【第169回】ノルハムで胸つけて戻るやつはすごそうに見えるけどトレーニングとして実施するのは効果的ではないです

機材がなくても簡単に実施できるエクササイズの1つ、『ノルディックハムストリング』

たまにSNS上の動画で、アスリートが胸を地面につけて戻ってきたりしてます。あれかっこいいですよね。憧れますよね。

しかし意外と普通に鍛錬すれば誰でも出来るようになります。僕もちょっと鍛えたら出来るようになりました。

ちょっとはウソです盛りました。肉離れを再受傷したくなさ過ぎてめっちゃやりました。ただ誰でも出来るようになるは本当です。女子でも頑張れば出来ます。

そしてトレーニングとしてあのやり方を実施するのは意味ないです。ほんとに。

ノルディックハムを実施する目的を考えよう

『意味ないです』は言い過ぎました。すみません。『あんまり効果的じゃないからやめときな』に訂正しときます。

ノルディックハムを実施する目的を考えたら、戻ってくる形をメインの方法として選択しないと思うんですよね。

5レップ実施する最初の1レップを戻る形にして力を入れる感覚を掴み、2~5レップ目を倒れて手で押す形で戻ってくるというならまだ分かります。

それではノルディックハムを実施する目的について考えていきましょう。

①肉離れの予防

ノルディックハムに関する研究は『ハムストリングの肉離れ予防』に焦点を当てた研究が多いです。

そしてノルディックハムを適切に実施すると、ハムストリングの肉離れの発生率を半減させることが出来るというメタアナリシスも報告されています(Attar et al., 2017)。

さらにGoodeら(2015)のメタアナリシスではノルディックハムの実施率をきちんと担保することで肉離れの発生率を1/3近くまで減少出来るという報告もなされています。

このメカニズムとして重要なのが
✓エキセントリック筋力
✓筋束長の増大
の2つです。

エキセントリック収縮とは筋肉が引き伸ばされながら力発揮をする運動様式になります。アームカールでいうと重りを降ろしながら上腕二頭筋が力発揮をする局面ですね。

ハムストリングにおけるこのエキセントリック筋力が小さいことが肉離れのリスクファクターとして知られています(Sugiura et al., 2008)。

そしてノルディックハムというのはコンセントリックを含まない純粋なエキセントリック運動であり、4週間のノルディックハムストリングでエキセントリック筋力の増加(ES = 0.60)が認めらています(Ribeiro-Alvares et al., 2018)。ちなみにコンセントリック筋力もES = 0.31の増加が認められています。

4週間で効果量0.6というのはなかなか大きな数字です。勉強で例えると1ヶ月勉強して偏差値が6上がるくらいのすごさ。

この変化が肉離れ予防に貢献していると考えられます。

また、筋束長の短さも肉離れのリスクファクターとして報告されており(Timmins et al., 2016)、ノルディックハムでは筋束長の増大の効果も認められています(Ribeiro-Alvares et al., 2018)。

そりゃ肉離れを防ぐ効果あるわ。

②スプリントスピードの向上

傷害予防エクササイズとしてよく用いられるノルディックハムですが、実はスプリントスピードも向上させるのではないかということも示唆されています。

Ishoiらの研究(2018)ではエキセントリック筋力の向上に加えて10m走のタイムが向上(ES = 0.64)したことが報告されています。

スプリントにおいては前方に振り出した脚を素早く引き戻すことが求められるので、エキセントリック筋力が高まることでその後の引き戻しの動作を速くすることは十分に考えられますよね。

大腿四頭筋や下腿三頭筋の筋束長の大きさがスプリントスピードと関連しているとする報告もあるので(Kumagai et al., 2000; Abe et al., 2001)、ハムストリングの筋束長の大きさももしかしたらスプリントスピードに関連しているかもしれないです。

そのためスプリントスピード向上が目的の場合も、エキセントリック筋力の向上と筋束長の増大がポイントになるかもしれません。

適切な実施方法

✓エキセントリック筋力の向上

✓筋束長の増大

この2つを達成することで肉離れ予防とスプリントスピードの向上に貢献できるかもしれないというのがここまでの内容でした。

ではその2つを効率的に達成するにはどうしたら良いのか?という話ですが、

★収縮様式

★強度

がポイントになります。

実は筋束長の増大というのは収縮様式(エキセン or コンセン)に対して特異的な反応を示します。

Timminsら(2016)はコンセントリックのみのレッグカール群、エキセントリックのみのレッグカール群の2つのトレーニングを比較したところ、エキセントリックの群はハムストリングの筋束長が増大したのに対し、コンセントリックの群は筋束長が短くなったことを報告しています。

ここから考えると、ノルディックハムに戻ってくる局面を加えてしまうと筋束長の増大効果を減らしてしまうのではないか?という懸念が生じます。

また、エキセントリックオーバーロードという概念があります。これはコンセントリックの筋力よりもエキセントリックの筋力のほうが大きいことを活かして、コンセントリックを含む1RMよりも高い強度でエキセントリックのトレーニングをするという方法です。

この方法によって筋力やスピードがより効果的に向上することが報告されています(Maroto-Izquierdo et al., 2017)。

ノルディックハムは胸をつけて戻ってこれない選手が多いので、その場合はエキセントリックオーバーロードのトレーニングなります。

一方で胸をつけて戻れるということは、その強度ではエキセントリックオーバーロードにはならないということになります。胸の前でプレートを保持するなどの工夫が必要ですよね。

Pollardら(2019)の研究では実際に普通のノルディックハムと重りを加えたノルディックハムを比較したところ、重りありのほうが筋束長の増大効果が倍近く大きかったことが報告されています。

このことから考えても、ある程度強くなったら負荷を加えるのがベターですよね。普通に漸進性の原則です。

まとめ

結論:胸つけて戻れるならそれをトレーニングとして実施せずに重りで負荷を加えろ!

