【第87回】《まとめ》ジャンプ力を向上させる方法—ピラミッド型モデルで自分に足りない部分を知る

「ジャンプ力を向上させたい!」

こう考えているアスリートは非常に多いのではないでしょうか?

バスケットボールやバレーボールなどの、明らかに競技中にジャンプ力があったほうが有利なスポーツはもちろん、サッカーやアメリカンフットボールなどの水平方向の動きがメインのスポーツであっても瞬発力向上の指標になりえるため、垂直跳びの数値を重要視している場合も多いかと思います。

実際にサッカーやアメリカンフットボールにおいて、プロや日本代表に選抜された選手はそうでない選手に比べて垂直跳びや立幅跳の数値が高かったとされる報告もなされています(津越ら,2010; Yamashita et al., 2017)。

SNSやHPの問い合わせを通して、「垂直跳びの数値を向上させたいんです」といった相談をされることも非常に多く、そのたびに「このトレーニングが一番垂直跳びを向上させる!といったトレーニングというのはなくてですね、個人の今の状態を~~」と毎回説明しているので、、もういっそ記事にしちゃおう!と思った次第です。

ジャンプ力の数値向上に必要なことは人によって違う?

チームにストレングス&コンディショニングプログラムを提供する場合は、おおよそ平均的な選手に照準を合わせてプログラムを処方するのですが、実はジャンプ力を向上させようと思ったら、最も効果的な方法は選手によって異なります。

極端な例でいうと、例えば競技の中でもジャンプ動作を繰り返し行っているバレーボール選手の場合、
もしその選手がスクワットなどの基礎的筋力トレーニングに取り組んでいなかったら、基礎筋力不足のためにジャンプ力が伸び悩んでいるかもしれませんよね。

逆に基礎的な筋力トレーニングには数年取り組んでおり基礎筋力が十分なアメフト選手、もしくはもっと極端な例でいうとパワーリフターの選手の場合、
もしその選手がジャンプ系のトレーニングに取り組んでいないのであれば、ジャンプ力を向上させるにはさらなる基礎筋力を向上させるよりも、ジャンプ系のトレーニングに取り組んだほうがジャンプ力は向上するでしょう。

実際、その選手に足りない要素を分析したうえでのトレーニングは、従来のトレーニングよりもジャンプ力を向上させたという報告もあります(Reyes et al., 2017)。

この考え方を視覚的に考えるための簡易的なモデルと、自身の状態のチェック方法をご紹介します。

ピラミッド型モデル

以下にジャンプ力を向上させるためのピラミッド型のモデルを紹介します。

少しごちゃごちゃした図になってしまいましたが。。

伝えたいことはすべてこの図にギュッとつまっています。

以下にピラミッドのベースの部分から説明していきます。

筋肉量

大きな力を発揮しようと思ったらそもそもの筋肉量が必要になってきます。

各競技のトップレベルの選手の体格については過去記事でも触れていますので、そちらを参考にしてください。

【第26回】競技特性から探るスポーツの適正体重

【第81回】サッカー特集①サッカー選手にとって最適な身体つきは?

おおよそサッカーだと最低でも身長ー110kg、バスケなら身長ー105kg程度は必要だと感じています。
※コリジョンスポーツ(アメフト、ラグビー)だとポジションによって大きく異なる

この基準を参考に、最低限の筋肉量(特に下半身)がないなと感じた選手は、まずはしっかりとウエイトトレーニング+栄養摂取+睡眠で身体を作りましょう!

基本的に1週間あたりのトレーニングボリュームが増えたほうが筋肥大の効果は大きいのですが、目安としては1部位につき1週間に10セット程度と示されています(Schoenfeld et al., 2017)。

それ以上行った場合の効果は選手のトレーニングレベルにもよると考えられますが、GVTのように10回10セット2種目=1週間200Repなんて高ボリュームで行うと、一般的には負荷が大きすぎて逆効果になるようです。
(詳しくはこちら

筋力

筋力もジャンプ力を高めるためには非常に重要な要素です。

筋力の指標としてよく用いられるのがバックスクワットの最大挙上重量(1RM)。

様々な下肢のトレーニングがありますが、やはりその中心となるのはスクワットでしょう。

スクワットのバリエーション、実施方法について深く言及すると大変な長さになってしまうので、、
1点だけ、まずは「しっかりと深くお尻を落としたスクワット」を習得し、強化していきましょう。

