大学院の同期と後輩が本を出しまして~コンカレントトレーニング~

先日、大学院の後輩から、「佐々部さん、本出すんで是非読んで感想聞かせてください!」と連絡を受けました。

どうやら大学院の後輩と大学院同期と、大学~大学院でお世話になった先生が共著で翻訳本を出版するとのこと。

よくよく詳細を聞いてみると、その基になっている本の著者の一人が僕のめちゃくちゃ好きな研究者の1人、ノルウェーの研究者のBent R. Rønnestad先生。

もう読むしかないと思ってすぐに送ってもらいました。

本日はその本の内容・感想を怒られない程度に紹介してみようと思います!

そもそもコンカレントトレーニングとは?

そもそもコンカレントトレーニング(Concurrent Training)とは、筋力orパワー系のトレーニングと、持久的なトレーニングを同時期に行うというトレーニングです。

(Concurrentは日本語で同時多発的といった意味です)

わざわざ名前がついているものの、正直そんなの日本のアスリートの大多数がすでにやっていることですよね。

論文とかでConcurrent Trainingといったワードが入っているときは、だいたい持久的トレーニングを行うことによる筋力・パワー系トレーニングの効果への干渉作用についてです。

以前も当ブログで紹介したこういうやつですね⇓

#24 Wilson et al., 2012

持久力も筋力・パワーも必要なアスリートにとって、この干渉作用は好ましいものではありませんね。

僕自身、このあたりの情報は常にキャッチしておこうと多くの論文を読んではいるのですが、さすがにRønnestad先生たち第一人者には及ばないのでさっそく勉強させてもらいました。

書籍の内容の紹介

目次は以下のような感じです!

①持久性トレーニングとレジスタンストレーニング
それぞれのトレーニングの分子・神経的適応について

②相互干渉作用
どのようなメカニズムで干渉作用が生じるか?
実際どの程度の干渉作用があるか?(上記で紹介した研究も紹介されてました)

③コンカレントトレーニングにおける方法論的考察
どういった場合に相互干渉作用が強くなるかや、リカバリー・栄養的戦略について

④各年代のコンカレントトレーニング
児童、青年、高齢者でそれぞれどのような作用の違いがあるか

⑤アスリートのパフォーマンス向上のためのコンカレントトレーニング
サイクリスト、スイマー、サッカー選手など、競技別の知見を紹介

感想

正直、僕自身が読む研究は③がメイン、⑤もぼちぼちといった感じだったので、そもそものメカニズムを一から学べたのは良かったです!

また、さすがその分野のトップを走ってる研究者たちが書いただけあって、②~⑤の内容も初めて知る研究も盛沢山でした。

僕のイメージだと、コンカレントトレーニングの研究は、『筋力・パワーの向上を持久的トレーニングが阻害するが、それをいかに抑えるか?』といったものですが、
この書籍の中では『持久系アスリートが筋力・パワー系のトレーニングを実施するとどういったメリットがあるか』といった視点からも解説されていたので、そちらの知見も得られて面白かったです!

こういった書籍は翻訳がすごい専門的な言葉に偏って読みづらいことも多いのですが、さすが優秀な同期と後輩が書いただけあって、なかなか読みやすくまとめられてます。

また、専門書だけあって『やはりある程度研究の基礎知識がないとしんどいかな?』とも思ったのですが、体育系大学・専門学校で勉強した学生レベルであれば割とすんなり読めるかなといった感じでした!

高校生レベルだと全体を理解するのは苦労するかもしれないですが、割と研究結果も図表で解説されてるし、このトレーニングの実施方法よりはこちらの実施方法のほうが良いんだ。程度のことは全然理解できそうです!
(例えば、筋力の向上を邪魔したくなければランニングよりもバイクのトレーニングのほうが良い。等)

ただ、この書籍の英語版が発刊されたのは2019年で、引用されている研究は2017~2018年頃まで。

この研究領域は本当に発展途上の分野なので、この本でその年代までの研究を抑えて、その後の情報はアンテナを張ってキャッチする。といった使い方が良さそうです!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


あらかじめ簡単な感想を送ったら、プレスリリースのページにコメントを掲載していただけました!なんか専門家っぽい!笑
PR TIMESでのプレスリリース

購入はこちらアマゾンのページから出来るそうです⇓是非!