今回の内容はあくまでも筋束長増大とエキセン筋力向上、それを介しての①肉離れ予防、②スプリントスピード向上が目的の場合です。

それ以外が目的の場合は戻る方法を用いても良いのかもしれませんが、その2つを目的として据えないってことあんまりないですよね。。?

書きながら頭を整理したけど、やっぱり胸つけて戻るやつは『かっこいい』以外のメリットはあんまり見当たりませんでした。

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


 


参考文献

  1. Abe, T, Fukashiro, S, Harada, Y, and Kawamoto, K. Relationship between sprint performance and muscle fascicle length in female sprinters. J Physiol Anthropol Appl Human Sci 20: 141–147, 2001.
  2. Al Attar, WSA, Soomro, N, Sinclair, PJ, Pappas, E, and Sanders, RH. Effect of Injury Prevention Programs that Include the Nordic Hamstring Exercise on Hamstring Injury Rates in Soccer Players: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sport Med 47: 907–916, 2017.
  3. Goode, AP, Reiman, MP, Harris, L, DeLisa, L, Kauffman, A, Beltramo, D, et al. Eccentric training for prevention of hamstring injuries may depend on intervention compliance: A systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med 49: 349–356, 2015.
  4. Ishøi, L, Hölmich, P, Aagaard, P, Thorborg, K, Bandholm, T, and Serner, A. Effects of the Nordic Hamstring exercise on sprint capacity in male football players: a randomized controlled trial. J Sports Sci 36: 1663–1672, 2018.Available from: https://doi.org/10.1080/02640414.2017.1409609
  5. Kumagai, K, Abe, T, Brechue, WF, Ryushi, T, Takano, S, and Mizuno, M. Sprint performance is related to muscle fascicle length in male 100-m sprinters. J Appl Physiol 88: 811–816, 2000.
  6. Maroto-Izquierdo, S, García-López, D, Fernandez-Gonzalo, R, Moreira, OC, González-Gallego, J, and de Paz, JA. Skeletal muscle functional and structural adaptations after eccentric overload flywheel resistance training: a systematic review and meta-analysis. J Sci Med Sport 20: 943–951, 2017.Available from: http://dx.doi.org/10.1016/j.jsams.2017.03.004
  7. RIBEIRO-ALVARES, JOB, MARQUES, VB, VAZ, MA, and BARONI, BM. Four weeks of nordic hamstring exercise reduce muscle injury risk factors in young adults. J Strenght Cond Res 32: 1254–1262, 2018.
  8. Timmins, RG, Bourne, MN, Shield, AJ, Williams, MD, Lorenzen, C, and Opar, DA. Short biceps femoris fascicles and eccentric knee flexor weakness increase the risk of hamstring injury in elite football (soccer): A prospective cohort study. Br J Sports Med 50: 1524–1535, 2016.
  9. Timmins, RG, Ruddy, JD, Presland, J, Maniar, N, Shield, AJ, Williams, MD, et al. Architectural Changes of the Biceps Femoris Long Head after Concentric or Eccentric Training. Med Sci Sports Exerc 48: 499–508, 2016.

 

【第168回】足首は硬いほうが良いってホント?ケースバイケースです!⇐めっちゃ解説します

「足首って硬いほうが良いんですか?」

という問いに対して、僕はプロとしてこう答えます。

「知らんがな」

まじで考えること多いんですよね。。。

本日は足首の硬さとパフォーマンスの関係についてのウソホントについて掘り下げていきます。

そもそも足首が硬いとは?

そもそも足関節の硬さというのも複数の要因に影響を受けます。

関節の可動性というのは多くの場合ROMテストで評価をされますが、研究においては最終域を被測定者の痛みや不快感を基準に測定しているケースがほとんどです。

そのため
✓ストレッチトレランス(ストレッチ痛に対する耐性)
✓筋腱のスティフネス
によって関節の可動性は決まってきます(Freitas et al., 2018)。

スティフネスというのは伸びづらさを示す変数で、スティフネスが大きい=伸びづらい=硬いということになります。

足関節の背屈可動域の場合、主に腓腹筋&ヒラメ筋からアキレス腱の硬さによって足関節のスティフネスが決まってくるということになりますね。

つまり一口に足首のか硬さといっても
①足関節のROM
②下腿の筋and/orアキレス腱のスティフネス
というものが存在し、

①は痛みの耐性という感覚的な要因と下腿の筋腱の硬さという物理的なものを含む総合的な可動域

②は下腿の筋and/orアキレス腱の物理的な硬さ

を示すということになります。

※このへんの詳しい定義は、昨年一新された日本スポーツ協会ATのテキストのストレッチングの項目で佐々部が解説しているので、手元にある人は是非確認してみてください!

足首の硬さとパフォーマンスの関係

足関節の硬さとパフォーマンスの関連について、硬いことのメリットを先に挙げると

(1)アキレス腱が硬いことによるRFD(瞬時に力を伝える能力)やRSI(バネのように跳ねる能力)の増加

(2)(1)を通したランニングエコノミーの向上

があります。

ランニングエコノミーとは、主に長距離などのランニングで余分な酸素を消費せずに走れる能力、同じ酸素消費量でも速く走れる能力を指します。

Konradら(2023)は
✓下腿の筋
✓アキレス腱
✓四頭筋
✓膝蓋腱
のスティフネスとランニングエコノミーの関係性について調べたところ、アキレス腱のスティフネスのみランニングエコノミーと相関を示したことを報告しています。

つまり、足首が硬いと言っても下腿三頭筋が硬さではなくアキレス腱の硬さが必要ということですね。

次は下腿の筋and/or腱のスティフネスではなく、ROMを測定し、ジャンプパフォーマンスとの関係性を評価した研究を2つ紹介します。

#98 Papaiakovou, 2013
#101 Panoutsakopoulos and Bassa, 2023

どちらの研究においても、CMJのような遅いSSCのパフォーマンスについては足関節の背屈ROMが大きいほうが有利だといえそうです。

一方で、ドロップジャンプのような速いSSC課題だと、背屈ROMが小さいほうがジャンプ時のRFD(力の立ち上がり率)が大きいことも報告されています。

この研究ではRSIは報告されていませんが、ジャンプ高と動作時間を見た感じだとRSIも足首が硬い選手のほうが大きそうですね。実際、アキレス腱のスティフネスが高いほどドロップジャンプの接地時間が短かったほとも報告されていますし(Abdelsattar et al., 2018)。

速いSSC、遅いSSCってなんやねんという方のために、動画でのイメージです↓
RSIというのは、速いSSC課題においていかに短い接地時間で高く跳ぶかという変数です。

ここまでのまとめ

✓足関節背屈ROMは大きいほどCMJのような遅いSSCのパフォーマンスは高い?

