【第163回】試合前のトレーニングは毒にも薬にもなる
「試合前に筋トレってやって良いの?」
こんな疑問を持つ選手も多いと思います。
通常、筋力向上や筋肥大を目的とした場合、ウエイトトレーニングは週2-3回程度実施することが多いかと思います。
一方でリーグ戦等がある競技・カテゴリにおいては、試合期間はその頻度でのトレーニングの実施がためらわれるケースもあるでしょう。
しかしながら試合期の前にしっかりとトレーニングを積んできたのであれば、リーグ期間中も最低でも1回は高強度のウエイトトレーニングのセッションは実施したいところ。
理由は以下の図を見てもらえれば分かるでしょう。
試合期に週1回ウエイトをする場合は、土日が試合だとすると月曜や火曜に実施するのが無難かと思います。
ここまでの内容を整理すると選択肢は
①試合期はいっさい行わない ⇒ せっかく高めた筋力が無駄になるので基本的にはなし×
②週1回高強度のセッションを実施 ⇒ 試合期もある程度筋力を維持出来る
③週2-3回のセッションを実施 ⇒ 試合期であってもフィジカルの向上が可能(しかし試合に影響?)
あたりになりますよね。
どれを選択するかは、短期的な成果を求めるか、長期的な成長を求めるかによって決まってきます。
「ここ数日の疲労さえ残らなければ良い(数週間後のコンディションなんて知らん)」という考えであれば①でもOKですよね。
「試合期はせめて筋力含めたコンディションを維持したい(ただし疲労は最小限に。。)」だと②が良いでしょう。
「今年成果を出すことよりも長期的な成長を」という方針であれば③が適しています。
ただしこの③のパターンは疲労の悪影響を考えなければならないのですが、選手のレベルによってはウエイトを週2回実施することが逆に土日のパフォーマンスを高めることがあるのです。
一方でやり方を間違えてしまうと週末のパフォーマンスの低下に繋がります。
今回は試合前日のウエイトの注意点について解説していきます。
試合前のウエイトトレーニングの効果
近年、Resistance Primingという概念が広まってきています。
これはウエイトトレーニングなどの刺激を加えた後、1~48時間後に表れるパフォーマンスの向上効果です(Harrison et al., 2019)。
例えば試合前日に高重量のスクワットを実施することで試合の日のジャンプ力が上がったり、午前中にクリーンなどのクイックリフトを実施することで午後のスプリントスピードが上がったりする現象です。
比較的トレーニングレベルの高い選手(男子でだとスクワットを自体重の2倍程度挙上出来るような選手)だとその効果が大きく、高重量の筋力トレーニングや中程度の重量でのバリスティックなエクササイズ(クイックリフトやジャンプエクササイズ)によってホルモン濃度の変化や神経筋機能への刺激が加わり、パフォーマンスが向上するようです。
つまり、筋力レベルが高い選手の場合は長期的な成長を見据えて試合前日にトレーニングをしたとしても、週末にパフォーマンスの低下が起きるどころかむしろプラスになるという現象が起こるのです。
金曜のセッションがResistance Training(長期的な成長を目的としたセッション)兼Resistance Priming(翌日の試合に向けたコンディショニング)になるということですね。
試合前日のトレーニングの注意点
先述した通り、Resistance Primingの効果はトレーニングレベルの高い選手のほうが大きいです。
これはレジスタンストレーニングに対する疲労の耐性が大きく、加わったポジティブな刺激が疲労によって打ち消されるという現象が起きなかったからでしょう。
一方でトレーニングレベルが低い選手の場合は、加わるポジティブな刺激よりも疲労の影響が大きく、週末の試合に悪影響を及ぼしてしまうかもしれません。
しかしながらその悪影響を認識したうえで長期的な成長を優先してトレーニングを実施するという選択肢はあり寄りのありですよね。
また、トレーニングレベルが高い選手の場合でも、ハイボリュームなトレーニング(75%を10回4セット等)を実施してしまうと、疲労や筋肉痛の影響で週末の試合に悪影響を与える可能性もあるので、ここの変数(重量や回数)の設定はプロとしての腕の見せ所かもしれませんね。
実際、筋肉痛を引き起こすようなハイボリュームトレーニングを実施したところシュートパフォーマンスの低下を引き起こしたという研究もあるので、ジャンプ力やスピ―ドだけでなく、スキルへの影響も無視できません(Serinken et al., 2013)。
まとめ
▼試合期に週何回ウエイトを実施するかは、短期的なコンディショニングと長期的な成長のどちらを優先するかで変わる
▼トレーニングレベルが高いと試合前日のトレーニングがむしろプラスに働くかも⇒短期的なコンディショニングと長期的な成長の両立がしやすい
▼ただし実施の方法を間違えると試合にマイナスに働くかも
▼試合期にPrimingの効果を得るにはいかにオフシーズンでトレーニングレベルを上げるかが肝!
長い試合期を戦ううえでは必須の知識になると思うので、しっかりと知識を整理しておきましょう!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
博士の研究の倫理申請書類を作成しています。
これが慣れるまではなかなか面倒臭いんです。。
参考文献
- Harrison, P. W., James, L. P., McGuigan, M. R., Jenkins, D. G. & Kelly, V. G. Resistance Priming to Enhance Neuromuscular Performance in Sport: Evidence, Potential Mechanisms and Directions for Future Research. Sport. Med. 49, 1499–1514 (2019).
- Serinken, M. A., Gençoǧlu, C. & Kayatekin, B. M. The effect of eccentric exercise-induced delayed-onset muscle soreness on positioning sense and shooting percentage in wheelchair basketball players. Balkan Med. J. 30, 382–386 (2013).