(本売れたら後輩が印税で叙々苑おごってくれることを期待しておきます!笑)

【第138回】「怪我をしないようにトレーニングは軽めの重さで」だと怪我をしてしまうしパフォーマンスも下がるというジレンマ

「怪我をしないようにトレーニングは軽めの重さで」

シーズン中はそう考えて取り組んでいる選手も多いかもしれません。

しかしながらシーズン中だからこそ強度を上げることで疲労も抜けて、コンディションも上がり、怪我を予防できるかもしれません。

本日はそのメカニズムについて理解していきましょう!

強度、量、総負荷の関係

トレーニングの負荷設定を理解する上で、「強度」「量」「総負荷」この3つの言葉の意味を明確に理解する必要があります。

強度×量=総負荷という関係性になるのですが、これは図で説明したほうが分かりやすいと思うので、まずは以下の図を見てください。

100m走は強度の高い運動で、マラソンは強度は低いものの運動量が多い運動になります。

ウエイトトレーニングにおいては担いでいる負荷(重量)=強度になり、レップ数やセット数が量になりますね。

先述した「負荷を軽めにしよう」という発想、それが総負荷のことを指すとしたら、軽めにする方法としては

・強度を落とす

・量を落とす

この2つが考えられます。

身体へのダメージはおおよそ、この総負荷と比例するので、実は高重量低回数のウエイトのほうが身体へのダメージは少ないです。

例えばスクワットのマックスが200㎏の選手がいたとして、
マックスの90%(180㎏)で3回挙上した場合、180㎏×3回=540㎏の総負荷
マックスの70%(140㎏)で10回挙上した場合、140㎏×10回=1400㎏の総負荷
になります。

試合前のコンディショニングにおいても、練習・トレーニングの強度維持したまま量を減らす方法が、一番試合のパフォーマンスが向上させるということも科学的に証明されています(Bosquet et al., 2007)。

逆に「試合前数週間はウエイトは軽めの負荷で」と考えたとき、量を減らして総負荷を減らすのではなく、強度を減らすという発想をしてしまうと、以下の2つのパターンにあてはまってしまいます。

▼強度を減らして量も減らす⇒十分なトレーニング刺激が得られず、試合に向けて筋力も落ちて筋肉もしぼんでいく

▼強度を減らすが量はしっかりと⇒筋量は維持でき、筋力低下も多少抑えられるが、疲労による悪影響が出てしまう

試合期は強度を維持!トレーニング期は総負荷を大きく!

大事な試合の前は強度を維持して量を減らすことでコンディションが上がるということは先述しました。

一方で、リーグ戦のような長丁場の場合は、いかに筋力を維持するかということも重要になります。

Rønnestadら(2011)の研究では、マックスの90%程度の負荷でのトレーニングを週に1回3セット実施することで3ヶ月は筋力が維持できたことを報告しています。

また、筋力トレーニングによる傷害予防効果に関するメタアナリシス(Lauersen et al., 2018)では、強度、量をしっかりと高めることで、より傷害予防効果が高まることを報告しています。

しかしながら、身体というのは同じような負荷ばかりだと適応しなくなってくるもの。

シーズン中に高強度低回数のトレーニングで、怪我なくパフォーマンスを維持・向上させるためには、オフの間に量・総負荷が大きめのトレーニングを実施しておくことが必要です。

来シーズンのトレーニングはもう今から始まっています。

きちんとした計画にのっとってトレーニングを行うためにも、是非この時期にプロのトレーニング指導者の指導を受けてみてください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


最近河童橋商店街の包丁屋で、柳葉包丁と出刃包丁を買いました。

刺身の角が潰れずに、めちゃくちゃ綺麗に切れて毎回感動しています。


参考文献

  1. Bosquet, L, Montpetit, J, Arvisais, D, and Mujika, I. Effects of tapering on performance: A meta-analysis. Med Sci Sports Exerc 39: 1358–1365, 2007.
  2. Lauersen, JB, Andersen, TE, and Andersen, LB. Strength training as superior, dose-dependent and safe prevention of acute and overuse sports injuries: a systematic review, qualitative analysis and meta-analysis. Br J Sports Med bjsports-2018-099078, 2018.Available from: http://bjsm.bmj.com/lookup/doi/10.1136/bjsports-2018-099078
  3. Rønnestad, BR, Nymark, BS, and Raastad, T. Effects of In-Season Strength Maintenance Training Frequency in Professional Soccer Players. J Strength Cond Res 25: 2653–2660, 2011.Available from: http://content.wkhealth.com/linkback/openurl?sid=WKPTLP:landingpage&an=00124278-201110000-00003