【第159回】スポーツドリンクは薄める?そのまま飲む?そこにきちんと理由はありますか?

夏場のスポーツ活動中の飲み物、何を飲みますか?

水?麦茶?スポーツドリンク?緑茶?

もしあなたがイギリスのクリケット選手であれば休憩中に紅茶を飲むかもしれませんね(ガチ)。

試合中に、一定のオーバーが経過した場合、または時間が経った場合にはドリンクタイム、ティータイム、ランチタイムなどが入り試合を休憩する。(Wikipedia『クリケット』より)

というのはさておき、これから気温も上がってくるので熱中症予防のためにも、パフォーマンスを落とさないためにも水分補給は大事ですよね。

運動中の水分摂取は真水よりもナトリウムなどの電解質が含まれているほうが良いとされています。

なぜなら汗にはナトリウム等も含まれており、真水の摂取だとそれがどんどん薄まっていってしまうからです。

体内の電解質の濃度が薄まると低ナトリウム血症という症状を引き起こすことがありますが、軽度のものでもスポーツ活動には大きなデメリットがあります。

そのため運動中の水分補給にはスポーツドリンクなどがおすすめなのですが、本日の話題は『スポーツドリンクを薄めるか?』という点です。

スポーツドリンクは薄めたほうが良い?

巷では『スポーツドリンクは薄めたほうが良い!』という意見を目にすることもあります。

ツイッターでもアンケートをとってみたところ、皆さんこのように答えてくれています。

全体の3分の1以上の人が薄めて飲むとのこと。

その理由としては

✓そのままの濃度では浸透圧が高く吸収が遅くなる

✓糖分過多だから

といった形で、ナトリウムなどの電解質や糖質の濃さに言及されていることが多いです。

ではスポーツドリンクの濃さはどのくらいなのでしょう?

そもそも人体のナトリウム濃度は140mmol/L程度であり、運動選手の汗に含まれるナトリウムの濃度は40mmol/L程だと報告されています(1)。

そしてスポーツドリンクやOS-1といった飲料のナトリウム濃度は下記の図のようになります。

スポーツドリンクは汗よりも少し薄い濃度になっており、身体のナトリウム濃度よりは全然薄いことが分かりますよね。

そのため、『ナトリウム濃度が身体に対して濃すぎる』という意見には疑問が残ります。

脚のつりやすさ

次に、『脚のつりやすさ』という点に目を向けて、飲むものを考えていきましょう。

Lauら(2019)は被験者を暑熱環境で運動させ、体重の2%ほどを汗をかいた状態で筋肉のつりやすさを測定しました(3)。

その結果、ただの脱水状態では筋肉のつりやすさに変化はなかった一方で、真水を摂取した後は筋肉がつりやすくなり、OS-1を摂取した後では筋肉がつりづらくなったことが報告されています。

これはOS-1にはナトリウムなどの電解質が多く含まれており、真水の摂取では体内の電解質濃度が薄まってしまったためと考えられます。

OS-1自体は脱水時に補給するためのものであり、普段飲むためのものではありませんのでご注意を(公式HPにも記載はあります)。

一方でスポーツドリンクを薄めて飲むと、ナトリウムなどの電解質の濃度が薄くなり真水に近くなるので、もしかしたら筋肉がつりやすくなるかも?と考えられますよね。

吸収のされやすさ

さて、水分の吸収のされやすさについてはどうでしょうか。

大塚製薬さんは『ポカリスエットは薄めると吸収スピードは変わりますか?』という問いに対して以下のように回答しています。

ポカリスエットは、「水分とイオン(電解質)のスムーズな吸収」を探求し、現在の内容成分に決定しています。ポカリスエットが甘いのは、水分の吸収をより速くするのに適した糖分を、適切な濃度で配合しているからです。水で薄めてしまうと「水分とイオン(電解質)のスムーズな吸収」が損なわれてしまうのでおすすめしておりません。(ポカリスエット公式HP)

