【第147回】トレーニングのピラミッドのパラダイムシフト~力と速度を高めるための指針

トレーニングを実施してパフォーマンスを向上させるためには、単にスクワット等の筋トレを実施して筋肉をつけるだけでは不十分です。

筋肥大だけではなく最大筋力の向上や、パワーの向上を達成することによって、ようやくスポーツのパフォーマンスにつながっていきます。

その概念を説明するうえでは、従来からよく用いられる筋肉量、筋力、パワーのピラミッドは分かりやすいでしょう。

この最上段に位置する『Power』は『力』×『速度』によって決まるので、Strength(筋力)を高めた後にクイックリフトやプライオメトリクス(ジャンプトレーニング)で速度の成分を補うことで、パワーが向上するという流れです。

スポーツのパフォーマンスを向上させるうえでは、以上のおおまかな流れを把握してれば特に問題ないでしょう。

しかし近年、各選手の個々の能力を細かく評価してアプロ―チする手法がスマホのアプリ等でも可能になってきており、一歩進んだアプロ―チをするためにはこのピラミッドの概念をシフトしていく必要があります。

ForceとVelocityの評価によるPowerの効率的な向上

本ブログでもたびたび紹介している研究になりますが、Jimenez-Reyesら(2017)の有名な研究を改めて紹介します。

この研究では被験者に様々な重量でのスクワットジャンプを実施させ、その評価に基づいたトレーニングを介入しています。

その結果、力(Force)が不足している選手にはスクワットなどの筋力強化のエクササイズを、速度(Velocity)が不足している選手にはプライオメトリクスなどの素早い筋収縮が求められるエクササイズをといった形で、個別に評価した結果に基づいたトレーニングを実施したグループは、従来のトレーニングよりもジャンプ力を向上させたことが明らかになりました。

ForceとVelocityに基づくトレーニングのピラミッド

従来トレーニングピラミッドの考えは筋肥大(CSAの増加)⇒最大筋力強化⇒パワーの向上という流れになります。

最大筋力強化の後に、Velocity(速度)の強化を行うことで、パワーを向上させるという流れですね。

一方で、Jimenez-Reyesらの研究においては、速度が十分にある選手は、そこにFoce(力)を上乗せする形でパワーを向上させていますよね。

つまり、力の土台の上にパワーがあるというのはあながち間違いではないのですが、より深く考えていくえでは、力と速度の上にパワーが乗っているとこを図として表したほうが分かりやすいでしょう。

そこで僕は以前からこのような図を考えて活用しています。

StrengthとForceは似たような変数ではあるのですが、Force-Velocityの考えも浸透しているので、ここではForceに置き換えています。

また、この図のよいところは、ForceとVelocityに影響する要因をさらに細かく整理できるところにあります。

CSA(筋断面積)はForceに影響を与えることは周知の通りでしょう。

一方で速度に影響を与える筋形態の変数としては、FL:Fascle Length(筋束長)が挙げられます。

FLが長いということは直列サルコメア数が多く、大きな収縮速度を出す際には有利に働きます(Burkholder et al., 1994)。

また、TypeⅡ線維とTypeⅠ線維の割合も高いパワー発揮には重要な要素であり、速度をモニタリングしながら行うトレーニングであるVBTを行う利点は、このTypeⅡ線維(特にTypeⅡX)の減少を抑えることでのパワー向上という面もあるでしょう(Blanco et al., 2017)。

このTypeⅡの維持と筋束長(FL)の増加は掘り下げれば2時間喋れるんでこれくらいにしときます。。

まとめ

近年注目されつつあるForce Velocity Profileを活用する上では、従来の筋肉量ー筋力ーパワーのピラミッドの考え方では解像度は低くなるため、新しい概念が必要でしょう。

もちろん、一般的なトレーニングを行う上では従来のピラミッドの考え方でも問題ないでしょう。

Force Velocityの考え方を筋束長の増加やTypeⅡの維持まで掘り下げて考える場合は新しいピラミッドの考え方も活用していってみてください!(『佐々部のピラミッド』とでも呼んで広めていってください!笑)


参考文献

  1. Jiménez-Reyes, P, Samozino, P, Brughelli, M, and Morin, JB. Effectiveness of an individualized training based on force-velocity profiling during jumping. Front Physiol 7: 1–13, 2017.
  2. Pareja-Blanco, F, Rodríguez-Rosell, D, Sánchez-Medina, L, Sanchis-Moysi, J, Dorado, C, Mora-Custodio, R, et al. Effects of velocity loss during resistance training on athletic performance, strength gains and muscle adaptations. Scand J Med Sci Sport 27: 724–735, 2017.
  3. Thomas, JB, Brian, F, Stephanie, B, and Richard, LL. Relationship between muscle fiber types and sizes and muscle architectural properties in the mouse hindlimb. J Morphol 221: 177–190, 1994.Available from: http://dx.doi.org/10.1002/jmor.1052210207

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA