【第163回】試合前のトレーニングは毒にも薬にもなる

「試合前に筋トレってやって良いの?」

こんな疑問を持つ選手も多いと思います。

通常、筋力向上や筋肥大を目的とした場合、ウエイトトレーニングは週2-3回程度実施することが多いかと思います。

一方でリーグ戦等がある競技・カテゴリにおいては、試合期間はその頻度でのトレーニングの実施がためらわれるケースもあるでしょう。

しかしながら試合期の前にしっかりとトレーニングを積んできたのであれば、リーグ期間中も最低でも1回は高強度のウエイトトレーニングのセッションは実施したいところ。

理由は以下の図を見てもらえれば分かるでしょう。

試合期に週1回ウエイトをする場合は、土日が試合だとすると月曜や火曜に実施するのが無難かと思います。

ここまでの内容を整理すると選択肢は

①試合期はいっさい行わない ⇒ せっかく高めた筋力が無駄になるので基本的にはなし×

②週1回高強度のセッションを実施 ⇒ 試合期もある程度筋力を維持出来る

③週2-3回のセッションを実施 ⇒ 試合期であってもフィジカルの向上が可能(しかし試合に影響?)

あたりになりますよね。

どれを選択するかは、短期的な成果を求めるか、長期的な成長を求めるかによって決まってきます。

「ここ数日の疲労さえ残らなければ良い(数週間後のコンディションなんて知らん)」という考えであれば①でもOKですよね。

「試合期はせめて筋力含めたコンディションを維持したい(ただし疲労は最小限に。。)」だと②が良いでしょう。

「今年成果を出すことよりも長期的な成長を」という方針であれば③が適しています。

ただしこの③のパターンは疲労の悪影響を考えなければならないのですが、選手のレベルによってはウエイトを週2回実施することが逆に土日のパフォーマンスを高めることがあるのです。

一方でやり方を間違えてしまうと週末のパフォーマンスの低下に繋がります。

今回は試合前日のウエイトの注意点について解説していきます。

試合前のウエイトトレーニングの効果

近年、Resistance Primingという概念が広まってきています。

これはウエイトトレーニングなどの刺激を加えた後、1~48時間後に表れるパフォーマンスの向上効果です(Harrison et al., 2019)。

例えば試合前日に高重量のスクワットを実施することで試合の日のジャンプ力が上がったり、午前中にクリーンなどのクイックリフトを実施することで午後のスプリントスピードが上がったりする現象です。

比較的トレーニングレベルの高い選手(男子でだとスクワットを自体重の2倍程度挙上出来るような選手)だとその効果が大きく、高重量の筋力トレーニングや中程度の重量でのバリスティックなエクササイズ(クイックリフトやジャンプエクササイズ)によってホルモン濃度の変化や神経筋機能への刺激が加わり、パフォーマンスが向上するようです。

つまり、筋力レベルが高い選手の場合は長期的な成長を見据えて試合前日にトレーニングをしたとしても、週末にパフォーマンスの低下が起きるどころかむしろプラスになるという現象が起こるのです。

金曜のセッションがResistance Training(長期的な成長を目的としたセッション)兼Resistance Priming(翌日の試合に向けたコンディショニング)になるということですね。

試合前日のトレーニングの注意点

先述した通り、Resistance Primingの効果はトレーニングレベルの高い選手のほうが大きいです。

これはレジスタンストレーニングに対する疲労の耐性が大きく、加わったポジティブな刺激が疲労によって打ち消されるという現象が起きなかったからでしょう。

一方でトレーニングレベルが低い選手の場合は、加わるポジティブな刺激よりも疲労の影響が大きく、週末の試合に悪影響を及ぼしてしまうかもしれません。

しかしながらその悪影響を認識したうえで長期的な成長を優先してトレーニングを実施するという選択肢はあり寄りのありですよね。

また、トレーニングレベルが高い選手の場合でも、ハイボリュームなトレーニング(75%を10回4セット等)を実施してしまうと、疲労や筋肉痛の影響で週末の試合に悪影響を与える可能性もあるので、ここの変数(重量や回数)の設定はプロとしての腕の見せ所かもしれませんね。

実際、筋肉痛を引き起こすようなハイボリュームトレーニングを実施したところシュートパフォーマンスの低下を引き起こしたという研究もあるので、ジャンプ力やスピ―ドだけでなく、スキルへの影響も無視できません(Serinken et al., 2013)。

#89 Serinken et al., 2013

まとめ

▼試合期に週何回ウエイトを実施するかは、短期的なコンディショニングと長期的な成長のどちらを優先するかで変わる

▼トレーニングレベルが高いと試合前日のトレーニングがむしろプラスに働くかも⇒短期的なコンディショニングと長期的な成長の両立がしやすい

▼ただし実施の方法を間違えると試合にマイナスに働くかも

▼試合期にPrimingの効果を得るにはいかにオフシーズンでトレーニングレベルを上げるかが肝!

長い試合期を戦ううえでは必須の知識になると思うので、しっかりと知識を整理しておきましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


博士の研究の倫理申請書類を作成しています。

これが慣れるまではなかなか面倒臭いんです。。


参考文献

  1. Harrison, P. W., James, L. P., McGuigan, M. R., Jenkins, D. G. & Kelly, V. G. Resistance Priming to Enhance Neuromuscular Performance in Sport: Evidence, Potential Mechanisms and Directions for Future Research. Sport. Med. 49, 1499–1514 (2019).
  2. Serinken, M. A., Gençoǧlu, C. & Kayatekin, B. M. The effect of eccentric exercise-induced delayed-onset muscle soreness on positioning sense and shooting percentage in wheelchair basketball players. Balkan Med. J. 30, 382–386 (2013).

