【第130回】『筋肉』を単体で鍛えても意味がないというのはホンマかいな

”筋肉ではなく、動作を鍛える必要がある”

という意見を聞くことも。

僕自身この考えについては同意する部分ももちろんあります。

一方でどんな場合にもその考えを適応して、『競技動作とまったく違う動きをするトレーニングはするべきではない』なんて極端な意見になるのはよろしくないとも思っています。

今回は動作を鍛える必要性を示唆する研究と、動作が全く異なっていても競技力・身体能力向上に繋がる場合もあるということを示した研究をそれぞれ紹介します。

スクワットvsレッグプレス

スクワットもレッグプレスも、ともに膝関節・股関節の伸展筋群を強化することのできる運動です。

その2つの大きな違いは、スクワットでは体幹部で重りを支えた状態で(=体幹の筋群も力を出した状態で)下半身の運動を行うということです。

実際にこの2つのトレーニングをそれぞれ実施した場合の、ジャンプ力向上への効果を検証した研究では以下のような結果が示されました。

#43 Wirth et al., 2016

上記の通り、スクワットを実施した群においてのみ、ジャンプ力の向上が示されました。

これは先述した通り、『体幹部の力発揮をしながら』下肢の関節の運動を行うというスクワットの特性がジャンプ力に転移しやすかった可能性もありますし、それ以上に体幹部の筋力も向上したことが大きかったのではないかと個人的には考えています。

一方で、レッグプレスは実施する意味がないのかというと、そうとも限りません。

腰痛を患っており重りを担ぐことが出来ない場合は重宝しますし、以前紹介したEccentric Overload Trainingを実施しやすいなど、状況によっては活躍する種目であることには変わりありません。

ただ、やはりトレーニングの中心に置くのはCKCである(足を地面についてバランスをとりながら実施する種目である)スクワットなどが良いでしょう。

鍛えられるのは筋肉ではなく動作なのか?

二関節筋(2つの関節をまたぐ筋肉)は、2つの関節に対して違った作用をします。

ハムストリングであれば、股関節の伸展と膝関節の屈曲ですね。

『筋肉を鍛えると、その筋肉の持つ作用が強くなる』と考えることが出来れば、例えばレッグカールをしても股関節の伸展筋力が強くなりますよね。

『筋肉ではなく、鍛えているのはその動作自体』だとすれば、レッグカールでは股関節の伸展筋力は鍛えられないということになります。

では実際にどうなのかを、研究をもとに考えていきましょう。

BourneらはとNordic Hamstringと45°Hip Extensionの2つのエクササイズの効果について検証しました。

これらは2つともハムストリングに主に負荷がかかるエクササイズですが、膝関節を動かす運動か、股関節を動かす運動かという違いがあります。

使う筋肉は共通しているものの、いわゆる『動き』としてはまったく違うものになりますよね。

その結果、股関節の伸展筋力の向上率も膝関節の屈曲筋力の向上率も、Nordic Hamstringの介入群と45°Hip Extensionの介入群の間で有意な差は認められませんでした。

つまり膝関節を屈曲するという動作のトレーニング(Nordic Hamstring)であっても、股関節の伸展筋力が鍛えられたということになります。
というよりも、ハムストリングが鍛えられたため股関節の伸展筋力も膝関節の屈曲筋力も上がったと表現したほうが適切ですね。

一方で、この2つのトレーニングはまったく同じ効果をもたらすかというとそういう訳でもなく、大腿二頭筋短頭のような膝関節の単関節筋はNordic Hamstringでより大きな筋力の向上を示しましたし、より伸長位での負荷が必要な大腿二頭筋や半膜様筋では45°Hip Extensionで筋肥大への効果が大きいことも認められています。

まとめ

筋肉を鍛えるべきか、動作を鍛えるべきかについてですが、結論としては両方ということになります。

膝関節屈曲に出力するエクササイズのノルディックハムでも股関節の伸展トルクは向上し、それがスプリントスピードの向上にも繋がることが別の研究でも示されています(Seitz et al., 2014)。

一方で、もちろんCKCのエクササイズで身に付けた股関節の使い方は競技動作にも活きるでしょう。

またスクワットなどのCKCのトレーニングは、使い方どうこうというよりも『色んな部位が一気に鍛えられてお得』というのが大きなメリットだとも思います。

確かに筋肉を単体で鍛える『だけ』では意味はないかもしれませんが、プログラム全体の中で、意図を持った1つのピースとして実施するのであれば、1つの関節運動に着目したエクササイズを実施することも有効ですよね。

人によって学んだバックグラウンドで先入観を持ってしまっていることって多いと思います。
(僕自身、今回の研究を読むまでは膝関節のエクササイズの股関節のトルクへの転移の効果は比較的小さいと思っていました)

自分の先入観が崩されたときって、意外と楽しですよね!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


僕自身今まで単関節運動はノルディックハム、ヒップスラストくらいしかやってこなかったのですが、最近はある目的もあってアームカールもちゃんとトレーニングに取り入れ始めました。

やってみると色々奥が深くて楽しいぜ。アームカール。


参考文献

  1. Bourne, MN, Duhig, SJ, Timmins, RG, Williams, MD, Opar, DA, Al Najjar, A, et al. Impact of the Nordic hamstring and hip extension exercises on hamstring architecture and morphology: Implications for injury prevention. Br J Sports Med 51: 469–477, 2017.
  2. Wirth, K, Hartmann, H, Sander, A, Mickel, C, Szilvas, E, and Keiner, M. The impact of back squat and leg-press exercises on maximal strength and speed-strength parameters. J Strength Cond Res 30: 1205–1212, 2016.

 

 

 

 

 

 

 

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA