【第122回】これなら分かる!運動の仕組みからサプリメントの役割を理解する
プロテインは摂ったほうが良い
カフェイン摂ると走れるらしい
βアラニン摂っても走れるらしい
栄養・サプリメントに関して『効果あるらしい』『筋肉に良いみたい』色んな情報が出回っていますが、本当に自分に必要なものを摂取できてますか?
以前の記事でもISSNのレビュー(Kerksick et al., 2018)で紹介されている、安全面・効果が立証されているサプリメントを紹介しましたが、アスリートであればもう一段踏み込んで、
『どのようにパフォーマンス向上に関与するのか』
を、生理学・栄養学の観点から理解することが大切です。
今回は生理学的なメカニズムを把握したうえで、それぞれのサプリメントがどのように働くのかを学んでいきましょう。
「生理学か~小難しそうでやだな~」って思う方もいるかもしれませんが、簡単な図を用いて小学生にも分かるようにかみ砕いて説明するので安心してください。
もしそれで興味を持てたら、もう少し深く学んでいってみましょう!
筋肉が働く仕組み
スポーツで高いパフォーマンスを発揮するには、筋肉がたくさん働くことが重要です。
ご存知の方も多いと思いますが、脳からの命令が神経を介して筋肉に届き、その結果筋肉の収縮が起きます。
そして筋肉が大きな力で動き続けるにはエネルギーが必要で、主にクレアチンリン酸(PCr)・糖分から得られる無酸素エネルギー、酸素を活用する有酸素エネルギーなど、色んな形で筋肉に供給されます。
つまり、生理学・栄養学的観点からパフォーマンスを上げようと思ったら、
🔻筋肉自体を大きく強くする
🔻筋肉への命令を大きくする
🔻エネルギー源へのアプローチ(より多く蓄える、使いやすくする、節約する)
の3つの方法が可能ということになります。
(余談ですが『ドーピング』もこの3つへのアプローチが主です。ステロイド、興奮剤、エリスロポエチンなど)
ここで1つ注意が必要なのが、これらの3つのメカニズムを通してパフォーマンスを向上させるために最も効率が良いのは
●バランスの良い十分な食事の摂取
●十分な睡眠(8時間以上)
の2つです。
そこが出来てないのにサプリに頼るのは本末転倒。
そのことをきちんと分かったうえで、3つのカテゴリ分けを頭に入れながら、各サプリメントの効果について知っていきましょう
筋肉への命令を大きくする(中枢神経へのアプローチ)
カフェイン
中枢神経への働きを高めるサプリメントと言えばカフェインですよね。
筋力、筋持久力、全身持久力など、様々な体力要素を一時的に高める役割を果たします(Warren et al., 2010; Higgins et al., 2016)。
ISSNのレビュー(Kerksick et al., 2018)では『安全で効果がある』とされているものの、摂取タイミングを間違えると睡眠に大きな影響を与えてしまうので、夕方以降の摂取はなるべく控えたほうがベターかもしれません。
トリプトファン
カフェインとは逆に覚醒水準(頭の興奮度合い)を下げる必要があるタイミングもありますよね。
特に入眠時。
覚醒水準が高いと眠りにつきづらくなります。
そんなとき、睡眠90分前にトリプトファン1gを摂取すると入眠を助ける効果もあるようです(Silber et al., 2010)。
一方で摂取量・タイミングを間違えると、その鎮静作用によって認知機能が一時的に低下する可能性もあるので、ご注意を⚠
筋肉の材料補給、合成のスイッチを入れる
プロテイン、EAA、BCAA
必須アミノ酸(EAA、BCAA)、タンパク質(プロテイン)のサプリメントの主な目的は
●筋肉の材料になる
●筋肉の合成のスイッチを入れる、分解を抑える
ことです。
吸収の早さは必須アミノ酸系のサプリ、量を摂取するならプロテインといった使い分けですね。
もっと詳しい違いはこちらの記事で。
ただ、十分な量のタンパク質が摂取できていれば追加でプロテインを摂取するメリットは薄いというデータもあるので(Morton et al., 2017)、あくまでも食事がメインで、足りない分を計算して、その分をサプリメントで摂取するのが良いかと。
摂取量の目安はMorton et al., 2017では体重×1.6とされていますが、おおよそ1日あたり体重×2gを目安とすると良いでしょう。
※論文内の95%CIが体重×2gをまたいでいるため
エネルギーに関わるサプリメント
エネルギーに関与するサプリメントは
●摂取時のパフォーマンスアップ
だけでなく
●摂取することによるトレーニング強度の増加⇒身体作りのサポート
にもつながります。
水
これをサプリメントとして紹介して良いのかは迷いますが、けっこう最強サプリです。
意外とみなさん暑い時期は、体重の2~3%の脱水は起こしがちなことが多いのですが、
その状態だと血流も滞り、十分な栄養の運搬、身体の冷却が出来ません。
その結果
●筋力・・・-6%
●持久力・・-8%
と低下することが知られています(Savoie et al., 2015)。
水、飲みましょう。
クレアチン
図のPCr(クレアチンリン酸)の材料になるサプリです。
特に瞬発的な運動のエネルギーになり、力発揮などのパフォーマンス向上、トレーニング効果増加の効果が認められています。
飲むと肉離れを起こすという都市伝説がささやかれていますが、そういった科学的根拠はありません。
もしそのデータを知っている人がいれば逆に教えてください。
糖質