 

【第162回】速いSSCと遅いSSCは別物?それぞれの特性について整理する

前回の記事では【第161回】プライオメトリクスの基本ーSSCとは?ピュアコンセントリックとは?というタイトルで、SSCについて解説しました。

ドロップジャンプのような速いSSCと、カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)のような遅いSSCでは動作自体が異なるということに触れました。

今回は「じゃあ一体どんな感じで違うんだい」ということを少し掘り下げてみようと思います。

(速いSSCと遅いSSCのイメージ⇓)

 

重心高、関節角度の観点から

遅いSSCの代表的な動作であるCMJ、速いSSCの代表的な動作であるDrop Jump(Bounce)について比較してみましょう。

CMJでの沈み込み幅は33.0±4.1㎝

Drop  Jumpでの沈み込み幅は15.5±4.3㎝

であったことがMarshall & Moran(2013)の研究で報告されています。

また同じ研究で、沈み込んだ時の各関節の角度は

CMJ
股関節:59.5±16.5°
膝関節:83.6±11.4°
足関節:57.1±6.1°

Drop Jump(Bounce)
股関節:119.1±13.4°
膝関節:100.9±7.5°
足関節:57.7±5.1°

※数字が小さいほどより屈曲している

といった数値が報告されています。

接地時間、動作時間の観点から

関節角度や沈み込み幅が違うということは、接地時間、動作時間も違うと考えられます。

ドロップジャンプの接地時間は0.2-0.3秒程度であることが報告されており(Hunter & Marshall, 2002;Abdelsattar et al., 2018)、CMJの動作時間は0.4-0.8秒程であることが報告されています(Marshall & Moran, 2013)。

ちなみにスプリントや陸上の跳躍動作(走り幅跳びや走り高跳び)の接地時間は0.1-0.2秒程度なので速いSSC(Taber et al., 2016)、バレーボールのスパイク時のジャンプのような深い沈み込みをするジャンプの動作時間は0.3-0.4秒ほどなので遅いSSCに分類されると考えられます(Wagner et al., 2009)。

関節で発揮する力の観点

このように動作が異なるということは、発揮している力(関節トルク・パワー)にも違いがありそうですよね。

下のスライドの棒グラフの赤い部分が股関節オレンジの部分が膝関節灰色の部分が足関節で発揮したパワーになります。

CMJや、CMJのように行うDrop Jumpでは股関節でのパワー発揮が大きくなっていますが、Bounce Drop Jumpではそれらのジャンプよりも膝関節の発揮パワーが大きくなっており、足関節の発揮パワーも大きいようです。

以上の点をまとめると、Slow SSCの代表的動作であるCMJとFast SSCの代表的動作であるDrop Jumpの特性は以下のようなものになります。

各動作のパフォーマンスを高めるには?

各関節パワーから考えると、CMJのパフォーマンスを高めるためには股関節での大きなレンジでの力発揮やパワー発揮が重要になると考えられます。

RDLのようなヒップヒンジを大きく使う種目を実施したり、ハングクリーンのように股関節で大きなパワー発揮をする種目の実施に加え、CMJ自体をトレーニングとして実施することが効果的かと考えられます。

一方でDrop JumpのようなFast SSCの種目では膝関節や足関節でのパワー発揮が重要になります。

ウエイトトレーニングに関してはプッシュプレスやジャークといった股関節の大きなヒンジを使わずに一瞬でパワーを発揮する種目を実施するのが良いのではないでしょうか。

また、アキレス腱スティフネス高いほどDrop Jumpの接地時間短い(Abdelsattar et al., 2018)ことが報告されています。

ポゴジャンプやDrop Jumpといったプライオメトリクスによってアキレス腱のスティフネスは向上することも報告されていますが、同様に足関節のアイソメトリックなトレーニングでも腱スティフネスの向上は報告されています(Burgess et al., 2007)。

アキレス腱炎を患っている選手であったり、発症リスクの高い競技の場合はアイソメトリックトレーニングを活用するのもありかもしれませんね。

まとめ

CMJのような遅いSSCと、Drop Jumpのような速いSSCでは動作の特性が大きくことなるという内容でした。

多くのスポーツにおいてこれらの能力は両方とも大事になってくるので、どちらか一方には隔たらないようにバランス良く向上させていきましょう!

※そもそもの基礎筋力があるのが大前提なので、まずは男性は体重の1.5倍、女性は体重の1.2倍程度のスクワットをパラレル以下で上げられるように頑張りましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


パエリアってお店で食べるやつより自炊で2000円くらい課金して作った具沢山のやつのほうが豪華で美味しかったりしますよね。


参考文献

  1. Marshall, B. M. & Moran, K. A. Which drop jump technique is most effective at enhancing countermovement jump ability, ‘countermovement’ drop jump or ‘bounce’ drop jump? J. Sports Sci. 31, 1368–1374 (2013).
  2. Hunter, J. P. & Marshall, R. N. Effects of power and flexibility training on vertical jump technique. Med. Sci. Sports Exerc. 34, 478–486 (2002).
  3. Taber, C., Bellon, C., Abbott, H. & Bingham, G. E. Roles of maximal strength and rate of force development in maximizing muscular power. Strength Cond. J. 38, 71–78 (2016).
  4. Wagner, H., Tilp, M., Von Duvillard, S. P. V & Mueller, E. Kinematic analysis of volleyball spike jump. Int. J. Sports Med. 30, 760–765 (2009).
  5. Abdelsattar, M., Konrad, A. & Tilp, M. between Achilles Tendon Stiffness and Ground Contact Time during Drop Jumps. ©Journal Sport. Sci. Med. 17, 223–228 (2018).
  6. Burgess, K. E., Connick, M. J., Graham-Smith, P. & Pearson, S. J. Plyometric vs. isometric training influences on tendon properties and muscle output. J. Strength Cond. Res. 21, 986–989 (2007).

 

【第161回】プライオメトリクスの基本ーSSCとは?ピュアコンセントリックとは?