つまり、そのまま飲んでねってことですね。

またPochmullerら(2017)の研究(2)では長時間に及ぶ運動の場合、6~8%の糖質の濃度のドリンクの摂取が推奨されています。

そのため、吸収率の観点からもエネルギー補給の観点からも、スポーツドリンクは薄めずにそのままの摂取のほうがよさそうです。

まとめ

スポーツドリンクを薄めて飲んだほうが良いか?という問いに対しては

✓汗をかいた後にナトリウムなどの電解質の濃度が薄い飲み物を飲むと体液が薄まって筋肉をつりやすくなる

✓スポーツドリンクを薄めて飲むのは販売している企業も推奨していない(吸収効率の観点から)

✓エネルギー摂取の観点からも、そのままの濃度のほうが良さそう

といったことから、僕自身は今のところそのままの濃度で飲むように選手に指導しています。

もちろん、上記を理解したうえで他の意図(例えば、少し薄いほうが量を飲める気がするなど)があってあえて薄めているなら良いかと思いますし、あくまでも『スポーツ活動中』の話なので、日常の水分摂取の場合はまた変わってくるかと思います。

ただ昔からなんとなくそう言われてきたから薄めてるというかたは、熱中症予防の観点からも、パフォーマンス維持の観点からも一度見直してみるのも良いかもしれません!

執筆者:佐々部孝紀


めちゃくちゃ久しぶりの更新になりました。。

新年度で新しい仕事も頂きいろいろと忙しさMaxでしたが、落ち着いてきたのでまたぼちぼち更新していきます!


参考文献

  1. Lau, W. Y., Kato, H. & Nosaka, K. Water intake after dehydration makes muscles more susceptible to cramp but electrolytes reverse that effect. BMJ Open Sport Exerc. Med. 5, (2019).
  2. Pöchmüller, M., Schwingshackl, L., Colombani, P. C. & Hoffmann, G. A systematic review and meta-analysis of carbohydrate benefits associated with randomized controlled competition-based performance trials. J. Int. Soc. Sports Nutr. 14, 1–12 (2016).
  3. Baker, L. B., Barnes, K. A., Anderson, M. L., Passe, D. H. & Stofan, J. R. Normative data for regional sweat sodium concentration and whole-body sweating rate in athletes. J. Sports Sci. 34, 358–368 (2016).

【第152回】「持久力いらない競技やからタバコ吸ってもええやろ」はホント?

タバコを吸うことで心肺機能が落ちて息切れしやすくなる。

これはもはやスポーツ界以前に一般的な常識として知られていますよね。

その延長線上で考えても、持久系アスリートがタバコを吸うのはNGというのは想像にかたくないでしょう。

なのでマラソン選手とか以外はタバコを吸っても問題ありません。ストレス解消のためにもみんなどんどん吸おうね☆

なんてことはタバコ会社から1000万円くらい貰わないと書きません。

嘘です。そんだけ貰っても書かないです。

何故かというと、持久力の低下以外のデメリットが多くの研究で報告されているからです。

アスリートにおける喫煙のデメリット

アスリートにおける喫煙のデメリットとして

・心肺機能の低下

・筋機能の低下

・怪我の増加

が考えられます。

Petersenら(2007)の研究において、喫煙者は肺拡散能(肺胞の毛細血管でのガス交換能力)や息を吐く能力が低下していることが報告されています。

酸素が全身に行きわたりづらいので、全身持久力は低下しそうですよね。

実際、Altaracら(2000)の研究においても1マイル走(約1.6㎞走)の記録は喫煙者のほうが悪かったことが報告されています。

またこの研究では1マイル走だけでなく、腕立て伏せや腹筋など、筋持久力を評価した課題においても喫煙者の成績が悪かったことが報告されています。

 

実は喫煙者は心肺機能だけでなく、ミオスタチンなどの筋合成に関わるマーカーも非喫煙者と違いがあることが報告されており(Peterson et al., 2007)、筋肉の成長、修復にも悪影響がある可能性が示唆されています。

