【第129回】プロテインの効果を再考する

プロテインを初めとするサプリメントは、あくまでも『栄養補助食品』

食事だけでは摂取しきれない栄養を補助的に摂取するのが目的ですよね。

『プロテイン』なんてなんなら『タンパク質』の英語の直訳。

単純に、タンパク質が摂れるだけのサプリメントです。(だけなんて言うと失礼ですが)

そのため食事で必要量を補えてさえいればわざわざプロテインをサプリメントで摂取する必要は無い、とも考えられます。

実際にMortonら(2017)のメタアナリシス(2)でも1日あたり体重×1.62g以上のタンパク質を摂取しても、それ以上の除脂肪体重(筋肉量)の増加は認められない可能性が示唆されています。

この研究単体で考えると、食事で必要摂取量を補えていればプロテインのサプリメント(以下:プロテイン)を追加で摂取する必要性は薄いですよね。

ただ、ハードで高頻度なトレーニングが必要なアスリートの場合、プロテインの摂取が有効な可能性もあるようです。

運動後のタンパク質&糖質摂取の効果

Naclerioら(2020)の研究(3)ではトレーニング後に

・糖質のみのドリンクを摂取した場合

・糖質とタンパク質を含む複合ドリンクを摂取した場合

でのリカバリー効果を比較しました。

具体的には筋肉痛、垂直跳びの数値、収縮時の筋形質などの指標を経時的に測定し、その変化をリカバリー効果としています。

その結果、タンパク質を含むドリンクを摂取したほうが垂直跳びの数値と筋腹の収縮幅のリカバリーが早かったことが示されました。

#71 Nacleiro et al., 2020

これは現場に応用して考えると、しっかりとした直後の栄養補給で、トレーニング翌日の競技練習のクオリティが大きく変わってくるとも解釈できます。

各メーカーが販売してるリカバリー用のプロテインや、通常のプロテインにブドウ糖やマルトデキストリンを加えたものがおすすめです。

また注目すべき点として、この研究の被験者のベースラインでのタンパク質摂取量は1.7g/kg/日と、上記のMortonらの研究の数値をすでに上回っているという点が挙げられます。

まとめ、考察

なぜこのような結果になったかについてですが、以下2つが考えられます。

①吸収しやすいタンパク質のトレーニング『直後』の摂取が有効

②激しいトレーニングを実施する場合は1.6g/kg/日の摂取では足りない

ご存知の通り、トレーニングや激しい競技練習では筋肉は分解されます。

その直後というタイミングで、吸収されやすい形になったタンパク質を補給するということがやはり大事だということが考えられます。

また、Mortonらの研究で示された1.62g/kg/日という数値は、激しい運動を実施するアスリートのみを対象にした数値ではありません。

国際スポーツ栄養学会(1)でも、激しいトレーニングを高頻度で実施するアスリートの場合は、身体作りにおいて1.7~2.2g/kg/日のタンパク質摂取が必要ではないかということが示唆されています。

どちらにせよ、運動直後に吸収しやすい形でのタンパク質をプロテインを含むサプリメントなどで摂取することは非常に重要であるという認識は改めて持てた研究でした。

身体作りという観点だけでなく、リカバリーという観点からも、トレーニング直後の栄養摂取にはこだわっていきましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


着々とスポーツ界の日常は戻ってきていますね!

感染予防策をしっかりと講じながら、スポーツを楽しんでいきましょう!


参考文献

  1. Kerksick, CM, Wilborn, CD, Taylor, L, Campbell, B, Almada, AL, Collins, R, et al. ISSN Exercise & Sport Nutrition Review: Research & Recommendations. J Int Soc Sports Nutr 7: 7, 2018.
  2. Morton, RW, Murphy, KT, Mckellar, SR, Schoenfeld, BJ, Henselmans, M, Helms, E, et al. A systematic review , meta-analysis and meta- regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. 1–10, 2017.
  3. Naclerio, F, Larumbe-Zabala, E, Cooper, K, and Seijo, M. Effects of a Multi-ingredient Beverage on Recovery of Contractile Properties, Performance, and Muscle Soreness After Hard Resistance Training Sessions. J strength Cond Res 34: 1884–1893, 2020.