「ジャンプ力を高めるにはどうすれば良いですか?」

こういった質問を受けることも多いですが、一番手っ取り早いのはジャンプトレーニング(≒プライオメトリクス)を実施することです。

プライオメトリクス、ウエイトリフティング、基礎的な筋力トレーニング(スクワットなど)のジャンプ力向上への効果を比較したメタアナリシスでは、基礎的な筋力トレーニングと比較してウエイトリフティングが大きなジャンプ力向上効果を示しており、プライオメトリクスもウエイトリフティングと同様にジャンプ力向上効果を示しています(Hackett et al., 2016)。

そんなプライオメトリクには様々な種目があり、『Plyometrics』とインスタやグーグルで入力するだけでクソほど色んな種目が出てきます。

ただやみくもに出てきたものを実施するだけでなく、目的や段階に応じて種目を整理して実施することが重要です。

今回はプライオメトリクスの種目の分類についてまとめていきます。

プライオメトリクスの分類

プライオメトリクスは大きく分けると

・Landing系種目(着地のトレーニング)

・Pure Concentric種目(反動を使わないジャンプ)

・Slow SSC種目(反動を使ったジャンプ)

・Fast SSC種目(落下の反発を使った、下肢をあまり屈曲しないジャンプ)

に分けられます。

 

SSCとはストレッチ&ショートニングサイクルの略で、簡単に言えば反動を使った動きのことです。

比較的大きく膝や股関節を屈曲するCMJ(反動を使った垂直跳び)や立ち幅跳びなどがSlow SSCに分類され、ドロップジャンプや縄跳びのような下肢をあまり屈曲せずに落下の反発を使うジャンプはFast SSCに分類されます。

 

代表的なSlow SSCであるCMJと、代表的なFast SSCであるドロップジャンプの動作を比較したデータでは、ドロップジャンプはCMJと比較して動作時間が短く、膝関節と足関節で発揮したピークパワーが大きかったことが報告されています(Marshall &Moran et al., 2013)。

一方で、跳躍高自体はCMJのほうが高かったことから、地面に加えた力積はCMJのほうが大きかったことが推察されます。

これらのトレーニングについて、CMJのようなSlow SSCの能力を高めたければSlow SSC自体を実施すれば良さそうに思えますよね。

一方でVillarrealらのメタアナリシス(2009)では、Pure Concentric、Slow SSC、Fast SSCなど、様々な様式のプライオメトリクスを実施するのが効果的だと報告されています。

そのため、プライオメトリクスを実施する場合は上記のような分類で種目を整理し、レベルや目的に合わせてバランス良く実施する必要があると考えられます。

基本的にはLanding種目で着地・反動姿勢の獲得⇒Pure Concentric種目でパワー向上⇒Slow SSC種目・Fast SSC種目で反動を使う能力向上といった流れで導入するのが良いかと思います。

まとめ&注意点

プライオメトリクスは様々な種目がありますが、Landing、Pure Concentric、Slow SSC、Fast SSCに分類され、ジャンプ力を高めるためには様々な種類のジャンプを実施するのが効果的だという内容でした。

一方冒頭で、『ジャンプ力を高めたいならプライオメトリクスの実施が手っ取り早い』と述べましたが、最低限の筋力を獲得していない場合は基本的な筋力トレーニングの実施のほうが優先順位は高いです。

具体的には高校生以上の男子選手では体重×1.5倍、女子選手であれば体重×1.2倍のスクワット(深さはパラレル以上)が出来ないうちは、しっかりと基本の筋力トレーニングから実施しましょう。

Peeblesらの研究(2021)では、スクワットで膝が内側に入りやすい被験者ほど着地動作で膝が内側に入りやすいことが報告されていますし、怪我の予防の観点からもまずはスクワットで最低限の重量を良いフォームで出来たほうが良いですね。

また、パワーを高めるには力も速度も高める必要があるため、そもそもの筋力が弱い選手はスクワットなどで筋力を高めることでジャンプ力が伸びる可能性も高いと考えられます。

ただやみくもにSNSに流れてくる種目を実施するのではなく、自分の現在地も分析しながら賢く鍛えていきましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


セミの鳴き声も大きくなり、夏っぽくなってきましたね。

そういえばこの前同僚とジビエ(?)料理屋さんに行って、カエルとかオオグソクムシを食べてきました。

タガメは勇気が出ずに食べられませんでしたが、オオグソクムシは普通にエビでした。


参考文献

  1. Peebles, A. T., Williams, B. & Queen, R. M. Bilateral Squatting Mechanics Are Associated With Landing Mechanics in Anterior Cruciate Ligament Reconstruction Patients. Am. J. Sports Med. 49, 2638–2644 (2021).
  2. de Villarreal, E. S., Kellis, E., Kraemer, W. J. & Izquierdo, M. Determining variables of plyometric training for improving vertical jump height performance: ameta-analysis. JSCR 23, 495–506 (2009).
  3. Marshall, B. M. & Moran, K. A. Which drop jump technique is most effective at enhancing countermovement jump ability, ‘countermovement’ drop jump or ‘bounce’ drop jump? J. Sports Sci. 31, 1368–1374 (2013).
  4. Hackett, D., Davies, T., Soomro, N. & Halaki, M. Olympic weightlifting training improves vertical jump height in sportspeople: A systematic review with meta-analysis. Br. J. Sports Med. 50, 865–872 (2016).

 

 

 

【第160回】深いスクワットがちゃんと出来るなら浅いスクワットもありっちゃあり。。?

『バックスクワット』

トレーニングにおける基本のエクササイズであるものの、習得にはある程度の労力が必要な種目です。

そしていわゆる「正しいフォーム」というのも、目的や教える指導者によって変わってくる種目にもなります。

ウエイトリフティングのためのスクワットとパワーリフティングのスクワットは違いますし、競技パフォーマンス向上のためのスクワットだとまた少し違ってきますよね。

スクワットのフォームを構成するとものといったら

✓担ぎ方(ローバーorハイバー)

✓顔の向き(前を向くorやや下を向く)

✓股関節と膝関節の屈曲の割合

✓荷重の位置(足裏の真ん中orつま先orカカト)

✓深さ(フルorパラレルorハーフorクォーター)

✓動作速度

あたりでしょうか。

僕自身はアスリートに普段こんな感じのフォームで指導しています。

(3レップ目が割と良い形で上げられてます)

・この後パワークリーンやパワースナッチに繋げたい

・膝や腰の怪我は防ぎたい

という目的があるので

✓ウエイトリフティング式のフォームをベースにやや股関節屈曲の割合を増やして実施

✓降ろす速度と切り返し局面は速度をコントロールして(少しゆっくりめで)

✓深さはパラレルで実施

といった感じです。

細かい解説をすると文字数が大変なことになるので、いったんこのへんで。

スクワットの深さ

今回はスクワットのフォームの中でも、『深さ』について掘り下げて考えていこうと思います。

トレーニング指導者でも人によって深いスクワット(パラレルもしくはそれ以下)を中心に指導する人もいれば、少し浅いスクワット(ハーフやクォーター)で指導する方もいるようです。

それぞれ採用する理由としてよく耳にするものとして

●深いスクワット

✓筋をしっかりと伸長したほうが柔軟性も獲得できる

✓可動域全体にわたって動かすことで、どの角度でも力を出すことが出来るようになる

●浅いスクワット

✓スポーツ競技中にそんなに深く沈むことがない⇒より競技に近い肢位で力を出す感覚をつかむためには浅いところでの出力が必要

といったことが挙げられます。

この浅いスクワットの採用の理由に関しては僕は3割同意、7割反対といった感じです。

以下に解説します。

浅い屈曲角度での出力の重要性?

