【第151回】毎週末リーグ戦で試合の場合月火あたりにはウエイトやることが多いと思うけど木金あたりにもやっちゃっていいんじゃね?っていう記事

『オフ期間だけウエイトやるけど試合期にはやらなくなる』

もったなさ過ぎてもったいないお化けも心配する事案です。

トレーニングをすると筋力などの体力が向上しますが、トレーニングを中断すると、それらの体力は徐々に失われていきます。

オフにトレーニングをやり込んで肉体改造!それでシーズンを戦い抜くぞ!(ただし試合期はトレーニングやらない)なんてことをしていると、試合期序盤は筋力が高まった状態で戦えますが、シーズン終盤の大事な試合で筋力が落ちてしまっているという残念な結果に陥ってしまいます。

単年で見てもそのようなデメリットがあるうえ、これが数年間積み重なるととんでもねぇ差になります。

スポーツ・カテゴリによっては試合期が非常に長く、試合期間中でも筋力を向上させないと数年単位での身体作りの積み上げが出来ないという状況も多いことでしょう。

『でも毎週試合あるんだからトレーニングする余裕なんてねえから!』

その意見もまあ分かります。トレーニングしんどいもん。

ただ『しんどい』をトレーニングをしない言い訳にするのはナンセンスです。

一方で『追い込み過ぎて疲労が試合に影響するのが嫌だ』⇐これは分かります。

週末に試合があったとしても、その影響を最小限にするように考慮してトレーニングを組むことが出来れば試合期もトレーニングを行い続けることが出来ますよね。

目的別トレーニングの行い方

試合期のウエイトトレーニングの実施方法は

①トレーニングをやらない

②筋力を維持する

③筋力を向上させる

の3つに分けられます。

①は特別な事情がない限りなしです。理由は上記の図で説明した通りです。

では②と③について解説していきましょう。

②筋力を維持する

Ronnestadら(2011)の研究では、プロサッカー選手を

・2週間に1回トレーニング群

・1週間に1回トレーニング群

に分け、シーズン中の筋力の変化を比較しました。

1回のセッションの内容は90%1RM程度の重量での4回3セットのスクワットです。
(論文上での表記があいまいでしたが、おそらくそのくらいです)

アップ時間+10分で終わるようなセッションですよね。

そんなんで筋力維持出来るんかいな。。

#10 Ronnestad et al, 2011

なんと週1回のトレーニング群では筋力、スプリントスピードともに維持が出来たとのこと。

逆に2週間に1回のトレーニングでは維持が出来ずに徐々に低下していったようです。

もちろん筋力レベルによって維持に必要なトレーニング量は変わってくると思いますが、1つの目安として参考にはなりますよね。

試合への影響を最小限にするには、土日が試合の場合翌日のオフ日、もしくは火曜の練習前後に行うのが良いでしょう。

試合期に筋力を維持するためにも、週1回、アップ+10分の時間、とれません?

 

③筋力を向上させる

筋力を向上させるには、維持の量よりのある程度トレーニングボリュームを確保する必要があります。

僕はリーグ戦中は非線形のピリオダイゼーションを推奨するマンなので、そのパターンで解説します。

非線形ピリオダイゼーションでは、週の中で異なる強度・ボリュームのセッションを行うことになります。

週の最初に中重量である程度のボリュームのトレーニング、週の後半には高強度でボリューム少な目のトレーニングを行うという形が良いでしょう。

何故この形かというと、高重量(高強度)でボリューム少な目のトレーニングのほうが、身体への疲労の蓄積が小さいからです。

Bartolomeiら(2017)は高強度のトレーニングと高ボリュームのトレーニングを比較して、その回復の過程を測定しています。

その結果、筋力の回復も筋肉痛の少なさも、高強度のトレーニングに軍配が上がっています。

また、高強度トレーニングにおいては24時間後に若干筋肉痛が残ってそうに見えるものの、筋力は24~48時間後にほぼ回復しています。

つまり木金あたりに行った高強度低回数のウエイトトレーニングは、土日の試合にはあまり影響を与えないのではと考えられます。

さらにこの研究ではどちらの群も8セットで行っているものの、実際はそんなに行わないことが多いのでなおさらですよね。

まとめ

試合期にもトレーニングを行うことの重要性、維持と向上で行うべきトレーニング量の目安について解説しました。

ベーシックなウエイトトレーニングの重要性は広まってきているものの、年間を通したトレーニングの継続の文化というのはまだ認識が行き届いていないように感じます。

是非今回の記事を参考に試合期のトレーニングついても考え直してみてください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


