【第171回】5RM×5回×3セットって実際無理では?ワンランク上のトレーニングプログラム作成のために『RIR』の概念を取り入れよう

「トレーニングプログラムの作成」は、トレーニング指導者にとって大きな仕事の1つです。

いくらコーチングの能力が備わっていても、マネジメント能力が優れていても、プログラム自体が効果的でなかったらトレーニングの成果が得づらいでしょう。(これは逆も然りですが)

また指導者をつけずに独学でトレーニングを実施している選手も、自分なりのトレーニングプログラムを作成する際に『やりたい種目・適当な回数をとりあえずぶち込みました』みたいなプログラムだと思ったような成果は得られないでしょう。

トレーニングプログラムを作成するときには、ピリオダイゼーション全体の中での今の位置づけ・目的を確認したうえで

✓種目の選定

✓強度(重量)の設定

✓レップ数の設定

✓セット数の設定(週あたり、セッションあたり)

あたりをおこないます。

種目選びが重要なのは言わずもがなですが、『強度』や『レップ』の設定も狙った適応を起こすのに必要な要素になります。

そして強度とレップは基本的には反比例の関係になります。

例えばスクワットの1RM(最大挙上重量)が100㎏の人の場合、75㎏×8レップは実施可能だと思いますが、90㎏×8レップは相当筋持久力に秀でていないと難しいでしょう。

最大筋力向上のために90㎏(その人にとっての90%)という高重量を扱う場合、必然的にレップ数は少なくする必要がありますよね。

そこで便利になってくるのが、一般的に用いられている換算表です。

例えば1RMが120㎏の人は、5RM(5回挙上可能な重さ)は約105㎏になります。

その際にやってしまいがちなのが、5RMで5回という設定。

これ、もしも目的もなくやってしまっているようであればすぐやめましょう

換算表の妥当性・正確性の議論は一旦おいておきます。これについての詳細はまた今度。

RMとレップ数を一致させる必要なし!

基本的にウエイトトレーニングを実施するときは、複数セットで実施することが多いかと思います。

仮に5RMで1セット目を5レップ出来たとして、2セット目、3セット目を実施出来るかというとどうでしょうか。

フォームが崩れるか、動作のレンジ(動かす範囲)が狭くなってしまうのは想像に難くないですよね。

そのため、もしも5レップで実施する場合は、現実的には6RMだったり8RMだったりと、少し余力を持たせて実施することが望ましいでしょう。

この余力のことをRepetition in Reserve(RIR)と呼びます。

上がらなくなるまで実施する場合やちょうど完遂可能な最大レップまで実施する場合、RIRは0ということになります。上がらなくなるまで実施することを一般的にオールアウトやRepetition to Failureとも言いますね。

一見そのほうがトレーニング効果がありそうですが、RIRに余裕を持たせて実施した方法(例:6RMで3回)とRIR0まで実施した方法(例:6RMで3回)では、トータルボリュームを統一した場合、筋力向上に効果の差がなかったどころか、パワー向上にはRIRに余裕を持たせたほうが効果があったという報告もあります(Izquierdo et al., 2006①)。

負荷設定の方法

こういった負荷設定の方法はいくつかありますが、それぞれに一長一短があります。

以下、VBT、1RM、nRM、RPEといった方法について簡単に解説します。

VBT (Velocity Based Training)

VBTとは専用の機材を使用して速度をモニターして行うトレーニングです。

なんでここでVBT?と思うかもしれませんが、実はRIRは速度を測ることである程度予測できます。

様々な負荷でオールアウトまでスクワットを実施した場合、どのような負荷でもRIR0のレップは0.31~0.33になり、RIRの大きさと速度には比例関係があったことが報告されています(Izquierdo et al., 2006②)。余力があるほど挙上速度は大きく、オールアウトに向かって段々速度が落ちていくということです。

VBTではVLCといって、あらかじめ決められた速度の低下率によってセットを切り上げる方法がありますが、これは特定のRIRでセットを切り上げる方法に非常に近いと考えられます。

VBTを使った方法のメリットはその日のコンディションも含めた正確な負荷設定を出来ることにあります。

デメリットはコストがかかることと、指導者の知識や深い理解が必要ということろでしょうか。

1RMの測定から設定する方法

実測の1RMの測定はトレーニングスキルさえ習熟していれば特別な機材がいらない方法です。

上記の%ーRM表から換算して、RIR=2で4レップを設定するなら6RMである85%を採用すればOKです。

ただ1RMからの6RMや8RMの推定も、選手の筋持久力などのばらつきによって正確性が左右されるので、実際に設定したRIRからずれる可能性もありえるのが難点です。

nRMの測定から設定する方法

逆に3RMや5RMといったサブマックスの重量から1RMを推定する方法では1RMを過剰評価や過小評価をする場合があります(どちらかといえば過剰評価のほうが多いです)。

しかしながら実測5RMを測定することで、5RM前後(3RM~7RM)の負荷設定の正確性は1RMからの換算よりは高まりますし、実測1RMよりも測定自体で扱う重量が普段の負荷に近いので、心理的負担や重量に慣れていないがゆえのフォームの乱れが少なくて済むのがメリットでしょう。