関節角度特異性というものがあり、人は鍛えた関節角度での筋力を向上しやすいことが明らかとなっています。

スプリントの疾走局面などは下肢の浅い関節角度での出力も重要になってくると考えられるので、上記の『浅いところでの出力が必要』という部分は同意です。

しかしHartmannら(2012)の研究(1)によると、浅いスクワットでトレーニングを実施したグループでは深いスクワットの筋力は向上せず、浅いスクワットの筋力のみが向上し、深いスクワットでトレーニングを実施した群は深いところだけでなく浅いところでも筋力が向上したことが報告されています。

このデータで考えると、スポーツのパフォーマンスでは浅い屈曲角度での出力が大事だとしても、深いスクワットをやるとそこの筋力向上もカバーできそうですよね。

一方で、ある程度トレーニングレベルが上がってくるとそうとも言えないようです。

トレーニングレベルが低いうちは比較的低強度(60%1RM程度)でも最大筋力は向上することが報告されていますが(2)、トレーニングレベルが高くなると高強度(80%1RM程度orそれ以上)でないと最大筋力は向上しないことが報告されています(3)。

例えばパラレルスクワットの1RMが150㎏、クォータースクワットの1RMが240㎏の選手がいたとしましょう。

その選手が120㎏でスクワットをした場合、パラレルの局面では80%(120kg/150kg)の負荷が、クォーターの局面では50%(120kg/240kg)の負荷しかかからないことになります。

これだと浅い局面の筋力は向上しなさそうですよね?

実際にRheaら(2016)の研究(4)では、上記のHartmannら(2012)の研究と似たような内容をトレーニングレベルの高い被験者で実施したところ、深いスクワットを実施したグループでは浅いスクワットの筋力は向上せずに、浅いスクワットを実施したグループでのみ浅いスクワットの筋力が向上したことが報告されています。

浅いスクワットは有効か?

上記の研究結果からは、『深いスクワットでそれなりの重量を扱える被験者』に対しては、浅いスクワットを高重量で実施するのもありかもしれないと考えられます。

しかし

✓スポーツのパフォーマンスを考えると浅い屈曲角度での出力も大事

✓深いスクワットだけではその部分の主力を向上させるには不十分

という点においては同意ですが、僕自身は現在浅いスクワットを選手に実施させることはありません。

何故なら、浅いスクワットであっても、挙上時の最終局面では減速局面(力を出さない局面)が生じるからです。

(詳しくはこちら→【第157回】『スクワットで軽い重量を速く上げればパワーがつく!』の落とし穴

一方で、クリーンなどのクイックリフトではスクワットに比べて減速局面は少なくなると考えられますし、速度ではなく力を重視する場合は1RM以上の負荷でプルのみ実施するといったことも可能です。

浅いスクワットを実施すること自体は否定しませんが、個人的には

✓深いスクワットをそれなりの重量で実施できる(男性で体重の1.8倍、女性で体重の1.4倍)

✓クイックリフトを実施できる環境にない(場所的にNG、教えてくれる人がいない)

✓パラレルスクワットでは扱えないような高重量を実施する&その重量でも脊椎への軸圧の負荷に耐えられる

の条件に当てはまるときに、選択肢の1つになる。。。かも??

程度かと考えています。

ヒップスラストやドロップジャンプなどの代替手法もありますしね。

まとめ

✓深く降ろすスクワットは可動域の向上、広いレンジでの筋力向上が期待できるので、初心者ほどまずは正しいフォームで深いスクワットの習得が必要

✓ある程度のレベルになると下肢の浅い屈曲角度での出力向上のための種目も必要

✓クイックリフト、ヒップスラスト、ドロップジャンプなどの方法が考えられるが、もろもろの事情でそれが難しい場合、浅い高重量スクワットもあり、、かも?

といった内容でした。

軽重量の浅いスクワットはどうなの?と思ったかたはこちらの記事を読んでみてください。

個人的には軽重量のスクワットを速く上げるくらいなら、そのまま跳んじゃってジャンプスクワットにしろよなと思います。

ある程度スクワットが強くなってきた選手には必要な知識だと思うので、是非参考にしてみてください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


ブログ書く際に論文読んだりして知識をまとめると、自分でもいろいろ試したくなりますよね。

最近っはまっているトレーニングは高重量(クリーン1RMの130%くらい)のミッドサイプルです。

これやるとバウンディングも良い感じで跳べる感覚もあって楽しいです。


参考文献

  1. Hartmann, H. et al. Influence of squatting depth on jumping performance. J. strength Cond. Res. 26, 3243–3261 (2012).
  2. Rhea, M. R., Alvar, B. A., Burkett, L. N. & Ball, S. D. A meta-analysis to determine the dose response for strength development. Med. Sci. Sports Exerc. 35, 456–464 (2003).
  3. Peterson, M. D., Rhea, M. R. & Alvar, B. A. MAXIMIZING STRENGTH DEVELOPMENT IN ATHLETES: AMETA-ANALYSIS TO DETERMINE THE DOSE- RESPONSE RELATIONSHIP. J Strenght Cond Res 18, 377–382 (2004).
  4. Rhea, M. R. et al. Joint-Angle Specific Strength Adaptations Influence Improvements in Power in Highly Trained Athletes. Hum. Mov. 17, 43–49 (2016).

【第159回】スポーツドリンクは薄める?そのまま飲む?そこにきちんと理由はありますか?

夏場のスポーツ活動中の飲み物、何を飲みますか?

水?麦茶?スポーツドリンク?緑茶?