1月22日土曜日の昼ごろ~夕方に東京でセミナーを開催します。

コロナも落ち着いてききたので久々の対面式です。

内容は

・アスリートのトータルコンディショニング

・パワーにつながる柔軟性

を予定しています。

以前のセミナーに参加してくださった方はご存知かと思いますが、佐々部のセミナーでは講師と参加者のやり取りも活発に行い、伝え方も工夫しているので、ブログの50倍くらい学びになるかと思います!

またツイッターでアンケートもとりますが、希望が多ければオンラインや関西を初めとする地方での開催も検討します!


参考文献

  1. Bartolomei, S, Sadres, E, Church, DD, Arroyo, E, Iii, JAG, Varanoske, AN, et al. Comparison of the recovery response from high-intensity and high-volume resistance exercise in trained men. Eur J Appl Physiol 117: 1287–1298, 2017.
  2. Rønnestad, BR, Nymark, BS, and Raastad, T. Effects of In-Season Strength Maintenance Training Frequency in Professional Soccer Players. J Strength Cond Res 25: 2653–2660, 2011.Available from: http://content.wkhealth.com/linkback/openurl?sid=WKPTLP:landingpage&an=00124278-201110000-00003

 

【第150回】RFDの高め方~腱にも着目したトレーニング

前回の記事ではRFDの基礎知識とその重要性について解説しました。

おさらいすると

・RFDは力を一気に出す能力

・ジャンプやスプリントでは短い時間で地面から力(正確には力積)を貰わなければいけないのでRFDめっちゃ大事

・RFDとパワーは異なる要素

といった内容でした。

今回はRFDに貢献する要素についてもう少し掘り下げ、その向上の方法について解説していきます。

EMD~電気機械的遅延

RFDと関連する要素にEMD(Electromechanical Delay)というものがあります。

日本語に直訳すると『電気機械的遅延』です。

(何かいきなり難しい言葉が出てきた。。読むのヤメょ。。)

そう思う気持ちもわかります。

ただなるべくわかりやすく説明するのでもう少し読んでみてください。

関節が動くときって、脳・神経からの命令で筋肉が収縮する⇒腱が骨に力を伝える⇒関節が動く、という現象が起きますよね?

EMD(電気機械的遅延)というのは

●神経から命令を出されたタイミング

●実際に関節が力を発揮したタイミング

のずれ(=遅延)を表したものになります。

そしてその遅延が起きる要因の一つに、筋がグッとなったときの腱のビヨ~ンがあります。

もうちょっとちゃんと表現すると、腱スティフネス(≒腱の硬さ)が不足している場合、筋の収縮時、腱の余計な伸長による関節への力の伝達効率の低下が起こります。

その結果、十分な腱スティフネスがある場合と比較して、神経の活動・筋の出力は同じなのに力が伝わるのが遅くります。

一方で十分な力発揮時間があれば腱スティフネスが低くても徐々に張力を発揮できるので、RFDには差が出るけれど最大筋力には差が出ないという状態にもなり得るでしょう。

つまりRFDを向上させるためには最大筋力の向上だけでなく、腱スティフネスの向上も重要になってくるのです。

実際にWuら(2010)のプライオメトリクスの介入研究では、腱スティフネス増大とEMDの低下が報告されており

Costaら(2010)の高ボリュームのストレッチの介入研究ではEMDの増加とRFDの低下が認められています。

これらの結果から考えて、腱スティフネス向上⇒EMDの低下⇒RFD向上、といった流れが見えてくるでしょう。

腱スティフネスを高めるには?