その結果Altaracら(2000)の研究で測定された腕立て伏せや腹筋運動の差に繋がったと考えられます。

また筋合成が阻害されるということは、運動の負荷からの回復にも遅れが出るということ。

ってことは怪我にも関連がありそうですよね。

実は先ほど紹介したAltaracら(2000)の研究において、傷害の受傷数についても調査がなされています。

その結果、喫煙者、特に吸うタバコの本数が多い人ほど怪我が多いということも示されています。

 

またラットの腱・骨の治癒課程をニコチン摂取vs生理食塩水で比較した研究において、ニコチンの摂取群はコラーゲンの発現量が小さく、回復が遅かったことが報告されています(Galatz et al., 2006)。

つまり筋だけでなく、腱や骨の治癒にもタバコの成分であるニコチンは影響与えるということ。そりゃ怪我増えるわ。

まとめ

習慣的な喫煙は

・心肺機能の低下

・筋機能の低下

・怪我の増加

に繋がります。

加熱式タバコのアイコスは一酸化炭素量は少ないようですが、ニコチンは含まれてしまっているそうですので、デメリットをなくすことは出来なさそうです。

僕が喫煙者ならアイコスにするくらいならオイコスを食べて我慢します。すみません。

喫煙者には耳の痛い話かもしれませんが、吸うにしてもこれらのデメリットを知ったうえで判断して欲しところです!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


1月22日(土)に東京(新宿)でセミナーを実施します!

午前:アスリートのためのトータルコンディショニング

午後:パワーに繋がる柔軟性

の2本立てです!

午前はアスリートや競技指導者の方でも理解できる(むしろ知っておいて欲しい!)内容です。

午後のセミナーは少し専門的な内容になりますが、分かりやすく解説します。

午前のセミナーは以前に関東・関西で開催したことがあるので、参加者の方の声をご参考に⇓

【セミナー開催報告】球技スポーツのためのトータルコンディショニング

【セミナー開催報告】2019/4/30@大阪

また、NSCAのプロバイダーセミナーに認定されたので、終日参加でCEU0.5になります!(午前0.3、午後0.2)

資格更新のためにCEUが必要な方も是非!

お申し込みはこちら⇓

【セミナー告知】2022年1月22日土曜日

 


参考文献

  1. Altarac, M, Gardner, JW, Popovich, RM, Potter, R, Knapik, JJ, and Jones, BH. Cigarette smoking and exercise-related injuries among young men and women. Am J Prev Med 18: 96–102, 2000.
  2. Galatz, LM, Silva, MJ, Rothermich, SY, Zaegel, MA, Havlioglu, N, and Thomopoulos, S. Nicotine delays tendon-to-bone healing in a rat shoulder model. J Bone Jt Surg – Ser A 88: 2027–2034, 2006.
  3. Petersen, AMW, Magkos, F, Atherton, P, Selby, A, Smith, K, Rennie, MJ, et al. Smoking impairs muscle protein synthesis and increases the expression of myostatin and MAFbx in muscle. Am J Physiol – Endocrinol Metab 293: 843–848, 2007.

 

 

 

 

 

 

【第151回】毎週末リーグ戦で試合の場合月火あたりにはウエイトやることが多いと思うけど木金あたりにもやっちゃっていいんじゃね?っていう記事

『オフ期間だけウエイトやるけど試合期にはやらなくなる』

もったなさ過ぎてもったいないお化けも心配する事案です。

トレーニングをすると筋力などの体力が向上しますが、トレーニングを中断すると、それらの体力は徐々に失われていきます。

オフにトレーニングをやり込んで肉体改造!それでシーズンを戦い抜くぞ!(ただし試合期はトレーニングやらない)なんてことをしていると、試合期序盤は筋力が高まった状態で戦えますが、シーズン終盤の大事な試合で筋力が落ちてしまっているという残念な結果に陥ってしまいます。

