【第52回】デタラメに騙されない

間違った情報に騙されるのは、騙されるほうが悪い。

のかもしれません。。

情報リテラシーという言葉を聞いたことがありますか?

「情報を自己の目的に適合するように使用できる能力」だそうです。

先日、運営者の個人ツイッターアカウントで運動選手を対象にアンケートを取らせていただいたところ、以下のような結果になりました。

運動選手の半数近くが「主な情報源はインターネット、SNSである」という結果でした。(アンケートをとったのがツイッターだからというのもあるかもしれませんが)

みなさん、おそらくは「ネット上の情報は間違った情報である可能性が高い」というのは「知って」いると思います。(高校の情報の授業でも習いますもんね)

ただ、本当にそのことを「理解」している人は意外と少ないのではないでしょうか。
(たまに言ってしまっていませんか?「ネットに書いてあったもん」「〜〜さんのブログに書いてたから」って)

本日はネット、特にトレーニング系のブログ・記事を読むときに必ず知っておいたほうが良いことを紹介します。

その文章が伝えているのは【考え方】なのか【事実】なのか。

その文章を構成しているのが【考え方】なのか【事実】なのかということを考えて読んでみてください。

例えば、とあるアスリートが

「今年は○○を使った練習をしています。始めて2か月ですがいい感覚が掴めてきています!~~身体作りのために十分な睡眠、最低でも8時間以上は心がけています。~~~今シーズンは△△を考慮して練習、トレーニングを組んでいく予定です。」

みたいな記事を書いていた場合、文章の構成は以下のようになります。

○〇を使った練習でいい感覚がつかめてきている→【事実】

身体作りのためには十分な睡眠が必要→【事実】

練習、トレーニングの組み方→【考え方】

この考え方といった部分に関してはいろいろな意見があって良いと思います。色々な人の考え方を参考にして、自分なりの考えを確立していけば。

一方、この【事実】という部分の取り扱いには注意が必要です。

様々な事実

先述した
「○〇を使った練習でいい感覚がつかめてきている」といった事実は、《経験》と言われるものです。

一方、「身体作りのためには十分な睡眠が必要」といったものは、《常識》であり、《科学的データ》によって実証されているものでもあります(A.V.Nedeltcheva et al, 2010)。

しかし、その《常識》が新たな《科学的なデータ》によって否定されることもあります。
例えば、ひと昔前は一般的には「乳酸は疲労物質である」といったことは《常識》でしたが、近年では《科学的なデータ》によって否定されています。

また、インターネット上には事実と見せかけて、まったくの《デタラメ》が出回っていたりもします(例えば、筋トレをすると身体が固くなるとか)。

この事実のように書かれているものが、《常識》なのか《デタラメ》なのか、《経験》なのか《科学的なデータ》なのかを見分けられることは非常に重要です。

《デタラメ》のことを、さも《科学的なデータ》に基づいた事実のように書いてある記事もありますが、その判別はきちんと情報の出所が示してあるかによって、おおまかに見分けることができます。

《デタラメ》の場合は情報の出所が示してないことが多いです。(一方、情報の出所が示してあっても、その解釈がめちゃくちゃであったり、その情報の基がデタラメだったりする場合もありますが。。)

まずはこの《デタラメ》に騙されないこと。その次は《経験》と《科学的なデータ》をうまく解釈することが重要です。

当サイトのトップページで示している通り、トレーニングの実践・指導において、《経験》と《科学的なデータ》はどちらも重要なものです。

しかし、この2つは本質的には同じものであると考えられます。

科学的なデータというのは複数の被験者に対する実験や観察研究によって得られたデータのことで、多くの場合そられを統計学的に分析することで、
「よし、この実験(トレーニング)は統計学的に見ても多くの人にとって有効だぞ」と太鼓判を押すことが多いです。

