【第44回】Warm Upの科学~基礎編

ウォームアップの目的の1つは「体温を高めること」です。

しかし、体温を高めることで向上する能力、変わらない能力、逆に低下してしまう能力があるのをご存知ですか?

意外と「教科書通り」のジョギング、ダイナミックストレッチなどを行っている、という人も多いと思います。

本日はウォーミングアップに関するレビュー論文の内容を紹介しつつ、その応用方法について考えていきます。

David Bishop, 2003
Warm Up I Potential Mechanisms and the Effects of Passive Warm Up on Exercise Performance
Warm Up II Performance Changes Following Active Warm Up and How to Structure the Warm Up

2部構成で読むのに時間がかかりましたが、目からウロコの情報ばかりでした。
また、オープンアクセス(無料)なので、Warm Upを担当することのあるAT、S&Cの人はMust readです!

リンク:Warn Up Ⅰ
   Warm Up Ⅱ

ウォームアップの効果

ウォームアップを行うと、身体に様々な適応が起きます。

※PAP(Postactivation Potentiation)・・・筋肉に高負荷の刺激を加えた後に、筋活動が増強する現象のこと。今度詳しく解説します!

バスケのアップはこう。陸上のアップはこう。ではなく、
「なぜ」その競技に、そのアップが必要なのか。
もっと言うと、ウォームアップによって引き起こされる身体の反応が、競技パフォーマンスに与える「ポジティブな面」と「ネガティブな面」を知っておくこと。
それを理解することができれば、競技に応じた状況に応じたアップの使い分けができるはずです。

ポジティブな影響は、上記の図のように様々なメカニズムによって引き起こされます。

左が体温上昇によって引き起こされる身体の反応

右が体温とは関係なく引き起こされる身体の反応です。
※このようにウォームアップによって体温とは非関連の適応も起こるので「Warm Up」やなくて「Acid Up」って呼んだようがええんやないか?とも言われてるみたいです。

一方ネガティブな影響は、大きくわけて2つ

①体温上昇による熱容量の減少

②疲労

です。

まずは①体温上昇による熱容量の減少について、体温上昇のポジティブ面とも合わせて以下に述べていきます。

体温の上昇のポジティブ面&ネガティブ面

Warm Upの大きな目的の1つは、冒頭でも述べた通り「体温(深部体温・筋温)を上げる」ということです。

教科書的にはPassive Warm Upは効果が薄いと言われていた印象がありますが、実は研究では体温上昇に関連した身体適応であればPassive Warm Upでも効果があることが証明されているようです。Passive Warm Upや衣服での体温コントロールも積極的に考慮しましょう!

※Passive Warm Up…温シャワーなど、運動を用いないWarm UP
Active  Warm Up…運動を用いたWarm Up

メリット①パワー、筋収縮速度の増加

筋温の上昇によって、筋や関節のスティッフネス(粘性)が低下します。

イメージでいうと、常温で放置したスライムを、手で温めるとドロドロになりますよね?そんな感じの現象が筋肉や関節でも起きます。

また体温の上昇によって、神経から筋肉までの命令のスピードがスムーズになります。

体温の上昇による上記の変化によって、パワー(力×スピード)の向上が引き起こされることが明らかとなっています。

なんとその効果、垂直跳び高では、1℃ごとに約4%の向上 (Bergh U and Ekblom B,1979)

これ、はんぱないですよね?仮に36℃→39℃でも4%ずつ向上するなら、70㎝→78.4㎝になるってこと。

ちなみに、この「パワー」の増加「筋力」の変化ではなく「収縮速度の増加」によって起こるようです。
(詳細書先に紹介したレビュー論文を読んでみてください。めちゃおもろいです。)

メリット②無酸素エネルギー利用増加

人は運動をする際に、
・クレアチンリン酸系
・解糖系
・有酸素系
3つのエネルギーを利用しますよね。
そしてこの上2つ(クレアチンリン酸系、解糖系)を無酸素系エネルギーとも言います。

体温の上昇→エピネフリンの分泌量低下→無酸素系エネルギーの利用増加

とつながるようです。
(実際の現場でのWarm Upでは心的な興奮もあるのでエピネフリンの増加にもつながりそうな気もするのですが。。話がややこしくなるので心的な要素はないものとして進めます)

無酸素系エネルギーの利用増加。つまり、体温上昇によってより大きなエネルギーを出せるようになるということ。

実際に、中時間運動のパフォーマンスの向上のデータもレビュー論文の中では述べられています。

※この論文では
短時間運動…~10秒
中時間運動…10~5分
長時間運動…5分~

一方、後述しますが、これは長時間のパフォーマンスにとってはマイナスの影響(H+の蓄積など)も考えられます。

デメリット・体温上昇による熱容量の減少

真夏の長距離走は真冬の長距離走よりも疲れますし、タイムも悪くなりますよね?

人間は身体に蓄えられる熱容量(heat-storage capacity)が決まっており、

このように高温環境×長時間運動によって体温が上昇しすぎてしまい(=熱容量の空きがなくなってしまい)、その結果パフォーマンスが低下することが知られています。

実際にレビュー論文の中で紹介されている複数の研究で、Passive Warm Up、Active Warm Upのどちらも体温の上昇を引き起こすようなものはパフォーマンスを低下させることが示されています。

 

温度とは非関連の身体の適応

では、長時間運動(もしくは熱容量の影響を受けるような中時間運動)はWarm Upを行わないほうがいいのかというと、そうゆうわけではありません。

温度とは関係なく、Warm Up(低強度の運動)を行うと、酸素摂取量の上昇がみられます。

酸素摂取量の上昇=有酸素エネルギーが徐々に利用されるということ。

無酸素エネルギー(グリコーゲンなど)は身体に蓄えられている量に限りがありますよね。

一方、有酸素エネルギーのもとである体脂肪は、とても1日の運動で使い切れる量ではありません。
(体脂肪1㎏が7kcalなので、70㎏、体脂肪率12%であれば、70×0.12×1000×7=5万8800kcal!)

そのためメインの運動の直前に酸素摂取量を上昇させておくこと(ベースラインVO2の向上)は、無酸素エネルギーの節約、また無酸素エネルギーの代謝産物の蓄積の予防になり、中時間or長時間のパフォーマンス向上につながると考えられます。

その恩恵をうけるためにはポイントが2つあります。

・無酸素エネルギーに依存するような(疲労が起こるような)強度でWarm Upを行わないこと

・ベースラインVO2を維持するために、Warm Upとメインの運動の間をあまり空け過ぎないこと

※一方短時間運動の場合は、ベースラインVO2はあまり関係ないうえ、PCr(無酸素エネルギーの一種)の再合成を促したいのでWarm Upとメインの運動の間は空けるべきだと言われています。

まとめ

以上の知見をまとめるとこんな感じになります。

ただ、これは100m走、800m走、マラソン、水泳など、同じようなペースで運動を続ける非間欠的運動にのみ適応可能です。

次回の記事ではこの知見の間欠的運動,トレーニングへの応用方法について紹介したいと思います。

 

参考文献

David Bishop
Warm Up I Potential Mechanisms and the Effects of Passive Warm Up on Exercise Performance
Sports Med 2003; 33 (6): 439-454

David Bishop
Warm Up II Performance Changes Following Active Warm Up and How to Structure the Warm Up
Sports Med 2003; 33 (7): 483-498

Bergh U and Ekblom B
Influence of muscle temperature on maximal muscle strength and power output in human skeletal muscles
Acta Physiol Scand 1979; 107: 33-7

 

 

 

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