【第75回】左右差はパフォーマンスに影響を与えるのか?②

前回の内容の復習です。

両脚同時に力発揮をした時の左右非対称性(Bilateral Asymmetry)が大きい選手は、両脚でのジャンプ力が低い。

よってそのような両脚での力発揮が必要なスポーツにおいては、出力の左右差はなくしたほうが良いかもしれない。

といったものでした。

ソチオリンピックでも活躍が目立った渡部兄弟、高梨沙羅選手らのスキージャンプなんかがもろ当てはまりそうですよね。

さて、そこで疑問だったのが

①両脚で力発揮したときの左右非対称性(Bilateral Asymmetry)=片脚ずつ力発揮したときの左右非対称性(Unilateral Asymmetry)なのか?

②Asymmetryはスプリントなどの片脚で出力するパフォーマンスへも影響を及ぼすのか?

といったことでした。

本日はそのあたりも掘り下げていきましょう!

Bilateral Asymmetry=Unilateral Asymmetry?

直感的に考えれば、両脚での力発揮で荷重が偏る側が、筋力も強く片脚での力発揮でも大きな力を出すような気もするのですが。。

実際に測定してみたらどうなるのでしょう?

その疑問に答えるために、Benjanuvatraら(2013)は両脚でジャンプしたときの左右の力積の差と、片脚でジャンプしたときの力積を左右それぞれの足で測定しました。

そしてそれぞれの関係性を見たところ、両脚ジャンプで力積が大きかった脚と片脚ジャンプで力積が大きかった脚が一致していた被験者が男女58人中24人

そしてBilateral AsymmetryとUnilateral Asymmetryをそれぞれ%で算出して比較したところ、男性被験者においては有意な相関は認められませんでした

一方で女性被験者においては中程度の相関が認められていましたが(r=0.45,p<0.05)、

全体的にはBilateral Asymmetryは必ずしもUnilateral Asymmetryと一致しない。言い換えると、スクワットなどの両脚エクササイズで荷重が寄っている側の脚が、片脚ずつ出力したときに必ずしも強いとは言えなそうだ。といった結果でした。

個人的にはUnilateral Asymmetry≒左右の筋力・パワーの差であり、Bilateral Asymmetryを構成している一要素ではあると考えています。
それ以上に両脚出力時のコーディネーションであったり、股関節内転筋群/外転筋群のインバランス、タイトネスなどがBilateral Asymmetryに影響を与えているのでは。

Asymmetryはスプリントパフォーマンスへも影響を与えるのか?

(Bilateral)Asymmetryは両脚ジャンプパフォーマンスとの関連性が認められていますが、スプリントやアジリティのような片脚ずつ力発揮をする動作のパフォーマンスとの関係性はどうなのでしょう?

Lockieら(2014)は片脚のジャンプパフォーマンスを①垂直②前方③側方でそれぞれ測定し、その左右差を算出しました。

その結果、アジリティのテスト(505Agility、T-test)やスプリントスピード(5~20m)に対して、どの片脚ジャンプのAsymmetryも有意な相関を示しませんでした。

もちろん、片脚ジャンプのパフォーマンスそれ自体(どれだけ跳べるか)はスプリントスピードやアジリティと有意な相関を示したはいたのですが、左右均等な下肢のパワーを有する選手が優れたスプリントパフォーマンスを示すとは言えないようです。

ウサイン・ボルト選手もスプリント中のストライドに左右差があるようですし、両脚のパワーの均等性はそこまで大事ではないのかもしれません。

(ボルト選手の非対称性についてはこちらの記事で紹介されてます。英語が読めなくても動画の解説は直感的に理解できるかと!)

まとめ

Asymmetryのない選手のほうが両脚での力発揮をする課題においては高いパフォーマンスを示すようですが、片脚でのパフォーマンスにおいてはそうとも言えないようです。

また同じAsymmetryといってもBilateralなものかUnilateralなものか、はたまたIsometric Mid-Thigh Pullのような筋力発揮なのかジャンプのようなパワー発揮なのかによっても違ってきます。

また、今回紹介した研究はすべて健康な被験者が対象。手術後の顕著な筋力差によってAsymmetryが生じている場合はもちろん改善が必要だと考えます。

Asymmetryとパフォーマンスについての研究というのはここ数年で活発になってきた印象。

そのAsymmetryを改善した結果どうなるか?といった研究もこれから出てくると思うので、今後の研究に期待です!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


友人の結婚式で数日間地元に帰省しておりました。

久々に友人、恩師とも会えて楽しいひと時でした。

僕の地元はやはり田舎なので都会に比べたらトレーニングやスポーツ医学の知識が普及しておらず、それを教えてくれる人も少ないようです。

今後は地元での活動も増やしていきたいな~と勝手に思っております。


参考資料

  1. Benjanuvatra, N, Lay, BS, Alderson, JA, and Blanksby, BA. Comparison of ground reaction force asymmetry in one- and two-legged countermovement jumps. J Strength Cond Res 27: 2700–2707, 2013.
  2. Lockie, RG, Callaghan, SJ, Berry, SP, Cooke, ERA, Jordan, CA, Luczo, TM, et al. Relationship between unilateral jumping ability and asymmetry on multidirectional speed in team-sport athletes. J Strength Cond Res 28: 3557–3566, 2014.