一方経験というのは、統計解析をしていない、被験者数が1の実験のようなものです。

要するに、「何かを行った結果、得られたもの」という点では、「経験」も「科学的なデータ」も同じものだということです。

経験の特徴

経験というのは、自分自身がアウトプットを行った結果がインプットとして帰ってきます。そのため、記事の執筆者自身がアウトプットをしたものになりますので、発信するときにはある種の説得力を伴います。

一方、被験者数が1なので、その方法がその人にたまたま合っていただけで、他の人がマネをしても同様の結果が得られないことは大いに考えられますし、同時期に行っていた別の行動(例えば、そのタイミングでたまたま食事の内容が大きく変わった)が結果に好影響を与えた可能性も考えられます。

科学的なデータの特徴

科学的なデータというのは、複数の被験者を用いて、なおかつ結果を統計的に解析する(その結果が偶然ではないということを裏付ける)ので、その被験者と似たような特性をもつ人に対しては高い確率で効果が期待できます

しかしながらいくら科学的なデータの検証方法(トレーニングの介入方法)が特殊なもので、一般的な応用が難しい場合もあります。

また、科学的なデータとしてまだ実証されていないこと(実際に科学的に実験を行うと結果が得られること)を、先にその道のエキスパート達が経験的に理解しているという事例もありえます。

まとめ

 

このサイトの記事は《デタラメ》は伝えていないつもりです。
しかし《科学的なデータ》の紹介も、その一部しか紹介できていなかったり、執筆者の《考え方》というフィルターを通しての紹介になってしまっているかもしれません。

そのようなフィルターをできるだけ減らすために、当サイトでは論文の要約の紹介(こちら)や、ご自身での研究の探し方(こちら)も紹介しています。

トレーニング系のブログ・記事を読む際には、まずは《デタラメ》に騙されないようにしましょう。

そしてその中で紹介してあることが《考え方》なのか、《経験》なのか《科学的なデータ》なのかを判別し、頭の中にフォルダ分けしながら受け入れていきましょう。

間違った情報に騙されるのは、騙されるほうが悪い。

のかもしれませんしね。

参考文献
Insufficient sleep undermines dietary efforts to reduce adiposity
Arlet V. Nedeltcheva, MD1, Jennifer M. Kilkus, MS2, Jacqueline Imperial, RN2, Dale A. Schoeller, PhD3, and Plamen D. Penev, MD, PhD
Ann Intern Med . 2010 October 5; 153(7): 435–441

【第51回】競技に特化したトレーニングとは

野球に必要な筋肉を教えてください!
バスケに特化したトレーニングを教えてください!
サッカーに必要な動きを強化してください!

選手・コーチから、トレーニング指導者に対してこのような要望が出ることは多々あると思います。

もちろん選手やコーチからのニーズを満たすことがトレーニング指導者の役割でもあるので、これらの要望に対して否定的な返答はわざわざしませんが、あえて言わせてもらえば
「競技によって必要なトレーニングはそこまで変わらない」
と僕は考えています。

競技によって変わる部分と言えば、徐脂肪体重と最大酸素摂取量の必要性のバランス(それについてはこちら)とアジリティの特性くらいではないでしょうか。

そのため、極端な特性をもった競技でない限り、トレーニングの軸となる7割程度の部分は競技によって変わることはありません。(競技よりもむしろ、その選手のトレーニング経験・筋力レベルのほうがトレーニングプログラムに与える影響は大きいでしょう)

これはトレーニングの以下2つの目的を考えれば分かることです。
①傷害発生の予防
②体力(身体能力)の向上

①傷害発生の予防の観点から

本サイトでは何度も紹介しているデータですが、適切なウエイトトレーニングを実施することで傷害の発生率は約1/3にまで減少します(Lauersen et al, 2014)。

