【第62回】アジリティの本質を理解する②競技に合ったアジリティをチョイスする

大学入試に向けて国語と社会の勉強をしてきて成績が上がったぞ!

と意気込んでいたものの、実は受けたい大学の受験科目が数学と英語で、今までの勉強の成果もむなしく、大学受験に落ちてしまいました。。

なんて人がいたら、とんでもないおっちょこちょいですよね。。笑

しかし実はこれに似たおっちょこちょい、アジリティのトレーニングにおいて非常によくみられるんです。

前回の内容

その前に前回の復習です。

アジリティという能力は「方向転換スピード」と「知覚・意思決定要素」によって構成されるオープンスキルである。

現場では方向転換スピードのことをアジリティと読んだりもしてややこしいので、この記事では
知覚・意思決定要素を伴うもの⇒「反応アジリティ」と定義
知覚・意思決定要素を伴わないもの⇒「方向転換スピード」
とする

指さし反応などの単純な反応アジリティよりも、競技に特異的な反応アジリティ(相手選手への反応など)のほうが競技パフォーマンスと関連する。

ベースとしてまずは筋力などの基礎的な能力や、方向転換スピードを高めましょう。

といった内容でした。

方向転換スピードの多様性

さて、ここからが今回の内容です。

冒頭で述べたおっちょこちょいにつていてですが、なぜそのようなことが起こるかというと

方向転換スピードを評価する方法の多様性

に原因があります。

例えば直線スピードを評価するときには
20m走、50m走、100m走
等が用いられますよね?

どのテストも「真っすぐをどれだけ速く走れるか」を評価するテストです。
距離による多少の得意不得意はあれど、20m走が速い選手は50mも速いだろうし、50m走が速い選手は100mも速いでしょう。

しかしアジリティに関しては以下のように、多様なテストが存在します。

反復横跳びと10m×5なんて、同じアジリティのテストといえど、全く動きは違いますよね。

実際にSporisら(2010) は異なるアジリティ(方向転換スピード)のテストをいくつかサッカー選手に行わせたところ、テスト同士に強い相関は認められなかったことを報告しています。

競技に必要なアジリティ

上記の図のテストで考えると、おそらく卓球選手なんかは反復横跳びのようなアジリティが必要でしょう。

バスケットボール選手はディフェンスにおいてサイドステップを用いるのでTテストのような動きが必要でしょうが、サッカー選手はどちらかというとスプリントからの方向転換のほうが重要そうですよね。

実際にサッカー選手においては競技レベル高い選手ほど10m×5のスピードが速いことが報告されています。(津越、浅井, 2010)

もしもこのような「アジリティのテストの多様性」「競技に特異的なアジリティ」のことを考慮しなかったら、最初に挙げた「受験科目でない教科をコツコツと勉強してしまう」ような現象が起きてしまいます。

このような問題を起こさないために、個人的には
「アジリティ」という言葉を使わないことをお勧めします。

(アジリティをテーマに修士の学位を取得している私が言うのもなんですけど。。笑)

バスケ⇒アジリティが必要

アジリティ⇒ラダーで高まるらしいぞ

バスケ選手はラダーをやればいいんだ!

なんて短絡的な考えは「アジリティ」なんて言葉があるから出てきてしまうのです。

卓球に必要なのはアジリティではなく「サイドステップで素早く左右に切り返す能力」

サッカーに必要なのはアジリティではなく「スプリントを用いての方向転換」

バスケに必要なのはアジリティではなく「サイドステップやスプリント、バックペダルなど様々な移動方法を用いての方向転換」

このように考えたら受験科目の間違い、スポーツの現場で言えば「競技に必要ない能力を向上させるためにせっせと無駄な時間を用いてしまうという行為」は減ってくると思います。

今一度「アジリティ」という言葉に振り回されずに、競技に必要な能力が何かを考えてみてください!

アジリティシリーズ全④回
第③回はこちら


 

 

参考文献

[1] J. M. Sheppard and W. B. Young, “Agility Literature Review: Classifications, Training and Testing,” Journal of Sports Sciences, 24.9 (2006), 919–32 <https://doi.org/10.1080/02640410500457109>.

[2] Matt Brughelli and others, “Understanding Change of Direction Ability in Sport,” Sports Medicine, 38.12 (2008), 1045–63 <https://doi.org/10.2165/00007256-200838120-00007>.

[3] Goran Sporis and others, “Reliability and Factorial Validity of Agility Tests for Soccer Players,” Journal of Strength and Conditioning Research, 24.3 (2010), 679–86 <https://doi.org/10.1519/JSC.0b013e3181c4d324>.

[4] 津越智雄浅井武, “J リーグサッカークラブにおける上位カテゴリーへの 選手選抜に関する横断的研究 ― 体力 ・ 運動能力を対象として ―,” 体育学研究, 55 (2010), 565–76.