ウエイトトレーニングの良いところは、正しく行えば(ターゲットの筋にしっかりと大きな範囲で負荷をかけながら行えば)、筋力だけでなく、柔軟性・可動域も効率的に獲得できることです(Macmahon et al., 2014; Fatouros et al., 2006)。

実際にHartmannら(2012)らは、トレーニング初心者に対してクォータースクワット(浅いスクワット)とディープスクワット(深いスクワット)を行わせた場合、深いスクワットを行った群でのみジャンプ力の向上があったと報告しています。

これは可動域の獲得が、適切なジャンプの獲得に好影響を及ぼしたためでしょう。

浅めの高重量スクワットのメリットについても議論されることもありますが、まずはパラレルスクワットで体重の1.7~2.0倍程度は上げられるようになりましょう!

ちなみに女子選手についてですが、パワーリフティングの世界選手権の男女の記録などを見ると、男子の下肢筋力は女子の1.3~1.4倍くらい。
そのため女子の場合は体重の1.3~1.5倍くらいが目指すべき基準になりそうです。

筋力向上のためには比較的高い強度(1RMの85%~程度)でトレーニングを行いましょう。
ただし、重さを求めるあまりフォームがくずれては本末転倒です!

パワー(高負荷パワー)

ジャンプ力の測定は「パワー発揮」の指標として用いられることも多いです。

そのためジャンプトレーニング自体を「パワートレーニング」として位置づけて実施する場合も多いですよね。

一方でこの「パワー」の中でも、自体重のジャンプ以上に負荷をかけた状態のパワー発揮として代表的なものが、「クリーン」や「スナッチ」などのクイックリフト(オリンピックリフティング)です。

ジャンプ力向上のためには、自体重のジャンプトレーニングだけでなく、クイックリフトもトレーニングに加えたほうが効果的にジャンプ力を向上させたとする研究もいくつかあります(Arabatzi et al., 2010; Tricoli et al., 2005)。

実際大学時代、身の回りの学生アスリートたちの中でシンプルな垂直跳び(助走を用いないもの)の数値が一番高かったのは、バスケ部でもバレー部でもなく、ウエイトリフティング部の選手でした。。

これは僕の今までの経験になりますが、パワークリーン(もしくはハングパワークリーン)であれば、球技スポーツ選手の場合、バックスクワットの1RMの3分の2程度は上げられるようにはなります。

スクワットの数値が向上してきたら、次はここを1つの基準としてクイックリフトにも取り組んでいきましょう。

※ただ、クイックリフトは指導者がいない状態で行うことはあまりおススメしません。

ジャンプ力

実はジャンプ力の評価として代表的な垂直跳びは、その測定方法によって算出される数値がめちゃくちゃ違うのです。。(そのことについてはまた今度)

一方、もう1つの代表的なジャンプ力の指標として、「立幅跳び」が挙げられます。

これは機材もいらないですし、垂直跳びよりも測定方法ごとの違いは大きくありません。
※サーフェイス(地面)の状態やシューズは多少影響しますが。

球技スポーツ選手であれば、身長+80㎝程度はまず達成したいところ。女子選手の場合は60㎝程度でしょうか。

なぜ数値自体ではなく身長+の値かというと、立幅跳びの場合は脚が長いほうが離地までの間の移動距離や着地での脚のリーチにより、高身長の選手のほうが有利になるからです。

大学・プロレベルになると身長+110~120㎝という記録を出す選手も、、!

ジャンプ力自体を向上させるには、垂直跳びや立幅跳に加え、台から飛び降りてその反動でジャンプするDrop Jumpnなど、様々な種類のものを織り交ぜながら、50回~を週に2~3回を目安(Villarreal et al., 2009)にトレーニングを行いましょう!

まとめ

ピラミッド型のモデルから、自分に足りない要素はおおかた把握できたでしょうか?

※女子選手の場合は
立幅跳び60㎝が最低限達成したい基準
スクワットは体重の1.3~15倍程度が基準

おそらく、多くのアスリートは下段の「筋肉量」や「筋力」のベースがそもそも足りなかったのではないでしょうか?

一方で、中には筋力の基準はある程度満たしてるなという選手もいたかもしれません。

国内トップレベルや、海外のアスリートのトレーニング方法も簡単に知れる時代になりました。
その中にはある意味で奇抜な、見たこともないようなトレーニングもあるかもしれません。

ただ、彼らの多くは今までの「基礎的なトレーニング」を積んできて、その場所にいることを忘れてはいけません。

是非今回紹介した図を、「自分の現在地を知るためのツール」として活用してください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

 

 


最近は定期的に、トレーニング指導者仲間とスクワットやクリーンの測定を実施しています。

そのような短・中期的な目標があると、やっぱりトレーニングの質は変わりますよね。。笑

こういった心理の体験はやっぱりトレーニング指導にも活きるな~と感じます。

みなさんも、周りのトレーナー仲間を誘ってそのような機会を作ってみては?


