【第112回】トレーニングに関するリテラシーは持ってる?『運動体力』を高める?『運動技能』を高める?

スポーツ選手はトレーニングを『提供する』立場ではなく、多くの場合は個人的にサービスとして、SNSやウェブサイト上で、またはチームの指導者から『受け取る』立場ですよね。

だとすれば「言われたことをすればいいじゃん?」ともなりそうですが、情報が溢れている今の時代は、受け取り手の知識、いわゆる『情報リテラシー』が大事になってきます。

そのトレーニングの目的を知ること、何を意識すればいいかを理解すること、自分に合っているのかを判断できること、こう考えればいかに受け取り手の知識が大事かは分かりますよね。

情報リテラシーというと、「その情報の出所がどこか」とか「どの程度信頼できるデータか」など、小難しいことももちろん大事です。

しかし『トレーニングの情報リテラシー』においては、提供されるそのトレーニングが、『どのようなトレーニングに分類されるか』を自身でカテゴリ分けできるということで、だいぶ思考が整理されます。

運動能力、運動技能、運動体力について理解する

トレーニングや練習の大きな目的のとして、『運動体力』の向上と『運動技能』の向上が挙げられます。

どのような運動課題であってもその『運動能力』を構成しているのは、『運動体力』と『運動技能』です(杉原, 2003)。

それぞれの運動課題ごとに、『運動能力』に占める『運動技能』と『運動体力』の割合は異なります。

例えば、ゴルフのパターを正確に打つという運動能力に関しては、その貢献度は運動技能>運動体力でしょう。

スクワットの最大挙上重量であれば、貢献度は運動体力>運動技能だと考えられます。

ちなみによく『スクワットの挙上重量=下肢の筋力』ととらえられますが、ここの定義でいくと『下肢の筋力』というのは『スクワットの最大挙上重量という運動能力』の1つの要因に過ぎず、『スクワットを効率よく実施するという運動技能』と『下肢の筋力という運動体力』が合わさって、『スクワットの最大挙上重量という運動能力』を構成しているということになります。

しかしながら『下肢の筋力という運動体力』が『スクワットの最大挙上重量という運動能力』に寄与する割合は非常に大きいので、スクワットをトレーニングの手段として実施する場合は『スクワットの挙上重量≒下肢の筋力』ととらえても良いでしょうし、下肢の筋力を高めるためにスクワットを用いるということも妥当でしょう。

また、別の課題で得た『運動技能』や『運動体力』が、他の運動課題の『運動能力』に転移する場合もありますし、なんならトレーニングの目的はそこでしょう。

例えば、テニスのスマッシュという運動能力を磨けば、それで得た運動技能はバドミントンのスマッシュにも多少転移するでしょうし、

バックスクワットで鍛えた運動体力はフロントスクワットにも、もっと言えば『スプリントという運動能力』に必要な『下肢の筋力という運動体力』にも転移するでしょう。

実施、スクワットの挙上重量の増加とスプリントパフォーマンスの向上が比例するということがメタアナリシスでも示されています(Seitz et al., 2014)。

トレーニングがどのように競技パフォーマンスに転移するか?

先ほどのスクワットとスプリントの例は、『下肢の筋力という運動体力』をスクワットで高めることで、スプリントにもその運動体力が活かされたという例です。

スクワットとスプリントという運動課題では、使われる運動技能は大きく異なるので、スクワットの実施が直接的にスプリントの運動技能を高めないということは分かりますよね。

かといってトレーニングの動作を変にスプリントに近づけてしまうと、十分な下肢の筋への刺激がなくなり、必要な運動体力は向上しなくなってしまします。

一方でスクワットのような基礎的なトレーニングが、まったく他の運動技能に影響をしないかというと、そういう訳ではありません。

スポーツ動作における運動能力には、その技能を発揮するための基礎的な能力も必要とされます。

例えば『理想の技術を発揮するための十分な可動域』であったり、『動作を行うための基礎的なバランス能力』であったり。

また、スクワットで使う運動技能はスポーツパフォーマンスの運動技能には直接転移をしないと述べましたが、部分的には転移すると考えられます。

例えば、ディフェンスのスタンスをとるためのヒップヒンジ(股関節を折りたたむ動き)の動作とかは、スクワットでも習得できますよね。

先ほども述べた通り、漸進性過負荷に基づき、徐々に重量を増やしていくようなスクワットのトレーニングは、『下肢の筋力という運動体力』を中心に鍛えられ、そこで得られる下肢の柔軟性や、ヒップヒンジという基礎的運動技能は、『スポーツで使われる動作の運動技能』にも寄与すると考えられます。

一方で、片足RDLのようなトレーニングでは、『モモ裏を中心とした下半身の筋力という運動体力』を鍛えつつも、『片足でバランスをとるという基礎的運動技能』『モモ裏の柔軟性の向上』も大きな目的です。

これらを基に選手自身にも判断して欲しいのが、

●自分が高めたい運動課題の運動能力には、どのような運動技能(+その基になる柔軟性、基礎的運動技能)が必要か、どのような運動体力が必要かということ。

●自分が実施している、実施しようとしているトレーニングは、おもに運動体力を高めることが目的なのか?主に運動技能を高めることが目的なのか?ということ。

このような考え方の枠組みを持つだけでも、トレーニングの意味は深く理解できると思います。

まとめ

🔻スポーツ動作であれ、トレーニングであれ、その運動を実施するには『運動技能』と『運動体力』が必要

🔻各運動で必要な『運動技能』は異なるが、似ている運動課題同士では転移することもある

🔻スクワットなどの漸進性過負荷に基づく基礎的トレーニングの目的は『運動体力(筋力やパワーなど)』を効率的に高めること

🔻トレーニングで得られる柔軟性や、基礎的運動技能は、スポーツ動作における『運動技能』のベースになることも

🔻でも結局スポーツ動作の運動技能を高めるには、その練習が1番

🔻そのトレーニングの目的が、柔軟性や基礎的運動技能を高めることが目的なのか、筋力などの運動体力を高めることが目的なのかをきちんと理解する

🔻もちろんどっちも大事だが、地味でツライ運動体力を高めるトレーニングから逃げちゃだめだし、適当なフォームでやっちゃうと得られるはずだった基礎的運動技能を得られないので、フォームもきちんと意識する

スポーツ選手が知識を得るということはとても大事ですが、それと同時に、このような『考え方の枠組み』を持っていることも大事です。

是非今後のトレーニングに活かしてください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


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参考資料

杉原 隆. 運動指導の心理学-運動学習とモチベーションからの接近-大修館書店,2003

Seitz, LB, Reyes, A, Tran, TT, de Villarreal, ES, and Haff, GG. Increases in Lower-Body Strength Transfer Positively to Sprint Performance: A Systematic Review with Meta-Analysis. Sport. Med. 44: 1693–1702, 2014.

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