【第91回】脚の『つり』~知ってるようで知らないメカニズムと、意外な原因~

脚の『つり』ーー

ふくらはぎや太ももなど、持久的な運動や繰り返しの多い運動でこれを経験したことのある選手は少なくないと思います。

「つらないためには水分を取って~」

「水分だけでなく電解質も補給して~」

よく聞くつり予防のアドバイスとしてはこれくらいでしょうか?

しかしながら「しっかり水分をとっててもつっちゃうんだよなぁ、、」という声をよく聞くのも事実です。

運動誘発性筋痙攣(Exercise Associated Muscle Cramps)

スポーツ中に起こる『つり』『こむら返り』と呼ばれるものは、スポーツ科学の世界では
Exercise Associated Muscle Cramps(運動誘発性筋痙攣)と呼ばれます。

この運動誘発性筋痙攣について、Nelsonら(2016)[1]がメカニズム、原因、対処法についてレビューしているので、本日はその内容を紹介します。

発生メカニズム&リスクファクター

運動誘発性筋痙攣は、単純に説明すると筋肉が短縮位で過剰な活動を起こしてしまっている状態です。

その発生メカニズムとして、以下2つの理論が提唱されています。

①水分&電解質不足によるもの

ナトリウム、カリウムなどの電解質が不足することによって神経終末の活動に変化が生じ、筋肉が過収縮するという理論です。

一般的にもこちらの理論が知れ渡っている印象がありますが、実は水分・電解質不足の状態の選手と、そうでない選手との間で運動誘発性筋痙攣の発生率に差がなかったとするデータもいくつかあるようで、
j実はこの理論は科学的にはあまりサポートされていないようです⚠

ちなみに以前は『Heat Cramp』とも呼ばれ「暑熱環境下での脱水から足のつりにつながっているのでは?」と考えられていたようですが、実際には寒冷環境でも脚のつりは起こることも明らかになっているので(というか、みなさん自身の経験でもそうですよね?)、今はHeat Crampというような呼ばれ方もしなくなったようです。

②神経筋コントロールの変化によるもの

著者らはこちらの発生メカニズムのほうが科学的にも妥当性があるとしています。

発生メカニズムについては以下の図のように、筋疲労による神経筋活動の変化⇒運動誘発性筋痙攣
という形で考えられています。

この『筋疲労の蓄積』につながるリスクファクターだと考えられるものがいくつかあり、この論文の中で紹介されています。

家族の既往歴

親が運動誘発性筋痙攣を発症したことがあると、本人も発症しやすいといったデータもあるようです。

コラーゲン構造や機械的特性は遺伝的な要因の影響を受けることも多いらしく、それが運動誘発性筋痙攣の起こりやすさにもつながっているのでは、とのことです。

一方で家族の既往歴は関係なかったとする研究も一定数あるようなので、この関係性については断言できません。

性別

男性より女性のほうが疲労への耐性が強いため、同じ相対強度であれば男性のほうがより筋疲労を起こしやすいそうです。

実際に、長距離走における運動誘発性筋痙攣の発症率は男子選手のほうが高いというデータもレビュー論文の中で紹介されています。

運動強度・量

そもそも運動誘発性筋痙攣は活動的な長時間運動で発症します。

運動強度(走速度)とも関連があるらしく、長距離走は高速で走っている状況のほうが運動誘発性筋痙攣発症しやすいようです。

また、以前のレースより速い速度での走行もリスクとなるようです。

球技スポーツにおきかえると、練習より試合の強度や出場時間が勝ると足がつりやすいということですね。
主観的にはこの普段の練習と試合の負荷のギャップというのが大きなリスクになっている印象があります。

(練習や普段の練習試合で1試合~1.5試合分くらいしか動いておらず、ダブルヘッダーの2試合目の終盤に足をつる。といった経験はありませんか?)

既往歴

個人的に特になるほどと思ったのがこれ。

運動誘発性筋痙攣自体の既往歴はもちろん、足関節捻挫やアキレス腱炎の既往歴(もしくは現在の痛み)もリスクファクターになるようです。

メカニズムとしては

①軟部組織の損傷⇒周囲の神経活動の変化(ゴルジ腱器官の機能低下など)⇒α運動神経の活動⇑

②傷害受傷それ自体&その後の安静による廃用性萎縮⇒周囲筋の機能低下(疲労耐性も低下)⇒筋疲労増加

などが考えられるよう。

気になって最近の研究も調べたところ、2017年の大規模な調査(1万5000人のランナーを対象とした研究)では、運動誘発性筋痙攣を発症した選手は発症しなかった選手に比べて腱傷害の既往歴を持っていた割合が1.72倍(PR=1.72;95%CI=1.55~1.90)高かったそうです[2]。