参考文献

1. Fatouros, IG, Kambas, A, Katrabasas, I, Leontsini, D, Chatzinikolaou, A, Jamurtas, AZ, et al. Resistance training and detraining effects on flexibility performance in the elderly are intensity-dependent. J Strength Cond Res 20: 634–42, 2006.Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16937978
2. González-Badillo, JJ, Gorostiaga, EM, Arellano, R, and Izquierdo, M. Moderate resistance training volume produces more favorable strength gains than high or low volumes during a short-term training cycle. J Strength Cond Res 19: 689–97, 2005.Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16095427
3. Hartmann, H, Wirth, K, Klusemann, M, Dalic, J, Matuschek, C, and Schmidtbleicher, D. Influence of squatting depth on jumping performance. J strength Cond Res 26: 3243–3261, 2012.
4. Jiménez-Reyes, P, Samozino, P, Brughelli, M, and Morin, JB. Effectiveness of an individualized training based on force-velocity profiling during jumping. Front Physiol 7: 1–13, 2017.
5. McMahon, GE, Morse, CI, Burden, A, Winwood, K, and Onambélé, GL. Impact of range of motion during ecologically valid resistance training protocols on muscle size, subcutaneous fat, and strength. J strength Cond Res 28: 245–55, 2014.Available from: http://journals.lww.com/nsca-jscr/Fulltext/2014/01000/Impact_of_Range_of_Motion_During_Ecologically.32.aspx%5Cnhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23629583
6. Peterson, MD, Rhea, MR, and Alvar, BA. MAXIMIZING STRENGTH DEVELOPMENT IN ATHLETES: AMETA-ANALYSIS TO DETERMINE THE DOSE- RESPONSE RELATIONSHIP. J Strenght Cond Res 18: 377–382, 2004.
7. Rabatzi, FOA and Ellis, ELK. Vertical Jump Biomechanics After Plyometric, Weight Lifting, Andcombined (Weight Lifting + Plyometric)Training. J Strength Cond Res 24: 2440–2448, 2010.Available from: http://ovidsp.ovid.com/ovidweb.cgi?T=JS&CSC=Y&NEWS=N&PAGE=fulltext&D=&AN=00124278-201009000-00024&PDF=y
8. Rhea, MR, Alvar, BA, Burkett, LN, and Ball, SD. A meta-analysis to determine the dose response for strength development. Med Sci Sports Exerc 35: 456–464, 2003.
9. Schoenfeld, BJ, Ogborn, D, and Krieger, JW. Dose-response relationship between weekly resistance training volume and increases in muscle mass: A systematic review and meta-analysis. J Sports Sci 35: 1073–1082, 2017.
10. Tricoli, V, Lamas, L, Carnevale, R, and Ugrinowitsch, C. Short-term effects on lower-body functional power development: Weightlifting vs. vertical jump training programs. J Strength Cond Res 19: 433–437, 2005.
11. Wernbom, M, Augustsson, J, and Thomeé, R. The influence of frequency, intensity, volume and mode of strength training on whole muscle cross-sectional area in humans. Sport Med 37: 225–264, 2007.
12. Yamashita, D, Asakura, M, Ito, Y, Yamada, S, and Yamada, Y. Physical characteristics and performance of Japanese top-level American football players. J Strength Cond Res 31: 2455–2461, 2017.Available from: http://content.wkhealth.com/linkback/openurl?sid=WKPTLP:landingpage&an=00124278-900000000-96192
13. 津越智雄浅井武. J リーグサッカークラブにおける上位カテゴリーへの 選手選抜に関する横断的研究 ― 体力 ・ 運動能力を対象として ―. 体育学研究 55: 565–576, 2010.

 

 

【第86回】トレーナーは競技動作を指導するべきではない?

