【第169回】ノルハムで胸つけて戻るやつはすごそうに見えるけどトレーニングとして実施するのは効果的ではないです

機材がなくても簡単に実施できるエクササイズの1つ、『ノルディックハムストリング』

たまにSNS上の動画で、アスリートが胸を地面につけて戻ってきたりしてます。あれかっこいいですよね。憧れますよね。

しかし意外と普通に鍛錬すれば誰でも出来るようになります。僕もちょっと鍛えたら出来るようになりました。

ちょっとはウソです盛りました。肉離れを再受傷したくなさ過ぎてめっちゃやりました。ただ誰でも出来るようになるは本当です。女子でも頑張れば出来ます。

そしてトレーニングとしてあのやり方を実施するのは意味ないです。ほんとに。

ノルディックハムを実施する目的を考えよう

『意味ないです』は言い過ぎました。すみません。『あんまり効果的じゃないからやめときな』に訂正しときます。

ノルディックハムを実施する目的を考えたら、戻ってくる形をメインの方法として選択しないと思うんですよね。

5レップ実施する最初の1レップを戻る形にして力を入れる感覚を掴み、2~5レップ目を倒れて手で押す形で戻ってくるというならまだ分かります。

それではノルディックハムを実施する目的について考えていきましょう。

①肉離れの予防

ノルディックハムに関する研究は『ハムストリングの肉離れ予防』に焦点を当てた研究が多いです。

そしてノルディックハムを適切に実施すると、ハムストリングの肉離れの発生率を半減させることが出来るというメタアナリシスも報告されています(Attar et al., 2017)。

さらにGoodeら(2015)のメタアナリシスではノルディックハムの実施率をきちんと担保することで肉離れの発生率を1/3近くまで減少出来るという報告もなされています。

このメカニズムとして重要なのが
✓エキセントリック筋力
✓筋束長の増大
の2つです。

エキセントリック収縮とは筋肉が引き伸ばされながら力発揮をする運動様式になります。アームカールでいうと重りを降ろしながら上腕二頭筋が力発揮をする局面ですね。

ハムストリングにおけるこのエキセントリック筋力が小さいことが肉離れのリスクファクターとして知られています(Sugiura et al., 2008)。

そしてノルディックハムというのはコンセントリックを含まない純粋なエキセントリック運動であり、4週間のノルディックハムストリングでエキセントリック筋力の増加(ES = 0.60)が認めらています(Ribeiro-Alvares et al., 2018)。ちなみにコンセントリック筋力もES = 0.31の増加が認められています。

4週間で効果量0.6というのはなかなか大きな数字です。勉強で例えると1ヶ月勉強して偏差値が6上がるくらいのすごさ。

この変化が肉離れ予防に貢献していると考えられます。

また、筋束長の短さも肉離れのリスクファクターとして報告されており(Timmins et al., 2016)、ノルディックハムでは筋束長の増大の効果も認められています(Ribeiro-Alvares et al., 2018)。

そりゃ肉離れを防ぐ効果あるわ。

②スプリントスピードの向上

傷害予防エクササイズとしてよく用いられるノルディックハムですが、実はスプリントスピードも向上させるのではないかということも示唆されています。

Ishoiらの研究(2018)ではエキセントリック筋力の向上に加えて10m走のタイムが向上(ES = 0.64)したことが報告されています。

スプリントにおいては前方に振り出した脚を素早く引き戻すことが求められるので、エキセントリック筋力が高まることでその後の引き戻しの動作を速くすることは十分に考えられますよね。

大腿四頭筋や下腿三頭筋の筋束長の大きさがスプリントスピードと関連しているとする報告もあるので(Kumagai et al., 2000; Abe et al., 2001)、ハムストリングの筋束長の大きさももしかしたらスプリントスピードに関連しているかもしれないです。

そのためスプリントスピード向上が目的の場合も、エキセントリック筋力の向上と筋束長の増大がポイントになるかもしれません。

適切な実施方法

✓エキセントリック筋力の向上

✓筋束長の増大

この2つを達成することで肉離れ予防とスプリントスピードの向上に貢献できるかもしれないというのがここまでの内容でした。

ではその2つを効率的に達成するにはどうしたら良いのか?という話ですが、

★収縮様式

★強度

がポイントになります。

実は筋束長の増大というのは収縮様式(エキセン or コンセン)に対して特異的な反応を示します。

Timminsら(2016)はコンセントリックのみのレッグカール群、エキセントリックのみのレッグカール群の2つのトレーニングを比較したところ、エキセントリックの群はハムストリングの筋束長が増大したのに対し、コンセントリックの群は筋束長が短くなったことを報告しています。

ここから考えると、ノルディックハムに戻ってくる局面を加えてしまうと筋束長の増大効果を減らしてしまうのではないか?という懸念が生じます。

また、エキセントリックオーバーロードという概念があります。これはコンセントリックの筋力よりもエキセントリックの筋力のほうが大きいことを活かして、コンセントリックを含む1RMよりも高い強度でエキセントリックのトレーニングをするという方法です。

この方法によって筋力やスピードがより効果的に向上することが報告されています(Maroto-Izquierdo et al., 2017)。

ノルディックハムは胸をつけて戻ってこれない選手が多いので、その場合はエキセントリックオーバーロードのトレーニングなります。

一方で胸をつけて戻れるということは、その強度ではエキセントリックオーバーロードにはならないということになります。胸の前でプレートを保持するなどの工夫が必要ですよね。

Pollardら(2019)の研究では実際に普通のノルディックハムと重りを加えたノルディックハムを比較したところ、重りありのほうが筋束長の増大効果が倍近く大きかったことが報告されています。

このことから考えても、ある程度強くなったら負荷を加えるのがベターですよね。普通に漸進性の原則です。

まとめ

結論:胸つけて戻れるならそれをトレーニングとして実施せずに重りで負荷を加えろ!

