【第51回】競技に特化したトレーニングとは

野球に必要な筋肉を教えてください!
バスケに特化したトレーニングを教えてください!
サッカーに必要な動きを強化してください!

選手・コーチから、トレーニング指導者に対してこのような要望が出ることは多々あると思います。

もちろん選手やコーチからのニーズを満たすことがトレーニング指導者の役割でもあるので、これらの要望に対して否定的な返答はわざわざしませんが、あえて言わせてもらえば
「競技によって必要なトレーニングはそこまで変わらない」
と僕は考えています。

競技によって変わる部分と言えば、徐脂肪体重と最大酸素摂取量の必要性のバランス(それについてはこちら)とアジリティの特性くらいではないでしょうか。

そのため、極端な特性をもった競技でない限り、トレーニングの軸となる7割程度の部分は競技によって変わることはありません。(競技よりもむしろ、その選手のトレーニング経験・筋力レベルのほうがトレーニングプログラムに与える影響は大きいでしょう)

これはトレーニングの以下2つの目的を考えれば分かることです。
①傷害発生の予防
②体力(身体能力)の向上

①傷害発生の予防の観点から

本サイトでは何度も紹介しているデータですが、適切なウエイトトレーニングを実施することで傷害の発生率は約1/3にまで減少します(Lauersen et al, 2014)。

この研究では特定の傷害に限定しておらず、すべての傷害発生率について検討しており、ウエイトトレーニングが様々な傷害への予防に貢献していることが分かります。

しかし、ウエイトトレーニングですべての怪我が防げるというわけではありません。実際にウエイトトレーニングよりも他のエクササイズのほうが予防の効果が高い傷害もありますし(捻挫の場合はProprioseption>Strength Traingなど)(Mohammadi, 2007)、競技に特異的な怪我(サッカーのグロインペインや、野球の肩・肘の障害など)は、よりそこに特化したアプローチが必要かもしれません。

しかし、繰り返しになりますが、ウエイトトレーニングは傷害発生率を1/3におさえつつ、他のメリット(体力の向上など)も得られます。
あくまでも傷害予防の幹は
「正しい動きで身体を強くしていくこと」
その枝葉として、各傷害に特化した予防エクササイズがあるのではないでしょうか。

②体力の向上の観点から

 

トレーニングの成果を評価するため、はたまた優れた人材を発掘するために体力テストを行うことがあると思います。

各スポーツの「動き」はもちろん異なると思いますが、体力測定についてはおおよその競技で
・スピード(or水平パワー)
・ジャンプ力(垂直パワー)
・筋力
・体組成(筋肉量、脂肪量)※これは体力とは少し異なりますが
・持久力
・アジリティ

あたりの項目を測定するのではないでしょうか。

トレーニングの目的は、これら体力要素の向上です。

もちろん、スピードでいえば、最終的には競技のスピード(ドリブルをしながら、相手に反応しながらetc..)を高めなければいけないとは思いますが、
それはそもそものスピード(10m走や30m走)を高めた上で、次に考えることでしょう。

そのスピード(もしくはアジリティ)が高まっていないのに、トレーニングのおかげで身体の「きれ」が増したというのは、勘違いである可能性も高いのではないでしょうか。。

先ほども述べた通り、各競技で競技中の動きは異なります。

しかし、多くの競技は
・速くなること(10m走や30m走のタイムの向上)
・高く跳べるようになること、下肢のパワーを向上させること(垂直跳びの数値の向上)
・強くなること(スクワットやベンチプレスの重量の向上)
・大きくなること(徐脂肪体重の増加)
・持久力をつけること(20mシャトルランなどの数値の向上)
・素早い切り返しができるようになること(アジリティの向上)

がトレーニングの目的となります。

ただ、持久力や筋肉量の必要性は競技によっては大きくことなります。
(例えば、アメフトや野球では持久力はそこまで必要ではありませんが、マラソンでは持久力がそのまま競技成績に直結します。またマラソン選手にとっては必要以上の筋肉量の増加は最大酸素摂取量/kgの低下につながるでしょう。)(関連記事

アジリティは、競技特性によって適切な種目は異なってきます。
(例えば、サッカーで行われている10m×5のようなテストは、卓球選手にはあまり必要でないでしょう)

ただ、どの競技も共通して「速く」「高く」「強く」なることは必要ですよね。

まとめ

もちろんこの図の右側でも示した通り、競技によって行うべきトレーニングはある程度変わってきますし、その部分も重要であることは間違いありません。

しかし多くの競技の共通点、いわば「アスリートとしての基本」をおろそかにして、競技特性ばかりに目を向けてはいけないのではないでしょうか。

 

関連記事

【第25回】筋量増加のデメリット~体重と最大酸素摂取量のトレードオフの関係~

【第26回】競技特性から探るスポーツの適正体重

【第49回】怪我を防ぐための3つの視点

 

参考文献
The effectiveness of exercise interventionsto prevent sports injuries: a systematic reviewand meta-analysis of randomised controlled trials
Jeppe Bo Lauersen,1 Ditte Marie Bertelsen,2 Lars Bo Andersen
J Sports Med 2014;48:871–877

Comparison of 3 Preventive Methods to Reduce the Recurrence of Ankle Inversion Sprains in Male Soccer Players
Farshid Mohammadi,* MSc, PT
The American Journal of Sports Medicine, 2007

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