✓足関節背屈ROMが狭いほうがドロップジャンプのような速いSSCのパフォーマンスが大きい?

✓ランニングエコノミーやRSIの高さと関連があるのは下腿の筋ではなく腱の硬さ?

腱のスティフネスって変えられるの?

上記の観察研究の上方だけでは『足首の硬さがあったほうが良い!』『柔らかいほうが良い!』とは一概に言えなそうですね。

それにアキレス腱が硬いほうが良いとかいうけど、アキレス腱って固く出来るの?という疑問も浮かびます。

Burgessら(2007)はプライオメトリクスとアイソメトリックトレーニングの介入によって、どちらの群でも腱のスティフネスが向上したことを報告しています。

また、Albracht & Arampatzis (2013)の研究においても、足関節底屈のアイソメトリックトレーニング(足首を固定した状態でつま先を倒すような力を出すトレーニング)でアキレス腱のスティフネスが増加し、ランニングエコノミーが向上したことが報告されており、腱もトレーニングの介入で変化するということは間違いなさそうです。

また面白いことに、下腿を含む下肢の筋群へのストレッチの介入ではランニングエコノミーは低下しなかったことが報告されています(Nelson et al., 2001)。

しかしながらCooperら(2021)の研究においては筋束長が長いほどランニングエコノミーは低くなることも報告されているので、筋束長の適応を起こすほどの強度・期間でのストレッチは腱のたわみに影響を与え、ネガティブな効果を引き起こすかもしれません。

しかし同研究内で筋束長が長いほどパワー発揮能力が大きいことも報告されており、筋束長を大きくしたほうが良いのかはケースバイケースになりそうです。

まとめ

足首の硬さとパフォーマンスについて詳しく解説してきました。

またパフォーマンスとは異なる観点ですが、足関節背屈可動域が小さいほど膝蓋腱炎の発症率が高かったことが報告されています(Backman et al., 2011)。

考えること多すぎですね。笑

まとめ↓

✓足関節背屈ROMは大きいほどCMJのような遅いSSCのパフォーマンスは高い

✓足関節背屈ROMが狭いほうがドロップジャンプのような速いSSCのパフォーマンスが大きい

✓ランニングエコノミーやRSIの高さと関連があるのは下腿の筋ではなく腱の硬さ

✓速いSSCの能力(RSI)やランニングエコノミーを高めようと思ったら下腿三頭筋ではなくアキレス腱を硬くすべき?

✓腱のスティフネスはアイソメトリックトレーニングやプライオメトリクスで向上する

✓数週間のストレッチであればパフォーマンスの低下に影響を与えないが、やりすぎると特定のパフォーマンスに負の影響がある?

✓足関節背屈ROMが小さいと膝蓋腱炎のリスクがある

ここまで読んでもらえば分かるかと思いますが、本当に考えることはいっぱいです。

1つの研究で結論は出せませんし、そこにいる選手のニーズによっても適切なアプローチは変わっていきます。

EBPの重要性を示す分かりやすい例ですよね。

1人1人のニーズに対して細かく評価をするのが理想ですが、僕も大人数に指導することは多いので、チームで指導するときは

●競技・トレーニングするうえで困らない程度の最低限の背屈可動域を獲得させる

●アキレス腱のスティフネスを高めるために短いSSCを含むプライオのトレーニングを入れる

あたりに僕は落ち着いてます。

最低限の背屈可動域というのは競技によって少しずつ変わると思いますが。

みなさんの思考の整理に今回の記事が役立てばうれしいです!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


2023年8月13日(日)にオンラインセミナーを開催します!

ブログには書いていないようなお役立ち情報、考え方を余すことなく伝えるので、是非ご参加ください!

アーカイブ配信もありますよ!

セミナー告知『高価なデバイスを用いないパワー向上の戦略』2023/8/13


参考文献

  1. Abdelsattar, M, Konrad, A, and Tilp, M. between Achilles Tendon Stiffness and Ground Contact Time during Drop Jumps. ©Journal Sport Sci Med 17: 223–228, 2018.Available from: http://www.jssm.org
  2. Albracht, K and Arampatzis, A. Exercise-induced changes in triceps surae tendon stiffness and muscle strength affect running economy in humans. Eur J Appl Physiol 113: 1605–1615, 2013.
  3. Backman, LJ and Danielson, P. Low range of ankle dorsiflexion predisposes for patellar tendinopathy in junior elite basketball players: A 1-year prospective study. Am J Sports Med 39: 2626–2633, 2011.
  4. Burgess, KE, Connick, MJ, Graham-Smith, P, and Pearson, SJ. Plyometric vs. isometric training influences on tendon properties and muscle output. J Strength Cond Res 21: 986–989, 2007.
  5. Cooper, AN, Mcdermott, WJ, Martin, JC, Dulaney, SO, and Carrier, DR. Great power comes at a high ( locomotor ) cost : the role of muscle fascicle length in the power versus economy performance trade-off. J Exp Biol , 2021.
  6. Freitas, SR, Mendes, B, Le Sant, G, Andrade, RJ, Nordez, A, and Milanovic, Z. Can chronic stretching change the muscle-tendon mechanical properties? A review. Scand J Med Sci Sport 28: 794–806, 2018.
  7. Konrad, A, Tilp, M, Mehmeti, L, Mahnič, N, Seiberl, W, and Paternoster, FK. The Relationship Between Lower Limb Passive Muscle and Tendon Compression Stiffness and Oxygen Cost During Running. J Sports Sci Med 22: 28–35, 2023.
  8. Nelson, AG, Kokkonen, J, Eldredge, C, Cornwell, A, and Glickman-Weiss, E. Chronic stretching and running economy. Scand J Med Sci Sport 11: 260–265, 2001.
  9. Panoutsakopoulos, V and Bassa, E. Countermovement Jump Performance Is Related to Ankle Flexibility and Knee Extensors Torque in Female Adolescent Volleyball Athletes. J Funct Morphol Kinesiol 8, 2023.
  10. Papaiakovou, G. Kinematic and kinetic differences in the execution of vertical jumps between people with good and poor ankle joint dorsiflexion. J Sports Sci 31: 1789–1796, 2013.Available from: http://dx.doi.org/10.1080/02640414.2013.803587