今回の内容はあくまでも筋束長増大とエキセン筋力向上、それを介しての①肉離れ予防、②スプリントスピード向上が目的の場合です。

それ以外が目的の場合は戻る方法を用いても良いのかもしれませんが、その2つを目的として据えないってことあんまりないですよね。。?

書きながら頭を整理したけど、やっぱり胸つけて戻るやつは『かっこいい』以外のメリットはあんまり見当たりませんでした。

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


 


参考文献

  1. Abe, T, Fukashiro, S, Harada, Y, and Kawamoto, K. Relationship between sprint performance and muscle fascicle length in female sprinters. J Physiol Anthropol Appl Human Sci 20: 141–147, 2001.
  2. Al Attar, WSA, Soomro, N, Sinclair, PJ, Pappas, E, and Sanders, RH. Effect of Injury Prevention Programs that Include the Nordic Hamstring Exercise on Hamstring Injury Rates in Soccer Players: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sport Med 47: 907–916, 2017.
  3. Goode, AP, Reiman, MP, Harris, L, DeLisa, L, Kauffman, A, Beltramo, D, et al. Eccentric training for prevention of hamstring injuries may depend on intervention compliance: A systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med 49: 349–356, 2015.
  4. Ishøi, L, Hölmich, P, Aagaard, P, Thorborg, K, Bandholm, T, and Serner, A. Effects of the Nordic Hamstring exercise on sprint capacity in male football players: a randomized controlled trial. J Sports Sci 36: 1663–1672, 2018.Available from: https://doi.org/10.1080/02640414.2017.1409609
  5. Kumagai, K, Abe, T, Brechue, WF, Ryushi, T, Takano, S, and Mizuno, M. Sprint performance is related to muscle fascicle length in male 100-m sprinters. J Appl Physiol 88: 811–816, 2000.
  6. Maroto-Izquierdo, S, García-López, D, Fernandez-Gonzalo, R, Moreira, OC, González-Gallego, J, and de Paz, JA. Skeletal muscle functional and structural adaptations after eccentric overload flywheel resistance training: a systematic review and meta-analysis. J Sci Med Sport 20: 943–951, 2017.Available from: http://dx.doi.org/10.1016/j.jsams.2017.03.004
  7. RIBEIRO-ALVARES, JOB, MARQUES, VB, VAZ, MA, and BARONI, BM. Four weeks of nordic hamstring exercise reduce muscle injury risk factors in young adults. J Strenght Cond Res 32: 1254–1262, 2018.
  8. Timmins, RG, Bourne, MN, Shield, AJ, Williams, MD, Lorenzen, C, and Opar, DA. Short biceps femoris fascicles and eccentric knee flexor weakness increase the risk of hamstring injury in elite football (soccer): A prospective cohort study. Br J Sports Med 50: 1524–1535, 2016.
  9. Timmins, RG, Ruddy, JD, Presland, J, Maniar, N, Shield, AJ, Williams, MD, et al. Architectural Changes of the Biceps Femoris Long Head after Concentric or Eccentric Training. Med Sci Sports Exerc 48: 499–508, 2016.

 

【第168回】足首は硬いほうが良いってホント?ケースバイケースです!⇐めっちゃ解説します

「足首って硬いほうが良いんですか?」

という問いに対して、僕はプロとしてこう答えます。

「知らんがな」

まじで考えること多いんですよね。。。

本日は足首の硬さとパフォーマンスの関係についてのウソホントについて掘り下げていきます。

そもそも足首が硬いとは?

そもそも足関節の硬さというのも複数の要因に影響を受けます。

関節の可動性というのは多くの場合ROMテストで評価をされますが、研究においては最終域を被測定者の痛みや不快感を基準に測定しているケースがほとんどです。

そのため
✓ストレッチトレランス(ストレッチ痛に対する耐性)
✓筋腱のスティフネス
によって関節の可動性は決まってきます(Freitas et al., 2018)。

スティフネスというのは伸びづらさを示す変数で、スティフネスが大きい=伸びづらい=硬いということになります。

足関節の背屈可動域の場合、主に腓腹筋&ヒラメ筋からアキレス腱の硬さによって足関節のスティフネスが決まってくるということになりますね。

つまり一口に足首のか硬さといっても
①足関節のROM
②下腿の筋and/orアキレス腱のスティフネス
というものが存在し、

①は痛みの耐性という感覚的な要因と下腿の筋腱の硬さという物理的なものを含む総合的な可動域

②は下腿の筋and/orアキレス腱の物理的な硬さ

を示すということになります。

※このへんの詳しい定義は、昨年一新された日本スポーツ協会ATのテキストのストレッチングの項目で佐々部が解説しているので、手元にある人は是非確認してみてください!

足首の硬さとパフォーマンスの関係

足関節の硬さとパフォーマンスの関連について、硬いことのメリットを先に挙げると

(1)アキレス腱が硬いことによるRFD(瞬時に力を伝える能力)やRSI(バネのように跳ねる能力)の増加

(2)(1)を通したランニングエコノミーの向上

があります。

ランニングエコノミーとは、主に長距離などのランニングで余分な酸素を消費せずに走れる能力、同じ酸素消費量でも速く走れる能力を指します。

Konradら(2023)は
✓下腿の筋
✓アキレス腱
✓四頭筋
✓膝蓋腱
のスティフネスとランニングエコノミーの関係性について調べたところ、アキレス腱のスティフネスのみランニングエコノミーと相関を示したことを報告しています。