【第74回】左右差はパフォーマンスに影響を与えるのか?①

下肢の筋力の左右差については様々な議論が行われています。

「そもそも競技の中での使われ方に左右差があるから自然なものだろ」

「いや、左右差があることで荷重が偏って怪我をするんじゃ」

「その左右差がパフォーマンスに最適なんじゃない?」

などなど。。

いろんな議論があると思いますが、とうりあえずは「測ってみたら実際どうなのか」ということをベースに話を進めたほうが良いでしょう。

実際に測ればある程度分かることを永遠に想像で議論することほど無駄なことはないですよね。

競技パフォーマンスの測定そのものは難しいですが、体力測定の項目であれば簡単に測定できます。

本日は下肢の筋出力の左右差とジャンプ力の関係性についての研究をご紹介します。

Bilateral Asymmetryと両足ジャンプ能力の関係性

Baileyら(2013)は大学男子アスリート36名を対象にBilateral Asymmetry(両足で力発揮をしたときの左右の出力の違い)とジャンプ高の関係性について調べました。

Bilateral Asymmetryは下の図(Bailey 2013より)のように、2枚のフォースプレートに左右それぞれの足を乗せた状態でミッドサイプルを行ったときの発揮した力の違い(%)で表されています。
つまり0%だときっちり左右対象の出力、数値が大きくなると左右差が大きいということです。

 

その結果、被験者全体の平均の左右差は6.6%±5.1%

そしてミッドサイプルのときの左右差の%とジャンプ高の間に有意な相関が認められました。
SQJ-左右差の%:r=-0.52
CMJ-左右差の%:r=-0.47

つまり、左右差が大きかった選手ほどジャンプ力が低かったという結果が得られました。

この研究から、両脚での力発揮のパフォーマンスにおいては下肢の出力の左右差があると不利であるということが推測されます。

そのためスキージャンプやバレーボールなど両足でジャンプをする競技、もしかしたらウエイトリフティングのような競技でも、両脚での力発揮時(スクワットやデッドリフトのトレーニングのとき)の左右差には気を配ったほうがいいのかもしれません。

(厳密にはバレーボールのジャンプでは両脚均等に出力はしないと考えられますが。。)

しかしこの研究だけでは

・両足ジャンプのような課題ではなく、スプリントやアジリティなど、片足で出力するようなパフォーマンスの場合はどうなのか?

・Bilateral Asymmetry(両足で力発揮したときの左右差)はUnilateral Asymmetry(片足で力発揮したときの左右差)と一致するのか?

といったことは分かりません。

 

次回の記事ではそのあたりも掘り下げていきましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

 


今回は下肢の出力の左右差についての記事でした。

実はちょうど先週、JISSでの実験の被験者として僕自身のジャンプ中のキネティクスについて分析してきてもらいました(笑)

その結果の図を載せておきます。

やはり左右差がありますね。

今回紹介した研究は観察研究(左右差をなくした結果、ジャンプ力が向上しました!という研究ではなく、ただ傾向を分析しただけの研究)ですので、断言はできませんが、この左右差をなくすことでもっとジャンプ力は上がるかもしれません。

ジャンプ高は滞空時間法の測定で57.8㎝、ジャンプメーター換算だと70㎝程度?でしょうか。。。低い。。

このデータを元に被験者数1の介入実験を行っていこうと思います!笑

山下さんありがとうございました!


参考文献

Bailey, C, Sato, K, Alexander, R, Chiang, C, and Stone, MH. Isometric Force Production Symmetry and Jumping Performance in Collegiate Athletes. J Trainology 2: 1–5, 2013.

 

 

【第73回】筋力向上に効果的な強度は?セットは?

ウエイトトレーニングのプログラムを組む際に、様々な数値を設定しますよね。

強度(%1RM)、レップ数、セット数、レスト、、etc

これらの数値は常に同じようなものを用いていると刺激に身体が慣れてしまい、筋力向上への効果が薄れてしまいますし(第71回)、目的によっても数値の設定は違ってきます。

例えば、筋肥大を目的とする場合は総負荷(強度×レップ数×セット数)を大きくする必要があります(第70回)。

一方で最大筋力向上のためには比較的高い強度でトレーニングをする必要があると言われています。

では高い強度とはどのくらいなのでしょうか?また最大筋力向上を目的とした場合セット数はどのくらいで行えばいいのか?

前回の記事で紹介したように、やはりある程度の強度やボリューム(レップ数・セット数)を超えると逆に効果が薄れてしまうのでしょか?