これもまずは十分な食事(米、パン、パスタなど)からの摂取をお勧めしますが、長時間の試合や、ダブルヘッダーの場合はスポドリやゼリーなど、積極的に活用したいところ。
糖質をしっかりとるだけで、サッカーの試合の走行距離が1㎞も伸びたという報告もあるくらい(Souglis et al., 2013)、重要な栄養です。
βアラニン
これは日本ではまだマイナーなサプリですが、中距離走や間欠的な運動(球技など)のパフォーマンス向上、間接的なトレーニング効果向上による筋肥大への貢献など、色んなメリットがあるサプリメントです(Saunders et al., 2017)。
筋肉が糖などのエネルギーを使うと、乳酸、水素イオンなどが蓄積されて、筋肉が酸性に傾きます。
(筋肉は酸性に傾くと力を出しづらくなります)
βアラニンが身体に蓄えられていると、傾いた酸性を正常な状態に戻す働きをしてくれ、結果として力発揮をしやすくなるんです。
まとめ
今回は簡単な生理学的なメカニズムと、サプリメント、栄養の働きを解説しました。
トレーニングもサプリメントも、『なんか良いらしい』で取り入れる人って、失敗することが多いです。
どんな効果があるのか、目的は何なのか、簡単でも良いのでそう考える習慣がすごく大切。
今回の記事が、そんな考えるきっかけになってくれれば!
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参考文献
- Higgins, S, Straight, CR, and Lewis, RD. The Effects of Preexercise Caffeinated Coffee Ingestion on Endurance Performance: An Evidence-Based Review. Int J Sport Nutr Exerc Metab 26: 221–239, 2016.
- M., KC, Wilborn, CD, Roberts, MD, Smith-Ryan, A, Kleiner, SM, Jäger, R, et al. ISSN Exercise & Sport Nutrition Review: Research & Recommendations. J Int Soc Sports Nutr 7: 7, 2018.
- Morton, RW, Murphy, KT, Mckellar, SR, Schoenfeld, BJ, Henselmans, M, Helms, E, et al. A systematic review , meta-analysis and meta- regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. 1–10, 2017.
- Saunders, B, Elliott-sale, K, Artioli, GG, Swinton, PA, Dolan, E, Roschel, H, et al. β -alanine supplementation to improve exercise capacity and performance : a systematic review and meta-analysis. 658–669, 2017.
- Savoie, FA, Kenefick, RW, Ely, BR, Cheuvront, SN, and Goulet, EDB. Effect of Hypohydration on Muscle Endurance, Strength, Anaerobic Power and Capacity and Vertical Jumping Ability: A Meta-Analysis. Sport. Med. 45: 1207–1227, 2015.
- Silber, BY and Schmitt, JAJ. Effects of tryptophan loading on human cognition , mood , and sleep. Neurosci Biobehav Rev 34: 387–407, 2010.Available from: http://dx.doi.org/10.1016/j.neubiorev.2009.08.005
- Souglis, AG, Chryssanthopoulos, CI, Travlos, AK, Zorzou, AE, Gissis, IT, Papadopoulos, CN, et al. The Effect of High vs. Low Carbohydrate Diets on Distances Covered in Soccer. J Strength Cond Res 27: 2235–2247, 2013.Available from: http://content.wkhealth.com/linkback/openurl?sid=WKPTLP:landingpage&an=00124278-201308000-00025
- Warren, GL, Park, ND, Maresca, RD, McKibans, KI, and Millard-Stafford, ML. Effect of caffeine ingestion on muscular strength and endurance: A meta-analysis. Med Sci Sports Exerc 42: 1375–1387, 2010.