【第77回】右を鍛えると左の筋力も向上する?Cross Educationについて
トレーニングを行う際には両側性、片側性という選択肢があります。
例えば自体重の両脚スクワット、片脚スクワット、ウエイトトレーニングにおいてもバックスクワットや片脚の種目であるブルガリアンスクワットがあります。
上肢のトレーニングを行う際にもバーベルで両手行うこともダンベルで片手で行うことも可能です。
フリーウエイトにおいては片脚でのトレーニングではバランスをとる必要があるので、両脚でのトレーニングのほうが高重量を扱えるため、そもそもの筋力の向上や筋肥大には効果的かもしれません。
一方で多くの競技においては片足での出力が重要だから片足のトレーニングをするべきだという意見も聞くことがあります。
そこを詰めると話が非常に長くなるので、本日はその視点は少し置いといて、Cross Education、Contralateral Training Effectについてご紹介しようと思います。
Cross Educationとは
Cross Education、またの呼び方をContaralateral Training Effectなどと言います。
これは片側性のトレーニングを行った際に、逆側の同じ筋肉の筋力が向上する現象のことを言います[1]。
Cross Educationは逆側の「同じ」筋肉に作用するので、全身に作用するであろうホルモンの分泌によるものよりかは、神経的なメカニズムによるものだと考えられています。
一般的には右のみ、左のみをトレーニングすることは少ないでしょうが、手術後のリハビリ、トレーニングにはこのコンセプトは活かせます。
例えば右は手術してしまってしばらく動かせないけど、左だけトレーニングをすることが可能というシチュエーション。左だけ強くなってバランスを崩さないか。と考えるかもしれませんが、このCross Educationを理解してリハビリ・トレーニングプログラムを作成すると、手術した側の筋力の回復も早くなり、より早期の復帰が可能になるかもしれません。
どの程度の効果があるのか?
2004年に発表されたCross Educationについてのメタアナリシスでは、トレーニングをした側の筋力の向上率の約1/3の向上がトレーニングをしていない側にも見られることが報告されています。[3]
この効果は上肢よりも下肢のトレーニングで大きく、アイソメトリックなトレーニングよりも動的なトレーニングで大きい可能性も示唆されています。
実際の活用方法は?
手術、怪我後に健側の筋力が向上し過ぎて左右のバランスを余計に崩すのは好ましくないかもしれません。特に改善に長期間かかるであろう筋肉量の差が広がるのは良くないでしょう。
しかし、行い方を考えれば患側の筋力の早期回復につながると考えられます。
以下に個人的に活用するならこうするだろうなという流れを紹介します。(あくまでも個人的な考えです)
①なるべく低ボリューム、高強度で行う(筋肉量の差を広げたくないので)
②挙上スピードはなるべく速くする(そのほうがCross Educationの効果が高いことも報告されています[2])
③患側のトレーニングが行えるようになったら、健側のトレーニング量は少なくする、または一時的に中止する
④患側のトレーニングは筋肉量を増やすような中強度、中~高ボリュームのものを低速度で行い(安全で、健側へのCross Education効果が小さい)、徐々に高強度にシフトする
このように①②を行っておくことで、④のときに患側にかけられる負荷が増加し、効率的に失った筋肉量を取り戻せると考えられます。(筋肉以外の組織が運動の制限になっていたら負荷をかけるのは難しいですが)
まとめ
今回紹介したCross Education。健康なアスリートにはあまり活用する機会はないかもしれませんが、リハビリ中のトレーニングを組むうえでは非常に役立つものだと思います。
是非活用してみてください。
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
参考文献
- Carroll, TJ, Herbert, RD, Munn, J, Lee, M, Gandevia, SC, and Timothy, J. Contralateral effects of unilateral strength training : evidence and possible mechanisms. J Appl Physiol 101: 1514–1522, 2006.
- Munn, J. Training with unilateral resistance exercise increases contralateral strength. J Appl Physiol 99: 1880–1884, 2005.Available from: http://jap.physiology.org/cgi/doi/10.1152/japplphysiol.00559.2005
- Munn, J, R.D.Herbert, and S.C.Gandevia. Contralateral effects of unilateral resistance training: a meta-analysis. J Appl Physiol 96: 1861–1866, 2004.Available from: http://jap.physiology.org/cgi/doi/10.1152/japplphysiol.00541.2003
こんにちは!
いつも楽しく拝見させていただいております!
アイソメトリックトレーニングについてお聞きしたい、というか記事にしていただきたいのですが
体操競技をやっておりまして、上水平という技を練習しています。
自分でもいろいろな研究論文をみたところ、効果的なアイソメトリックトレーニングについてわかったことは
1 トレーニング実施時の関節の角度でしか筋力を鍛えられない
2 6秒間静止が限界の負荷を3セット
3 疲労が上記のセット数と負荷であれば毎日実施しても問題ない
(3は個人的な考えです)
くらいしかわかりませんでした(;’∀’)
ですので、上水平を習得したければ補助器具等で身体を吊って上水平の角度で適切な負荷を身体に与えて耐えるトレーニングをするという見解にいたったのですが、どうでしょうか?
お忙しいと思いますが、是非、ご意見をお聞かせいただきたいです。
よろしくお願いします。
上水平という技についてはあまり良く分からないのですが、そのような形での同じ関節角度でのアイソメトリックのトレーニングも有効かと思います。
一方である程度必要な筋の筋肥大をしたほうがアイソメトリックな筋力も上がると思うので、その関節角度を通過するようなコンセントリック・エキセントリックを含むトレーニングを行うのも良いかもしれませんね。