【第90回】アスリートが絶対に知っとかないといけない栄養のこと②~十分なエネルギー摂取はパフォーマンスを高める!
前回の記事ではISSN(国際スポーツ栄養学会)が推奨する栄養摂取量を参考に、アスリートに必要な栄養摂取量について紹介しました。
身体作りには十分なエネルギー摂取とタンパク質の摂取が重要で、多くのアスリートがどちらも不足しているのでは?という内容でしたね。
(前回記事はこちら)
とは言ったものの、「筋肉をつけて身体を大きくするのに多くの栄養が必要なのは分かったけど、もう競技をするのに十分な体格はあるし、自分はそんなにたくさん食べる必要はないな」といったアスリートもいるかもしれません。
しかしながら十分な栄養の摂取、特に炭水化物の摂取は身体作りだけでなく、高いパフォーマンスを発揮するためにも必要なのです。
炭水化物の必要摂取量
2018年のISSNのレビューでは、様々な栄養素、サプリメントについて、効果の確かさ、信頼性についてランク付けをしてまとめられています。
そのランクの中で、炭水化物は3段階の中でも最も高いランクに位置付けられており、エネルギーを必要とする運動のパフォーマンス向上への効果がはっきりと示されています。
前回の記事では読者の皆さん自身の必要摂取量を計算できるように、
必要総エネルギー量の算出→そのうち60%が炭水化物の必要摂取量
という手順で計算しましたが、単に炭水化物の必要摂取量を求めるだけならISSNの推奨量「体重×5~8gの炭水化物/1日」でも計算できます。
※高ボリューム運動(3時間~)を週5~6で行う場合は「体重×8~10g/1日」
前回は75kgの高校男子バスケ選手
→1日4050kcal
→炭水化物で2430kcal
(ごはん5合弱)
という計算でした。
※ごはん1合の炭水化物のエネルギーは約500kcal
一応今回紹介した方法でも算出してみます。
成長期で比較的運動量の多いバスケットボールなので×8gで計算してみましょう。
体重75kgの男子バスケ選手場合
→75kg×8ℊ⇒600gの炭水化物
→炭水化物1gで4kcal なので、炭水化物で2400kcal
だいたい一緒の数値になりましたね。
炭水化物を摂取することでパフォーマンスはどう変わる?
さて、「炭水化物が重要と言われている」という言葉だけでは、いまいち説得力に欠けますよね。
そこで実際のデータを紹介します。
炭水化物というのは、摂取後には肝臓や筋肉に肝グリコーゲン、筋グリコーゲンとして蓄えられます。
試合前数日間に、このグリコーゲン量を意図的に増やすことも可能で、そのような手法のことを「グリコーゲンローディング」と言います。
Souglisら(2013)の研究では、サッカー選手を2つのグループ(チームA、チームB)に分け、
1週目の試合前3日間はチームAが高糖質食、チームBが低糖質食
2週目の試合前3日間は逆の食事を摂取させました。
その結果、以下のように高糖質食を摂取していたチームの試合中の走行距離が増加し(1㎞以上!)、どちらの週の試合もそのチームが勝利しています。
ちなみに高糖質食といっても、この研究では体重×7.4g程度の摂取であり、球技の中でも最も運動量を求められるサッカーですので、もう少し摂取量を増やしてもよかったんじゃないかなと個人的には思っています。(もう少し摂取量を増やすとさらにパフォーマンス向上効果があったのでは?)
もちろん、試合中に走らされたという可能性もあるので、走行距離が長ければ長いほど良いというわけではありませんが、運動量を増やせるということはどの競技にとってもポジティブな影響を与えるでしょう。
運動の普段の食事だけでなく、運動直前、運動中の糖質摂取も非常に重要です。
Pochmullerら(2016)のメタアナリシスでは持久的運動の直前、運動中の糖質摂取がパフォーマンスを有意に高めることが報告されています。
特に90分以上にわたる運動の場合はその効果が顕著で、6~8%の糖質濃度のドリンクの摂取が筆者らによって推奨されています。
試合前だけではなく普段の食事から!
試合前の食事摂取の重要性についてはお分かりいただけたかと思います。
しかしながら試合がない時期の普段の食事でも炭水化物はしっかりと摂取しましょう。
理由は2つあります
①身体作り(筋肉量の増加)という観点からも炭水化物の摂取は重要
②普段の練習の質も高まるから
①については前回紹介した通りですよね。
ただ筋トレをしてタンパク質をとるだけでは身体は大きくなりません。
②についてですが、どのようなスポーツでも、練習から高い強度でプレーする習慣が試合でのパフォーマンスの発揮につながります。
練習では手を抜いてるけど、試合でだけ激しいディフェンスを、、なんてことは難しいですよね?
普段の食事からしっかりエネルギーを摂取することで、練習の質が高まり、それが試合にもつながります。
まとめ
前回の記事の補足のような内容になりましたが、
「十分なエネルギー摂取はパフォーマンスを高める」
といったことを紹介しました。
不足していた選手は、今日の食事からさっそく実践していきましょう!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
参考文献
- M., KC, Wilborn, CD, Roberts, MD, Smith-Ryan, A, Kleiner, SM, Jäger, R, et al. ISSN Exercise & Sport Nutrition Review: Research & Recommendations. J Int Soc Sports Nutr 7: 7, 2018.
- Pöchmüller, M, Schwingshackl, L, Colombani, PC, and Hoffmann, G. A systematic review and meta-analysis of carbohydrate benefits associated with randomized controlled competition-based performance trials. J Int Soc Sports Nutr 14: 1–12, 2016.Available from: http://dx.doi.org/10.1186/s12970-016-0139-6
- Souglis, AG, Chryssanthopoulos, CI, Travlos, AK, Zorzou, AE, Gissis, IT, Papadopoulos, CN, et al. The Effect of High vs. Low Carbohydrate Diets on Distances Covered in Soccer. J Strength Cond Res 27: 2235–2247, 2013.Available from: http://content.wkhealth.com/linkback/openurl?sid=WKPTLP:landingpage&an=00124278-201308000-00025
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