つまり、足首が硬いと言っても下腿三頭筋が硬さではなくアキレス腱の硬さが必要ということですね。

次は下腿の筋and/or腱のスティフネスではなく、ROMを測定し、ジャンプパフォーマンスとの関係性を評価した研究を2つ紹介します。

#98 Papaiakovou, 2013
#101 Panoutsakopoulos and Bassa, 2023

どちらの研究においても、CMJのような遅いSSCのパフォーマンスについては足関節の背屈ROMが大きいほうが有利だといえそうです。

一方で、ドロップジャンプのような速いSSC課題だと、背屈ROMが小さいほうがジャンプ時のRFD(力の立ち上がり率)が大きいことも報告されています。

この研究ではRSIは報告されていませんが、ジャンプ高と動作時間を見た感じだとRSIも足首が硬い選手のほうが大きそうですね。実際、アキレス腱のスティフネスが高いほどドロップジャンプの接地時間が短かったほとも報告されていますし(Abdelsattar et al., 2018)。

速いSSC、遅いSSCってなんやねんという方のために、動画でのイメージです↓
RSIというのは、速いSSC課題においていかに短い接地時間で高く跳ぶかという変数です。

ここまでのまとめ

✓足関節背屈ROMは大きいほどCMJのような遅いSSCのパフォーマンスは高い?

✓足関節背屈ROMが狭いほうがドロップジャンプのような速いSSCのパフォーマンスが大きい?

✓ランニングエコノミーやRSIの高さと関連があるのは下腿の筋ではなく腱の硬さ?

腱のスティフネスって変えられるの?

上記の観察研究の上方だけでは『足首の硬さがあったほうが良い!』『柔らかいほうが良い!』とは一概に言えなそうですね。

それにアキレス腱が硬いほうが良いとかいうけど、アキレス腱って固く出来るの?という疑問も浮かびます。

Burgessら(2007)はプライオメトリクスとアイソメトリックトレーニングの介入によって、どちらの群でも腱のスティフネスが向上したことを報告しています。

また、Albracht & Arampatzis (2013)の研究においても、足関節底屈のアイソメトリックトレーニング(足首を固定した状態でつま先を倒すような力を出すトレーニング)でアキレス腱のスティフネスが増加し、ランニングエコノミーが向上したことが報告されており、腱もトレーニングの介入で変化するということは間違いなさそうです。

また面白いことに、下腿を含む下肢の筋群へのストレッチの介入ではランニングエコノミーは低下しなかったことが報告されています(Nelson et al., 2001)。

しかしながらCooperら(2021)の研究においては筋束長が長いほどランニングエコノミーは低くなることも報告されているので、筋束長の適応を起こすほどの強度・期間でのストレッチは腱のたわみに影響を与え、ネガティブな効果を引き起こすかもしれません。

しかし同研究内で筋束長が長いほどパワー発揮能力が大きいことも報告されており、筋束長を大きくしたほうが良いのかはケースバイケースになりそうです。

まとめ

足首の硬さとパフォーマンスについて詳しく解説してきました。

またパフォーマンスとは異なる観点ですが、足関節背屈可動域が小さいほど膝蓋腱炎の発症率が高かったことが報告されています(Backman et al., 2011)。

考えること多すぎですね。笑

まとめ↓

✓足関節背屈ROMは大きいほどCMJのような遅いSSCのパフォーマンスは高い

✓足関節背屈ROMが狭いほうがドロップジャンプのような速いSSCのパフォーマンスが大きい

✓ランニングエコノミーやRSIの高さと関連があるのは下腿の筋ではなく腱の硬さ

✓速いSSCの能力(RSI)やランニングエコノミーを高めようと思ったら下腿三頭筋ではなくアキレス腱を硬くすべき?

✓腱のスティフネスはアイソメトリックトレーニングやプライオメトリクスで向上する

✓数週間のストレッチであればパフォーマンスの低下に影響を与えないが、やりすぎると特定のパフォーマンスに負の影響がある?

✓足関節背屈ROMが小さいと膝蓋腱炎のリスクがある

ここまで読んでもらえば分かるかと思いますが、本当に考えることはいっぱいです。

1つの研究で結論は出せませんし、そこにいる選手のニーズによっても適切なアプローチは変わっていきます。

EBPの重要性を示す分かりやすい例ですよね。

1人1人のニーズに対して細かく評価をするのが理想ですが、僕も大人数に指導することは多いので、チームで指導するときは

●競技・トレーニングするうえで困らない程度の最低限の背屈可動域を獲得させる

●アキレス腱のスティフネスを高めるために短いSSCを含むプライオのトレーニングを入れる

あたりに僕は落ち着いてます。

最低限の背屈可動域というのは競技によって少しずつ変わると思いますが。

みなさんの思考の整理に今回の記事が役立てばうれしいです!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


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参考文献

  1. Abdelsattar, M, Konrad, A, and Tilp, M. between Achilles Tendon Stiffness and Ground Contact Time during Drop Jumps. ©Journal Sport Sci Med 17: 223–228, 2018.Available from: http://www.jssm.org
  2. Albracht, K and Arampatzis, A. Exercise-induced changes in triceps surae tendon stiffness and muscle strength affect running economy in humans. Eur J Appl Physiol 113: 1605–1615, 2013.
  3. Backman, LJ and Danielson, P. Low range of ankle dorsiflexion predisposes for patellar tendinopathy in junior elite basketball players: A 1-year prospective study. Am J Sports Med 39: 2626–2633, 2011.
  4. Burgess, KE, Connick, MJ, Graham-Smith, P, and Pearson, SJ. Plyometric vs. isometric training influences on tendon properties and muscle output. J Strength Cond Res 21: 986–989, 2007.
  5. Cooper, AN, Mcdermott, WJ, Martin, JC, Dulaney, SO, and Carrier, DR. Great power comes at a high ( locomotor ) cost : the role of muscle fascicle length in the power versus economy performance trade-off. J Exp Biol , 2021.
  6. Freitas, SR, Mendes, B, Le Sant, G, Andrade, RJ, Nordez, A, and Milanovic, Z. Can chronic stretching change the muscle-tendon mechanical properties? A review. Scand J Med Sci Sport 28: 794–806, 2018.
  7. Konrad, A, Tilp, M, Mehmeti, L, Mahnič, N, Seiberl, W, and Paternoster, FK. The Relationship Between Lower Limb Passive Muscle and Tendon Compression Stiffness and Oxygen Cost During Running. J Sports Sci Med 22: 28–35, 2023.
  8. Nelson, AG, Kokkonen, J, Eldredge, C, Cornwell, A, and Glickman-Weiss, E. Chronic stretching and running economy. Scand J Med Sci Sport 11: 260–265, 2001.
  9. Panoutsakopoulos, V and Bassa, E. Countermovement Jump Performance Is Related to Ankle Flexibility and Knee Extensors Torque in Female Adolescent Volleyball Athletes. J Funct Morphol Kinesiol 8, 2023.
  10. Papaiakovou, G. Kinematic and kinetic differences in the execution of vertical jumps between people with good and poor ankle joint dorsiflexion. J Sports Sci 31: 1789–1796, 2013.Available from: http://dx.doi.org/10.1080/02640414.2013.803587