予防方法

以上が運動誘発性筋痙攣の原因となりうるリスクファクターです。

次はその原因を踏まえて、レビュー論文の中で紹介されている予防法について。

キネシオテープ、着圧ウェア

キネシオテープや着圧ウェアは、接地時の軟部組織の振動をやわらげたりすることによって筋疲労を軽減できる可能性があるとのことです。
(個人的には着圧ウェアは静脈還流の促進のほうが効果としてはありそうな気がしますが)

実際にレビュー論文の中ではキネシオテープが運動誘発性筋痙攣を予防するというデータも紹介されています。

マッサージ

マッサージの運動誘発性筋痙攣への効果を検証した研究は紹介されていませんでしたが、
・マッサージは筋疲労を緩和させる効果があるので、運動誘発性筋痙攣を予防できるのでは
・マッサージによって神経の活動を抑えることができるので、運動誘発性筋痙攣を予防できるのでは
とのことです。

論文の中でも述べられているのですが、運動前にマッサージをすることで神経の活動を抑えることはパフォーマンスの低下にもつながる恐れがあります。

個人的には運動後のマッサージで疲労回復を促進し、次回の運動での運動誘発性筋痙攣を予防する目的で実施するのが良いのではと考えています。

水分、電解質の摂取

冒頭でも紹介したのですが、身体の水分・電解質の状態と運動誘発性筋痙攣の発症には明確な関係性は認められていません。

しかしながらこれらの十分な摂取は熱中症の予防にもつながるので、必要であることには変わりありません。(熱中症の症状の中に筋痙攣も含まれますので、その予防には効果的かも)

リハビリ・コレクティブエクササイズ

先述したように、腱炎、足関節の捻挫が運動誘発性筋痙攣につながる可能性が高いので、それらの傷害の既往歴がある選手、後遺症が残っている選手は、まず十分なリハビリを行いましょう。

また、ハムストリングの運動誘発性筋痙攣をしてしまう選手に対して、協働筋である臀部の筋肉を使えるように再教育した結果、ハムストリングの運動誘発性筋痙攣を防げたという事例研究もあるようです。

ある部位に頼り過ぎていて、そこの筋の筋疲労の蓄積⇒運動誘発性筋痙攣となっている選手に対しては、そのような身体の使い方の改善も有効なアプローチになり得そうです。

ストレッチ

事前のストレッチが運動誘発性筋痙攣を予防したというデータはないようですが、運動誘発性筋痙攣が発症した後の処置としては、ストレッチが最も効果的な方法とされています。

これはゴルジ腱器官からの抑制作用がα運動神経に働き、過活動を抑制するためだと考えられます。

ピクルスジュース

運動誘発性筋痙攣を発症した選手にピクルスジュースを選手に飲ませた場合、何もしなかった場合よりも早く状態が回復したという研究がいくつか紹介されています。

このあたりは東原兄弟さんのブログ(こちら)で詳しく解説されていたのでそちらを参考にしてください!

深呼吸

筋疲労を引き起こすメカニズムの1つに、代謝産物によって筋肉が酸性に傾くことが挙げられます。

理論的には筋内に酸素を多く送り込むことでこの酸性への傾きはある程度防ぐことができるのですが、実際に深呼吸を行うことで運動誘発性筋痙攣を予防できたという事例研究も紹介されています。

ほんまかいなと思ってしまいましたが、コストもかからないし試す価値はあるかもしれません。

まとめ

運動誘発性筋痙攣を防ぐには、とにかく過度な筋疲労を防ぐこと!

紹介した内容はもちろんですが、そもそもの体力(筋力・持久力)を高めることも大事ですよね。

紹介した論文はあくまでもナラティブレビュー(著者が選んだ論文を用いてその分野のことを紹介する論文)なので、もしかしたら今回紹介したデータには少し隔たりはあるかも。

一般的には馴染みのある脚の『つり』ですが、意外と研究で明らかになっていないことも多いんですね。

今後の研究に期待です!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


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詳しくはこちら


参考文献

  1. Nelson, NL and Churilla, JR. A narrative review of exercise-associated muscle cramps: Factors that contribute to neuromuscular fatigue and management implications. Muscle and Nerve 54: 177–185, 2016.
  2. Schwellnus, MP, Swanevelder, S, Jordaan, E, Derman, W, and Van Rensburg, DCJ. Underlying Chronic Disease, Medication Use, History of Running Injuries and Being a More Experienced Runner Are Independent Factors Associated With Exercise-Associated Muscle Cramping. Clin J Sport Med 0: 1, 2017.Available from: http://insights.ovid.com/crossref?an=00042752-900000000-99416

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