その競技の技術を指導する職業を何というでしょうか。

「コーチ」ですよね。

当たり前のことですが、「トレーナー」と言われる人は、技術的なものにあまり口を出すべきではありません(もっとこう投げたほうが良いよ!もっとこう蹴るべき!とか)。

もしもトレーナーがそこまでできるのであれば、この世にからコーチ(スキルコーチ)という職業がなくなっても困らないということですよね。

一方で、その競技動作が傷害の発生のリスクになるようであれば、コーチに助言をすることはありかもしれません。

またコーチや選手が目指している動作があり、その動作を行うために必要な体力要素の鍛え方を教える、というのはトレーナーの仕事でしょう。

ここでそもそも、トレーナーとはどんな仕事なのか?を考えてみましょう。

このように、怪我をした選手と関わったり、治療やケアがメインのトレーナーもいれば、トレーニング指導が主な仕事のトレーナーもいます。(ちなみに僕の主な仕事はATとストレングス&コンディショニングコーチです)

一方で予算の限られたチームの場合は、PTや治療家の方がメディカル面のサポートをしながら、トレーニング指導もしているというチームも少なからずあるようです。(そのトレーナーの方がトレーニングについても深く学んでおり、「PT兼トレーニング指導者」「鍼灸師兼トレーニング指導者」として活動しているのであればまったく問題ありません)

ただ、先ほどとは矛盾するのですが、実はトレーナーが競技動作をプログラムに組み込む場合もいくつかあるのです。

トレーナーが競技動作をプログラムに組み込むパターン①リハビリ中

まずこちらの図をご覧ください。

これは選手が怪我をしてしまい、競技復帰、さらなる競技力向上に向かっていく図です。

メディカルリハビリテーションとは、まずは日常生活を普段通り送れるようになるまで回復させるリハビリのことです。
手術後等、日常生活を送るのも難しい場合は病院でこのメディカルリハビリテーションを行います。
一方で、日常生活を送れる程度のレベルでは競技復帰は難しいので、そこから競技復帰をできる状態まで戻すリハビリのことをアスレティックリハビリテーション(アスリハ)といいます。

一方で軽めの足関節捻挫などで、受傷直後も日常生活を送ること自体には制限はなく入院などを行う必要もない場合は、メディカルリハビリテーションを行うことなくアスリハから開始します。

この2つのリハビリを、まとめてリコンディショニングと呼ぶこともあります。

一方で競技復帰を果たした選手、もしくはそもそも怪我をしていない選手がさらなるコンディションの向上や、傷害発生の予防などをすることをコンディショニングと呼びます。

この「リコンディショニング」はメディカルスタッフを中心に行われ、「コンディショニング」について責任を負っているのは多くの場合S&Cなどのトレーニング指導者です。

さて、先ほど「トレーナーがプログラムに競技動作を組み込む場合もある」と言いましたが、それがどこかというと、この「リコンディショニング」中です

選手の状態を考えれば分かることですが、「リコンディショニング中」は選手はその競技への参加を100%でできていません。
そのためメディカルスタッフは、選手が競技に段階的に復帰できるよう、リコンディショニング中に競技動作に近い負荷を漸増的にかけていき(ときにはコーチと連携し)、スムーズに競技復帰をさせる必要があります。

一方で怪我をしていない選手は競技へ100%参加しています。
そのため、コンディショニングのプログラムの中に、競技に近い負荷をかける必要はあまりないでしょう。(それだったらシンプルに練習時間を増やせばいいですよね?)

練習に100%参加している場合は、「競技に必要なんだけど競技練習だけでは得られない刺激」を加える。
そのため、コンディショニングのプログラムは競技特異性を分析する必要はあれど、競技と似た刺激を加える必要はありません。

トレーナーが競技動作をプログラムに組み込むパターン②アジリティ指導

コーチの役割は「技術指導」

トレーナー、特にトレーニング指導者の役割は「体力要素の向上」

です。

この「体力要素」の中にはジャンプ、スプリント能力なども含まれますので、陸上競技の指導などでない限りそれらの動作の指導もトレーニング指導者の役割です。

さて、ここで「体力要素」の中で比較的「技術」に近いものがあります。

それはアジリティです。

アジリティというのは実は非常に幅が広く、『サイドステップでの切り返し』『スプリントでのターン動作』『バック走からの方向転換』などでは、まったくと言っていいほど異なるものだと考えられます。
実際に、複数のアジリティテストを実施したところテスト間に有意な相関はみられなかったといった報告もあります[1]。

アジリティが「技術に近い」と述べた意図としては、スプリントやジャンプ力と違って競技に特異的なアジリティを鍛える必要があるから(=その競技特有の動作だから)です。

もっと身近な言葉で説明すると、バスケットボールやハンドボールであればディフェンスフットワークの練習をしますよね?
あれらの動きこそ「競技に特異的なアジリティ」の1つだと僕は考えています。

