【第110回】スポーツ選手も物理学を知ることでパフォーマンスが上がる?~力積とは?パワーとは?

高校の理科の授業では『生物』であったり『化学』であったりを選択する中で、『物理』もその中の1つですよね。

特に文系だった選手は「物理ってなんか苦手なんだよな。。」といった印象を持っているかもしれません。

ただスポーツをするうえでは物理学の基礎の基礎を抑えておくだけで、トレーニングやストレッチに対する理解が深まり、結果としてパフォーマンスが上がることもあるかと思います。

本日はあまりスポーツ選手になじみのないであろう『力積』という言葉について解説していきます。

力、パワー、力積

まず初めに、『力』『パワー』『力積』の言葉の定義、関係性を覚えましょう。

パワーとは?

パワーを日本語に直すと『仕事率』=1秒間にできる仕事の大きさです。

スポーツの場面では、『短い時間で物体or自分の身体に力を加えて加速させる能力』といったものになります。

ボールなどの物体ではイメージしやすいかもしれませんが、ここでいう『自分の身体の加速』には、自分の脚で地面に力を加えることでもらえる反発の力(=地面反力)を使います。

力積とは?

力積とは、力×時間のことです。

この力積が大きいほど、力を加えられた物体(ボールや自分の体重)は大きな運動量(≒速度)で移動します。

この力積がスポーツパフォーマンスにどう繋がるかは後ほど解説していきます。

力、パワー、力積の関係性

以下の図で示してある通り、

パワー=力×速度

力積=力×時間

です。

 

つまり、大きなパワーを発揮するには『力を大きくする』方法と『速度を大きくする』方法があります。

一方で力積を大きくするには『力を大きくする』方法と『力を加える時間を長くする』方法があります。

それぞれの例は以下の図で解説します。

大きなパワーを発揮する

先述した通り、パワー発揮能力が高まるということは、『短い時間で物体or自分の身体に力を加えて加速させる能力』が向上するということです。

トレーニングでは力発揮を高める(スクワットなどの挙上重量を高める)だけでなく、発揮できる速度も大きくするために、挙上速度を意識したトレーニング(VBTなど)や、クリーンやスナッチなどのクイックリフト、プライオメトリクスなどを実施する必要があります。

VBTについてはこちらの記事

力を大きくする↓

速度を大きくする↓

今回紹介したのはパワーの基本的な概念を簡素化したものです。
より深く理解しようと思ったら、筋の力ー速度関係や運動方程式(F=ma)についても勉強すると面白いです!
が、ここでは割愛させていただきます。。

力積を大きくする

力積が大きくなると、物体に加えられる運動量(≒速度)が大きくなります。

まずはイメージをつかむために、以下の2つの図をご覧ください。

台車を押して加速した後に手を放す、という場面です。

※台車と地面の間の摩擦は無視します。

力を大きくすることで力積を大きく↓

 

時間を長くすることで力積を大きく↓

どちらの図も、下の台車のほうが手を離した後に転がる速度は大きくなりますよね。

これが『大きな力積』のイメージです。

ちなみに力積の1枚目のスライドは、同じ2秒という時間の中で力が大きくなっており、台車の速度も速くなっているので、大きなパワーも発揮しています!

力積の概念をスポーツ現場に応用

力積を大きくするためには
・力を大きくする
・力を加える時間を長くする

の2つがあると解説しましたが、特に『力を加える時間を長くする』ほうについては他の要素の考慮も必要です。

例えばスプリントのような動作では、1歩あたりの力を加える時間が長くなるとその分ストライドは出しやすいかもしれませんが、ピッチが落ちてしまいますよね。

垂直跳びなどの課題では、しゃがみを深くして大きな力を長く出せればジャンプ高は上がるでしょうが、大きな力が出せないのに深くしゃがむだけだと、重力に負けて十分な加速ができずにジャンプ高は高くならないかもしれません。

一方で投球動作など、物体に大きな力を加える運動課題だと、力を加える時間を長くすることでの力積の増加がしやすいかもしれません。

長い間物体に力を加える

先ほどの図の台車の例を、そのまま投球動作にあてはめてイメージしてください。

台車を押す時間を長くすることに似た戦略を、ボールの加速開始位置をより後ろにすることで、投球動作でも再現できると考えられます。

もちろん投球動作の場合は、『どこで可動域を出すのか』といったことも重要で、胸椎の回旋や肩甲骨の内転ではなく、肩甲上腕関節(肩関節)で大きな動きを出してしまうと、それが怪我のリスクにもなるので要注意です⚠

またただ単に静的ストレッチをするだけでは、可動域の増加(≒ボールの開始位置の変化)は達成できるかもしれませんが、静的ストレッチによる力の低下も起こりうるので、その2つの要素で打ち消し合ってパフォーマンス向上につながらないかもしれません。

※実際に運動前の静的ストレッチに関するメタアナリシスでも、投球動作ではパフォーマンスの変化が見られなかったことも報告されています。(他の運動課題ではパフォーマンスは低下)

#16 Simic et al, 2013

同様のことが、ジャンプ時の力積を稼ぐために『しゃがみの深さを大きくする』といった戦略にも言えそうです。

投球動作でもジャンプでも共通して、ただ可動域を大きくするだけではなく、より広い可動域で力発揮をできるようにすることが重要だと言えそうです。

そのためにもウエイトトレーニングに取り組むときは、まずは適切なフォームで広い可動域での実施を心がけましょう!

まとめ

少し長くなってしまいましたが、スポーツ選手に知っておいて欲しい物理学の基礎について紹介しました。

一度読んだだけではなかなか理解が難しかったかもしれませんが、非常に重要なことです。

是非ブックマークでもして定期的に読み返してみてください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


最近は身体のケアを怠るとすぐに至るところの不調をうったえるようになりました。。(歳か。。)

トレーニング指導者であれば、自身もトレーニングをすることは当然ですが、そういったケアを日常化することも大事ですよね。

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