腱スティフネスと一言に言っても大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋等の腱でそれぞれ役割が異なってきます。

個人的に特に重要だと考えているのがアキレス腱のスティフネス。

長距離選手においてはランニングエコノミーとの関連も報告されていますし(Albracht&Arampatzis, 2013)、ドロップジャンプのようなSSC課題、スプリントにおいても重要だと考えられます。

Burgesら(2007)の研究ではプライオメトリクスと足関節底屈のアイソメトリックトレーニングでの腱スティフネス向上の効果を検証したところ、どちらも有意にアキレス腱の腱スティフネスを向上させたことを報告しています。

スクワットやデッドリフトでは股関節や膝関節を中心に大きな力・パワーを出す能力が鍛えられますが、最終的に地面に力を加えるのは足部になります。

その中心となるアキレス腱のスティフネス向上、足関節のRFD向上のためにもプライオメトリクスや足関節のアイソメトリックなトレーニングは有効でしょう。

(膝関節・股関節に着目した考察も違った視点で色々考えられるのですが、本日はいったんここまでで。。)

まとめ

●RFDを向上させるには最大筋力でそのピークの山の高さ自体を向上させることも有効だが、力の伝達効率を向上させるために腱スティフネスを高めることも大事。

●腱スティフネスの向上⇒EMD(電気機械的遅延)の減少⇒RFD向上につながる

●腱スティフネスを向上させるためにはプライオやアイソメトリックエクササイズも有効

もちろん、コンセントリックやエキセントリックの動きを伴う運動も有効である可能性も高いですが、他の要素も絡んでくるのでここでの議論は一旦置いておきます。

また、腱スティッフネス以外の構造的要因(筋束長、CSAなど)や神経的要因ももちろんRFDに関与すると考えられます。

前回の記事と合わせて読むことで、少しはRFDに対するよく分かんない感が減れば幸いです!

【第149回】爆発的力発揮!RFDの基本を理解する

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


今年4月からの国立スポーツ科学センターでの勤務も半年が経過し、だいぶ生活スタイルも落ち着いてきました。

他の現場も毎日充実しており、ほんまに周りに恵まれたな~という毎日です。

そろそろ中堅どころの年齢に片脚をつっこんできたので、業界の後輩さんたちにも何かできればな~と思っていろいろ考えています。


参考文献

  1. Albracht, K and Arampatzis, A. Exercise-induced changes in triceps surae tendon stiffness and muscle strength affect running economy in humans. Eur J Appl Physiol 113: 1605–1615, 2013.
  2. Burgess, KE, Connick, MJ, Graham-Smith, P, and Pearson, SJ. Plyometric vs. isometric training influences on tendon properties and muscle output. J Strength Cond Res 21: 986–989, 2007.
  3. Costa, PB, Ryan, ED, Herda, TJ, Walter, AA, Hoge, KM, and Cramer, JT. Acute effects of passive stretching on the electromechanical delay and evoked twitch properties. Eur J Appl Physiol 108: 301–310, 2010.
  4. Wu, YK, Lien, YH, Lin, KH, Shih, TTF, Wang, TG, and Wang, HK. Relationships between three potentiation effects of plyometric training and performance. Scand J Med Sci Sport 20: 80–86, 2010.

 

 

 

【第149回】爆発的力発揮!RFDの基本を理解する

RFD (Rate of Force Development)

という言葉を聞いたことありますか?

体育系大学やスポーツ系専門学校のバイオメカニクス関連の授業では必ず出てくる単語ではないでしょうか。

日本語でいうと「力の立ち上がり率」です。

大きな力をどれだけ短い時間で出せているか?という指標で、前回紹介したIsometric Mid-Thigh Pull(IMTP)やBiodexなどの機材で測定可能です。(前十字靭帯のリハビリを経験した選手は測ったことがあるかもしれないですね!)

RFDの重要性

スプリント中の接地時間は0.1~0.2秒程度(Kale et al., 2009)、ジャンプの上昇局面動作時間は0.2~0.5秒程度であることが報告されており(Marshall et al., 2013)、この短い時間でより大きな力積を得ることがパフォーマンス向上には必要になります。

※スプリントに関しては接地前の振り下ろしによる力の発揮も関わりますし、CMJだと下降局面ですでに発揮している力も関与しますが、今回の記事では触れません。あしからず。

(力積とは?を解説した記事はこちら⇓)

【第110回】スポーツ選手も物理学を知ることでパフォーマンスが上がる?~力積とは?パワーとは?

