【第158回】スクワット中の呼吸ってどうしてる?レジスタンストレーニング中の呼吸が下肢の筋に与える影響
最近SNSやセミナーでも『呼吸』の重要性について目にする機会は増えましたよね。
ウエイトトレーニング等のベーシックなエクササイズと並行して、必要に応じて呼吸のエクササイズを処方出来る能力は、今後のトレーニング指導者にも求められてくるかもしれません。
僕自身まだそのあたりの介入については勉強中ですが、ストレングス&コンディショニングの専門家であればそれとは別に『ウエイトトレーニング中の呼吸』についてはきちんと整理しておく必要がありますよね。
今回はいわゆる『呼吸のエクササイズ』ではなく、『ウエイトトレーニング中の呼吸』について解説していきます。
レジスタンストレーニング時の呼吸の役割
スクワットやデッドリフト時の呼吸について考えるとき、呼吸が果たす役割は何でしょうか?
1つは『脊椎の安定性の獲得』です。
これはイメージしやすいですよね。
呼吸をすることで横隔膜や腹横筋といった、呼吸に関与する筋肉が収縮します。
これらの筋肉は呼吸だけではなくて、IAP(Intra Abdominal Pressure)、日本語でいうところの腹腔内圧(いわゆる腹圧)を高めることに寄与します。
腹部の筋群の活動によってIAPが高まり、それによって脊椎の安定性が高まるということも報告されています(Stokes et al., 2011)。
また呼吸のポイントを抑えることで、トレーニング中にターゲットとなる下肢の筋肉に効果的に刺激を入れることも可能になります。
呼吸と下肢の筋肉の活動の関係
Tayashikiら(2021)は運動習慣のある男性を対象に
・吸気時(息を吸った時)
・通常時
・呼気時(息を吐いた時)
の3つの条件で股関節伸展、屈曲、膝関節伸展、屈曲のそれぞれ4つ運動を行わせ
✓そのときのIAP
✓下肢の筋のEMG
✓関節の発揮トルク
を比較しました。
各課題の実施時には指定の呼吸状態で息を止めたまま実施しました。
その結果、吸気時に
✓最もIAPが高い
✓最も股関節伸展時の大殿筋EMGが大きい
ことが報告され、
IAPの大きさと股関節伸展トルクの間に有意な相関が認められました(r=0.527~0.677)。
呼吸自体には下肢の筋がメインで関わっているわけではないのに不思議な結果ですよね。
また、IAPと股関節伸展トルクの間には有意な相関が認められましたが、他の関節トルクはというと
✓股関節屈曲⇒IAPと相関なし
✓膝関節伸展⇒IAPと相関なし
✓膝関節屈曲⇒IAPと相関なし
といった結果でした。
ではなぜ股関節伸展トルクだけIAPと関連があったのかを考えていきましょう。
呼吸と大殿筋
吸気状態(先ほどの図の左)では内腹斜筋や腹横筋といった、腰部を取り囲むようなベルト状の筋肉が伸長すると考えられます。
そして呼吸を止めた状態ではその伸長から元に戻ろうと短縮方向に力が加わり、それらの筋肉が付着している胸腰筋膜にも張力がかかると考えられます。
そして胸腰筋膜のテンションは付着している大殿筋の張力にもなり、大きな力発揮が可能になると考えられます。
これが吸気状態で大殿筋のEMGが大きかったり、IAPと股関節伸展トルクに相関がみられたメカニズムです(著者も同様の考察をしていましたが、実際に筋肉の動態を細かく見たわけではないので推察になりますけど。。)。
まとめ・応用
スクワットなどの股関節伸展エクササイズ時には、息を吸って止めることで
✓体幹部の安定性の増加
✓大殿筋の筋活動の増加、股関節伸展トルク増加
に繋がる可能性が考えられます。
ただ吸うだけでななく、吸気時に腹部にも息を入れる感覚があること、個人的には腰部にも息を入れる感覚があると良いかと思います。(ただ、それを強調するあまり腰部が屈曲するのはよろしくないですが。。)
そして吸って止めるだけではなく、吸った状態で伸長した腹筋群を締める感覚も必要ですよね。
今回紹介したのはあくまでもスクワットやデッドリフト中に体幹部を安定させ、臀部をより使うための方策です。
明確は意図がある場合はコンセントリック局面(特に最終局面)で息を吐くというのもありだと思います。
是非今回の情報をもとに、スクワット時の呼吸について考えてみてください!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
新年度が始まりましたね!
今年はまた色々チャレンジする年になりそうです。
とりあえずコロナが収まったらやりたいこと⇓
『若手~中堅SCで筋トレして焼肉を食う会』
参考文献
- Stokes, IAF, Gardner-Morse, MG, and Henry, SM. Abdominal muscle activation increases lumbar spinal stability: Analysis of contributions of different muscle groups. Clin Biomech 26: 797–803, 2011.Available from: http://dx.doi.org/10.1016/j.clinbiomech.2011.04.006
- Tayashiki, K, Kanehisa, H, and Miyamoto, N. Does Intra-abdominal Pressure Have a Causal Effect on Muscle Strength of Hip and Knee Joints? J strength Cond Res 35: 41–46, 2021.