この研究では特定の傷害に限定しておらず、すべての傷害発生率について検討しており、ウエイトトレーニングが様々な傷害への予防に貢献していることが分かります。

しかし、ウエイトトレーニングですべての怪我が防げるというわけではありません。実際にウエイトトレーニングよりも他のエクササイズのほうが予防の効果が高い傷害もありますし(捻挫の場合はProprioseption>Strength Traingなど)(Mohammadi, 2007)、競技に特異的な怪我(サッカーのグロインペインや、野球の肩・肘の障害など)は、よりそこに特化したアプローチが必要かもしれません。

しかし、繰り返しになりますが、ウエイトトレーニングは傷害発生率を1/3におさえつつ、他のメリット(体力の向上など)も得られます。
あくまでも傷害予防の幹は
「正しい動きで身体を強くしていくこと」
その枝葉として、各傷害に特化した予防エクササイズがあるのではないでしょうか。

②体力の向上の観点から

 

トレーニングの成果を評価するため、はたまた優れた人材を発掘するために体力テストを行うことがあると思います。

各スポーツの「動き」はもちろん異なると思いますが、体力測定についてはおおよその競技で
・スピード(or水平パワー)
・ジャンプ力(垂直パワー)
・筋力
・体組成(筋肉量、脂肪量)※これは体力とは少し異なりますが
・持久力
・アジリティ

あたりの項目を測定するのではないでしょうか。

トレーニングの目的は、これら体力要素の向上です。

もちろん、スピードでいえば、最終的には競技のスピード(ドリブルをしながら、相手に反応しながらetc..)を高めなければいけないとは思いますが、
それはそもそものスピード(10m走や30m走)を高めた上で、次に考えることでしょう。

そのスピード(もしくはアジリティ)が高まっていないのに、トレーニングのおかげで身体の「きれ」が増したというのは、勘違いである可能性も高いのではないでしょうか。。

先ほども述べた通り、各競技で競技中の動きは異なります。

しかし、多くの競技は
・速くなること(10m走や30m走のタイムの向上)
・高く跳べるようになること、下肢のパワーを向上させること(垂直跳びの数値の向上)
・強くなること(スクワットやベンチプレスの重量の向上)
・大きくなること(徐脂肪体重の増加)
・持久力をつけること(20mシャトルランなどの数値の向上)
・素早い切り返しができるようになること(アジリティの向上)

がトレーニングの目的となります。

ただ、持久力や筋肉量の必要性は競技によっては大きくことなります。
(例えば、アメフトや野球では持久力はそこまで必要ではありませんが、マラソンでは持久力がそのまま競技成績に直結します。またマラソン選手にとっては必要以上の筋肉量の増加は最大酸素摂取量/kgの低下につながるでしょう。)(関連記事

アジリティは、競技特性によって適切な種目は異なってきます。
(例えば、サッカーで行われている10m×5のようなテストは、卓球選手にはあまり必要でないでしょう)

ただ、どの競技も共通して「速く」「高く」「強く」なることは必要ですよね。

まとめ

もちろんこの図の右側でも示した通り、競技によって行うべきトレーニングはある程度変わってきますし、その部分も重要であることは間違いありません。

しかし多くの競技の共通点、いわば「アスリートとしての基本」をおろそかにして、競技特性ばかりに目を向けてはいけないのではないでしょうか。

 

関連記事

【第25回】筋量増加のデメリット~体重と最大酸素摂取量のトレードオフの関係~

【第26回】競技特性から探るスポーツの適正体重

【第49回】怪我を防ぐための3つの視点

 

参考文献
The effectiveness of exercise interventionsto prevent sports injuries: a systematic reviewand meta-analysis of randomised controlled trials
Jeppe Bo Lauersen,1 Ditte Marie Bertelsen,2 Lars Bo Andersen
J Sports Med 2014;48:871–877

Comparison of 3 Preventive Methods to Reduce the Recurrence of Ankle Inversion Sprains in Male Soccer Players
Farshid Mohammadi,* MSc, PT
The American Journal of Sports Medicine, 2007