【第159回】スポーツドリンクは薄める?そのまま飲む?そこにきちんと理由はありますか?

夏場のスポーツ活動中の飲み物、何を飲みますか?

水?麦茶?スポーツドリンク?緑茶?

もしあなたがイギリスのクリケット選手であれば休憩中に紅茶を飲むかもしれませんね(ガチ)。

試合中に、一定のオーバーが経過した場合、または時間が経った場合にはドリンクタイム、ティータイム、ランチタイムなどが入り試合を休憩する。(Wikipedia『クリケット』より)

というのはさておき、これから気温も上がってくるので熱中症予防のためにも、パフォーマンスを落とさないためにも水分補給は大事ですよね。

運動中の水分摂取は真水よりもナトリウムなどの電解質が含まれているほうが良いとされています。

なぜなら汗にはナトリウム等も含まれており、真水の摂取だとそれがどんどん薄まっていってしまうからです。

体内の電解質の濃度が薄まると低ナトリウム血症という症状を引き起こすことがありますが、軽度のものでもスポーツ活動には大きなデメリットがあります。

そのため運動中の水分補給にはスポーツドリンクなどがおすすめなのですが、本日の話題は『スポーツドリンクを薄めるか?』という点です。

スポーツドリンクは薄めたほうが良い?

巷では『スポーツドリンクは薄めたほうが良い!』という意見を目にすることもあります。

ツイッターでもアンケートをとってみたところ、皆さんこのように答えてくれています。

全体の3分の1以上の人が薄めて飲むとのこと。

その理由としては

✓そのままの濃度では浸透圧が高く吸収が遅くなる

✓糖分過多だから

といった形で、ナトリウムなどの電解質や糖質の濃さに言及されていることが多いです。

ではスポーツドリンクの濃さはどのくらいなのでしょう?

そもそも人体のナトリウム濃度は140mmol/L程度であり、運動選手の汗に含まれるナトリウムの濃度は40mmol/L程だと報告されています(1)。

そしてスポーツドリンクやOS-1といった飲料のナトリウム濃度は下記の図のようになります。

スポーツドリンクは汗よりも少し薄い濃度になっており、身体のナトリウム濃度よりは全然薄いことが分かりますよね。

そのため、『ナトリウム濃度が身体に対して濃すぎる』という意見には疑問が残ります。

脚のつりやすさ

次に、『脚のつりやすさ』という点に目を向けて、飲むものを考えていきましょう。

Lauら(2019)は被験者を暑熱環境で運動させ、体重の2%ほどを汗をかいた状態で筋肉のつりやすさを測定しました(3)。

その結果、ただの脱水状態では筋肉のつりやすさに変化はなかった一方で、真水を摂取した後は筋肉がつりやすくなり、OS-1を摂取した後では筋肉がつりづらくなったことが報告されています。

これはOS-1にはナトリウムなどの電解質が多く含まれており、真水の摂取では体内の電解質濃度が薄まってしまったためと考えられます。

OS-1自体は脱水時に補給するためのものであり、普段飲むためのものではありませんのでご注意を(公式HPにも記載はあります)。

一方でスポーツドリンクを薄めて飲むと、ナトリウムなどの電解質の濃度が薄くなり真水に近くなるので、もしかしたら筋肉がつりやすくなるかも?と考えられますよね。

吸収のされやすさ

さて、水分の吸収のされやすさについてはどうでしょうか。

大塚製薬さんは『ポカリスエットは薄めると吸収スピードは変わりますか?』という問いに対して以下のように回答しています。

ポカリスエットは、「水分とイオン(電解質)のスムーズな吸収」を探求し、現在の内容成分に決定しています。ポカリスエットが甘いのは、水分の吸収をより速くするのに適した糖分を、適切な濃度で配合しているからです。水で薄めてしまうと「水分とイオン(電解質)のスムーズな吸収」が損なわれてしまうのでおすすめしておりません。(ポカリスエット公式HP)

つまり、そのまま飲んでねってことですね。

またPochmullerら(2017)の研究(2)では長時間に及ぶ運動の場合、6~8%の糖質の濃度のドリンクの摂取が推奨されています。

そのため、吸収率の観点からもエネルギー補給の観点からも、スポーツドリンクは薄めずにそのままの摂取のほうがよさそうです。

まとめ

スポーツドリンクを薄めて飲んだほうが良いか?という問いに対しては

✓汗をかいた後にナトリウムなどの電解質の濃度が薄い飲み物を飲むと体液が薄まって筋肉をつりやすくなる

✓スポーツドリンクを薄めて飲むのは販売している企業も推奨していない(吸収効率の観点から)

✓エネルギー摂取の観点からも、そのままの濃度のほうが良さそう

といったことから、僕自身は今のところそのままの濃度で飲むように選手に指導しています。

もちろん、上記を理解したうえで他の意図(例えば、少し薄いほうが量を飲める気がするなど)があってあえて薄めているなら良いかと思いますし、あくまでも『スポーツ活動中』の話なので、日常の水分摂取の場合はまた変わってくるかと思います。

ただ昔からなんとなくそう言われてきたから薄めてるというかたは、熱中症予防の観点からも、パフォーマンス維持の観点からも一度見直してみるのも良いかもしれません!