単年で見てもそのようなデメリットがあるうえ、これが数年間積み重なるととんでもねぇ差になります。

スポーツ・カテゴリによっては試合期が非常に長く、試合期間中でも筋力を向上させないと数年単位での身体作りの積み上げが出来ないという状況も多いことでしょう。

『でも毎週試合あるんだからトレーニングする余裕なんてねえから!』

その意見もまあ分かります。トレーニングしんどいもん。

ただ『しんどい』をトレーニングをしない言い訳にするのはナンセンスです。

一方で『追い込み過ぎて疲労が試合に影響するのが嫌だ』⇐これは分かります。

週末に試合があったとしても、その影響を最小限にするように考慮してトレーニングを組むことが出来れば試合期もトレーニングを行い続けることが出来ますよね。

目的別トレーニングの行い方

試合期のウエイトトレーニングの実施方法は

①トレーニングをやらない

②筋力を維持する

③筋力を向上させる

の3つに分けられます。

①は特別な事情がない限りなしです。理由は上記の図で説明した通りです。

では②と③について解説していきましょう。

②筋力を維持する

Ronnestadら(2011)の研究では、プロサッカー選手を

・2週間に1回トレーニング群

・1週間に1回トレーニング群

に分け、シーズン中の筋力の変化を比較しました。

1回のセッションの内容は90%1RM程度の重量での4回3セットのスクワットです。
(論文上での表記があいまいでしたが、おそらくそのくらいです)

アップ時間+10分で終わるようなセッションですよね。

そんなんで筋力維持出来るんかいな。。

#10 Ronnestad et al, 2011

なんと週1回のトレーニング群では筋力、スプリントスピードともに維持が出来たとのこと。

逆に2週間に1回のトレーニングでは維持が出来ずに徐々に低下していったようです。

もちろん筋力レベルによって維持に必要なトレーニング量は変わってくると思いますが、1つの目安として参考にはなりますよね。

試合への影響を最小限にするには、土日が試合の場合翌日のオフ日、もしくは火曜の練習前後に行うのが良いでしょう。

試合期に筋力を維持するためにも、週1回、アップ+10分の時間、とれません?

 

③筋力を向上させる

筋力を向上させるには、維持の量よりのある程度トレーニングボリュームを確保する必要があります。

僕はリーグ戦中は非線形のピリオダイゼーションを推奨するマンなので、そのパターンで解説します。

非線形ピリオダイゼーションでは、週の中で異なる強度・ボリュームのセッションを行うことになります。

週の最初に中重量である程度のボリュームのトレーニング、週の後半には高強度でボリューム少な目のトレーニングを行うという形が良いでしょう。

何故この形かというと、高重量(高強度)でボリューム少な目のトレーニングのほうが、身体への疲労の蓄積が小さいからです。

Bartolomeiら(2017)は高強度のトレーニングと高ボリュームのトレーニングを比較して、その回復の過程を測定しています。

その結果、筋力の回復も筋肉痛の少なさも、高強度のトレーニングに軍配が上がっています。

また、高強度トレーニングにおいては24時間後に若干筋肉痛が残ってそうに見えるものの、筋力は24~48時間後にほぼ回復しています。

つまり木金あたりに行った高強度低回数のウエイトトレーニングは、土日の試合にはあまり影響を与えないのではと考えられます。

さらにこの研究ではどちらの群も8セットで行っているものの、実際はそんなに行わないことが多いのでなおさらですよね。

まとめ

試合期にもトレーニングを行うことの重要性、維持と向上で行うべきトレーニング量の目安について解説しました。

ベーシックなウエイトトレーニングの重要性は広まってきているものの、年間を通したトレーニングの継続の文化というのはまだ認識が行き届いていないように感じます。

是非今回の記事を参考に試合期のトレーニングついても考え直してみてください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


1月22日土曜日の昼ごろ~夕方に東京でセミナーを開催します。

コロナも落ち着いてききたので久々の対面式です。

内容は

・アスリートのトータルコンディショニング

・パワーにつながる柔軟性

を予定しています。

以前のセミナーに参加してくださった方はご存知かと思いますが、佐々部のセミナーでは講師と参加者のやり取りも活発に行い、伝え方も工夫しているので、ブログの50倍くらい学びになるかと思います!