セミナー告知『高価なデバイスを用いないパワー向上の戦略』2023/8/13

1年半ぶりのTraining Scienceセミナーの開催です!

(昨年9月から博士課程に進学し、子どもも3月に生まれ、全然セミナー開催できてませんでしたが、皆さんのご要望の声にこたえて何とか!)

最近はVBTに関するセミナーも多く、僕よりも詳しい方々がやってくれているので、あえて時代に逆行するセミナーを開催してみます!

先に申し上げておくと、『VBTを使う気もそのコンセプトを勉強する気もないから、VBTを否定する意見を聞ければ自分を正当化できるぜ!』という方のニーズを満たすセミナーではありません。

もちろん基本的な身体作りが出来ており、ある程度筋力もある選手に対して、フルタイムのS&Cがサポートできる環境であればVBT等のデバイスを活用できるに越したことはありません。

ただ、日本全国には

✓S&Cによる直接指導が月に1-4回しか実施出来ないので、デバイスの価値を100%発揮出来ない

✓予算の都合でVBTデバイスを扱えない

という現場も多々あると思います。というよりそっちのほうが多数派ですよね。

VBTは、そのデバイスを用いないと出来ないこともあれば、ある程度デバイス無しでも再現出来る部分はあります。

その部分にフォーカスして、『高価な機器を用いないパワー向上の戦略』を皆さんに伝えたいと思います。

最新の機器を導入すべき現場は積極的に導入すべきですが、その機器をどうしても扱えない現場でのトレーニングのクオリティを上げること、そのための知識を広めることも、日本のスポーツを強くすることに繋がりますよね。

みんなでトレーニングを通して日本のスポーツを強くしていきましょう!

(8月13日追記)2023年8月31日までのアーカイブ視聴も受け付けます!

申込はこちら

 

 

 

【第167回】ラントレは筋力向上を阻害することもあれば筋力を向上させることもある?

『野球に走り込みやラントレは必要か?』

この問いに対してはある程度トレーニングに関する勉強をしてきた人の多くが『No』と答えるようになってきているのではないでしょうか。

個人的にはここをもう少し掘り下げて考えると実は、、、

というのが今日の内容です。

ここを議論するには、まず「『走り込み』や『ラントレ』って言葉の定義あいまいじゃね?」ってところから。

『走り込み』『ラントレ』ってなんやねん。

マラソン選手が行う『走り込み』と

100m走選手が行う『走り込み』って、

おそらく違いますよね。

なので野球チームAが行っている『走り込み』と、野球チームBが行っている『走り込み』もたぶん違うんですよね。

また、『走り込み』と『ラントレ』は似たようなニュアンスで語られることが多いですが、走り込みのほうが若干長距離走的な意味合いが強いのかな?という印象です。

おそらく『走り込み』及び『ラントレ』は大きく以下の3つのように分類できるのではないでしょうか。

①長距離走的ラントレ(10㎞走とか)

②HIIT的なラントレ(十数秒~数分のランを繰り返すもの)

③スプリントベースのラントレ(数秒~十数秒のランをそこそこレストを取りながら繰り返すもの)

これらの種目では身体に及ぼす影響が異なってきます。

『①長距離走的ラントレ』はLT速度程度もしくはそれ以下

『②HIIT的なラントレ』VO2max速度周辺

『③スプリントベースのラントレ』はSITやRST周辺もしくはそれ以上の強度になります。

(それぞれのトレーニング効果の詳細はこちらの記事で)

この特性の違いが、身体に与える影響の違いにもなってきます。

①長距離走的ラントレ

長距離走的ラントレをレジスタンストレーニングと並行して実施すると、筋力やパワーの向上及び筋肥大の効果を阻害することが分かっています(Wilson et al., 2012)。

#24 Wilson et al., 2012

阻害といっても半減~2割減くらいの阻害なので、まったく効果がなくなるわけではないです。

バスケやサッカーの場合は持久力を高めるためにはそういったトレーニングが必要かもしれませんが、野球やアメフトなど瞬発力に特化した競技の場合は長距離走的ラントレの優先順位は低いでしょう。

また、実施時間が長ければ長いほどこと阻害効果は大きくなるのもポイントです。

②HIIT的なラントレ

HIITとは、High Intensity Interval Trainig(高強度インターバルトレーニング)のことで、運動と休息を交互に繰り返します。例えば、1分走って1分休みを10本、といった形です。