これらの問いに答えるときに、考えなければいけないのが「被験者のトレーニングレベル」

例えばトレーニングレベルが低い人は、強度が低くボリュームが小さい刺激でも筋力向上が引き起こされます。しかし刺激に対するキャパシティが小さいので、行い過ぎると回復が追いつかないかもしれません。

逆にトレーニングレベルの高い人は、強度、ボリュームともに大きなものが必要でしょう。

本日は筋力向上に効果的な
・トレーニングレベル別の
・適切な強度
・適切なセット数
ついて検討した研究をご紹介します。

筋力向上と各変数の関係

Rheaらの研究グループが2003年以前に発表された研究を統合して、トレーニングの強度、頻度、セット数が筋力向上に与える影響についてのメタアナリシスを発表しています[2]。

その際に1年以上のトレーニング経験者(Trained)と、そうでない者(Untrained)に分けて分析をしており、さらに翌年(2004)には同様の解析を大学・プロの競技レベルのトレーニング経験者(Athlete)においても行っています[1]。

この2つの研究の結果をまとめて以下に紹介していきます。

強度(%1RM)

3グループ(Untrained、Trained、Athlete)における、各強度(%1RM)における筋力向上のESは以下の図ようになりました。
※上下に伸びる点線は標準偏差(SD)
※研究内で欠けているデータは、前後のデータの平均値をグラフにプロットのみ示しておりSDは表示していません(例えばUntrainedの65%は60%と70%の平均から算出、図示)

全体的な傾向としては

①全体的なESはトレーニング経験が浅いほど大きい(Untrained>Trained>Athlete)

②最も大きなESを示している強度はレベルが高くなるほど高い

といったものがみられますね。

UntrainedとTrainedのESが山型を描いているのは、強度が小さすぎれば刺激が足りないということでしょうし、強度が高すぎてもオーバートレーニングにより筋力の向上がみられなくなってしまうということでしょう。

UntrainedでESのピークが思いのほか比較的低い強度(60%)になっている一方で、80%1RM前後のESもSDの幅が非常に広くなっており、行い方(適切なボリューム?)によっては高強度でも大きな筋力の向上が見られるだろうことが読み取れます。個人的には一概に「Untrainedでは高強度のトレーニングは効率が悪いんだ!」といったことは言えないのでは。と考えています。

一方、Athleteにおいては70%1RM以下の刺激だと、ほぼ筋力の向上が見られていないことが分かります

レベルの高い選手においてはこのくらいの負荷では刺激が足りないということですね。

また、TrainedとAthleteにおいては、この研究が発表された時点(2003~2004年)での85%1RM以上の強度の研究が不足しています。

そのためTrainedでは85%で80%よりもESが低下してしまっていますが、2004年以降の研究も統合するとまた違った結果が見えてくるかもしれませんね。

セット数

3グループ(Untrained、Trained、Athlete)における、各セット数における筋力向上のESは以下の図ようになりました。

全体的な傾向としては

①全体的なESはトレーニング経験が浅いほど大きい(Untrained>Trained>Athlete)

②最も大きなESを示しているセット数はレベルが高くなるほど多い

これは強度(%1RM)のデータとも同様ですね。

1セット目からセット数が増えるにつれてESは高くなっていきますが、ある点を超えるとオーバートレーニングからか、ESは低下していくようです。

また、Trainedの5セット目以降のデータ不足など、やはりこの時点での研究不足も否めませんね。

個人的にはAthleteのESが8セットで最も高くなっていることが意外でした。やはりある程度のレベルに達した選手は筋力向上においてもボリュームが必要なようです。

まとめ

筋力の向上はレベルの低い選手のほうが大きく、強度においてもセット数においてもレベルの高い選手ほど大きなものが必要だということがこれらの研究から分かりました。

しかしこれらのメタアナリシスは2つとも2003年、2004年と古く、近年の研究を含むと細かい結果(ESがピークになっている強度、セット数)などは若干変わってくるのではないかと思います。

また、この文献では含まれていなかった「レスト時間」「挙上速度」なども筋力の向上に関与するでしょう。

強度に対応したレップ数(5RMを5回など)で行っている研究もあれば、対応していない研究(5RMを3回など)もあるので、そのあたりの違いは今回の研究の分析では分かりません。

繰り返しになりますが、今回紹介したデータは2003~2004年までの研究のデータを統合したもの。

この知識をベースに、これ以降の研究結果を統合して考えるのが良さそうですね。

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


2018年の目標は
・パラレルスクワット170kg
・垂直跳び87㎝(ジャンプメーター)
・20m走2.95秒

です!
(ここで宣言をすることで自分への強制力がより働くので笑)

達成できるようにがんばります~


参考文献

  1. Peterson, MD, Rhea, MR, and Alvar, BA. Maximizing strength development in athletes: ameta-analysis to determine the dose- response relationship. J Strenght Cond Res 18: 377–382, 2004.

2.           Rhea, MR, Alvar, BA, Burkett, LN, and Ball, SD. A meta-analysis to determine the dose response for strength development. Med Sci Sports Exerc 35: 456–464, 2003.