もしあなたがイギリスのクリケット選手であれば休憩中に紅茶を飲むかもしれませんね(ガチ)。

試合中に、一定のオーバーが経過した場合、または時間が経った場合にはドリンクタイム、ティータイム、ランチタイムなどが入り試合を休憩する。(Wikipedia『クリケット』より)

というのはさておき、これから気温も上がってくるので熱中症予防のためにも、パフォーマンスを落とさないためにも水分補給は大事ですよね。

運動中の水分摂取は真水よりもナトリウムなどの電解質が含まれているほうが良いとされています。

なぜなら汗にはナトリウム等も含まれており、真水の摂取だとそれがどんどん薄まっていってしまうからです。

体内の電解質の濃度が薄まると低ナトリウム血症という症状を引き起こすことがありますが、軽度のものでもスポーツ活動には大きなデメリットがあります。

そのため運動中の水分補給にはスポーツドリンクなどがおすすめなのですが、本日の話題は『スポーツドリンクを薄めるか?』という点です。

スポーツドリンクは薄めたほうが良い?

巷では『スポーツドリンクは薄めたほうが良い!』という意見を目にすることもあります。

ツイッターでもアンケートをとってみたところ、皆さんこのように答えてくれています。

全体の3分の1以上の人が薄めて飲むとのこと。

その理由としては

✓そのままの濃度では浸透圧が高く吸収が遅くなる

✓糖分過多だから

といった形で、ナトリウムなどの電解質や糖質の濃さに言及されていることが多いです。

ではスポーツドリンクの濃さはどのくらいなのでしょう?

そもそも人体のナトリウム濃度は140mmol/L程度であり、運動選手の汗に含まれるナトリウムの濃度は40mmol/L程だと報告されています(1)。

そしてスポーツドリンクやOS-1といった飲料のナトリウム濃度は下記の図のようになります。

スポーツドリンクは汗よりも少し薄い濃度になっており、身体のナトリウム濃度よりは全然薄いことが分かりますよね。

そのため、『ナトリウム濃度が身体に対して濃すぎる』という意見には疑問が残ります。

脚のつりやすさ

次に、『脚のつりやすさ』という点に目を向けて、飲むものを考えていきましょう。

Lauら(2019)は被験者を暑熱環境で運動させ、体重の2%ほどを汗をかいた状態で筋肉のつりやすさを測定しました(3)。

その結果、ただの脱水状態では筋肉のつりやすさに変化はなかった一方で、真水を摂取した後は筋肉がつりやすくなり、OS-1を摂取した後では筋肉がつりづらくなったことが報告されています。

これはOS-1にはナトリウムなどの電解質が多く含まれており、真水の摂取では体内の電解質濃度が薄まってしまったためと考えられます。

OS-1自体は脱水時に補給するためのものであり、普段飲むためのものではありませんのでご注意を(公式HPにも記載はあります)。

一方でスポーツドリンクを薄めて飲むと、ナトリウムなどの電解質の濃度が薄くなり真水に近くなるので、もしかしたら筋肉がつりやすくなるかも?と考えられますよね。

吸収のされやすさ

さて、水分の吸収のされやすさについてはどうでしょうか。

大塚製薬さんは『ポカリスエットは薄めると吸収スピードは変わりますか?』という問いに対して以下のように回答しています。

ポカリスエットは、「水分とイオン(電解質)のスムーズな吸収」を探求し、現在の内容成分に決定しています。ポカリスエットが甘いのは、水分の吸収をより速くするのに適した糖分を、適切な濃度で配合しているからです。水で薄めてしまうと「水分とイオン(電解質)のスムーズな吸収」が損なわれてしまうのでおすすめしておりません。(ポカリスエット公式HP)

つまり、そのまま飲んでねってことですね。

またPochmullerら(2017)の研究(2)では長時間に及ぶ運動の場合、6~8%の糖質の濃度のドリンクの摂取が推奨されています。

そのため、吸収率の観点からもエネルギー補給の観点からも、スポーツドリンクは薄めずにそのままの摂取のほうがよさそうです。

まとめ

スポーツドリンクを薄めて飲んだほうが良いか?という問いに対しては

✓汗をかいた後にナトリウムなどの電解質の濃度が薄い飲み物を飲むと体液が薄まって筋肉をつりやすくなる

✓スポーツドリンクを薄めて飲むのは販売している企業も推奨していない(吸収効率の観点から)

✓エネルギー摂取の観点からも、そのままの濃度のほうが良さそう

といったことから、僕自身は今のところそのままの濃度で飲むように選手に指導しています。

もちろん、上記を理解したうえで他の意図(例えば、少し薄いほうが量を飲める気がするなど)があってあえて薄めているなら良いかと思いますし、あくまでも『スポーツ活動中』の話なので、日常の水分摂取の場合はまた変わってくるかと思います。

ただ昔からなんとなくそう言われてきたから薄めてるというかたは、熱中症予防の観点からも、パフォーマンス維持の観点からも一度見直してみるのも良いかもしれません!

執筆者:佐々部孝紀


めちゃくちゃ久しぶりの更新になりました。。

新年度で新しい仕事も頂きいろいろと忙しさMaxでしたが、落ち着いてきたのでまたぼちぼち更新していきます!


参考文献

  1. Lau, W. Y., Kato, H. & Nosaka, K. Water intake after dehydration makes muscles more susceptible to cramp but electrolytes reverse that effect. BMJ Open Sport Exerc. Med. 5, (2019).
  2. Pöchmüller, M., Schwingshackl, L., Colombani, P. C. & Hoffmann, G. A systematic review and meta-analysis of carbohydrate benefits associated with randomized controlled competition-based performance trials. J. Int. Soc. Sports Nutr. 14, 1–12 (2016).
  3. Baker, L. B., Barnes, K. A., Anderson, M. L., Passe, D. H. & Stofan, J. R. Normative data for regional sweat sodium concentration and whole-body sweating rate in athletes. J. Sports Sci. 34, 358–368 (2016).