運動時間は十数秒~5分程度と様々ですが、長距離走的ラントレよりも強度が高い分、実施時間は一般的に短くなります。

このHIITでもレジスタンストレーニングの効果を阻害してしまいますが、

✓筋力向上への阻害効果はあるが筋肥大は阻害しない

✓レジスタンストレーニングと24時間以上空けると阻害効果なし

と報告されているので(Sabag et al., 2018)、長距離走的ラントレよりは阻害効果の心配はなさそうです。

#31 Sabag et al., 2018

③スプリントベースのラントレ

レストをしっかりとりながらのスプリントトレーニングは、レジスタンストレーニングの効果を阻害しません。

なんなら、スプリントをすることで筋力やパワーが向上することすら報告されています(Markovic et al., 2007)。

#93 Markovic et al., 2007

これは意外かもしれませんが、『短い時間で全力を出す』という点は筋トレとも似ているのであり得ない話ではないですよね。

まとめ

①長距離走的ラントレ
✓筋力向上を阻害
✓筋肥大を阻害
✓パワー向上を阻害

②HIIT的なラントレ
✓筋力向上を阻害(別日なら大丈夫かも)
✓筋肥大は阻害しない

③スプリントベースのラントレ
✓筋力向上効果あり
✓パワー向上効果あり

一方でRST(Repeated Sprint Training)と言われる形式のHIITは全力に近いスプリントを繰り返すので、②HIIT的なラントレと③スプリントベースのラントレの間くらいの効果があると考えられます。

筋力向上を阻害するかもしれないし、むしろ筋力向上を促進するかもしれないという微妙な立ち位置になりますね。

このように①~③は明確に分けられるようなものではなく、グラデーションがかかったものになります。

「野球のような瞬発的な競技にラントレは不要か?」と言われたときに、一概にNoとは言えないんじゃ?というのはそのためです。

ただし明らかな①のカテゴリのラントレは野球にとっての優先度は限りなく低いですよね。なんなら②も。

「③は走塁があるバッターには必要だが、打席に立たない投手にとってどうか?」と聞かれたら、個人的には必要かと思います。

筋力向上効果を狙うなら筋トレで良いじゃんという意見もあるかと思いますが、若干違う目的で用いることが出来ますからね。

ラントレに限らず何事も言葉の定義をきちんと定めることは大切です。

是非今回の記事で頭の中を整理してください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


2022年度は色々あった1年でした。

アルバルク東京ユースチームでも働き始め、大学院修士時代のデータを初めての査読付き英語論文にアクセプト。

結婚して9月からは大学院の博士課程にも通って先月子供も産まれました。

S&Cコーチ、学校教員、大学院生、父親として、4足のわらじになっちゃいましたが2023年度も頑張ります!


参考文献

Buchheit, M., & Laursen, P. B. (2013). High-intensity interval training, solutions to the programming puzzle: Part I: Cardiopulmonary emphasis. Sports Medicine, 43(5), 313–338. https://doi.org/10.1007/s40279-013-0029-x

Markovic, G., Jukic, I., Milanovic, D., & Metikos, D. (2007). Effects of sprint and plyometric training on muscle function and athletic performance. Journal of Strength and Conditioning Research, 21(2), 543–549. https://doi.org/10.1519/R-19535.1

Sabag, A., Najafi, A., Michael, S., Esgin, T., Halaki, M., & Hackett, D. (2018). The compatibility of concurrent high intensity interval training and resistance training for muscular strength and hypertrophy: a systematic review and meta-analysis. Journal of Sports Sciences, 00(00), 1–12. https://doi.org/10.1080/02640414.2018.1464636

Wilson, J. M. J. M., Marin, P. J. P. J., Rhea, M. R., Wilson, S. M. C., Loenneke, J. P., & Anderson, J. C. (2012). Concurrent training: a meta-analysis examining interference of aerobic and resistance exercises. Journal of Strength and Conditioning Research, 26(8), 2293–2307. https://doi.org/10.1519/JSC.0b013e31823a3e2d

 

【第166回】ウエイトリフティングエクササイズの代替種目の効果

ウエイトリフティング種目は重量物を速く動かすことで大きなパワー発揮をし、パワー向上効果が期待出来ます。

パワーリフティングでも用いられるようなベーシックな種目(スクワットやデッドリフト)で筋肉量や基礎筋力を向上させ、ウエイトリフティング種目やプライオメトリクスでパワーを向上させるというのがよくあるパフォーマンスへの転移の流れかと思います。

ウエイトリフティング種目は基本的なレジスタンスエクササイズ(スクワットやデッドリフト)に比べてジャンプ力向上への効果が大きく、プライオメトリクスと同等の効果があることが報告されています(Hackett et al., 2016)。

着眼点を変えれば、習得にやや時間がかかるウエイトリフティング種目ではなくプライオメトリクス種目を実施することで下肢のパワー向上を達成することが出来るとも考えられます。

しかし力にフォーカスを置いた種目(上記図左)、力と速度にフォーカスを置いた種目(上記図真ん中)、速度にフォーカスを置いた種目(上記図右)と、これらのカテゴリで発揮する力の特性が異なるので、様々な刺激を身体に与えることで成長を促せるケースもあると考えられます。

(例えば、プライオメトリクスをずっと行う中でパワー発揮能力向上が停滞し、そのタイミングでウエイトリフティング種目を導入して停滞を打破できる。など)

しかしこの図の真ん中の種目(中程度の力×中程度の速度)って、ウエイトリフティング種目じゃないとあかんのん?