またツイッターでアンケートもとりますが、希望が多ければオンラインや関西を初めとする地方での開催も検討します!


参考文献

  1. Bartolomei, S, Sadres, E, Church, DD, Arroyo, E, Iii, JAG, Varanoske, AN, et al. Comparison of the recovery response from high-intensity and high-volume resistance exercise in trained men. Eur J Appl Physiol 117: 1287–1298, 2017.
  2. Rønnestad, BR, Nymark, BS, and Raastad, T. Effects of In-Season Strength Maintenance Training Frequency in Professional Soccer Players. J Strength Cond Res 25: 2653–2660, 2011.Available from: http://content.wkhealth.com/linkback/openurl?sid=WKPTLP:landingpage&an=00124278-201110000-00003

 

【第136回】脚のつりの原因は水分不足ではない!

この時期は多くのスポーツが佳境を迎えたり、すでに次のシーズンに向けた準備を始めたりしているところでしょう。

大事な試合なほど『脚をつってしまう』選手も多いですよね。

教科書的には脚のつりは脱水が一要因とされていますが、この時期でも脚をつってしまう選手はつってしまうという事実。

実は脚のつりというのは科学的にもまだ解明されていないことも多い分野なんです。

以前の記事(こちら)でも脚のつり(Exercise Associated Muscle Cramp:EAMC)については紹介させていただきましたが、2019年に発表された非常に興味深い研究を本日は紹介します!

脱水後の水分摂取が筋のつりやすさを増す!

Water intake after dehydration makes muscles more susceptible to cramp but electrolytes reverse that effect

というタイトルの論文が今日紹介する研究です(Lau et al., 2019)。

このタイトルを翻訳すると

『脱水後の水分摂取はつりやすさを増加させるが、電解質補給には逆の効果がある』

といったところ。

結論から言ってしまうと、水分というよりは『真水』の摂取が良くないということ。

以下簡単な内容を紹介します。

 

方法

10人の被験者に

・脱水後に真水を摂取した場合

・脱水後にOS-1を摂取した場合

の2パターンで、筋のつりやすさを検証しました。

筋のつりやすさは、外部からの電気刺激を加えたとき、何ヘルツで筋肉がつったかを記録。

 

結果

以下のように、

🔻脱水しただけでは筋のつりやすさは変わらない

🔻真水の摂取は有意に筋がつりやすくなる

🔻OS-1の摂取は有意に筋がつりづらくなる

といった結果を示しました。

※グラフは上にいくほど(Hzが大きくなるほど)筋がつりづらいということを示しています。

また、同時に体内のナトリウム濃度も測定しているのですが、真水摂取の群は有意にナトリウム濃度が低下しており、それが脚のつりやすさに関連していると思われます。

 

現場での活用

ついつい現場では『水分を補給しよう』という声掛けをしてしまいますが、脚のつりに関していうと水分が果たす役割は小さく、むしろ電解質(ナトリウムなどのミネラル)の補給のほうが重要であることが示唆されました。

『そんなの考えれば当たり前じゃん』と思うかもしれませんが、スポーツ活動中に電解質の濃度まで考えて補給できていますか?