 

【第128回】遺伝に関係なく速筋の割合を増やせる?~Eccentric Overload Training~

前回の記事は

🔻最大筋力は『筋断面積』『神経の機能』『速筋と遅筋の割合』で決まる

🔻トレーニングでは筋断面積と神経の機能に焦点を当てられがちだが、速筋と遅筋の割合も変化する

🔻トレーニングの実施方法に気をつけなければ、速筋の割合は低下することが多い

といった内容でした。

基本的に疲労困憊まで追い込むようなトレーニングを実施すると、遅筋の割合が増えるとされています。

そのため、VBTやIntra-Set Restなどを用いて、いかに疲労困憊まで追い込まずに筋力を向上させるかの工夫が必要になります。

そうした工夫をすることによって、速筋の割合を増やすまでにはいかないものの、ある程度維持は出来るといった報告は、前回の記事の中でも紹介してきました。

一方で、単一の研究ではありますが速筋の割合が増えたという報告もあるので、今回はその研究を紹介します。

 

Eccentric Overload Training

Friedmannら(2010)(1)は、6週間のレッグエクステンションを用いたトレーニングを2つの方法で実施し、それぞれの適応について検証しました。

1つ目のグループは通常のレッグエクステンションを実施し。

2つ目のグループは、通常のコンピューターによる負荷調節が出来るレッグエクステンションのマシンで、エキセントリックの局面の負荷のみ大きくしたレッグエクステンションを実施しました(Eccentric Overload Training)。

その結果、Eccentric Overload Trainingを実施したトレーニングでは繊維ごとの断面積においてTypeⅡX(速筋線維)の選択的肥大が確認され、有意ではないものの全体に対する速筋線維の割合も増加を示しました。

また、垂直跳びの数値においてもEccentric Overload Trainingのほうが大きな増加の傾向を示しました。

またFlywheelといった機材を用いたEccentric Overload トレーニングは、パワー発揮能力やスプリントやジャンプなどのパフォーマンス向上に効果的だったとメタアナリシスでも報告されています(2)。

このメタアナリシスでは筋線維組成のことについて述べられていなかったのですが、Friedmannらの研究で確認された速筋線維の選択的肥大によってこの適応が引き起こされた可能性も十分に考えられます。

Eccentric Overloadと似たような方法でFast Eccentricというトレーニング方法もありますが、そちらは重さではなく速度でエキセントリックの負荷をかけるといったものですね。

Fast Eccentricでは基本的に100%1RMより軽い重量で実施しますが、Eccentric Overloadでは100%1RMよりも大きな重量で実施するといった違いがあります。

まとめ・現場での活用方法

前回からの内容と合わせてまとめると

●各セット限界までオールアウトするように筋力トレーニングを実施

⇒速筋の割合が減る

●各セットで余力を残す(VBTやIntra-set Rest、余力を残るような負荷―回数設定)

⇒速筋の割合を維持できる

●Eccentric Overload Training

⇒速筋の割合が増える?

といったことが言えそうです。

ただ、Eccentric Overload Trainingと筋線維組成の関係性については単一の研究の結果なので、今後の報告を待つ必要があるでしょう。

また、余力を残した負荷設定にし過ぎて扱う重量自体があまりに軽くなると、神経的な適応が起きずに最大筋力の向上に対して逆に非効率になることもあり得ます。

そのちょうど良い負荷設定も、我々トレーニング指導者の腕の見せ所ですよね。

特殊な機材がない場合がほとんどだと思いますが、通常の環境で出来るEccentric Overload Trainingとして

  • 片脚エキセントリックレッグプレス(両脚でコンセントリック)
  • 補助つきベンチプレス(コンセントリック局面で補助者にめっちゃ補助してもらう)

等が考えられます。

科学的知見は、その方法をそのまま真似ることが出来なくても、メカニズムを理解して頭を使えば今ある環境でも応用が可能です。

是非今後のトレーニングの参考にしてみてください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


今回紹介したEccentric Overloadを初めてから数週間、久々に高重量のスナッチをやってみたら、コロナ期間でしばらく重さを扱っていなかったにも関わらず以前ギリギリだった重量が楽に上がってびっくりしました。。!

こういった研究を自分の身体で試すのって楽しいですよね。


参考文献

  1. Friedmann-Bette, B, Bauer, T, Kinscherf, R, Vorwald, S, Klute, K, Bischoff, D, et al. Effects of strength training with eccentric overload on muscle adaptation in male athletes. Eur J Appl Physiol 108: 821–836, 2010.
  2. Maroto-Izquierdo, S, García-López, D, Fernandez-Gonzalo, R, Moreira, OC, González-Gallego, J, and de Paz, JA. Skeletal muscle functional and structural adaptations after eccentric overload flywheel resistance training: a systematic review and meta-analysis. J Sci Med Sport 20: 943–951, 2017.Available from: http://dx.doi.org/10.1016/j.jsams.2017.03.004