RPEを活用した方法

1RM、nRMは客観的な評価が出来る一方で

✓測定から期間が空くと、成長によって負荷設定が妥当でなくなる

✓その日のコンディションによっては適切な負荷設定にならない

といったデメリットがあります。

そこで活用出来るのが主観を活用したRPE法です。

これは実施者の主観で、「あと2回くらい出来そうなところでやめる」「あと1回だけ出来る余力を残してやめる」といった方法です。

主観でそんなこと出来るんかいと思うかもしれませんが、ある程度適切なトレーニング経験を積むと意外と出来るようになります。

実際、Izquierdoら(2006①)の研究でも、トレーニング経験がある選手の場合、自分の主観で3RM、6RMの負荷を選択して実施したところ、ある程度正確性があったことが報告されています。

RIRの設定

先ほどRIRを残して実施したほうがパワー向上の効果が高いと述べましたが、必ずしも毎回のトレーニングでそうしたほうが良いかというと、そうではありません。

時期や目的に応じてRIRも変化させるべきです。

先述した通り、パワーを高めたい時期であればRIRに少し余力をもたせたほうが良いでしょう。
(VBTでいう20%VLCや10%VLCに近い刺激になります)

一方で筋肥大には代謝ストレス(追い込んだ状態での乳酸濃度の上昇など)も必要な要素の1つであるため、RIRを0近くまで追い込むメリットもあります。

実際、Jukicら(2023)のメタアナリシスではVBTを用いて速度低下を抑えた状態(≒RIRに余力を持たせた状態だと)パワー向上に効果的で、限界近くまで追い込んだほうが筋肥大への効果が高かったことを報告しています。

同様に、Girgicら(2022)のメタアナリシスでもトレーニング上級者の場合はRIR0(オールアウト)まで追い込んだほうがやや筋肥大には効果があったことが報告されています。

とはいえフォームの乱れや疲労による次のセッションの悪影響を考慮すると、筋肥大期はRIR=1や2で組みつつ、セッションによってはRIR=0の場合も入れ込むというバランスが良いのではないでしょうか。

アスリートの場合、筋肥大期⇒最大筋力期⇒パワー期と以降する中で、回数や重量の変化だけでなく、RIRの変化をつけていくことがパフォーマンスアップのためのキーポイントの1つになると考えられます。

まとめ

5RM×5回を3セットといった形で、目的もなくとりあえずRMの数値と実施するレップ数を一致させることの非効率性は理解してもらえたかと思います。

実際プログラム内で運用する場合は下記の例のように回数とセット数に加えて、RIRを考慮した重量設定が出来ると、より効果的なプログラムが組めるかと。

(例)

●筋肥大期
10RM8レップ(最初のセットはRIR=2、最終セットでRIR=1~0?、あえて最終セットのみアールアウトを狙うのもあり?)

●最大筋力期
8RM6レップ~6RM4レップ(最初のセットはRIR=2、最終セットのRIR=2~1?)

●パワー期
6RM3レップ(最初のセットはRIR=3、レストを長めに設定して、最終セットのRIRも3~2をキープ)

アスリートのパフォーマンス向上には「必要なとき」に「必要な刺激」が加わることが重要です。

是非今回紹介した『RIR』をプログラム作成に活かしてみてください!

執筆者:佐々部孝紀


めちゃめちゃ久しぶりの更新になってしまいました。

最近は

✓博士課程の研究①の英語論文の投稿

✓研究②の実験、データ分析

✓娘が1歳になって活動的に

✓年度終わり・始めで各チームのデータに関するデスクワーク

等が重なってしまっておりまして。。(忙しいぶってますが、ちゃんと8時間は寝てます)

また、先日指導している山梨学院大学の男子バスケ部が春のトーナメントで創部史上初のベスト4に入ることが出来ました!

2020年から関わっていますが、3部からスタートしてここまで一気に駆け上がるなんて、本当にみんなすごいです👏

今年はオリンピックもありますし、こっから楽しみな時期が続きますね!

ブログは頑張って月1本は更新します!


参考文献

Grgic, J., Schoenfeld, B. J., Orazem, J., & Sabol, F. (2022). Effects of resistance training performed to repetition failure or non-failure on muscular strength and hypertrophy: A systematic review and meta-analysis. Journal of Sport and Health Science, 11(2), 202–211. https://doi.org/10.1016/j.jshs.2021.01.007

Izquierdo, M., González-Badillo, J. J., Häkkinen, K., Ibáñez, J., Kraemer, W. J., Altadill, A., … Gorostiaga, E. M. (2006). Effect of loading on unintentional lifting velocity declines during single sets of repetitions to failure during upper and lower extremity muscle actions. International Journal of Sports Medicine, 27(9), 718–724. https://doi.org/10.1055/s-2005-872825

Izquierdo, M., Ibañez, J., González-Badillo, J. J., Häkkinen, K., Ratamess, N. A., Kraemer, W. J., … Gorostiaga, E. M. (2006). Differential effects of strength training leading to failure versus not to failure on hormonal responses, strength, and muscle power gains. Journal of Applied Physiology, 100(5), 1647–1656. https://doi.org/10.1152/japplphysiol.01400.2005

Jukic, I., Castilla, A. P., Ramos, A. G., Van Hooren, B., McGuigan, M. R., & Helms, E. R. (2023). The Acute and Chronic Effects of Implementing Velocity Loss Thresholds During Resistance Training: A Systematic Review, Meta-Analysis, and Critical Evaluation of the Literature. Sports Medicine (Vol. 53). Springer International Publishing. https://doi.org/10.1007/s40279-022-01754-4

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