【第127回】速筋/遅筋の割合は変化する?基本を知って一歩進んだトレーニングプログラムを!

筋力はアスリートにとって非常に重要な要素ですよね。

スプリントスピード向上やジャンプ力向上においては、下肢の最大筋力向が果たす役割は大きく(7)(3)、筋力を向上することで傷害の予防効果もあることが証明されています(4)。

そこで筋力を向上させるためにどうするかを考えたとき、筋力向上に寄与する要因をそれぞれ考えていく必要があります。

筋力を高める3つの要因

まず1つ目は『筋断面積』

筋肉が太ければ太いほど大きな力を出すことができます。

ウエイトトレーニングの長期介入においても、筋断面積の増加が大きいほど筋力も向上していることが報告されています(1)。

筋断面積の増加は、回復の出来る範囲で高ボリュームのトレーニングを実施し、十分な栄養を摂取することで達成されます。

2つ目は『神経の機能』

中枢神経からの命令で筋は収縮するので、その命令が大きくなったり、命令の頻度が増加すれば出せる力は大きくなりますよね。

ここを強化するには低負荷の高ボリュームのトレーニングよりも、しっかりと高い強度(重さ)でトレーニングをする必要があります。

トータルの負荷(強度×回数)をそろえたトレーニングでも、強度(重さ)を高めに実施したトレーニングのほうが筋力が向上したという報告もあり(6)、それは神経の機能の改善によるものだと考えられます。

また、カフェイン摂取で筋力が向上するのはこの中枢への作用によるものだと言われています(8)。

3つ目は『筋線維組成』(速筋と遅筋の割合)

速筋、遅筋見分ける方法、定義づけとしては複数の方法がありますが、ミオシンの酵素活性の違いから判別したり、ミオシン重鎖のタンパク質のタイプから分類する方法が一般的です。
それらの方法では
Ⅰ⇒遅筋
Ⅱa⇒中間筋
Ⅱx、Ⅱb⇒速筋
と分類されます。

ここでして欲しくないのが、『速筋は収縮スピードが速い筋肉で、遅筋は収縮スピードの遅い筋肉。重さを扱ったスクワットはゆっくりだから、遅筋が鍛えられる』という勘違い。

速筋は速い収縮が可能なだけでなく、強い収縮が可能な筋肉です。

一方で遅筋はゆっくりの収縮が得意というより、持久的な力発揮が得意な筋肉。

そこを踏まえたうえで次に進みましょう。

速筋と遅筋の割合の変化

『速筋と遅筋の割合は生まれつき決まっているから、筋力向上をするには筋肥大をするか、神経の機能を向上させる必要がある』

という話を耳にすることもありますが、実は速筋と遅筋の割合(筋線維組成)も、トレーニングによって変化することが分かっています。

また、ウエイトトレーニングの実施方法によっては速筋の割合が減っていくことが報告されています。

「強い収縮で速筋が使われるって言ったのに、速筋の割合が減るの??」と思ったかもしれませんが、使われる=増えるではありません。

また、ウエイトトレーニングの実施方法にもよって適応は違ってきます。

Blancoら(2017)(5)はウエイトトレーニング中の速度を計測し、何回何セットとあらかじめ決めて実施するのではく、挙上速度が○○%低下したらそのセットを切り上げるという方法でトレーニングを実施しました。

その結果、20%の速度低下でトレーニングを切り上げたグループは速筋の割合が維持されたのに対し、40%の速度低下まで実施したグループは速筋の割合が有意に低下したことが示されました。

また、扱う重量が速筋と遅筋の割合にどう影響を与えるかという研究も紹介します。

Camposら(2002)(2)は3~5Repsの高強度トレーニング、9~11Repsの中強度トレーニング、20~28Repsの低強度トレーニングの3群に分け、それぞれ毎セット限界まで実施するトレーニングを実施したところ、どの群においても速筋線維の割合が同様に減少したことを示しました。

扱う重量は、あまり速筋に与える影響は大きくないようです。

2つの研究とも共通して言えることは、どの重量であっても限界まで追い込み過ぎると、速筋の割合は減るということです。

まとめ

🔻最大筋力には、筋肥大、神経の機能の向上、速筋/遅筋の割合が影響するので、それぞれの改善が必要

🔻トレーニングの実施方法によっては速筋の割合が低下する場合がある

ウエイトトレーニングで速筋は使われるのに、実施の仕方によってはその割合が低下するというのは不思議ですよね。

近年は『いかに速筋の割合を減らさずにトレーニングをするか』ということも研究されています。(VBT、Intra-Set Restなど)

しかし実は速筋線維の割合を増やすことが出来るかもしれないトレーニングの方法もあるのです。

長くなってしまうので、そこについてはまた次回紹介していきます!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


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大分落ち着いてきたので、忙しくて出来なかったことにもいろいろと取り組んでいきます!