 

 

【第61回】アジリティの本質を理解する①段階的な習得

今回から数回に分けて「アジリティ」について書いていこうと思います。

書こう書こうと思いながらすっかり後回しになっていました。

というのも、普段このブログではトレーニング科学全般やスポーツ傷害のことなどについて幅広く書かせていただいているのですが、私の大学院時代の研究分野は「アジリティ」だったので。

続きを読む 【第61回】アジリティの本質を理解する①段階的な習得

【第60回】筋肥大には短いレスト??

筋肥大をさせるためには「10RM10回×3~5セット、レスト1分~1分半!」

学生時代にトレーニングの参考書を読んだとき、だいたいこんな感じのことが書いてありました。

筋肥大をするために必要な要素としては、
・機械的張力(筋の受動的伸長・力発揮)
・筋ダメージ
・代謝ストレス(乳酸、H+などの蓄積)
が重要だと言われています。(Schoenfeld, 2010)

高回数・短いレストで行うことで、筋に代謝的なストレスをかける(筋肉をパンパンにする)ことができ、効率的に筋肥大ができる。という理論から「レスト1分~1分半」というものがうたわれていたと思います。

当時はそれを盲信して行っていましたが、実は「レストは短くなくても筋肥大するんじゃないの?」という研究も発表されているんです。

《SHORT VS. LONG REST PERIOD BETWEEN THE SETS IN HYPERTROPHIC RESISTANCE TRAINING: INFLUENCE ON MUSCLE STRENGTH, SIZE, AND HORMONAL ADAPTATIONS IN TRAINED MEN》
《筋肥大を目的としたウエイトトレーニング中の長いレスト、短いレストの比較-筋力、筋サイズ、ホルモン適応への影響》
(JUHA P. AHTIAINEN et al, 2002)


【方法】

被験者:男性13名
クロスオーバーデザインにて、長いレスト(LR)、短いレスト(SR)をそれぞれ3か月ずつ行った。

LR:レッグプレス10回5セット、スクワット10回3セット、レスト5分
SR:レッグプレス10回5セット、スクワット10回4セット、レスト2分
↑LRのほうが重い重さを扱えるので、ボリューム(回数×重量)をそろえるためにSRのスクワットを1セット多め

【結果】
筋断面積(CSA)変化
LR:1.8±3.6%↑ (pre-post, p>0.05)
SR:1.8±4.7%↑ (pre-post, p>0.05)
群間有意差なし (p>0.05)

両膝伸展筋力
LR:5.8±8.0%↑  (pre-post, p<0.05)
SR:2.0±10.9%↑ (pre-post, p>0.05)
群間有意差なし (p>0.05)


上記のように、短いレスト(2分)が長いレスト(5分)よりもより筋肥大を起こすということは認められませんでした。

なんならLRでは十分な回復が見込まれ、トレーニングの強度が上がっているせいか、筋力の向上はLRでのみ認められています。
(ただ筋肥大にのみ着目すると、時間的効率はSRのほうが良いかもしれません)

この研究自体にいくつか問題点は見られるのですが(20人中7人が怪我でドロップアウト、CSAは向上しているが有意ではない、ホルモン反応の違いが一部のタイミングでしか認められていないなど)、

筋肥大=短いレスト

といった考えに疑問を投げかける研究にはなっていると思います。

ひと昔前は当たり前のように運動前に行われていた静的ストレッチも、今や逆効果だということは世に広まってきていますよね。
それと同じく今までは常識と考えられてきたこと(なんなら、教科書に載っていたこと)に実は十分な科学的な根拠がなく、意味もなくただ常識に従っている。なんてことはよくあります。

そんな常識に振り回されないためにも、常に最新の正しい情報を入手していきたいですよね。


【お知らせ】
10/21(土)に、兵庫県尼崎市でNSCA地域ディレクターセミナーの講師を担当します。

当サイトでは紹介していない科学的データや、その現場での活用方法についてお話させていただきます。

お時間のある人は是非!

詳細

 

参考文献

Ahtiainen, J. P., Pakarinen, A., Alen, M., Kraemer, W. J., & Häkkinen, K. (2005). Short vs. Long Rest Period Between the Sets in Hypertrophic Resistance Training: Influence on Muscle Strength, Size, and Hormonal Adaptations in Trained Men. The Journal of Strength and Conditioning Research, 19(3), 572. https://doi.org/10.1519/15604.1

Schoenfeld, B. J. (2010). The mechanisms of muscle hypertrophy and their application to resistance training. Journal of Strength & Conditioning Research, 24(10), 2857–2872. https://doi.org/10.1519/JSC.0b013e3181e840f3