【第26回】競技特性から探るスポーツの適正体重
専門性【★★★】
180㎝55㎏体脂肪率10%
このプロフィールを見たら誰だって「ほっそ!」って思いますよね。
アスリートならなおさら。コンタクトスポーツなんてやったら即病院送りです。
かといって
180cm120kg体脂肪率10%
この体重で体脂肪率10%というのもすごいですが、
これはバスケやサッカーをやるうえでは少し重すぎる気がします。。
そしたらいったいアスリートはどれくらいの体重があればいいの?そんな疑問が沸いてきますよね。
結論からいうと、競技特性によるし、プレースタイルにもよる。
ただある程度のカテゴリ分けをすることで、その適正体重を探るヒントにはなり得ます。
僕はスポーツの適正体重を考えるときには以下の4つの要素で考えています。
①有酸素運動
②自体重の加速(スピード系競技)
③物体の加速(投球、インパクト動作)
④コンタクトスポーツ
①有酸素運動
マラソンを始めとする有酸素運動においては、最大酸素摂取量(1分間にどれくらいの酸素を利用する能力があるか)が重要です。
・体重が増加するほどVO2Max(ml/min/kg)は低下する(前回記事)
・体重が増加するほど接地時の下肢の関節への負荷は増加する
以上のことから、マラソン等の有酸素運動においては体重はある程度軽いほうが有利だと考えられます。
実際に、今回のオリンピックのマラソンにおける上位3選手の身長、体重を平均してみると(Wikipedia等参照)
174cm
60.7kg
でした。
約身長マイナス115㎏
だいぶ細いですよね。
余談ですが、スキーにおける長距離走であるクロスカントリー選手は、マラソンと同じ有酸素運動であるにも関わらず、マラソン選手よりも体格は良いです。
この問題について考えるのもめちゃくちゃ面白いのですが、今回は割愛させていただきます。
②自体重の加速(スピード系競技)
自分の身体を加速させる、道具(陸上の投擲とか)を加速させるには、筋力、パワーは必須です。
もちろん、そのベースとなっている筋量(徐脂肪体重)もあるに越したことはありません。
「筋肉つけすぎたらスピード落ちるやんけ!」
そういう人がもしかしたらいるかもしれないので、上に同じく、今回のオリンピックの100m走トップ3の選手の平均身長、体重を出してみました(Wikipedia等参照)
185.3cm
82.7kg
3位のアンドレ・ドグラス選手がすこし細かったので平均は下がっていますが、1位、2位のボルト選手、ガトリン選手は身長―100kgくらいはあるようです。
まあまあごついですよね。
100mのスプリントだとこのくらいの体格が有利なのでしょうか。
ちなみに、もっと短いスプリント(数m~30m)だと、もう少し身長が低くてごつい選手のほうが有利であると考えられます。(第10回)
③物体の加速(投球、インパクト動作)
球技スポーツや陸上では、投球(ボール、ハンマー、槍)、インパクト(ラケット、バットなど)によってボールに大きな力を与える必要のある種目があります。
②スピード系の種目においては、自分の身体を加速させなければいけないため、体重に対する筋力⇒相対筋力が重要になってくると考えられます。なので、体重はとにかく増やせばいいってわけではないでしょう。
一方、投球やインパクトにおいては加速させるのは一定の大きさのボールやハンマー。
相対筋力よりも、単純にどれだけ筋力があるか(絶対筋力)が重要になってくると考えられます。
要するにごつい方が有利です。
実際、野球の投手についての研究でも、筋量が多ければ多いほど、投球スピードが速いという報告もなされています(勝亦ら, 2007)。
ハンマー投げや砲丸投げなんて、、見れば分かりますよね。笑
おそらくこれはバットやラケットによるインパクトになっても同じだと思われます。
④コンタクトスポーツ
これはもう言わなくても分かりますよね。
コンタクト(ぶつかり合い、つかみ合い)は、体重が重い方が絶対有利です。
コンタクトの技術が~、とか、体幹の安定性が~、とかもあるのかもしんないですけど、100㎏の選手に70㎏の選手がぶつかり合いで勝とうなんて無謀ですよね。。。
特に体重制限のない相撲なんて絶対体重が多い方が有利ですよね。
もしそうでなければ日本からちゃんこ鍋が消えてしまいます。
相撲は極端ですけど、コンタクトに加えてスピードやアジリティが必要なアメリカンフットボール、その最高峰であるNFL選手の場合でも以下のような報告がなされています(T.K.Snow et al,1998)
オフェンスライン(ぶつかり合い専門のポジション)
194.1cm
135.7kg
オフェンシブバック(よりスピードが求められるポジション)
179.9cm
95.5kg
これくらいの体格(身長―60㎏~85㎏)は必要みたいですね。
まとめ
他にも芸術系種目(クラシックバレエ、フィギュアスケート)、何かに乗るスポーツ(競馬、オートレース)、重力による落下のエネルギーを利用したスポーツ(スキージャンプ、ボブスレー)等は、またいろいろと議論が必要だと思いますが、
特に「球技系種目」に関しては、上にあげた
・有酸素的運動
・自体重の加速
・物体の加速
・コンタクト
この有無、または重要度のバランスで適切な体重が考えられるのかなと思います。
例えば、バスケはスピードも有酸素的能力も、コンタクトも必要ですよね。
ラグビーも同じだけど、バスケよりコンタクトの能力が重要。
アメフトはポジション特性によりますが、基本的にはラグビーよりも有酸素的能力の必要性は少なくなります。
(ノーハドルオフェンスと言われるテンポを早める戦術を用いた場合のワイドレシーバーなんかはラグビー並みの有酸素能力が求められるかも)
サッカーは球技スポーツの中では比較的1試合の走行距離も長いので有酸素的能力の重要性は高いですよね。
800m走だと、有酸素的能力もスピードも大事。
そんな感じで考えを整理すると、この三角形に各競技が当てはまるのかなと。
たしかに、100m走選手とバスケ選手って似たような体形してるかも。
なんかすっきり。
ただ、これは競技の平均値をあてはめただけで、その競技内のポジション、選手の特徴によっても適正体重は変わってくると思います。
ぶつかり合いが仕事なら体重は増やすべきだし、運動量で勝負するなら体重は増やしすぎないほうがいいかも。
ただ、日本のスポーツでは多くの場合、海外の選手に比べてコンタクトが弱い、スピードが遅いことが多いので、適正体重を探ったところで、筋量・筋力不足だってなることが多いんですけどね。。(笑)
まあそもそも論は別にして、今日はある程度身体づくりができあがった後、これ以上増やすの?絞るの?って話でした!
参考文献:
大学野球選手にみられる筋量及び筋量分布の特徴が投球スピードに与える影響
勝亦陽一ら, 2007
スポーツ科学研究 4, 75-84
Body Composition Profile of NFL Football Players.
T.K.Snow et al, 1998
Journal of Strength and Conditioning Research 12(3),146-149
“【第26回】競技特性から探るスポーツの適正体重” に対して6件のコメントがあります。