薄めたポカリではむしりOS-1よりも真水に近いので、この研究のように脚のつりを促進してしまうかもしれません。

一方で、水分は水分で持久力やパワーといったパフォーマンスの維持には重要な役割を果たします。

(詳しくはこちら→【第101回】水を飲むだけでパフォーマンスが上がる?~水分状態が筋力・持久力に与える影響~

●水分→循環血液量を維持し、パフォーマンスや認知機能のキープ、熱中症の予防に貢献

●電解質→脚のつりを防ぐ、水分の体内への保持をサポート

といった形で、別の役割を果たすものとして考えておいたほうが良いでしょうね。

相変わらずコロナ禍で自分でボトルを用意するチームも多いと思います。

今一度、ボトルに何を入れるかを考え直してみましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


最近はオフシーズンに入ったチームも多いので、ありがたいことにトレーニング指導のご相談も多くいただきます。

予算的に厳しいところはオフシーズンの間だけ(例:1~4月)なども対応出来ますので、スケジュール埋まる前にご連絡ください!


参考文献

  1. Lau, WY, Kato, H, and Nosaka, K. Water intake after dehydration makes muscles more susceptible to cramp but electrolytes reverse that effect. BMJ Open Sport Exerc Med 5, 2019.

 

【第133回】無実のクレアチンを責めるのはやめよう~クレアチンは肉離れを引き起こさない!

「クレアチンの摂取には、肉離れを引き起こすっていう副作用があるからやめといたほうがええで」

日本中で1日50件は行われているであろう会話の内容ですが、それは本当なのでしょうか?

本日はその疑問の答えの1つとなる研究を紹介します。

そもそもクレアチンとは?

人間の筋肉を動かすにはATPという物質が必要で、そのATPが枯渇しないように再合成をする必要があります。

その再合成のためのエネルギー源は複数あるのですが、クレアチンはそのエネルギー供給において大きな役割を果たします。

つまり、クレアチンはホルモン剤でも薬でもなんでもなく、ただのエネルギー源なのです。

クレアチンの効果

先述した通り、クレアチンは運動のエネルギー源です。

そのためトレーニングと合わせてクレアチンを摂取することで、より大きな筋力の向上・筋肉量の増加が達成できると国際スポーツ栄養学会もレビュー論文でまとめています(3)。

また、そのレビューの中でも『クレアチンの安全性』について触れられており

・肝機能などの健康面

・傷害発生率

などにおいて副作用は認められなかったとしています。

クレアチンは怪我を増やさないどころか、、!

先述のレビューでも引用されている研究なのですが、NCAA Dv.1のアメリカンフットボールのチームにおけるクレアチンの使用と傷害の発生率について検討した研究を紹介します。

この研究では

・クレアチン使用者

・クレアチン未使用者

に分け、シーズンを通して起こった怪我を記録し、グループ間で比較しました(2)。

※同一人物内での再発はカウントせず、傷害を負ったかどうかで分類 続きを読む 【第133回】無実のクレアチンを責めるのはやめよう~クレアチンは肉離れを引き起こさない!

【第131回】カフェインの副作用を知っておく~不眠だけには留まらない?その対策とは?

『カフェイン』

おそらくドーピングの非禁止物質においてこれだけパフォーマンスを向上させるものはなかな無いでしょう。

以前のブログでも(【第100回】《まとめ》アスリートのカフェインとの上手な付き合い方~効果と注意点~

☑カフェインは認知機能を高める

☑カフェインは筋力、筋持久力、持久力を高める

☑カフェインには利尿作用があるが、通常の摂取量であればそこまで心配なし?

☑午後のカフェイン摂取は入眠を阻害する可能性あり

ということを紹介しました。

上記に挙げた通り、良く知られる副作用として『睡眠の阻害』が挙げられます。

カフェインは摂取後6時間以上も覚醒水準を高め、入眠を阻害することが知られています(Drake et al., 2013)(2)。

そういったこともあり、WADA(世界アンチドーピング機構)では禁止物質ではないにしろ、監視対象物質として2020年のリストでもカフェインを挙げています(こちら)。

今回は良く知られる『睡眠の阻害』以外のカフェインのデメリットをいくつか紹介していきます。

長期的なトレーニング効果のエビデンスはない?