オンラインでの仕事のハードルも下がったと思うので、オンライン講習やトレーニング指導のご依頼などあれば是非!


参考文献

1. Ahtiainen, JP, Pakarinen, A, Alen, M, Kraemer, WJ, and Häkkinen, K. Short vs. Long Rest Period Between the Sets in Hypertrophic Resistance Training: Influence on Muscle Strength, Size, and Hormonal Adaptations in Trained Men. J Strength Cond Res 19: 572, 2005.Available from: http://nsca.allenpress.com/nscaonline/?request=get-abstract&doi=10.1519%2F15604.1

2. Campos, GER, Luecke, TJ, Wendeln, HK, Toma, K, Hagerman, FC, Murray, TF, et al. Muscular adaptations in response to three different resistance-training regimens: Specificity of repetition maximum training zones. Eur J Appl Physiol 88: 50–60, 2002.

3. Hartmann, H, Wirth, K, Klusemann, M, Dalic, J, Matuschek, C, and Schmidtbleicher, D. Influence of squatting depth on jumping performance. J strength Cond Res 26: 3243–3261, 2012.

4. Lauersen, JB, Andersen, TE, and Andersen, LB. Strength training as superior, dose-dependent and safe prevention of acute and overuse sports injuries: a systematic review, qualitative analysis and meta-analysis. Br J Sports Med bjsports-2018-099078, 2018.Available from: http://bjsm.bmj.com/lookup/doi/10.1136/bjsports-2018-099078

5. Pareja-Blanco, F, Rodríguez-Rosell, D, Sánchez-Medina, L, Sanchis-Moysi, J, Dorado, C, Mora-Custodio, R, et al. Effects of velocity loss during resistance training on athletic performance, strength gains and muscle adaptations. Scand J Med Sci Sport 27: 724–735, 2017.

6. Schoenfeld, BJ, Ratamess, NA, Peterson, MD, Contreras, B, Sonmez, GT, and Alvar, BA. Effects of Different Volume-Equated Resistance Training Loading Strategies on Muscular Adaptations in Well-Trained Men. J Strength Cond Res 28: 2909–2918, 2014.Available from: http://content.wkhealth.com/linkback/openurl?sid=WKPTLP:landingpage&an=00124278-201410000-00027

7. Seitz, LB, Reyes, A, Tran, TT, de Villarreal, ES, and Haff, GG. Increases in Lower-Body Strength Transfer Positively to Sprint Performance: A Systematic Review with Meta-Analysis. Sport. Med. 44: 1693–1702, 2014.

8. Warren, GL, Park, ND, Maresca, RD, McKibans, KI, and Millard-Stafford, ML. Effect of caffeine ingestion on muscular strength and endurance: A meta-analysis. Med Sci Sports Exerc 42: 1375–1387, 2010.

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【第127回】速筋/遅筋の割合は変化する?基本を知って一歩進んだトレーニングプログラムを!” に対して5件のコメントがあります。

  1. むらいあきと より:

    こんにちは。
    投稿ありがとうございます。

    質問ですが、筋繊維のタイプの割合が変化するというのは具体的に筋繊維がどうなっていると考えることができますか?
    具体的には遅筋繊維の割合が増えるという現象に対して
    ・遅筋繊維が太くなることによって遅筋繊維の割合が増える
    ・遅筋繊維の数が増えることによって遅筋繊維の割合が増える
    ・速筋繊維が遅筋繊維に変化することによって遅筋繊維の割合が増える(こんなことが起きるかは置いておいて)
    のように、割合が増える=何が起こっていると考えればよろしいでしょうか?

    よろしくお願いします

    1. sasabekouki より:

      コメントありがとうございます。

      トレーニング内容によって速筋線維が遅筋化することはありえます。
      typeⅡX→typeⅡAのシフトが起こり、それに伴ってtypeⅡX/typeⅠの割合の低下に繋がることも報告されています。

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