【第158回】スクワット中の呼吸ってどうしてる?レジスタンストレーニング中の呼吸が下肢の筋に与える影響

最近SNSやセミナーでも『呼吸』の重要性について目にする機会は増えましたよね。

ウエイトトレーニング等のベーシックなエクササイズと並行して、必要に応じて呼吸のエクササイズを処方出来る能力は、今後のトレーニング指導者にも求められてくるかもしれません。

僕自身まだそのあたりの介入については勉強中ですが、ストレングス&コンディショニングの専門家であればそれとは別に『ウエイトトレーニング中の呼吸』についてはきちんと整理しておく必要がありますよね。

今回はいわゆる『呼吸のエクササイズ』ではなく、『ウエイトトレーニング中の呼吸』について解説していきます。

レジスタンストレーニング時の呼吸の役割

スクワットやデッドリフト時の呼吸について考えるとき、呼吸が果たす役割は何でしょうか?

1つは『脊椎の安定性の獲得』です。

これはイメージしやすいですよね。

呼吸をすることで横隔膜や腹横筋といった、呼吸に関与する筋肉が収縮します。

これらの筋肉は呼吸だけではなくて、IAP(Intra Abdominal Pressure)、日本語でいうところの腹腔内圧(いわゆる腹圧)を高めることに寄与します。

腹部の筋群の活動によってIAPが高まり、それによって脊椎の安定性が高まるということも報告されています(Stokes et al., 2011)。

また呼吸のポイントを抑えることで、トレーニング中にターゲットとなる下肢の筋肉に効果的に刺激を入れることも可能になります。

呼吸と下肢の筋肉の活動の関係

Tayashikiら(2021)は運動習慣のある男性を対象に

・吸気時(息を吸った時)

・通常時

・呼気時(息を吐いた時)

の3つの条件で股関節伸展、屈曲、膝関節伸展、屈曲のそれぞれ4つ運動を行わせ
✓そのときのIAP
✓下肢の筋のEMG
✓関節の発揮トルク

を比較しました。 続きを読む 【第158回】スクワット中の呼吸ってどうしてる?レジスタンストレーニング中の呼吸が下肢の筋に与える影響

【第157回】『スクワットで軽い重量を速く上げればパワーがつく!』の落とし穴

【パワー=力×速度】

これはトレーニング指導者だけでなく、少しSNS覗いている選手ですら知っているレベルの常識になりつつありますよね。

ベーシックなスクワットやベンチプレスで筋肥大をしたり、最大筋力(力)を高める

ある程度速度を出す種目でパワーを高める

パフォーマンス向上

というイメージはプログラムされたトレーニングを経験したことのある人だったらなんとなくイメージはつくでしょう。

パワーの向上に有効なものとして、クイックリフトやプライオメトリクスも挙げていますが、

『スクワットの重量を落として軽めに設定し、挙上速度を意識すればパワー向上に繋がるやん!パワー発揮は1RMの30%くらいが最大って聞いたから、、このくらいの重さで素早くスクワット!』

という発想もありですよね。

いや、ありなのか?

⇑これが今日の内容です。

スクワットをパワー向上のための種目として用いるのは有効か?

そもそもパワーを向上させるには力を鍛える必要もあるし、出せる速度を上げる必要もあります。

なので通常の高重量スクワットもパワー向上には寄与するんですよね。

①高重量の低速度の種目⇐高重量のスクワットやデッドリフト

②中程度の重量の中程度の速度の種目⇐クイックリフトやジャンプスクワット

③自重or軽負荷の高速度の種目⇐プライオメトリクス

の大きく分けたら3つの領域でのトレーニングがパワー向上には必要で、軽負荷の速度を意識した”スクワット”は②や③の種目として有効なのか?というのが今日の焦点です。

結論から言うと

『負荷を低くしたスクワットで速度を意識するのはパワー向上のためのエクササイズとしては優先順位が低い』

が僕の意見です。

以下に理論的背景を説明していきます。

軽負荷のスクワットは減速局面が長い

なぜ軽負荷高速のスクワットがパワー向上のエクササイズとして微妙かというと、軽負荷のスクワットをなるべく速く上げるように意識して実施したら、動作の後半には地面を押せていないからです。

”地面を押す”っていうのがどういうことかというと、自分+バーベルの重さよりも大きな力を出してバーを加速させている状態とここでは定義しましょう。

例えば体重70㎏の人が100㎏のバーベルを担いだ状態で体重計に乗ってるとしたら(どういう状況?というツッコミはなしです)、

静止している状態だと体重計は170㎏を示しますよね?(図右)

一方でボトムからバーを挙上するには、まずバーを上方向に加速することが必要で、それには重量以上の力を出す必要が出てきます。(図左)

そして最終的には立位姿勢で止まらなければいけないので、挙上動作の終盤は緑の点線以下の力(青矢印の部分)になり、徐々に減速をしていきます。

これを『減速局面』と言います。

 

減速局面がなく黄色のエリア、緑の点線のままの力発揮だと、勢い余ってジャンプしてしまうので、”スクワット”という種目を行っている場合は、必ずこの減速局面が存在します。

そしてスクワットにおいては、負荷が軽いほど動作全体に占める減速局面の割合が大きいことが報告されています(Kubo et al., 2018)。

実際に動いてみるとすぐに分かると思います。

このように⇓自重でのハーフスクワットを『なるべく速く立ち上がる意識』で行うと、クォータースクワット姿勢あたりから立位姿勢までにかけては、ほぼ地面を押している感覚は出てきませんよね。

自重のスクワットに限らず、バーベルスクワットでも負荷が軽いほど減速局面の割合が長くなります。

つまり軽負荷で挙上速度意識のスクワットは、『スクワット動作の後半で地面を押さない練習』になってしまう可能性がある、と推察されます。

解決策

じゃあパワーの向上のためにはどうしろっていうんだい。

ってことになるのですが、軽い負荷でバーベルスクワットをするくらいなら、跳んじゃえばよくね?

というのが1つの答えです。

そもそもパワー発揮が必要なスプリント・ジャンプなどにおいては、地面を素早く力強く押すことで最終的に地面から足が離れますよね。

そう考えると跳ばないように軽負荷で素早くスクワットというのがそもそも動作として不自然ではないですか?

