【第160回】深いスクワットがちゃんと出来るなら浅いスクワットもありっちゃあり。。?

『バックスクワット』

トレーニングにおける基本のエクササイズであるものの、習得にはある程度の労力が必要な種目です。

そしていわゆる「正しいフォーム」というのも、目的や教える指導者によって変わってくる種目にもなります。

ウエイトリフティングのためのスクワットとパワーリフティングのスクワットは違いますし、競技パフォーマンス向上のためのスクワットだとまた少し違ってきますよね。

スクワットのフォームを構成するとものといったら

✓担ぎ方(ローバーorハイバー)

✓顔の向き(前を向くorやや下を向く)

✓股関節と膝関節の屈曲の割合

✓荷重の位置(足裏の真ん中orつま先orカカト)

✓深さ(フルorパラレルorハーフorクォーター)

✓動作速度

あたりでしょうか。

僕自身はアスリートに普段こんな感じのフォームで指導しています。

(3レップ目が割と良い形で上げられてます)

・この後パワークリーンやパワースナッチに繋げたい

・膝や腰の怪我は防ぎたい

という目的があるので

✓ウエイトリフティング式のフォームをベースにやや股関節屈曲の割合を増やして実施

✓降ろす速度と切り返し局面は速度をコントロールして(少しゆっくりめで)

✓深さはパラレルで実施

といった感じです。

細かい解説をすると文字数が大変なことになるので、いったんこのへんで。

スクワットの深さ

今回はスクワットのフォームの中でも、『深さ』について掘り下げて考えていこうと思います。

トレーニング指導者でも人によって深いスクワット(パラレルもしくはそれ以下)を中心に指導する人もいれば、少し浅いスクワット(ハーフやクォーター)で指導する方もいるようです。

それぞれ採用する理由としてよく耳にするものとして

●深いスクワット

✓筋をしっかりと伸長したほうが柔軟性も獲得できる

✓可動域全体にわたって動かすことで、どの角度でも力を出すことが出来るようになる

●浅いスクワット

✓スポーツ競技中にそんなに深く沈むことがない⇒より競技に近い肢位で力を出す感覚をつかむためには浅いところでの出力が必要

といったことが挙げられます。

この浅いスクワットの採用の理由に関しては僕は3割同意、7割反対といった感じです。

以下に解説します。

浅い屈曲角度での出力の重要性?

関節角度特異性というものがあり、人は鍛えた関節角度での筋力を向上しやすいことが明らかとなっています。

スプリントの疾走局面などは下肢の浅い関節角度での出力も重要になってくると考えられるので、上記の『浅いところでの出力が必要』という部分は同意です。

しかしHartmannら(2012)の研究(1)によると、浅いスクワットでトレーニングを実施したグループでは深いスクワットの筋力は向上せず、浅いスクワットの筋力のみが向上し、深いスクワットでトレーニングを実施した群は深いところだけでなく浅いところでも筋力が向上したことが報告されています。

このデータで考えると、スポーツのパフォーマンスでは浅い屈曲角度での出力が大事だとしても、深いスクワットをやるとそこの筋力向上もカバーできそうですよね。

一方で、ある程度トレーニングレベルが上がってくるとそうとも言えないようです。

トレーニングレベルが低いうちは比較的低強度(60%1RM程度)でも最大筋力は向上することが報告されていますが(2)、トレーニングレベルが高くなると高強度(80%1RM程度orそれ以上)でないと最大筋力は向上しないことが報告されています(3)。

例えばパラレルスクワットの1RMが150㎏、クォータースクワットの1RMが240㎏の選手がいたとしましょう。

その選手が120㎏でスクワットをした場合、パラレルの局面では80%(120kg/150kg)の負荷が、クォーターの局面では50%(120kg/240kg)の負荷しかかからないことになります。

これだと浅い局面の筋力は向上しなさそうですよね?

実際にRheaら(2016)の研究(4)では、上記のHartmannら(2012)の研究と似たような内容をトレーニングレベルの高い被験者で実施したところ、深いスクワットを実施したグループでは浅いスクワットの筋力は向上せずに、浅いスクワットを実施したグループでのみ浅いスクワットの筋力が向上したことが報告されています。

浅いスクワットは有効か?

上記の研究結果からは、『深いスクワットでそれなりの重量を扱える被験者』に対しては、浅いスクワットを高重量で実施するのもありかもしれないと考えられます。

しかし

✓スポーツのパフォーマンスを考えると浅い屈曲角度での出力も大事

✓深いスクワットだけではその部分の主力を向上させるには不十分

という点においては同意ですが、僕自身は現在浅いスクワットを選手に実施させることはありません。

何故なら、浅いスクワットであっても、挙上時の最終局面では減速局面(力を出さない局面)が生じるからです。

(詳しくはこちら→【第157回】『スクワットで軽い重量を速く上げればパワーがつく!』の落とし穴

一方で、クリーンなどのクイックリフトではスクワットに比べて減速局面は少なくなると考えられますし、速度ではなく力を重視する場合は1RM以上の負荷でプルのみ実施するといったことも可能です。

浅いスクワットを実施すること自体は否定しませんが、個人的には

✓深いスクワットをそれなりの重量で実施できる(男性で体重の1.8倍、女性で体重の1.4倍)

✓クイックリフトを実施できる環境にない(場所的にNG、教えてくれる人がいない)

✓パラレルスクワットでは扱えないような高重量を実施する&その重量でも脊椎への軸圧の負荷に耐えられる

の条件に当てはまるときに、選択肢の1つになる。。。かも??

程度かと考えています。

ヒップスラストやドロップジャンプなどの代替手法もありますしね。

まとめ

✓深く降ろすスクワットは可動域の向上、広いレンジでの筋力向上が期待できるので、初心者ほどまずは正しいフォームで深いスクワットの習得が必要

✓ある程度のレベルになると下肢の浅い屈曲角度での出力向上のための種目も必要

✓クイックリフト、ヒップスラスト、ドロップジャンプなどの方法が考えられるが、もろもろの事情でそれが難しい場合、浅い高重量スクワットもあり、、かも?

といった内容でした。

軽重量の浅いスクワットはどうなの?と思ったかたはこちらの記事を読んでみてください。

個人的には軽重量のスクワットを速く上げるくらいなら、そのまま跳んじゃってジャンプスクワットにしろよなと思います。

ある程度スクワットが強くなってきた選手には必要な知識だと思うので、是非参考にしてみてください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


ブログ書く際に論文読んだりして知識をまとめると、自分でもいろいろ試したくなりますよね。

最近っはまっているトレーニングは高重量(クリーン1RMの130%くらい)のミッドサイプルです。

これやるとバウンディングも良い感じで跳べる感覚もあって楽しいです。


参考文献

  1. Hartmann, H. et al. Influence of squatting depth on jumping performance. J. strength Cond. Res. 26, 3243–3261 (2012).
  2. Rhea, M. R., Alvar, B. A., Burkett, L. N. & Ball, S. D. A meta-analysis to determine the dose response for strength development. Med. Sci. Sports Exerc. 35, 456–464 (2003).
  3. Peterson, M. D., Rhea, M. R. & Alvar, B. A. MAXIMIZING STRENGTH DEVELOPMENT IN ATHLETES: AMETA-ANALYSIS TO DETERMINE THE DOSE- RESPONSE RELATIONSHIP. J Strenght Cond Res 18, 377–382 (2004).
  4. Rhea, M. R. et al. Joint-Angle Specific Strength Adaptations Influence Improvements in Power in Highly Trained Athletes. Hum. Mov. 17, 43–49 (2016).

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