IMPTのように下肢3関節を伸展するように力を発揮したとき、0.1秒の時点でPeak Force(最大の力)の50%強、0.2秒の時点でも80%程度の力しか発揮出来ていないことが報告されています(Wang et al., 2017)。

接地中になるべく大きな力を出したいのに、RFDが低いと接地期前半での力があまり出せず、大きな力が出せ始めたぞというところで離地をしてしまうということになります。

一方でRFDの高い選手は離地までの間により大きな力積を稼ぐことが出来、その結果高いジャンプ力や速いスピードを達成できると言う訳です。

また、RFDが大きく早い段階から力を加えることが出来ると、離地までの時間も早くなると考えられます。

※力積は時間×力なので、時間の成分が少なくなるぶん力積にはマイナスに働きますが、その分初期の力発揮の増大がそれ以上の貢献をするでしょう。

バスケットボールやバレーボールなどの対人競技であれば『高く』跳ぶだけではなく、『早く』跳ぶ必要がある場面もあるので、なんかもう、RFDめっちゃ大事。

RFD≠パワー

RFDってなんだか雰囲気『パワー』にも似てますよね。

爆発的な力発揮ってところが特に。

(パワーについては⇓)

【第111回】(続)スポーツ選手も物理学を知ることでパフォーマンスが上がる?②~パワーへの理解を深める

しかし特にIMTPで測定するようなRFDの計測時、筋肉はパワーを発揮していません

「え?」

って思った方もいると思いますが

「そりゃそうやろ」

って思った方もいるかと思います。

そりゃそうやろ派の人はここから先は読まなくて大丈夫です。次回作にご期待ください。

 


制作・著作
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さて、パワーを発揮していない件についての解説です。

前回の記事でも紹介した通り、RFDは力÷発揮するまでの時間で算出されます。

 

図では0.25秒(250ms)になっていますが、ここは様々な時間で測定可能です(だいたい50ms~250msが多いです)。

そしてその測定の多くはIMTPやIsometricなレッグエクステンションなどで測定されることが多いです。

そう、Isometricなので、パワー=力×速度は0なんですよね。

たまにRFDを『力の立ち上がり速度』と訳している文も見ますが、ここから考えても『力の立ち上がり率』のほうが訳としては適していることが分かりますよね。

研究の中にはコンセントリック収縮でのRFDも測定しているものもあるのでそちらはパワー発揮をしていることになりますが、どちらかと言えば少数派です。

つまりRFDが高いということは

・速度ではなく力に着目したときの

・収縮初期の力発揮が

強い!

ってことなので、それがイコール力積の大きさに繋がるという訳ではありません。

接地期後半の速い速度での力積獲得とは違う要素になるので。

しかし言い方を変えると

ジャンプなどの運動課題においては

①上昇局面初期での力の立ち上がり&大きな力(≒RFD)

②上昇局面後半の大きな速度での力・パワー発揮

が必要だと考えられるので、結局なにが言いたいかというと、RFD=パフォーマンスに直結というわけではないものの、RFD、めっちゃ大事。

まとめ

今回はRFDとはなんぞや?と、パワーとの違いについて解説しました。

次回も(やる気が出れば)RFDを高めるために必要な要素について解説しようと思います!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


参考文献

  1. Kale, M, Aşçi, A, Bayrak, C, and Açikada, C. Relationships among jumping performances and sprint parameters during maximum speed phase in sprinters. J Strength Cond Res 23: 2272–2279, 2009.
  2. Marshall, BM and Moran, KA. Which drop jump technique is most effective at enhancing countermovement jump ability, “countermovement” drop jump or “bounce” drop jump? J Sports Sci 31: 1368–1374, 2013.
  3. Wang, R, Hoffman, JR, Tanigawa, S, Miramonti, AA, La Monica, MB, Beyer, KS, et al. Isometric Mid-Thigh Pull Correlates with Strength, Sprint, and Agility Performance in Collegiate Rugby Union Players. J Strength Cond Res 30: 3051–3056, 2016.

最近は貝を捌くのにはまっています。

ホッキ貝はめちゃくちゃ簡単なのですが、赤貝が難しい。

殻同士のスペースがないので、最初に殻を力ずくでずらさないといけないので。(出来たら超楽しい)

あ、1月あたりにまたセミナーを開催しようと思うので、日程等決定し次第このブログで周知しようと思います!