っていうのが今回の内容です。

ウエイトリフティング種目 vs 負荷ありジャンプスクワット

Oranchukら(2019)はハングハイプルとヘックスバーを用いてのジャンプスクワットの効果を比較したところ、垂直跳び向上への効果に差がないことを報告しています。

#94 Oranchuk et al., 2019

差は有意ではないものの、反動なしの垂直跳び(SJ:Squat Jump)においてはヘックスバーでのジャンプスクワットのほうが大きな効果を示したようです(d=0.56)。

しかしながらこの2つのエクササイズは扱っている重量が大きく異なっています。

ハングハイプル群はクリーン1RMの70%

ヘックスバージャンプ群はヘックスバーデッドリフト1RMの20%

でそれぞれ実施しています。

仮にそれぞれのマックスが100㎏と180㎏だとすると、70㎏でのハイプル vs 36㎏のヘックスバージャンプの比較になります。

ここも考慮して解釈する必がありそうですね。

ウエイトリフティング種目 vs ケトルベルスイング

一方で、ケトルベルスイングも重量物を素早く動かす種目の1つになります。

これとバーベルでジャンプスクワットを比較した研究だと、それぞれのジャンプ力向上への効果には有意差が認められませんでした。

#95 Lake and Lauder, 2012

一方でこの研究ではグループ間でトレーニングボリュームに大きな差がありました。

ジャンプスクワット群では1セッションでトータル12-32レップを実施した一方で、ケトルベルスイング群は30秒を12セットを実施しています。

少なく見積もって2秒に1レップだとしてもトータル180レップとまあまあなボリュームになっています。

その上向上率は
ジャンプスクワット⇒24%
ケトルベルスイング⇒15%
と有意ではないものの若干異なるため、レップ数を揃えたらジャンプスクワットに軍配が上がったでしょう。

しかしながらケトルベルスイングはそもそもジャンプスクワットよりもレップ数を稼ぎやすく、着地のストレスのない種目なのでレップ数を揃えるという発想自体がナンセンスかもしれません。

まとめ

今回紹介した研究上では、ウエイトリフティング種目、負荷を用いたジャンプスクワット(ヘックスバージャンプ含む)、ケトルベルスイングでパワー、ジャンプ力向上に有意差は認められませんでした。

しかし上記の理由から実施時間や労力というコスト面ではケトルベルスイングはやや劣るかもしれません。

ただしケトルベルスイングは『股関節のヒンジ動作からパワー発揮する動作を身に付けるエクササイズ』としては非常に優秀だと考えられます。

そこで覚えた動作をリフティングやジャンプスクワットに転移するという使い方はおススメです。

一方、ウエイトリフティング種目と負荷を用いたジャンプスクワットでは負荷がやや違うものの効果に差はなかったようです。

ウエイトリフティング種目の良さは他にもありますが、いかんせん『動作習得にやや時間がかる』というのが難点です。

人によってエクササイズの目的設定は違いますが『ジャンプスクワットになくてウエイトリフティンングにしかない恩恵』を設定、習得出来ない場合はウエイトリフティングエクササイズを実施するメリットは薄いでしょう。

(僕が思う『恩恵』が何かを説明するとまた長くなるのでまた別の機会で。。)

そちなみに僕は基本的にはその恩恵を得るためにウエイトリフティングエクササイズも指導しますが、『週1回以上の指導頻度が取れないチーム指導にはウエイトリフティング種目ではなく代替種目を実施する』ということが多いです。

フォーム習得に時間をかけすぎて、パワー向上効果が見込めないと意味がないですから。

1つの手法にこだわらず、ケースバイケースで各エクササイズを使い分けられるようになりたいですね!


大学院の実験が1つ終わりました。このまま次は執筆&実験2です。

着実にレベルアップ出来てる感はあるので引き続き頑張ります!


参考文献

1         Hackett D, Davies T, Soomro N, et al. Olympic weightlifting training improves vertical jump height in sportspeople: A systematic review with meta-analysis. Br J Sports Med 2016;50:865–72. doi:10.1136/bjsports-2015-094951

2         Oranchuk DJ, Robinson TL, Switaj ZJ, et al. Comparison of the Hang High Pull and Loaded Jump Squat for the Development of Vertical Jump and Isometric Force-Time Characteristics. J Strength Cond Res 2019;33:17–24. doi:10.1519/JSC.0000000000001941

3         Lake JP, Lauder MA. Kettlebell swing training improves maximal and explosive strength. J Strength Cond Res 2012;26:2228–33. doi:10.1519/JSC.0b013e31825c2c9b

 

 

【第165回】バスケのシュートレンジを広げたければ○○を鍛えろ!

バスケットボール選手にとって、シュートレンジが広いというのは大きな武器になりますよね。

NBAのスター選手、ステフィン・カリーなんてとんでもない距離からシュートを決めます。

じゃあシュートを遠くから決めるにはどうしたら良いか?についてですが、まず大事なのは質の高いシューティングの練習をたくさんすることです。

これは僕の専門ではないので何を意識すれば良いかなどは自分が教わっているコーチに聞いてください。

ただ、シューティングをするだけでは『シュートに必要なフィジカル』というのは強化出来ません。

まったくバスケ経験のない小学1年生と、まったくバスケ経験のない20代の男性、この2名がバスケのシュートを打ったときに、どちらがより遠くからシュートを出来るかというと、これは後者になりそうですよね。

バスケのボールは約500g程度の重量があり、遠くからシュートを打つにはスキルだけでなく最低限の筋力やパワーも必要です。

今回は
✓シュートを遠くから飛ばすにはどんなフィジカル的な要素が必要か?
✓どんなトレーニングが必要か?

ということを解説していきます。

シュート率の高さとフィジカルの相関

Pojskicら(2018)[1]はエリートレベルのバスケットボール選手を対象に、いくつかのシューティングのテストを実施し、その成功率とフィジカル的な測定との関連について調査しました。

その結果、試合の3Pシュートとは静的なシューティングテストよりも動的なシューティングテストのほうが高い相関を示し、その動的なシューティングテストの確率には
✓メディシンボールスロー(上肢のパワー発揮能力)
✓垂直跳び(下肢のパワー発揮能力)
✓間欠的な無酸素スプリントテスト
が関連していることが明らかとなっています。