執筆者:佐々部孝紀


めちゃくちゃ久しぶりの更新になりました。。

新年度で新しい仕事も頂きいろいろと忙しさMaxでしたが、落ち着いてきたのでまたぼちぼち更新していきます!


参考文献

  1. Lau, W. Y., Kato, H. & Nosaka, K. Water intake after dehydration makes muscles more susceptible to cramp but electrolytes reverse that effect. BMJ Open Sport Exerc. Med. 5, (2019).
  2. Pöchmüller, M., Schwingshackl, L., Colombani, P. C. & Hoffmann, G. A systematic review and meta-analysis of carbohydrate benefits associated with randomized controlled competition-based performance trials. J. Int. Soc. Sports Nutr. 14, 1–12 (2016).
  3. Baker, L. B., Barnes, K. A., Anderson, M. L., Passe, D. H. & Stofan, J. R. Normative data for regional sweat sodium concentration and whole-body sweating rate in athletes. J. Sports Sci. 34, 358–368 (2016).

【第158回】スクワット中の呼吸ってどうしてる?レジスタンストレーニング中の呼吸が下肢の筋に与える影響

最近SNSやセミナーでも『呼吸』の重要性について目にする機会は増えましたよね。

ウエイトトレーニング等のベーシックなエクササイズと並行して、必要に応じて呼吸のエクササイズを処方出来る能力は、今後のトレーニング指導者にも求められてくるかもしれません。

僕自身まだそのあたりの介入については勉強中ですが、ストレングス&コンディショニングの専門家であればそれとは別に『ウエイトトレーニング中の呼吸』についてはきちんと整理しておく必要がありますよね。

今回はいわゆる『呼吸のエクササイズ』ではなく、『ウエイトトレーニング中の呼吸』について解説していきます。

レジスタンストレーニング時の呼吸の役割

スクワットやデッドリフト時の呼吸について考えるとき、呼吸が果たす役割は何でしょうか?

1つは『脊椎の安定性の獲得』です。

これはイメージしやすいですよね。

呼吸をすることで横隔膜や腹横筋といった、呼吸に関与する筋肉が収縮します。

これらの筋肉は呼吸だけではなくて、IAP(Intra Abdominal Pressure)、日本語でいうところの腹腔内圧(いわゆる腹圧)を高めることに寄与します。

腹部の筋群の活動によってIAPが高まり、それによって脊椎の安定性が高まるということも報告されています(Stokes et al., 2011)。

また呼吸のポイントを抑えることで、トレーニング中にターゲットとなる下肢の筋肉に効果的に刺激を入れることも可能になります。

呼吸と下肢の筋肉の活動の関係

Tayashikiら(2021)は運動習慣のある男性を対象に

・吸気時(息を吸った時)

・通常時

・呼気時(息を吐いた時)

の3つの条件で股関節伸展、屈曲、膝関節伸展、屈曲のそれぞれ4つ運動を行わせ
✓そのときのIAP
✓下肢の筋のEMG
✓関節の発揮トルク

を比較しました。 続きを読む 【第158回】スクワット中の呼吸ってどうしてる?レジスタンストレーニング中の呼吸が下肢の筋に与える影響

【第155回】シーズン序盤は怪我が多い?防ぐ方法はめちゃくちゃシンプル!

競技スポーツにおける怪我ってどのタイミングで起きることが多いと思いますか?

シーズンが深まった終盤?

オフ明け?

試合期前のトレーニング期?

いろんなことが想定されると思いますが、ノンコンタクトの外傷として代表的な『ハムストリングの肉離れ』の場合、シーズン序盤に多いと報告されています(Yeung et al., 2009)。

多くのスポーツ、特に学生スポーツにおいては年末年始や年度末がオフになる場合が多いですよね。

つまり、そのオフが明けた後っていうのは肉離れ等の怪我が増えるのです。頑張ってくださいね!🔥

 

 

 

と、ここで終わったらブログにならないので、今回はオフ明けの怪我を防ぐ方法について解説していきます!

肉離れが発生しやすい時期

Yeungら(2009)は44名のスプリンターを対象に、シーズン開始前にハムストリングの筋力、柔軟性(SLRの角度)を測定し、肉離れの発生との関連について調査しました。

その結果、ハムストリングの柔軟性や筋力と、肉離れの発生の間に有意な関係性は示されませんでした。

というのがメインの結果だったのですが、肉離れが発生した時期について非常に面白い報告がなされています。

平均の週の活動時間は11.2時間(±6.9時間)、人によりますが単純計算で1人あたり年間で600時間程度の活動をしていたことになりますね。

1年間(1シーズン)、2004年の8月~2005年の7月までの間で12件の肉離れが発生し、そのうち7件が最初の100時間で受傷していたことが報告されています。

こんな極端な結果になったことにびっくりですが、シーズン序盤は肉離れが多いということが分かりますよね。

この結果はAcute Chronic Work Load Ratio(ACWR)の大きさによってもたらされていると考えられます。

ACWRとは、めちゃくちゃ単純に言うと負荷の変化の急激さを表した変数になります。

RPE(主観的疲労度)などの主観的な負荷でも、走行距離などの客観的な負荷でもACWRは算出できるのですが、手前数週間でかかっていた負荷(Chronic Load)と、現在(その週)かかった負荷(Acute Load)の比がACWRになります。

Griffineら(2020)はシステマティックレビューにてACWRに関する研究をまとめており、ACWRは1.12倍~1.25以内におさめたほうが傷害発生率は低いとされています。要するに練習量を急に1.5倍とか2倍とかに上げたら危ないよってことですね。

このACWR、オフ明け、なおかつオフ中の運動強度・負荷が低いとどうなるでしょうか?

