【第142回】脳にアプローチすることでROMが向上するというオカルトのような本当の話
ROM (Range of Motion)は柔軟性を表す代表的な指標です。
学術論文上でのROMの定義は、多くの場合『関節を他動的に動かして、不快感が生じたポイントorその直前の角度』で表されることが多いです。
一方で臨床だと、トレーナーなどの測定者の感覚(エンドフィール)を基準にして測定する場合も多いですよね。
上記の痛み基準のROMにしろ、エンドフィール基準のROMにしろ、ROMが広がることによって行いたい動作を行いやすくなったり、以前のブログでも紹介した『力積』の増加による投球速度の向上などが期待出来ます。(こちら)
さてROMを向上させるための手段として、皆さんは真っ先に何を思い浮かべますか?(ストレッチ)
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このブログを読んでいるひとの10割ほどの人が、ストレッチをまず想像したことでしょう。
もちろん、ROMの向上に関する研究の多くはストレッチを採用しています。
一方で、ストレッチ以外の方法でもROMの向上が達成されたという報告もあり、その1つが『脳へのアプローチ』です。
脳へのアプローチでROMが増加する?
Henriquesら(2019)は、足関節背屈のROMを測定後、脳の痛みに関連する部位に電気刺激を与えながら再度ROMの測定を実施しました。
その結果、電気刺激の与え方によってはROMが向上したことが確認され、脳もROMを制限する要因の1つであるということを立証しました。
また、それよりも手軽な方法で脳へのアプローチによるROMの向上方法も報告されています。
それが、『逆側の同部位』のストレッチです。
例えば、左のハムストリングのストレッチを実施すると左のハムストリングの柔軟性は向上するのは明らかですが、その介入によって右のハムストリングの柔軟性も向上するというものです。
そんなバカなと思うかもしれませんが、実はこの分野の研究はすでに何本か報告されており、最近そのメタアナリシスも発表されています(Behm et al., 2021)。
その結果、逆側(もしくは別の部位)のストレッチによってその部位のROMが有意に増加することが報告されています。(Effect Sizeも0.86とそこそこの大きさ)
まとめ、活用方法
「へ~」という豆知識的な論文の紹介でした。
もちろんその部位のROMを向上させたければ、その部位のストレッチを実施したり、筋の伸長を伴うトレーニングをするのが1番ですけどね。
一方で、例えば怪我明けや手術明けでその部位が動かせない場合。
もちろん長期間の固定では筋自体にも変化が起きていると考えられるので、動かせるようになったらその部位自体の可動域の訓練は必要になりますが、ROMの一制限因子である脳へのアプローチとして逆側のストレッチを実施しておくというのも有効かもしれません。
知ってて損はない情報ですので、是非頭の片隅に保管しておいてください!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
4月は怒涛の忙し月間でした。。
ブログも1ヶ月ぶりの更新になりましたが、またちょこちょこ更新を再開していきます!
ツイッターではご報告させていただいたのですが、この4月より国立スポーツ科学センターで非常勤トレーニング指導員の仕事も始めさせていただきました。
また他にもいろんなところと連携して新しい事業も走り出しているので、8時間睡眠は確保しながら頑張っていきます!
参考文献
- Behm, DG, Alizadeh, S, Anvar, SH, Drury, B, Granacher, U, and Moran, J. Non-local Acute Passive Stretching Effects on Range of Motion in Healthy Adults: A Systematic Review with Meta-analysis. Sport Med , 2021.Available from: https://doi.org/10.1007/s40279-020-01422-5
- Henriques, IAD, Lattari, E, Torres, G, Moraes, G, Ribeiro, B, and Oliveira, R. Neuroscience Letters Can transcranial direct current stimulation improve range of motion and modulate pain perception in healthy individuals ? Neurosci Lett 707: 134311, 2019.Available from: https://doi.org/10.1016/j.neulet.2019.134311