そのため、場合によってはトレーニング指導者がフットワークの指導をする場合もありえるのです。(もちろん、コーチとの連携ありきですが)

まとめ

基本的に競技動作の指導をするのはコーチの仕事ですが、トレーナーが自身のプログラムの中に競技動作を組み込む場合もいくつかはあります。

①リコンディショニング中

②アジリティ動作指導の一環として

もちろん、リコンディショニングの軸となるのは損傷した部位の治癒促進や弱った機能の回復、傷害の原因となった動作の改善でしょう。
しかし競技復帰へのつなぎ目として、競技動作に近いものをプログラムに組み込む必要もあります。

コンディショニング(トレーニング)の軸となるのは、基礎的な筋力、パワー、心肺機能などの向上、そして基礎的なスプリント能力やジャンプ力の向上。
一方でアジリティに関しては競技動作を考慮した動きをチョイスする必要があるので、コーチと連携しながらその部分も鍛える必要があります。

どちらも共通して言えるのは、専門分野のアプローチを軸として行いながらも、つなぎ目として競技動作を理解する必要があるということ。

この軸を無視して競技動作、競技動作、、と、コーチ寄りのアプローチばかりするようでは、専門家である意味がないですもんね。

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


今のチームではヘッドATと連携しながらですが、選手に合わせたトレーニングのプログラムの中に痛みを改善するためのメニュー(アスリハ的要素)を組み込むこともあります。

それをこなして痛みがなくなった選手に「おかげで痛みがなくなりました!」と言われることもあり、そういった瞬間はすんごくうれしいです。
学生トレーナー時代とかは、それプラス心の中で(そやろそやろ~いいメニューやったろ)とか思ってたのですが、経験を積んでいくと、そもそも指示したメニューをこなさずに痛みが改善しない選手もちょこちょこ。。

なので自分でがんばってトレーニングをして結果を出した選手に対しては、最近はほんまに心から『がんばった自分のおかげやぞ~』と思うようになってきました。(若い頃も口では言ってた)

あくまでも僕らは「裏方」ですもんね。


参考資料

  1. Sporis, G, Jukic, I, Milanovic, L, and Vucetic, V. Reliability and Factorial Validity of Agility Tests for Soccer Players. J Strength Cond Res 24: 679–686, 2010.Available from: http://content.wkhealth.com/linkback/openurl?sid=WKPTLP:landingpage&an=00124278-201003000-00012

【第85回】レッグプレスとかいう最高のモビリティエクササイズ

「股関節の可動性(柔軟性)がスポーツには大事だ!」

とよく言われます。

確かに股関節の可動性は高いパフォーマンス発揮にも、膝の傷害や腰痛などの予防にも必要です。

「だからウエイトトレーニングなんかよりモビリティエクササイズや自体重トレーニングに重点を置こう!」

と続くと、うーん、、という思いになります。。

ウエイトトレーニングは万能だ!なんでも解決できる!なんてことは思っていないですが、
きちんとしたウエイトトレーニングを行うことで、確実に柔軟性は向上します

これは多くの研究でも示されていることですし[1,2,3]、研究なんて信用できないな~という方は身近なウエイトリフターに開脚や前屈でも見せてもらってください。

また、これらの研究でさらに詳しく示されているのは
・可動域全体を使っての大きな動き[3]
・低強度(~50%RM)よりも高強度(80%1RM~)[1]
のトレーニングのほうがより大きな柔軟性向上を示したということ。

このデータから、どのような種目が柔軟性の向上により有効か?が考察できます。

もちろんスタティックストレッチを活用する場合もありますが、最終的には獲得した可動域の中での筋力も身に着けたいですよね。

特に「股関節の屈曲可動域」に着目した場合、僕がよく用いるのはRDLと最近有効性を感じ始めたレッグプレスです。

股関節屈曲可動域の制限因子は?

