【第124回】マイボトルには何を入れれば良い?効果的に水分、エネルギーを摂取する方法
暑い中での運動に慣れていない状態だと、熱中症のリスクも上がりますよね。
コロナウイルスの影響で、マイボトルを用意いて水分補給をする機会は増えたことと思います。
チーム側でドリンクを用意してくれれば良いけれど、多くの選手は自分でボトルを用意することになりますよね。
水分不足は熱中症のリスクを高めるだけでなく、パフォーマンスも大きく下げてしまいます。
(詳しくは過去記事)
●パフォーマンス維持・向上
●熱中症の予防
この2つを予防するためにも、水分を摂るという意識だけでなく、ボトルの中身にもこだわったほうが良いかもしれません。
浸透圧の変化に対する身体の反応
まずは簡単に水分補給の基礎知識を学んでいきましょう!
キーワードとして『浸透圧』という言葉があります。
血漿・細胞外液の浸透圧にはナトリウム濃度が大きな影響を与えるので、ナトリウム濃度の増加≒浸透圧の増加と思ってください。
飲み物に置き換えると分かりやすいかもしれませんね。
真水よりも塩水のほうが浸透圧が高くなります(ナトリウム濃度が高くなります)。
運動中の人間の汗のナトリウム濃度は平均約40mmol/Lということが明らかになっています(Baker et al., 2016)。
※一方で個人差も大きく、Bakerらの研究でも10mmol/L程度の選手もいれば、100mmol/L近い濃度を示した選手もいたことが示されました。。!
ちなみに、人間の身体の中の水分のナトリウム濃度は約140mmol/L。
汗のほうがナトリウム濃度は低いので、汗をかくたびに身体の中のナトリウム濃度が濃くなっていきます。
その時体内の浸透圧の増加に反応して、アルギニンバソプレッシンという物質が放出され、
・喉の渇き
・尿量の低下(腎臓での水分の再吸収)
を引き起こします。
これは水分の保持、水分補給には良い反応ですね。
一方で失った水分の分の真水を摂取すると、元の身体の状態よりもナトリウム濃度は低くなりますよね?
そうなるとアルギニンバソプレッシンは減少し、喉の渇きの低下、尿の排出量は再び増加し、身体の水分は失われてしまいます。
※これも低ナトリウム血症を防ぐために必要な身体の反応ですが!
ボトルに入れたほうが良いもの
ここまで読んだら分かると思うのですが、水分補給をする際には
●ナトリウム
の摂取を推奨します。
また以下ではEvansら(2017)のレビュー論文などを参考に、効率的な水分補給、パフォーマンスアップに必要な栄養素を紹介していきます。
結論から言うと
●ナトリウム
●糖質
●タンパク質(アミノ酸)
の摂取がおススメです!
ナトリウム
飲み物のナトリウム濃度は体内の浸透圧に大きな影響を与えるため、汗を多くかく夏場は特に重要です。
先述した通り、運動中の汗のナトリウム濃度は約40mmol/Lです。
汗と飲み物のナトリウム濃度の差が大きすぎると、体内の浸透圧の低下を引き起こし、喉の渇きの低下・過剰な尿の排出につながると考えられます。
実際に、飲み物のナトリウム濃度が高いほど尿量の減少が認められた(≒余計な水分の排出が抑えられた)といったデータも多くあるようで、飲んだ水分を効率的に身体に留める効果があるようです。
多くのスポーツドリンクのナトリウム濃度は約20mmol/L程度なので、大量に汗をかくような長時間の運動においては、薄め過ぎないほうが良いかもしれません。
カリウムもナトリウムと同様汗によって排出されるのですが、その程度は小さく、飲み物に加えるメリットはそこまで大きくはなさそうです。
糖質
糖質には主に
・水分補給の効率を向上させる
・運動のパフォーマンスを向上させる
2つの効果があります。
Evansら(2017)の研究では主に運動後の補給について述べられているのですが、糖質を加えることで、運動後の水分補給の効率が増加するとのことです。
『水はこまめに飲みましょう』とはよく言われますが、実は飲み物を飲むペースが速いほど飲んだ水分が尿になる割合が高いことが分かっています。
運動後の飲み物に糖質を加えることで、吸収の速度がある程度抑えられ、尿による過剰な排出を抑えることで、効果的に水分を身体に留めることが出来るんだとか。
その効果が運動中にもある可能性もありますし、何より糖質はエネルギーになるので練習・試合後半のパフォーマンス高めます。
Pochmullerら(2016)のメタアナリシスでも、特に90分以上の運動の実施においては6%以上の糖質濃度のドリンクはパフォーマンス向上の効果が示されています。
タンパク質
タンパク質も糖質と同様に、水分の急速な吸収を抑えます。
ナトリウム+糖質を含むドリンクよりも
ナトリウム+糖質とタンパク質を含む牛乳のほうが運動後の水分の吸収効率が高かったことが複数の研究が紹介されているようです。
一方で運動中の補給となると牛乳を用いるのは難しいですよね。
牛乳ほどの水分の吸収効率があるかは不明ですが、運動前後のBCAAの摂取には筋肉痛、筋ダメージ(CK)を緩和する効果も認められています(Rahimi et al., 2016)。
運動中はBCAA、もしくはEAAなどのアミノ酸サプリメント、運動後はホエイプロテインや牛乳の摂取が、水分の吸収効率向上や筋合成の促進におすすめです。
まとめ
■運動中の水分摂取
🔻水分の吸収効率増加のためナトリウム(スポーツドリンクの粉など)をボトルの水に加える。
🔻特に練習時間が長いときは、エネルギーになる糖質も加える
🔻筋へのダメージを減らし、筋合成/筋分解を高めるためにBCAAやEAAなどのアミノ酸も加える
(糖質やアミノ酸も運動中の水分の吸収効率を向上させるかも)
■運動後の水分摂取
🔻ナトリウム、糖質、タンパク質を含む飲みものを摂取(牛乳がおすすめ!)
🔻運動中の体重減少分より多め(~150%程度)を摂取する
選手自身が知識を持つことが、自分の安全を守ることにも、パフォーマンスアップにもつながります。
こういった知識を活かして、ハードな夏を乗り切りましょう!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
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参考文献
- Baker, LB, Barnes, KA, Anderson, ML, Passe, DH, and Stofan, JR. Normative data for regional sweat sodium concentration and whole-body sweating rate in athletes. J Sports Sci 34: 358–368, 2016.Available from: http://dx.doi.org/10.1080/02640414.2015.1055291
- Evans, GH, James, LJ, Shirreffs, SM, and Maughan, RJ. Optimizing the restoration and maintenance of fluid balance after exercise-induced dehydration. J Appl Physiol 122: 945–951, 2017.
- Pöchmüller, M, Schwingshackl, L, Colombani, PC, and Hoffmann, G. A systematic review and meta-analysis of carbohydrate benefits associated with randomized controlled competition-based performance trials. J Int Soc Sports Nutr 14: 1–12, 2016.Available from: http://dx.doi.org/10.1186/s12970-016-0139-6
- Rahimi, MH, Shab-Bidar, S, Mollahosseini, M, and Djafarian, K. Branched-chain amino acid supplementation and exercise-induced muscle damage in exercise recovery: A meta-analysis of randomized clinical trials. Nutrition 42: 30–36, 2017.Available from: http://dx.doi.org/10.1016/j.nut.2017.05.005
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