バーベルジャンプスクワットにすることで、軽負荷高速スクワットよりも減速局面の割合は短くでき、最後まで地面を押すトレーニングになるはずです。

まとめ

軽負荷高速スクワットって、トレーニングとしては微妙じゃないかな。。パワー向上、速度の成分の向上が目的なら跳んじゃえばよくね?という内容でした。

もちろん「バーベルジャンプスクワットだと腰に不安が、、」とういう方もいると思いますが、その場合軽重量高速スクワットをしてる暇があれば根本的にバックスクワットを正しく出来る身体の獲得とプライオメトリクスを並行してやれば良いと思います。

個人的にはバックスクワットはあくまでも最大筋力を高めるため、筋肥大のための種目なので、フォーム作りのとき以外は軽負荷(70%1RM以下)で行うことはほぼありません。

VBTだとパワー向上になるんじゃ?っていう意見もあると思いますが、それは『筋力を鍛えるためのスクワット』の副次的効果としての速度成分の向上が起きるだけで、スクワット自体を速度・パワー向上のための種目として用いるのは違うんじゃないかなと。

少しマニアックな内容でしたが意外と大事な考えだと思うので、しっかりと抑えておきましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


3月12日のオンラインセミナー『パワーに繋がる柔軟性』続々とお申し込みをいただいています。。!ありがとうございます!

意外と広まっていない「筋束長とは?」

実は曖昧な人も多い「パワーと力積の関係は?」

そして実は密接な繋がりがある「パワーと柔軟性の関係」

これらを詳しく解説する有益なセミナーですので、是非ご参加ください!

当日参加出来ない方向けのアーカイブ配信もあります!

こちらのセミナーは終了しました

 


参考文献

  1. Kubo, T, Hirayama, K, Nakamura, N, and Higuchi, M. of Different Loads on Force-Time Characteristics during Back Squats. Journal Sport Sci Med 17: 617–622, 2018.Available from: http://www.jssm.org

【第156回】あの夏の思い出『砂浜ラン』は本当に効果があるのか?

合宿先が海辺だったらだいたいやりますよね、『砂浜ラン』

砂だと通常の地面で走るよりも反発が得られないのでスピードが出づらくしんどいです。

ただ、気になりますね。

「あれって普通のの地面を走るよりも効果あんの?」

って。

まあ同じくらいの効果が認められるならまだしも、『普通の地面で走ったほうが効果は高いです!』なんてのが真実だとすると、「あの夏の努力はなんやねん!!」ってなりますよね。

今回はその答えの1つとなるメタアナリシスをもとに、砂浜ランの有効性について考えていきましょう。

砂地でのトレーニング効果

Pereiraら(2021)は以下の内容で2020年10月までの研究を収集し、メタ解析を行いました。

Pereira et al., 2021

砂地でのプライオメトリクス、スプリントトレーニングはジャンプ力、スプリントスピードに対して大きな効果(それぞれES=1.27、1.02)を示し、なんと砂地でのトレーニング効果と普通の地面でのトレーニング効果の比較では、砂地でのトレーニングのほうがスプリントスピードに対する効果が大きかったことが示されました(ES=0.42;95%CI=0.01~0.83;p=0.05)。

砂浜ランを経験した皆さん!無駄じゃありませんでした!

なんならスプリントスピード向上に関しては砂地でのトレーニングのほうが大きな効果まで示しています。

ではなぜそのような結果になったのでしょうか?

Pinningtonら(2005)の研究では、木製の地面と、砂地でのランニングを同じ速度で行わせたときのキネマティクスとEMG(筋電図)の違いを測定しています。

その結果、砂地でのランニングでは
・ストライドが短くなり、ピッチが増加し
・下肢のEMGが大きくなった
ことが示されました。

EMGが大きかったことから、筋がより能動的に力発揮をしていた可能性が推察されます。簡単に言うと、砂地では進みづらいぶん筋肉が頑張らなきゃいけないということですね。

EMGが大きい=良いこととは一概には言えないのですが(例えば主働筋と拮抗筋の共縮により、力発揮自体は低下してるけどEMGは大きいみたいな例もあるので)、今回の砂地でのランニングではトレーニング中のEMGの増加が良い方向に働いていたようですね。

まとめ

一方で、メタアナリシスの著者らは「砂地、通常の固い地面のどちらが良いかを議論するよりも、違いを理解して使分けることが大事」と述べています。

砂地でのランニングは進みづらい分筋活動の増加が期待出来る一方で、地面から反発をもらうテクニック、SSC能力の獲得は、やはり通常の地面でのトレーニングに分があるでしょう。

ただ砂地にはもう1つ『接地の衝撃を分散できる』という特徴もあるので、関節の負荷が少ないとも考えられます。

そういった意味では、負荷量が過剰になりがちな合宿においては砂地の活用スプリントスピード向上の効果もありつつ、オーバーユース系の怪我のリスクを抑えられると一石二鳥かもしれませんね!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

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3月12日(土)の夜にオンラインセミナーを開催します!

テーマは先月初開催で非常に好評だった《パワーに繋がる柔軟性》です。

筋力レベルは高いのにスピードやジャンプ力が低いという場合、ただプライオメトリクスをやれば良いかというとそんなことはないんです。

ひとまずどんな内容なのか、一旦こちらのページを覗いてみてください!⇓

【セミナー告知】2022年3月12日(土)《パワーに繋がる柔軟性》(オンライン)

 

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参考文献

  1. Pereira, LA, Freitas, TT, Marín-Cascales, E, Bishop, C, McGuigan, MR, and Loturco, I. Effects of Training on Sand or Hard Surfaces on Sprint and Jump Performance of Team-Sport Players: A Systematic Review With Meta-Analysis. Strength Cond J 43: 56–66, 2021.
  2. Pinnington, HC, Lloyd, DG, Besier, TF, and Dawson, B. Kinematic and electromyography analysis of submaximal differences running on a firm surface compared with soft, dry sand. Eur J Appl Physiol 94: 242–253, 2005.

 

 

【セミナー告知】2022年3月12日(土)《パワーに繋がる柔軟性》(オンライン)

3月12日(土)の19時より、オンラインセミナー《パワーに繋がる柔軟性》を開催します!

先月、対面セミナーを実施し非常に好評だった内容です。

パワーを高めるためには力×速度の『速度』の成分も向上させる必要がありますが、その速度の要素に柔軟性が関与することはご存知ですか?