股関節屈曲可動域の制限因子として特に重要なのは、股関節伸展筋群(大殿筋、ハムストリングス、内転筋群の一部など)の柔軟性です。

他にも伸展筋群以外の股関節周囲筋の機能不全・タイトネスや、そことも関連した股関節のインピンジ(FAI)なども制限因子として考えられますが、今回は股関節の伸展筋群のタイトネスに着目していきます。

ハムの柔軟性の改善ーRDL

ハムストリングの柔軟性の改善に有効な種目として有名なRDL(ルーマニアンデッドリフト)。

RDLではバーを保持した立位姿勢から、以下の写真のように股関節を軸に身体を前傾させていきます。

ポイントは写真にも記載してある通り
・肩甲骨を寄せること
・バーを身体に沿わせること
・腰の自然な反りをキープすること
・膝は軽度屈曲位
などです。

※さらに細かい実施方法についてはこちらで河森さんが説明してくれています。

正しいフォームを維持することが最優先で、そのフォームを保ったまま体幹部が水平になるまで倒すことを目標にしましょう。

柔軟性が足りていない状態or無理な重量で行うと、腰が丸まってしまい、ターゲットであるハムストリングに負荷がかかりません。

股関節伸展筋群の柔軟性の改善ーレッグプレス

RDLは非常に有用なエクササイズですが、膝を伸展位に近い状態で行うので他の股関節伸展筋群に伸張性のストレスが加わる前にハムストリングがブレーキになってしまいます。

そのため、股関節の十分な可動性を出すにはスクワットやリバースランジ、ブルガリアンスクワットなど、膝を屈曲位で行うエクササイズも併用する必要があるのですが、最近はレッグプレスの有用性に気づき始めました。

まず、スクワットなどバーベルを担いだ運動を高強度で行う場合、他の関節の制限に大きな影響を受けます。

足関節の背屈可動域が足りなければ深くまでしゃがむことは難しいですし、体幹部の剛性不足があれば背中が折れてしまい、その影響で骨盤が後傾し、股関節への負荷が逃げてしまうといったこともあり得ます。

もちろん最終的には個別のエクササイズで足関節の可動性を改善し、体幹部の剛性を獲得して(おすすめはオーバーヘッドSQやフロントSQ)、きちんとしたスクワットを高重量でできるようになる必要はあります。

一方でそれらと並行してレッグプレスを行うことで、股関節の筋力、柔軟性を効率的に獲得することができるのです。

レッグプレスの利点

なぜレッグプレスが股関節の柔軟性向上に有効かというと、上記で紹介した柔軟性向上に貢献する要素
大きな範囲での関節運動、かつ高強度の負荷をかけやすいからです。

レッグプレスでは足部を置く位置を工夫すれば、足関節の背屈可動域が不足していても十分に股関節を屈曲させることができます。

また、レッグプレスでは重りを担いでバランスをとる必要がないので、バックスクワットよりも俄然大きな負荷がかけられます。

ただ、他のトレーニングと同じで、やり方を間違えると目的とした負荷がかけられないので、いくつか注意点を覚えておいてください。

・股関節をしっかり屈曲させて伸展筋群に負荷をかけたい場合、足部を置く位置は板の上のほうにします。

・つま先は少し外向き(~20度くらい)で、降ろすときは軽く膝を開いていきます。

・あくまでも股関節を屈曲させることが目的なので、腰椎、骨盤はニュートラルを保ち、股関節から屈曲させていきましょう。

背部のシートのどこに圧力を感じているかでセルフチェックができます。
骨盤に圧力を感じられたらOK、逆に腰椎あたりの圧力が強いと骨盤が後傾しているということになります。

まとめ

なじみはあるものの、健常なアスリートには意外と行われることの少ない(?)レッグプレスについて紹介しました。

最終的には高重量、正しいフォームでスクワットを行う必要がありますが、筋肉の柔軟性不足からくる股関節の可動性不足のアスリートに対してはRDLと同様、非常に有効なエクササイズです。

是非選択肢の1つとして考えてみてください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


ストレングスコーチを務めているアメフトチームも秋のシーズンが始まりました。

開幕から2連勝。このまま突っ切っていってほしいです!


参考文献

1. Fatouros, IG, Kambas, A, Katrabasas, I, Leontsini, D, Chatzinikolaou, A, Jamurtas, AZ, et al. Resistance training and detraining effects on flexibility performance in the elderly are intensity-dependent. J Strength Cond Res 20: 634–42, 2006.Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16937978
2. McMahon, GE, Morse, CI, Burden, A, Winwood, K, and Onambélé, GL. Impact of range of motion during ecologically valid resistance training protocols on muscle size, subcutaneous fat, and strength. J strength Cond Res 28: 245–55, 2014.Available from: http://journals.lww.com/nsca-jscr/Fulltext/2014/01000/Impact_of_Range_of_Motion_During_Ecologically.32.aspx%5Cnhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23629583
3. Thrash, K and Kelly, B. Flexibility and Strength Training. J Appl Sport Sci Res 1: 74–75, 1987.