こんな感じになります。

そりゃ危ないわ。

※ここでいうオフ期は『試合がない時期=トレーニング期としてのオフシーズン』ではなく、シンプルにチーム活動がないオフ期間を指します

シーズン序盤の怪我を防ぐ方法

ではシーズン序盤の怪我を防ぐ方法というのは、この側面から考えると非常に単純ですよね。

読者のかたも大きく分けて2つ思い浮かんだのではないでしょうか。

そうです

①シーズン序盤の負荷を少し低いところから徐々に上げていく

②オフ期間、特に終盤にかけて自分でしっかりと動いておく

の2つですね。

なんならこの2つを組み合わせるのがベストでしょう。

もしかしたら読んでくださっている読者の方、特に現役で選手をやられている方の中には「オフ明けであんなに急に練習するから怪我するんじゃん!もっと少ない量から始めろよな!」なんて指導者に対して不満に思った方もいるかもしれません。

まあもし本当にそうなんだとしたら一理あるかもしれませんが、②の『オフ期間、特に終盤にかけて自分でしっかりと動いておく』はきちんと出来ていますか?

普段の練習量が100だとしたら、オフ期間に普段の練習通り100動けとまでは言いませんが、
・外でのジョギングやスプリント
・個人で出来る基礎練習
・チーム何人かで集まって少ない人数での練習
などを、開始日から逆算して、30、40、、、70と、ある程度の量を実施していますか?

そこが0に近い状態で文句を言うのはナンセンスかなと思います。

怪我の予防含め、チームで良いものを作っていくには選手・指導者ともにまずは自分に出来ることを全力でやることが必要です。

選手自身がやるべきことをしっかりやった状態で、それでもシーズン序盤の怪我が多いようであればチーム全体で建設的な議論をしていきましょう!

一方で指導者の方も「オフでなまった身体をたたき起こすために、オフ明けは普段の練習よりハードなものをやらせよう!」といった発想は怪我人が増えるだけになるので注意が必要です。

出来ればオフ明けにはこれくらい動くよというのをあらかじめ選手に提示しておくのが良いかもしれませんね!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

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『パワーに繋がる柔軟性』のセミナーの資料作成や開催などで忙しく、久々のブログ更新となりました。。

その甲斐あってめちゃくちゃ良いセミナー資料が出来上がり、参加者の方にも大変満足いただけたようです!(アンケートの満足度は10段階で平均9.8でした!)

『パワーに繋がる柔軟性』のセミナーは次はオンラインで開催するので、またお知らせします!

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参考文献

  1. Griffin, A, Kenny, IC, Comyns, TM, and Lyons, M. The Association Between the Acute:Chronic Workload Ratio and Injury and its Application in Team Sports: A Systematic Review. Sport Med 50: 561–580, 2020.Available from: https://doi.org/10.1007/s40279-019-01218-2
  2. Yeung, SS, Suen, AMY, and Yeung, EW. A prospective cohort study of hamstring injuries in competitive sprinters: Preseason muscle imbalance as a possible risk factor. Br J Sports Med 43: 589–594, 2009.

 

 

 

 

 

 

【第152回】「持久力いらない競技やからタバコ吸ってもええやろ」はホント?

タバコを吸うことで心肺機能が落ちて息切れしやすくなる。

これはもはやスポーツ界以前に一般的な常識として知られていますよね。

その延長線上で考えても、持久系アスリートがタバコを吸うのはNGというのは想像にかたくないでしょう。

なのでマラソン選手とか以外はタバコを吸っても問題ありません。ストレス解消のためにもみんなどんどん吸おうね☆

なんてことはタバコ会社から1000万円くらい貰わないと書きません。

嘘です。そんだけ貰っても書かないです。

何故かというと、持久力の低下以外のデメリットが多くの研究で報告されているからです。

アスリートにおける喫煙のデメリット

アスリートにおける喫煙のデメリットとして

・心肺機能の低下

・筋機能の低下

・怪我の増加

が考えられます。

Petersenら(2007)の研究において、喫煙者は肺拡散能(肺胞の毛細血管でのガス交換能力)や息を吐く能力が低下していることが報告されています。

酸素が全身に行きわたりづらいので、全身持久力は低下しそうですよね。

実際、Altaracら(2000)の研究においても1マイル走(約1.6㎞走)の記録は喫煙者のほうが悪かったことが報告されています。

またこの研究では1マイル走だけでなく、腕立て伏せや腹筋など、筋持久力を評価した課題においても喫煙者の成績が悪かったことが報告されています。

 

実は喫煙者は心肺機能だけでなく、ミオスタチンなどの筋合成に関わるマーカーも非喫煙者と違いがあることが報告されており(Peterson et al., 2007)、筋肉の成長、修復にも悪影響がある可能性が示唆されています。

その結果Altaracら(2000)の研究で測定された腕立て伏せや腹筋運動の差に繋がったと考えられます。

また筋合成が阻害されるということは、運動の負荷からの回復にも遅れが出るということ。

ってことは怪我にも関連がありそうですよね。

実は先ほど紹介したAltaracら(2000)の研究において、傷害の受傷数についても調査がなされています。

その結果、喫煙者、特に吸うタバコの本数が多い人ほど怪我が多いということも示されています。

 

またラットの腱・骨の治癒課程をニコチン摂取vs生理食塩水で比較した研究において、ニコチンの摂取群はコラーゲンの発現量が小さく、回復が遅かったことが報告されています(Galatz et al., 2006)。

つまり筋だけでなく、腱や骨の治癒にもタバコの成分であるニコチンは影響与えるということ。そりゃ怪我増えるわ。

まとめ

習慣的な喫煙は

・心肺機能の低下

・筋機能の低下

・怪我の増加

に繋がります。

加熱式タバコのアイコスは一酸化炭素量は少ないようですが、ニコチンは含まれてしまっているそうですので、デメリットをなくすことは出来なさそうです。

僕が喫煙者ならアイコスにするくらいならオイコスを食べて我慢します。すみません。

喫煙者には耳の痛い話かもしれませんが、吸うにしてもこれらのデメリットを知ったうえで判断して欲しところです!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


1月22日(土)に東京(新宿)でセミナーを実施します!

