【第150回】RFDの高め方~腱にも着目したトレーニング

前回の記事ではRFDの基礎知識とその重要性について解説しました。

おさらいすると

・RFDは力を一気に出す能力

・ジャンプやスプリントでは短い時間で地面から力(正確には力積)を貰わなければいけないのでRFDめっちゃ大事

・RFDとパワーは異なる要素

といった内容でした。

今回はRFDに貢献する要素についてもう少し掘り下げ、その向上の方法について解説していきます。

EMD~電気機械的遅延

RFDと関連する要素にEMD(Electromechanical Delay)というものがあります。

日本語に直訳すると『電気機械的遅延』です。

(何かいきなり難しい言葉が出てきた。。読むのヤメょ。。)

そう思う気持ちもわかります。

ただなるべくわかりやすく説明するのでもう少し読んでみてください。

関節が動くときって、脳・神経からの命令で筋肉が収縮する⇒腱が骨に力を伝える⇒関節が動く、という現象が起きますよね?

EMD(電気機械的遅延)というのは

●神経から命令を出されたタイミング

●実際に関節が力を発揮したタイミング

のずれ(=遅延)を表したものになります。

そしてその遅延が起きる要因の一つに、筋がグッとなったときの腱のビヨ~ンがあります。

もうちょっとちゃんと表現すると、腱スティフネス(≒腱の硬さ)が不足している場合、筋の収縮時、腱の余計な伸長による関節への力の伝達効率の低下が起こります。

その結果、十分な腱スティフネスがある場合と比較して、神経の活動・筋の出力は同じなのに力が伝わるのが遅くります。

一方で十分な力発揮時間があれば腱スティフネスが低くても徐々に張力を発揮できるので、RFDには差が出るけれど最大筋力には差が出ないという状態にもなり得るでしょう。

つまりRFDを向上させるためには最大筋力の向上だけでなく、腱スティフネスの向上も重要になってくるのです。

実際にWuら(2010)のプライオメトリクスの介入研究では、腱スティフネス増大とEMDの低下が報告されており

Costaら(2010)の高ボリュームのストレッチの介入研究ではEMDの増加とRFDの低下が認められています。

これらの結果から考えて、腱スティフネス向上⇒EMDの低下⇒RFD向上、といった流れが見えてくるでしょう。

腱スティフネスを高めるには?

腱スティフネスと一言に言っても大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋等の腱でそれぞれ役割が異なってきます。

個人的に特に重要だと考えているのがアキレス腱のスティフネス。

長距離選手においてはランニングエコノミーとの関連も報告されていますし(Albracht&Arampatzis, 2013)、ドロップジャンプのようなSSC課題、スプリントにおいても重要だと考えられます。

Burgesら(2007)の研究ではプライオメトリクスと足関節底屈のアイソメトリックトレーニングでの腱スティフネス向上の効果を検証したところ、どちらも有意にアキレス腱の腱スティフネスを向上させたことを報告しています。

スクワットやデッドリフトでは股関節や膝関節を中心に大きな力・パワーを出す能力が鍛えられますが、最終的に地面に力を加えるのは足部になります。

その中心となるアキレス腱のスティフネス向上、足関節のRFD向上のためにもプライオメトリクスや足関節のアイソメトリックなトレーニングは有効でしょう。

(膝関節・股関節に着目した考察も違った視点で色々考えられるのですが、本日はいったんここまでで。。)

まとめ

●RFDを向上させるには最大筋力でそのピークの山の高さ自体を向上させることも有効だが、力の伝達効率を向上させるために腱スティフネスを高めることも大事。

●腱スティフネスの向上⇒EMD(電気機械的遅延)の減少⇒RFD向上につながる

●腱スティフネスを向上させるためにはプライオやアイソメトリックエクササイズも有効

もちろん、コンセントリックやエキセントリックの動きを伴う運動も有効である可能性も高いですが、他の要素も絡んでくるのでここでの議論は一旦置いておきます。

また、腱スティッフネス以外の構造的要因(筋束長、CSAなど)や神経的要因ももちろんRFDに関与すると考えられます。

前回の記事と合わせて読むことで、少しはRFDに対するよく分かんない感が減れば幸いです!

【第149回】爆発的力発揮!RFDの基本を理解する

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


今年4月からの国立スポーツ科学センターでの勤務も半年が経過し、だいぶ生活スタイルも落ち着いてきました。

他の現場も毎日充実しており、ほんまに周りに恵まれたな~という毎日です。

そろそろ中堅どころの年齢に片脚をつっこんできたので、業界の後輩さんたちにも何かできればな~と思っていろいろ考えています。


参考文献

  1. Albracht, K and Arampatzis, A. Exercise-induced changes in triceps surae tendon stiffness and muscle strength affect running economy in humans. Eur J Appl Physiol 113: 1605–1615, 2013.
  2. Burgess, KE, Connick, MJ, Graham-Smith, P, and Pearson, SJ. Plyometric vs. isometric training influences on tendon properties and muscle output. J Strength Cond Res 21: 986–989, 2007.
  3. Costa, PB, Ryan, ED, Herda, TJ, Walter, AA, Hoge, KM, and Cramer, JT. Acute effects of passive stretching on the electromechanical delay and evoked twitch properties. Eur J Appl Physiol 108: 301–310, 2010.
  4. Wu, YK, Lien, YH, Lin, KH, Shih, TTF, Wang, TG, and Wang, HK. Relationships between three potentiation effects of plyometric training and performance. Scand J Med Sci Sport 20: 80–86, 2010.

 

 

 

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