#41 Pojskic et al., 2018

この研究から読み取れるのは『上肢のパワーも下肢のパワーも、なんなら高強度運動を続けられる無酸素的な持久力も全部大事かも!』ということですね。

シュートの距離が伸びた時のフォームおよび力発揮の変化

次はシュートを打つ距離が変わると力発揮がどう変わるかという研究です。

Nakanoら(2018)[2]はフリースローの距離~3Pの距離で動作解析、地面反力の測定をおこない、その違いについて分析しました。

その結果、シュートの距離が伸びても上肢の仕事量は増加せずに、下肢の仕事量のみ有意に増加しました。

特に股関節で生み出している仕事量が増加しているようで、ここでパワー発揮を出来る能力というのが遠くからのシュートにとって重要なのでしょう。

#92 Nakano et al., 2018

ちなみに上肢の中でも肩、肘、手首に分けた時には肘の仕事量のみ有意に増加しているようです。

Tangら(2005)の研究[3]でも肘関節のトルク発揮能力とシュートの正確性の関連は報告されているので、上肢の中では肘の伸展パワーはシュートレンジに関与しているかもしれません。

個人的にはヘッドセットをしっかりとする2モーションのシュートの場合は肘のパワー発揮の関与も大きくなるんじゃないかな~とは思っています。

そう考えるとバスケ選手がベンチプレスをする場合、重量を求めてワイドグリップで実施するのは微妙かなと思います。

まとめ

まとめると

バスケ選手が遠くからシュートを決めるためには

✓下肢のパワー発揮能力(特に股関節)

✓上肢のパワー発揮能力(特に肘関節)

が重要で、無酸素的持久力も必要かも。

ということになります。

そのためにどういうトレーニングが良いかというと、

・スクワット
・RDL
・プッシュアップ
・ロウイング系
などの全身の筋力トレーニング

・クイックリフト
・プライオメトリクス
・プッシュアップジャンプ
など全身のパワートレーニング

あたりになるでしょう。

めっちゃ普通。

タイトルの答え合わせをするとしたら「バスケのシュートレンジを広げたければ『全身』を鍛えろ!」ということになります。

シュートレンジを伸ばす魔法を知りたくて読んだ方には肩透かしだったかもしれませんが、トレーニングに関しては頑張って基本を積み上げるしかないようですね。

「体幹トレーニングは必要ないの?」と思った方もいるかもしれませんが、

腰が丸まらないようにRDLやスクワットをおこなうことで体幹背面は鍛えられて、腰が反らないようにプッシュアップを(出来れば重りを乗せて)おこなえば体幹前面は鍛えられます。しかも下肢や上肢の動きと連動させながら。強いて言えば体幹側面を鍛えるような種目は個別で必要でしょうか。

もちろんウォーミングアップセッションでプランクなどを導入するのは有効だと思いますが、『トレーニング』には漸進性過負荷が必要です。

また、「冒頭の動画で紹介したカリーなんて全然細身じゃん!」って思った方もいるかもしれませんが、21歳時点でのNBAドラフトコンバインでベンチプレス84㎏を10回は上げているようです。レップ数が多いので少し過剰評価かもしれませんが、換算でMax110㎏は上げる計算ですね。

参照⇒https://www.nba.com/stats/draft/combine-strength-agility

日本のバスケ選手、言い訳せずに基本を積み上げましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


大学院に舞い戻って早4か月、この2-3月は実験スケジュールがつめつめです。

夏までにある程度の形にして投稿の段階までにもっていきたいです。


参考文献

1         Pojskic H, Sisic N, Separovic V, et al. Association between conditioning capacities and shooting performance in professional basketball players; an analysis of stationary and dynamic shooting skills. J Strength Cond Res 2018;32:1981–92. doi:10.1519/JSC.0000000000002100

2         Nakano N, Fukashiro S, Yoshioka S. The effect of increased shooting distance on energy flow in basketball jump shot. Sport Biomech 2018;19:366–81. doi:10.1080/14763141.2018.1480728

3         Tang WT, Shung HM. Relationship between isokinetic strength and shooting accuracy at different shooting ranges in Taiwanese elite high school basketball players. Isokinet Exerc Sci 2005;13:169–74. doi:10.1115/PVP2006-ICPVT-11-93777

 

Training Science【2022年】最も読まれた記事ランキング

今回は2022年に最も読まれた記事ランキングのベスト5を紹介します。

そっそくどうぞ!

5位:【第155回】シーズン序盤は怪我が多い?防ぐ方法はめちゃくちゃシンプル!

シーズン序盤に怪我(特に肉離れなどの筋腱系のもの)が多い理由と、その簡単な予防方法について解説しら記事です。

これからオフに入る選手は必読です!

この記事はこちら

4位:【第154回】リフティング競技とストレングス&コンディショニングの違いを考える

ウエイトリフティングやパワーリフティングで用いられる種目(クリーン、スナッチやスクワット、デッドリフトなど)はアスリートの競技パフォーマンス向上のためのトレーニングにも用いられますが、その際の注意点についてまとめました!

この記事はこちら

3位:【第159回】スポーツドリンクは薄める?そのまま飲む?そこにきちんと理由はありますか?

タイトル通りです。

理由がはっきりと答えられない人は必読です!友達にも教えてあげてください。

この記事はこちら

2位:【第158回】スクワット中の呼吸ってどうしてる?レジスタンストレーニング中の呼吸が下肢の筋に与える影響

『ケツを使うコツは、呼吸をコントロールすること!』⇐記事を読めば納得できるはずです。

我ながら良くかけた記事なので読んでみてください!

この記事はこちら

1位:【第157回】『スクワットで軽い重量を速く上げればパワーがつく!』の落とし穴

全アスリート、トレーニング指導者に読んで欲しい内容。

これが1位で嬉しいです。

是非読んだ感想聞かせてください!

この記事はこちら

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


ナルト全話読み返しました。

やっぱりシカマルが一番好きです。

【第164回】ラダーがアジリティ向上に有効でない理由

先日このような研究をシェアしたところ、様々な反響をいただきました。

#91 Padrón-Cabo et al., 2020

「え!ラダーってアジリティ向上に有効じゃないの。。」といった驚きの意見から

「そりゃアジリティを高めるためのものではないし」といった意見まで。

しかし日本においてはラダーはアジリティ向上のための器具という認識を持たれているケースは多いです。

僕自身、大学院の修士課程のときの研究テーマは『アジリティ』であったのですが、このラダーの研究に関しては、『まあ、そりゃそうやろうな』といった感想でした。

ではなぜ『ラダーをおこなってもアジリティが向上しなかったか』について解説していきます。

そもそもアジリティとは?

