンスを高める!)
一方で、運動直前、運動中の糖質摂取も、特に持久的なパフォーマンスを高めるということがメタアナリシス(5)でも示されています。
また、その論文内では著者らは特に6~8%の糖分濃度のドリンクの摂取を推奨しており。この6~8%がどのくらいかというと
・ポカリスエット→6.2%
・アクエリアス→4.6%
と、市販のスポーツドリンクがだいたいそのくらいの糖質濃度になっています。
(日本コカ・コーラ公式HP、ポカリスエット公式HPより)
ここでお気づきかもしれませんが、持久的運動を行うアスリートがスポーツドリンクを薄めて飲むというのは、パフォーマンス発揮の観点においてはマイナスかもしれません⚠
水分
水分の摂取は大きなパフォーマンス低下を招きます。
しかし言い換えると、ライバルが水分摂取をおろそかにしている間に自分がしっかり水分を摂取できていたら、相対的にパフォーマンスが向上するとも言えます。
水分の不足は持久力で約8%、筋力・パワーで約6%の低下を招きます(6)。
(詳しくはこちら→【第101回】水を飲むだけでパフォーマンスが上がる?~水分状態が筋力・持久力に与える影響~)
しかしここで注意が必要なのは、跳躍種目のように自体重が重くなると不利に働くような種目においては水分の摂取のし過ぎはパフォーマンス低下を招く可能性があるということ⚠(6)。
一方で同じパワー発揮の種目でも、投擲やウエイトリフティングなど、自体重ではなく他の物体にパワーを伝える種目であれば体重増加のデメリットは限りなく少ないでしょう。
カフェイン
カフェインには一時的な
・認知機能向上
・筋力、パワー向上
・全身持久力、筋持久力向上
の効果が認められています(4,7)。
これは脳・中枢神経の興奮が高まることによるものと考えられています。
推奨される摂取量・タイミングは体重×3㎎~を運動1時間前
これは体重70㎏であれば210㎎のカフェイン、コーヒーに換算すると400ml程度(スタバのトールや350mlコーヒー缶より少し多い程度)に相当します。
一方で
・睡眠の阻害
・主観的ストレス増加、コルチゾールの分泌
といったデメリットもあるので、摂取量、タイミングには注意が必要です。
その②テンポの速い音楽を聴く
テンポの速い音楽を聴くと、疲労の発生を遅らせることで、筋持久力が向上することが知られています(2)。
テンションを上げて出せる筋出力を大きくする上では『テンポの速い曲』が良いでしょうが、このデータはあくまでも筋出力の観点の話。
試合前に緊張が高まり過ぎてから回ってしまうという選手は、逆にテンポのゆっくりとした曲を聴いて気持ちを落ち着かせるのも良いかもしれません。
その③色を活用する
こちらも面白い研究なのですが、目にしている色によっても発揮出来る筋力は違ってくることが報告されています(3)。
赤色のような興奮に繋がる色のほうが発揮できる筋力は高くなるようです。
しかし試合においては身に付けることが出来るユニフォームの色は決まっていますし、自分たちが赤を身に付けるのと同時に相手選手も赤を見えているので、相対的なパフォーマンスアップをあえて色で狙うというのは難しいかもしれません。
一方で、トライアウトの体力テストのようなシチュエーションで赤いものを身に付けるという戦略は有効かもしれないですね。
その④アップをしっかりと行う&中間冷却を活用する
これは言わずもがなですが、アップをしっかりと行うことでパフォーマンスアップが期待できます。
特に瞬発系のパワー発揮においては、筋肉の温度がものすごく大事です。
筋温1度あたり4%のパワーの変化があることが示されており(1)、が36度から39度になることで、約12%のジャンプ力向上の効果が期待できます。
これはトップレベルの選手だとなかなか大きな差ですよね。
これからの寒い時期には、アップ時の長袖長ズボンはマストと言って良いでしょう。
詳細はこちら→(【第44回】Warm Upの科学~基礎編)
一方で、特に暑熱環境課の持久的運動においては、体温の上昇のし過ぎは持久的パフォーマンスの低下を招きます。
そのため球技スポーツのような瞬発力も持久力も求められるようなスポーツは、アップと中間冷却(ハーフタイムでのクーラー、風などを活用したクーリング)を併用して、ちょうど良い体温を保つことが必要です。
詳細はこちら→(【第45回】Warm Upの科学~球技スポーツへの応用)
まとめ
試合でのパフォーマンスを決めるのは
①普段の練習、トレーニングの積み重ね
②試合前数日~2週間ほどの調節(ピーキング)
③試合当日の過ごし方
に分けられます。
試合やトライアウトの日のパフォーマンスアップの戦略として、③試合当日の過ごし方の中から
🔻栄養(糖質、水分、カフェイン)
🔻音楽、色の活用
🔻十分なアップや中間冷却
を紹介しました。
ただ、これらを十分に活用するには個人の特性や種目の特性を十分に理解する必要もあります。
そういった場合の相談役としての僕ら専門家ですが、これらの知識を選手自身も知ってるというのは非常に重要です。
是非大事な試合の前にはこの記事を見返してみてください!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
12月20日(日)のトレーニング科学会大会(オンライン)のシンポジウムにて講師を務めさせていただきます。
オンラインで参加もお気軽に出来ると思うので、お時間のある方は是非!
https://www1.doshisha.ac.jp/~training/index.html
参考文献
- BERGH, U and EKBLOM, B. Influence of muscle temperature on maximal muscle strength and power output in human skeletal muscles. Acta Physiol Scand 107: 33–37, 1979.
- Centala, J, Pogorel, C, Pummill, SW, and Malek, MH. Listening to Fast-Tempo Music Delays the Onset of Neuromuscular Fatigue. J strength Cond Res 34: 617–622, 2020.
- Elliot, AJ and Aarts, H. Perception of the color red enhances the force and velocity of motor output. Emotion 11: 445–449, 2011.
- Higgins, S, Straight, CR, and Lewis, RD. The Effects of Preexercise Caffeinated Coffee Ingestion on Endurance Performance: An Evidence-Based Review. Int J Sport Nutr Exerc Metab 26: 221–239, 2016.
- Pöchmüller, M, Schwingshackl, L, Colombani, PC, and Hoffmann, G. A systematic review and meta-analysis of carbohydrate benefits associated with randomized controlled competition-based performance trials. J Int Soc Sports Nutr 14: 1–12, 2016.Available from: http://dx.doi.org/10.1186/s12970-016-0139-6
- Savoie, FA, Kenefick, RW, Ely, BR, Cheuvront, SN, and Goulet, EDB. Effect of Hypohydration on Muscle Endurance, Strength, Anaerobic Power and Capacity and Vertical Jumping Ability: A Meta-Analysis. Sport. Med. 45: 1207–1227, 2015.
- Warren, GL, Park, ND, Maresca, RD, McKibans, KI, and Millard-Stafford, ML. Effect of caffeine ingestion on muscular strength and endurance: A meta-analysis. Med Sci Sports Exerc 42: 1375–1387, 2010.