【第157回】『スクワットで軽い重量を速く上げればパワーがつく!』の落とし穴

【パワー=力×速度】

これはトレーニング指導者だけでなく、少しSNS覗いている選手ですら知っているレベルの常識になりつつありますよね。

ベーシックなスクワットやベンチプレスで筋肥大をしたり、最大筋力(力)を高める

ある程度速度を出す種目でパワーを高める

パフォーマンス向上

というイメージはプログラムされたトレーニングを経験したことのある人だったらなんとなくイメージはつくでしょう。

パワーの向上に有効なものとして、クイックリフトやプライオメトリクスも挙げていますが、

『スクワットの重量を落として軽めに設定し、挙上速度を意識すればパワー向上に繋がるやん!パワー発揮は1RMの30%くらいが最大って聞いたから、、このくらいの重さで素早くスクワット!』

という発想もありですよね。

いや、ありなのか?

⇑これが今日の内容です。

スクワットをパワー向上のための種目として用いるのは有効か?

そもそもパワーを向上させるには力を鍛える必要もあるし、出せる速度を上げる必要もあります。

なので通常の高重量スクワットもパワー向上には寄与するんですよね。

①高重量の低速度の種目⇐高重量のスクワットやデッドリフト

②中程度の重量の中程度の速度の種目⇐クイックリフトやジャンプスクワット

③自重or軽負荷の高速度の種目⇐プライオメトリクス

の大きく分けたら3つの領域でのトレーニングがパワー向上には必要で、軽負荷の速度を意識した”スクワット”は②や③の種目として有効なのか?というのが今日の焦点です。

結論から言うと

『負荷を低くしたスクワットで速度を意識するのはパワー向上のためのエクササイズとしては優先順位が低い』

が僕の意見です。

以下に理論的背景を説明していきます。

軽負荷のスクワットは減速局面が長い

なぜ軽負荷高速のスクワットがパワー向上のエクササイズとして微妙かというと、軽負荷のスクワットをなるべく速く上げるように意識して実施したら、動作の後半には地面を押せていないからです。

”地面を押す”っていうのがどういうことかというと、自分+バーベルの重さよりも大きな力を出してバーを加速させている状態とここでは定義しましょう。

例えば体重70㎏の人が100㎏のバーベルを担いだ状態で体重計に乗ってるとしたら(どういう状況?というツッコミはなしです)、

静止している状態だと体重計は170㎏を示しますよね?(図右)

一方でボトムからバーを挙上するには、まずバーを上方向に加速することが必要で、それには重量以上の力を出す必要が出てきます。(図左)

そして最終的には立位姿勢で止まらなければいけないので、挙上動作の終盤は緑の点線以下の力(青矢印の部分)になり、徐々に減速をしていきます。

これを『減速局面』と言います。

 

減速局面がなく黄色のエリア、緑の点線のままの力発揮だと、勢い余ってジャンプしてしまうので、”スクワット”という種目を行っている場合は、必ずこの減速局面が存在します。

そしてスクワットにおいては、負荷が軽いほど動作全体に占める減速局面の割合が大きいことが報告されています(Kubo et al., 2018)。

実際に動いてみるとすぐに分かると思います。

このように⇓自重でのハーフスクワットを『なるべく速く立ち上がる意識』で行うと、クォータースクワット姿勢あたりから立位姿勢までにかけては、ほぼ地面を押している感覚は出てきませんよね。

自重のスクワットに限らず、バーベルスクワットでも負荷が軽いほど減速局面の割合が長くなります。

つまり軽負荷で挙上速度意識のスクワットは、『スクワット動作の後半で地面を押さない練習』になってしまう可能性がある、と推察されます。

解決策

じゃあパワーの向上のためにはどうしろっていうんだい。

ってことになるのですが、軽い負荷でバーベルスクワットをするくらいなら、跳んじゃえばよくね?

というのが1つの答えです。

そもそもパワー発揮が必要なスプリント・ジャンプなどにおいては、地面を素早く力強く押すことで最終的に地面から足が離れますよね。

そう考えると跳ばないように軽負荷で素早くスクワットというのがそもそも動作として不自然ではないですか?

バーベルジャンプスクワットにすることで、軽負荷高速スクワットよりも減速局面の割合は短くでき、最後まで地面を押すトレーニングになるはずです。

まとめ

軽負荷高速スクワットって、トレーニングとしては微妙じゃないかな。。パワー向上、速度の成分の向上が目的なら跳んじゃえばよくね?という内容でした。

もちろん「バーベルジャンプスクワットだと腰に不安が、、」とういう方もいると思いますが、その場合軽重量高速スクワットをしてる暇があれば根本的にバックスクワットを正しく出来る身体の獲得とプライオメトリクスを並行してやれば良いと思います。

個人的にはバックスクワットはあくまでも最大筋力を高めるため、筋肥大のための種目なので、フォーム作りのとき以外は軽負荷(70%1RM以下)で行うことはほぼありません。

VBTだとパワー向上になるんじゃ?っていう意見もあると思いますが、それは『筋力を鍛えるためのスクワット』の副次的効果としての速度成分の向上が起きるだけで、スクワット自体を速度・パワー向上のための種目として用いるのは違うんじゃないかなと。

少しマニアックな内容でしたが意外と大事な考えだと思うので、しっかりと抑えておきましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


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参考文献

  1. Kubo, T, Hirayama, K, Nakamura, N, and Higuchi, M. of Different Loads on Force-Time Characteristics during Back Squats. Journal Sport Sci Med 17: 617–622, 2018.Available from: http://www.jssm.org

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