そもそもの話になるのですが、アジリティとはどのような能力でしょうか。

実はアジリティというのは科学の世界では

アジリティ=身体的な方向転換の速度+認知・判断能力

だと考えられており、アジリティを測るとされるテストの多くは認知・判断を伴わず、厳密にはアジリティではなく『方向転換スピード』に分類されます。

なのでここからは方向転換スピードと言い換えて話を進めていきますね。

方向転換スピードを測るテストというのは数えられないほど様々なものがあります。

ここに挙げたものはいくつもあるテストの一例ですが、あるテストのスピードが速かったとしても、他のテストのスピードも速いとは限りません

例えばプロアジリティではスプリントが移動手段ですが、Tテストの移動手段はサイドステップとバック走も含まれます。

またスプリントを用いた方向転換のテストであってもプロアジリティとジグザグ走では方向転換の角度が180度と90度というように大きく異なります。

このように
✓移動方法
✓方向転換の角度
がテスト毎で異なるのが、テスト同士の関連を弱めている原因です。

しかしどのテストにおいても

●加速した自分の身体にブレーキをかけてしっかり止める

●止まった後に地面を押して再加速する

といったことが必要になります。

ここに『ラダーではアジリティが向上しなかった』原因があります。

ラダーは地面を強く押さない

方向転換スピードを高めるためには自分の身体にブレーキをかけて止まる&再加速をするために、水平方向に身体を動かす(止める)力を加える必要があります。

そのためには地面反力を
・大きくする
・より傾ける
といった戦略が必要になります。

一方でラダーは足を素早く動かすものの、大きな地面反力は得られませんよね。

また、特に角度の大きなターン動作では重心の低さと方向転換の速さに関係があるとされていますが(Sasabe et al., 2022)、ラダーでは基本的に重心の上下はなく、常に高い重心でおこなう種目が多いです。

それらが『ラダーではアジリティが向上しなかった』理由だと考えられます。

しかもPadrón-Caboら(2020)で用いられたアジリティのテストはスラローム走と、アジリティのテストの中でも大きなブレーキよりも細かい足さばきが求められるテストであり、これがラダーで向上しなかったということは180度ターンなどが用いられるアジリティのテストだとより一層効果は薄そうですよね。

「もちろん地面反力を傾けるための足さばきを覚える」という間接的な効果はあるかもしれませんし、大きな地面反力を活用するようなラダーのトレーニングも考えられるかもしれませんが、「ラダーをどうしても活用したいんだ!」とか「ラダーを世の中に普及したいんだ!」といった熱意がある場合は別として、他の方法を組み合わせることも考慮したほうが良いでしょう。

実際、レジスタンストレーニングの介入(Keiner et al., 2014)や実際のターン動作の修正トレーニング(Dos’Santos et al., 2022)によって方向転換スピードが向上したことが報告されていますし、ラダーの優先順位は低いでしょう。

まとめ

✓ラダーのアジリティ向上効果は薄い

✓方向転換にはブレーキ・再加速のための大きな地面反力が必要だが、ラダーではそこを向上出来ないから?

✓方向転換スピードを高めるには下肢のトレーニングや実際の動作指導のほうが有効

なんだかラダーをけなす記事みたいな雰囲気ですが、僕が伝えたいのはラダー自体への否定ではなく『アジリティ向上のためにラダーをやるのってどうなん?』ということ。

『育成年代での多様な運動経験』の1つとしてならラダー1つで色んなバリエーションの運動が出来ますし、アジリティ向上という目的ではなく『細かい足さばきを覚えるため』といった目的であればラダーは有効かもしれません。

ただ僕自身は限られたトレーニングの時間で、その『細かい足さばきを覚える』ことがどうパフォーマンスに繋がるかは説明出来ないため、高校生以上の年代でラダーを使用することはあまりありません。

もちろん、スキルコーチがそのスポーツのスキルの習得の補助にラダーを使用するケースはあると思いますのでそれはOKかと思います!

以上、大学院でアジリティを研究してずっと思っていたことでした!

アジリティについてもっと知りたい人はこちらの記事で⇓

【第61回】アジリティの本質を理解する①段階的な習得

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


秋に大学院の博士課程に入学し、3か月が過ぎました。

先行研究調査、実験計画、機材の使用方法確認、、研究に関することの負荷が半端ないです(笑)

ただ、楽しい負荷ですし成長出来る環境なので頑張ります!

頑張ってブログの更新も(余裕があればセミナーの開催も)していこうと思うので応援よろしくお願いします!


 

1         Keiner M, Sander A, Wirth K, et al. Long-Term Strength Training Effects on Change-of-Direction Sprint Performance. J Strength Cond Res 2014;28:223–31. doi:10.1519/JSC.0b013e318295644b

2         Dos’Santos T, Thomas C, Comfort P, et al. Biomechanical Effects of a 6-Week Change of Direction Speed and Technique Modification Intervention. J Strength Cond Res 2022;36:2780–91. doi:10.1519/jsc.0000000000003950

3         Sasabe K, Sekine Y, Hirose N. The Relationship Between Motor Ability and Change-of-Direction Kinematics in Elite College Basketball Players. Int J Sport Heal Sci 2022;20:175–80. doi:10.5432/ijshs.202205

4         Padrón-Cabo A, Rey E, Kalén A, et al. Effects of Training with an Agility Ladder on Sprint, Agility, and Dribbling Performance in Youth Soccer Players. J Hum Kinet 2020;73:219–28. doi:10.2478/hukin-2019-0146