【第45回】Warm Upの科学~球技スポーツへの応用

多くの球技スポーツは、瞬発的な運動を何十分もの間繰り返すため、筋力、パワー、スピード、持久力…様々な体力要素を必要とします。

面倒なことに、ウォームアップにおいて、瞬発的な運動前には体温を上げなければいけないし、持久的な運動前には体温を上げ過ぎてはいけないです。。。(第44回←前回記事)

前回の記事で、短時間、中時間、長時間のスポーツにおけるウォームアップ方法を紹介しましたが、これを「瞬発力も持久力もを必要とするスポーツ」に応用するには少し知恵が必要です。

球技スポーツの体温コントロール

バスケやサッカーにおいては、体温が低すぎたら試合開始時にパワーが発揮できないし、体温が高すぎたら熱容量の減少により早期に疲労してしまいます

そのため、球技スポーツのウォームアップのポイントは

①試合前には体温を上昇させる

②試合中には体温を上昇させすぎない(場合によっては低下させる)

以上の2点になります。(もちろん、環境に大きく左右されます)

②についてはウォームアップの戦略というより、クーリングというものになります。

言い換えれば、球技スポーツでベストパフォーマンスを発揮するには、適切なウォームアップと、適切なクーリングの組み合わせが必要ということです。

体温を下げる戦略としては、様々なものが考えられます。

有名なものとして「首もとや鼠蹊部などにある大きな血管を氷で冷やす」なんてものがありますが、実はそれより効率的に体温を下げられるのが送風冷却です。(もちろん、それ以上に効果が高いのは氷水に全身ドボン)

冷静に考えればそもそも人間は体中の皮膚から熱を発散するので、氷で身体のいくつかのポイントを冷却するより、全身を冷却できる送風の方が効率はいいですよね。(送風冷却の研究についてはこちら

また、それらのクーリングをいつ行うかということも重要で、研究の世界ではサッカーなどの球技スポーツにおける「中間冷却」が注目を集めています(Price et al., 2009)。

暑熱環境下(高温多湿)での試合は、熱容量の限界まで体温が上がることによる疲労がパフォーマンスの制限因子になります。しかし試合にクーリングを行ってしまうと、瞬発的なパフォ―マンスが落ちてしまいます。

そのため、試合前半で向上した体温をハーフタイムで一度下げてしまおうというのが中間冷却です。

一方、バスケットボールやハンドボールなど、交代が頻繁に行われるスポーツにおいては、選手がベンチに戻ってくるたびに、体温が高まりすぎているようであれば送風冷却を行うのがいいかもしれません。

特に暑熱環境下での試合の場合は、送風などを用いた「ハーフタイムでの中間冷却」や「ベンチでの冷却戦略」を用いて体温が上がり過ぎないようにすることで、後半のパフォーマンスを維持につながると考えられるのです。

体温コントロール以外のアプローチ

一方で体温コントロール以外にも、考慮しなければいけないことがあります。

例えば、最初の表に記してある通り、中時間or長時間運動においては、運動開始時のベースラインVO2がある程度高い状態にあるべきです。

しかしながらベンチスタートの選手は、試合前のウォームアップで上昇したVO2が、試合中には下がってしまっています。

そのため交代直前に軽い有酸素運動を行って少し息を上げること(VO2を上昇させること)は、運動中の無酸素エネルギーの節約になると考えられますし、下がった筋温を上昇させることにも役立ちます。

また、交代前に何かしらの方法で筋の最大出力を行うことで、PAPの効果も期待できます。
(PAPについてはこちら

まとめ

・短時間の瞬発的な競技の場合は筋温を高めることで、パワー向上というメリットが得られる

・長時間の持久的な競技の場合(特に暑熱環境下では)、深部体温が高くなりすぎることで疲労が溜まる

・球技スポーツのような両方の要素が必要な競技の場合、筋温を高めるウォームアップと、深部体温を高くし過ぎないためのクーリングを組み合わせる

また、瞬発力と持久力両方必要とはいえど、各競技、チームの戦術によって、その必要度合いのバランスは変わってきますよね。

短時間でハードワークをして流れを変える選手と、長時間試合に出続けなければならない選手で、適切な体温は変わるかもしれません。

もちろん、季節・気温によってもやることは変わります。(冬場の外の試合でクーリングはいらないですよね?)

科学的なデータとはいえ、活用するのはスポーツの現場です。

状況に応じて最適なアプローチができるよう、普段からきちんとメカニズムを理解してウォームアップを行わなければいけませんね!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


編集後記2018/12/6

過去記事を見直してると、「なんやねんこの表現分かりづら!」「いやいやこの情報は削ってこっちの解説詳しくしたほうがいいでしょ」なんて改善点がめちゃくちゃ出てきます。

やっぱり記事をたくさん書くことで、そういう感覚もブラッシュアップされていくんだなーと感じています。(なので最近は過去記事の編集にはまっています笑)

ブログとかやってみたいけど文章力に自信がないな。。という方、まずは数をこなすのが1番の近道かもしれませんよ!


 

参考文献

The physiological effects of pre-event and midevent cooling during intermittent running in the heat in elite female soccer players.
Michael J. Price, Craig Boyd, Victoria L. Goosey-Tolfrey.
Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism, 2009, 34(5): 942-949

 

 

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