摂取後のパフォーマンス向上に関しては数多く研究されているカフェインですが、実は長期的なトレーニング効果に関する研究はあまり見当たりません。

実際、2019年のカフェインとウエイトトレーニングに関するレビュー論文(3)においても、証明されているカフェインの効果は短期的なものに留まっており、ヒトを対象とした筋力向上や筋肥大への長期的な効果を報告した研究はないとされています。

しかしながらカフェインには筋力・筋持久力向上の効果があるので、長い目で見た筋肥大にも貢献しそうですよね。

一方、ホルモン応答に関連して言えば、筋肥大にはマイナスにもなり得ます。 続きを読む 【第131回】カフェインの副作用を知っておく~不眠だけには留まらない?その対策とは?

【第129回】プロテインの効果を再考する

プロテインを初めとするサプリメントは、あくまでも『栄養補助食品』

食事だけでは摂取しきれない栄養を補助的に摂取するのが目的ですよね。

『プロテイン』なんてなんなら『タンパク質』の英語の直訳。

単純に、タンパク質が摂れるだけのサプリメントです。(だけなんて言うと失礼ですが)

そのため食事で必要量を補えてさえいればわざわざプロテインをサプリメントで摂取する必要は無い、とも考えられます。

実際にMortonら(2017)のメタアナリシス(2)でも1日あたり体重×1.62g以上のタンパク質を摂取しても、それ以上の除脂肪体重(筋肉量)の増加は認められない可能性が示唆されています。

この研究単体で考えると、食事で必要摂取量を補えていればプロテインのサプリメント(以下:プロテイン)を追加で摂取する必要性は薄いですよね。

ただ、ハードで高頻度なトレーニングが必要なアスリートの場合、プロテインの摂取が有効な可能性もあるようです。

運動後のタンパク質&糖質摂取の効果

Naclerioら(2020)の研究(3)ではトレーニング後に

・糖質のみのドリンクを摂取した場合

・糖質とタンパク質を含む複合ドリンクを摂取した場合

でのリカバリー効果を比較しました。

具体的には筋肉痛、垂直跳びの数値、収縮時の筋形質などの指標を経時的に測定し、その変化をリカバリー効果としています。

その結果、タンパク質を含むドリンクを摂取したほうが垂直跳びの数値と筋腹の収縮幅のリカバリーが早かったことが示されました。

#71 Nacleiro et al., 2020

これは現場に応用して考えると、しっかりとした直後の栄養補給で、トレーニング翌日の競技練習のクオリティが大きく変わってくるとも解釈できます。

各メーカーが販売してるリカバリー用のプロテインや、通常のプロテインにブドウ糖やマルトデキストリンを加えたものがおすすめです。

また注目すべき点として、この研究の被験者のベースラインでのタンパク質摂取量は1.7g/kg/日と、上記のMortonらの研究の数値をすでに上回っているという点が挙げられます。

まとめ、考察

なぜこのような結果になったかについてですが、以下2つが考えられます。

①吸収しやすいタンパク質のトレーニング『直後』の摂取が有効

②激しいトレーニングを実施する場合は1.6g/kg/日の摂取では足りない

ご存知の通り、トレーニングや激しい競技練習では筋肉は分解されます。

その直後というタイミングで、吸収されやすい形になったタンパク質を補給するということがやはり大事だということが考えられます。

また、Mortonらの研究で示された1.62g/kg/日という数値は、激しい運動を実施するアスリートのみを対象にした数値ではありません。

国際スポーツ栄養学会(1)でも、激しいトレーニングを高頻度で実施するアスリートの場合は、身体作りにおいて1.7~2.2g/kg/日のタンパク質摂取が必要ではないかということが示唆されています。

どちらにせよ、運動直後に吸収しやすい形でのタンパク質をプロテインを含むサプリメントなどで摂取することは非常に重要であるという認識は改めて持てた研究でした。

身体作りという観点だけでなく、リカバリーという観点からも、トレーニング直後の栄養摂取にはこだわっていきましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


着々とスポーツ界の日常は戻ってきていますね!