筋力はあるのにジャンプ力やスピードに繋がらない、、そんな現場の課題を解決する情報を紹介します!

アンケート結果も一部紹介するので参考にしてください!

(3月2日追記)

また、参加者の方にアーカイブ動画のリンクも共有致します!(開催後1週間公開)

加えて、参加者の方には資料のPDFファイルもお送り致します!

「聞きたいんだけどその日は予定が入ってて、、」という方も、是非お申込みください!

アンケート結果

(有効回答率:71%)

平均満足度:9.8/10点満点 続きを読む 【セミナー告知】2022年3月12日(土)《パワーに繋がる柔軟性》(オンライン)

【第155回】シーズン序盤は怪我が多い?防ぐ方法はめちゃくちゃシンプル!

競技スポーツにおける怪我ってどのタイミングで起きることが多いと思いますか?

シーズンが深まった終盤?

オフ明け?

試合期前のトレーニング期?

いろんなことが想定されると思いますが、ノンコンタクトの外傷として代表的な『ハムストリングの肉離れ』の場合、シーズン序盤に多いと報告されています(Yeung et al., 2009)。

多くのスポーツ、特に学生スポーツにおいては年末年始や年度末がオフになる場合が多いですよね。

つまり、そのオフが明けた後っていうのは肉離れ等の怪我が増えるのです。頑張ってくださいね!🔥

 

 

 

と、ここで終わったらブログにならないので、今回はオフ明けの怪我を防ぐ方法について解説していきます!

肉離れが発生しやすい時期

Yeungら(2009)は44名のスプリンターを対象に、シーズン開始前にハムストリングの筋力、柔軟性(SLRの角度)を測定し、肉離れの発生との関連について調査しました。

その結果、ハムストリングの柔軟性や筋力と、肉離れの発生の間に有意な関係性は示されませんでした。

というのがメインの結果だったのですが、肉離れが発生した時期について非常に面白い報告がなされています。

平均の週の活動時間は11.2時間(±6.9時間)、人によりますが単純計算で1人あたり年間で600時間程度の活動をしていたことになりますね。

1年間(1シーズン)、2004年の8月~2005年の7月までの間で12件の肉離れが発生し、そのうち7件が最初の100時間で受傷していたことが報告されています。

こんな極端な結果になったことにびっくりですが、シーズン序盤は肉離れが多いということが分かりますよね。

この結果はAcute Chronic Work Load Ratio(ACWR)の大きさによってもたらされていると考えられます。

ACWRとは、めちゃくちゃ単純に言うと負荷の変化の急激さを表した変数になります。

RPE(主観的疲労度)などの主観的な負荷でも、走行距離などの客観的な負荷でもACWRは算出できるのですが、手前数週間でかかっていた負荷(Chronic Load)と、現在(その週)かかった負荷(Acute Load)の比がACWRになります。

Griffineら(2020)はシステマティックレビューにてACWRに関する研究をまとめており、ACWRは1.12倍~1.25以内におさめたほうが傷害発生率は低いとされています。要するに練習量を急に1.5倍とか2倍とかに上げたら危ないよってことですね。

このACWR、オフ明け、なおかつオフ中の運動強度・負荷が低いとどうなるでしょうか?

こんな感じになります。

そりゃ危ないわ。

※ここでいうオフ期は『試合がない時期=トレーニング期としてのオフシーズン』ではなく、シンプルにチーム活動がないオフ期間を指します

シーズン序盤の怪我を防ぐ方法

ではシーズン序盤の怪我を防ぐ方法というのは、この側面から考えると非常に単純ですよね。

読者のかたも大きく分けて2つ思い浮かんだのではないでしょうか。

そうです

①シーズン序盤の負荷を少し低いところから徐々に上げていく

②オフ期間、特に終盤にかけて自分でしっかりと動いておく

の2つですね。

なんならこの2つを組み合わせるのがベストでしょう。

もしかしたら読んでくださっている読者の方、特に現役で選手をやられている方の中には「オフ明けであんなに急に練習するから怪我するんじゃん!もっと少ない量から始めろよな!」なんて指導者に対して不満に思った方もいるかもしれません。

まあもし本当にそうなんだとしたら一理あるかもしれませんが、②の『オフ期間、特に終盤にかけて自分でしっかりと動いておく』はきちんと出来ていますか?

普段の練習量が100だとしたら、オフ期間に普段の練習通り100動けとまでは言いませんが、
・外でのジョギングやスプリント
・個人で出来る基礎練習
・チーム何人かで集まって少ない人数での練習
などを、開始日から逆算して、30、40、、、70と、ある程度の量を実施していますか?

そこが0に近い状態で文句を言うのはナンセンスかなと思います。

怪我の予防含め、チームで良いものを作っていくには選手・指導者ともにまずは自分に出来ることを全力でやることが必要です。

選手自身がやるべきことをしっかりやった状態で、それでもシーズン序盤の怪我が多いようであればチーム全体で建設的な議論をしていきましょう!

一方で指導者の方も「オフでなまった身体をたたき起こすために、オフ明けは普段の練習よりハードなものをやらせよう!」といった発想は怪我人が増えるだけになるので注意が必要です。

出来ればオフ明けにはこれくらい動くよというのをあらかじめ選手に提示しておくのが良いかもしれませんね!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

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『パワーに繋がる柔軟性』のセミナーの資料作成や開催などで忙しく、久々のブログ更新となりました。。

その甲斐あってめちゃくちゃ良いセミナー資料が出来上がり、参加者の方にも大変満足いただけたようです!(アンケートの満足度は10段階で平均9.8でした!)

『パワーに繋がる柔軟性』のセミナーは次はオンラインで開催するので、またお知らせします!

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参考文献

  1. Griffin, A, Kenny, IC, Comyns, TM, and Lyons, M. The Association Between the Acute:Chronic Workload Ratio and Injury and its Application in Team Sports: A Systematic Review. Sport Med 50: 561–580, 2020.Available from: https://doi.org/10.1007/s40279-019-01218-2
  2. Yeung, SS, Suen, AMY, and Yeung, EW. A prospective cohort study of hamstring injuries in competitive sprinters: Preseason muscle imbalance as a possible risk factor. Br J Sports Med 43: 589–594, 2009.