午前:アスリートのためのトータルコンディショニング

午後:パワーに繋がる柔軟性

の2本立てです!

午前はアスリートや競技指導者の方でも理解できる(むしろ知っておいて欲しい!)内容です。

午後のセミナーは少し専門的な内容になりますが、分かりやすく解説します。

午前のセミナーは以前に関東・関西で開催したことがあるので、参加者の方の声をご参考に⇓

【セミナー開催報告】球技スポーツのためのトータルコンディショニング

【セミナー開催報告】2019/4/30@大阪

また、NSCAのプロバイダーセミナーに認定されたので、終日参加でCEU0.5になります!(午前0.3、午後0.2)

資格更新のためにCEUが必要な方も是非!

お申し込みはこちら⇓

【セミナー告知】2022年1月22日土曜日

 


参考文献

  1. Altarac, M, Gardner, JW, Popovich, RM, Potter, R, Knapik, JJ, and Jones, BH. Cigarette smoking and exercise-related injuries among young men and women. Am J Prev Med 18: 96–102, 2000.
  2. Galatz, LM, Silva, MJ, Rothermich, SY, Zaegel, MA, Havlioglu, N, and Thomopoulos, S. Nicotine delays tendon-to-bone healing in a rat shoulder model. J Bone Jt Surg – Ser A 88: 2027–2034, 2006.
  3. Petersen, AMW, Magkos, F, Atherton, P, Selby, A, Smith, K, Rennie, MJ, et al. Smoking impairs muscle protein synthesis and increases the expression of myostatin and MAFbx in muscle. Am J Physiol – Endocrinol Metab 293: 843–848, 2007.

 

 

 

 

 

 

【第136回】脚のつりの原因は水分不足ではない!

この時期は多くのスポーツが佳境を迎えたり、すでに次のシーズンに向けた準備を始めたりしているところでしょう。

大事な試合なほど『脚をつってしまう』選手も多いですよね。

教科書的には脚のつりは脱水が一要因とされていますが、この時期でも脚をつってしまう選手はつってしまうという事実。

実は脚のつりというのは科学的にもまだ解明されていないことも多い分野なんです。

以前の記事(こちら)でも脚のつり(Exercise Associated Muscle Cramp:EAMC)については紹介させていただきましたが、2019年に発表された非常に興味深い研究を本日は紹介します!

脱水後の水分摂取が筋のつりやすさを増す!

Water intake after dehydration makes muscles more susceptible to cramp but electrolytes reverse that effect

というタイトルの論文が今日紹介する研究です(Lau et al., 2019)。

このタイトルを翻訳すると

『脱水後の水分摂取はつりやすさを増加させるが、電解質補給には逆の効果がある』

といったところ。

結論から言ってしまうと、水分というよりは『真水』の摂取が良くないということ。

以下簡単な内容を紹介します。

 

方法

10人の被験者に

・脱水後に真水を摂取した場合

・脱水後にOS-1を摂取した場合

の2パターンで、筋のつりやすさを検証しました。

筋のつりやすさは、外部からの電気刺激を加えたとき、何ヘルツで筋肉がつったかを記録。

 

結果

以下のように、

🔻脱水しただけでは筋のつりやすさは変わらない

🔻真水の摂取は有意に筋がつりやすくなる

🔻OS-1の摂取は有意に筋がつりづらくなる

といった結果を示しました。

※グラフは上にいくほど(Hzが大きくなるほど)筋がつりづらいということを示しています。

また、同時に体内のナトリウム濃度も測定しているのですが、真水摂取の群は有意にナトリウム濃度が低下しており、それが脚のつりやすさに関連していると思われます。

 

現場での活用

ついつい現場では『水分を補給しよう』という声掛けをしてしまいますが、脚のつりに関していうと水分が果たす役割は小さく、むしろ電解質(ナトリウムなどのミネラル)の補給のほうが重要であることが示唆されました。

『そんなの考えれば当たり前じゃん』と思うかもしれませんが、スポーツ活動中に電解質の濃度まで考えて補給できていますか?

薄めたポカリではむしりOS-1よりも真水に近いので、この研究のように脚のつりを促進してしまうかもしれません。

一方で、水分は水分で持久力やパワーといったパフォーマンスの維持には重要な役割を果たします。

(詳しくはこちら→【第101回】水を飲むだけでパフォーマンスが上がる?~水分状態が筋力・持久力に与える影響~

●水分→循環血液量を維持し、パフォーマンスや認知機能のキープ、熱中症の予防に貢献

●電解質→脚のつりを防ぐ、水分の体内への保持をサポート

といった形で、別の役割を果たすものとして考えておいたほうが良いでしょうね。

相変わらずコロナ禍で自分でボトルを用意するチームも多いと思います。

今一度、ボトルに何を入れるかを考え直してみましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


最近はオフシーズンに入ったチームも多いので、ありがたいことにトレーニング指導のご相談も多くいただきます。

予算的に厳しいところはオフシーズンの間だけ(例:1~4月)なども対応出来ますので、スケジュール埋まる前にご連絡ください!


参考文献

  1. Lau, WY, Kato, H, and Nosaka, K. Water intake after dehydration makes muscles more susceptible to cramp but electrolytes reverse that effect. BMJ Open Sport Exerc Med 5, 2019.