感染予防策をしっかりと講じながら、スポーツを楽しんでいきましょう!


参考文献

  1. Kerksick, CM, Wilborn, CD, Taylor, L, Campbell, B, Almada, AL, Collins, R, et al. ISSN Exercise & Sport Nutrition Review: Research & Recommendations. J Int Soc Sports Nutr 7: 7, 2018.
  2. Morton, RW, Murphy, KT, Mckellar, SR, Schoenfeld, BJ, Henselmans, M, Helms, E, et al. A systematic review , meta-analysis and meta- regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. 1–10, 2017.
  3. Naclerio, F, Larumbe-Zabala, E, Cooper, K, and Seijo, M. Effects of a Multi-ingredient Beverage on Recovery of Contractile Properties, Performance, and Muscle Soreness After Hard Resistance Training Sessions. J strength Cond Res 34: 1884–1893, 2020.

 

【第125回】コーヒーってほんまに脱水を引き起こすの?

「カフェインは利尿作用があって脱水につながるから夏はコーヒーとお茶は飲んじゃだめ!」

こういった話をたまに聞きますが、果たして本当なのでしょうか?

結論から言うと、

🔻実際に利尿作用はあるけど、飲んじゃだめとまではいかない

🔻確かにコーヒーなどを水分補給のメインの飲料にするのはちょっといただけないかも

🔻運動時か安静時かによる

といった感じです。

本日はその根拠となる科学的データも紹介していきます!

『影響があるかどうか』ではなく『どのくらい影響があるか』

例えば、水も一気にとんでもない量を飲むと水中毒になると言います。

じゃあ水を飲まないほうが良いかというと、そういう訳ではないですよね。 続きを読む 【第125回】コーヒーってほんまに脱水を引き起こすの?

【第124回】マイボトルには何を入れれば良い?効果的に水分、エネルギーを摂取する方法

暑い中での運動に慣れていない状態だと、熱中症のリスクも上がりますよね。

コロナウイルスの影響で、マイボトルを用意いて水分補給をする機会は増えたことと思います。

チーム側でドリンクを用意してくれれば良いけれど、多くの選手は自分でボトルを用意することになりますよね。

水分不足は熱中症のリスクを高めるだけでなく、パフォーマンスも大きく下げてしまいます。
(詳しくは過去記事

●パフォーマンス維持・向上

●熱中症の予防

この2つを予防するためにも、水分を摂るという意識だけでなく、ボトルの中身にもこだわったほうが良いかもしれません。 続きを読む 【第124回】マイボトルには何を入れれば良い?効果的に水分、エネルギーを摂取する方法

【第122回】これなら分かる!運動の仕組みからサプリメントの役割を理解する

プロテインは摂ったほうが良い

カフェイン摂ると走れるらしい

βアラニン摂っても走れるらしい

栄養・サプリメントに関して『効果あるらしい』『筋肉に良いみたい』色んな情報が出回っていますが、本当に自分に必要なものを摂取できてますか?

以前の記事でもISSNのレビュー(Kerksick et al., 2018)で紹介されている、安全面・効果が立証されているサプリメントを紹介しましたが、アスリートであればもう一段踏み込んで、

『どのようにパフォーマンス向上に関与するのか』

を、生理学・栄養学の観点から理解することが大切です。

今回は生理学的なメカニズムを把握したうえで、それぞれのサプリメントがどのように働くのかを学んでいきましょう。

「生理学か~小難しそうでやだな~」って思う方もいるかもしれませんが、簡単な図を用いて小学生にも分かるようにかみ砕いて説明するので安心してください。

もしそれで興味を持てたら、もう少し深く学んでいってみましょう!

筋肉が働く仕組み

スポーツで高いパフォーマンスを発揮するには、筋肉がたくさん働くことが重要です。 続きを読む 【第122回】これなら分かる!運動の仕組みからサプリメントの役割を理解する