 

【第126回】効果的なハムストリングの鍛え方~強靭なハムでスピードUP&怪我予防

『ハムストリングスを鍛えることは重要である』

これはアスリートであればなんとなくは知っていることでしょう。

以前紹介した通り、ノルディックハムなどのハムストリングのトレーニングを実施することで

🔻肉離れの予防

🔻スプリントスピード向上

の効果が期待できます。 続きを読む 【第126回】効果的なハムストリングの鍛え方~強靭なハムでスピードUP&怪我予防

【第116回】休み明けは怪我が増える?練習のしなさ過ぎも大きなリスク!

怪我というのは筋力や柔軟性の不足はもちろん、練習のやり過ぎも大きなリスクになりますよね。

一方で、練習のしなさ過ぎというのもリスクになるというのはご存知ですか?

Acute LoadとChronic Load

近年では、GPSや加速度センサーの発達により、球技スポーツの練習や試合の運動量の評価が可能になってきました。

そいうったデータの蓄積から、どういう時に怪我が多くなるかといったことも分かってきました。

ごく端的に言うと、今までかかっていた負荷(Chronic Load)に対して、今(ここ数日or今週)かかっている負荷(Acute Load)が大きくなると怪我をするということが言われています[1]。

研究的にはChronic Loadの何倍のAcute Loadがかかると。。といったことが言われていますが、GPSなどがなければ厳密なコントロールは難しいですよね。

現場での簡便的な活用

Chronic Load(今までにかかっていた負荷)≒負荷への耐性
とも考えられます。

以下のイメージで考えると分かりやすいですよね。

動いていない状態(シーズン初めやテスト休み明けなど)だと、身体の負荷へのキャパシティも減少しています。

負荷へのキャパシティというのは数日で一気に高めることはできないので、急激な練習の負荷の増加は避けましょうということです。

そのため、練習の負荷を構成する要因を把握して、それらの急激な変化を避けることが必要になってきます。

練習の負荷を構成する要因

週あたりの練習頻度

1週間のうち、何日練習するかということです。

週2で練習をしていたのに急に週4で練習をすると、負荷は倍になりますよね。

そういった頻度の急激な増加は避けましょう。

1日あたりの練習時間

1日あたりの練習時間なので、2時間の練習が3時間の練習になれば、負荷は1.5倍ですよね。

意外と見落とされがちなのが、合宿や学校が休みの期間の間の2部練や3部練の場合。

1回あたりの練習時間を7割程度に抑えたとしても、3部練だと1日あたりの練習時間は普段の2倍になってしまいます。

練習の強度

同じ2時間であっても、バスケットボールでのフリースローの練習や、サッカーのパス練習であれば、練習の強度(激しさ)自体は低いでしょうし、ゲーム形式のものであれば強度は高くなるでしょう。

また、同じゲーム形式の練習だとしても、5対5よりも3対3、2対2のほうが1選手あたりの運動量は多くなるので強度は上がると考えられます。

練習の密度(ワーク:レスト比)

同じ練習メニューを同じ時間実施するとしても、特にバスケットボールなどの屋内競技であれば、それを10人で実施するのか、20人で実施するのかで負荷は変わってきますよね。

例えば5対5の練習であれば、10人だと常に休みなしでの実施になり、20人であれば10分動けば10分休みになります。

5対5と3対3だと、実施中の強度は2対2のほうが高くなりますが、練習の密度(ワーク:レスト比)は2対2のほうが高く(=レストが長く)なりますよね。

しかしながら練習で使う場所をオールコートではなくハーフコートにする、1グループが練習している間に他のグループはコートの外で別の練習をするなど工夫をすれば、人数が多くても練習の密度は高められます。

特にサッカーやラグビーなどの屋内競技の選手は練習を実施する箇所の増加は行いやすいですよね。

まとめ

中期・長期の休み明けは怪我が増えます。

これは身体が負荷のキャパシティに適応していないからです。

これを予防するには主な方法は2つあります。

●休み明け前に選手各個人が身体の負荷へのキャパシティを高めてくる

●休み明けの練習量はいきなり高くし過ぎず、徐々に上げていく

どちらかというより、両方を意識して実施することがベストでしょう。

そして練習の負荷をコントロールするには

①週あたりの練習頻度

②1日あたりの練習時間

③練習の強度

④練習の密度(ワーク:レスト比)

をそれぞれ調節する必要があります。

球技スポーツ選手で、ウイルスの影響などで練習場所が確保できないという場合、外を走るのも良い手でしょう。

その場合も、練習の負荷から逆算すると上記の①~④をどのように調節すれば良いかも見えてくると思います。

活動自粛のチームも多いと思いますが、いつ再開しても良いように、各自で準備していきましょう!!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


参考文献

1. Hulin, BT, Gabbett, TJ, Lawson, DW, Caputi, P, and Sampson, J a. The acute:chronic workload ratio predicts injury: high chronic workload may decrease injury risk in elite rugby league players. Br J Sports Med 50: 231–236, 2016.

 

【第113回】投球系競技の上半身トレーニングの注意点~肩甲骨の動きを知る~

球技種目の中には投球動作を伴うポジションがありますよね。

個人的にも野球選手や、アメフトのクォーターバック(ボールを投げたり他の選手にボールを渡すポジション)の選手の指導をする機会も多く、投球動作をする選手のトレーニングについて考えてきました。

アメフトのクォーターバック(以下:QB)に限らず、野球選手や、やり投げ選手など、投球系競技の選手であれば肩や肘の傷害は怖いですよね。

また、「肩甲骨の動きが大事だ」というのは、野球選手などの投球系種目の選手であれば周知の事実だと思いますが、肩甲骨自体がどのような動きをするのかは説明できますか?

本日は投球系競技の選手がトレーニングを実施する際に注意すべき点について紹介します。 続きを読む 【第113回】投球系競技の上半身トレーニングの注意点~肩甲骨の動きを知る~