【第94回】体幹トレーニング再考①~体幹トレーニングが力を発揮するシチュエーション~

以前よりはブームは過ぎ去ってきたように感じますが、未だに《体幹トレーニング》関連の書籍、テレビ番組は多く目にしますよね。

選手の意見を聞いても
「体幹トレーニングやってからシュートのときの軸が安定してきた」
「体幹トレーニング始めてからスピードが上がった」
逆に
「体幹トレーニングやってても何が効果あるのか分かんないです」
など、様々な意見、感覚があるようです。

まずはこれらの選手自身が体感する成果には、2種類のものがあるということを考えることが必要です。

主観的な成果と客観的な成果

主観的な成果とは、文字通り、選手が主観的に感じる成果です。

先ほど述べた「シュートときの軸が安定してきた」などはこれに当たるでしょう。

一方で客観的な成果とは「スピードが上がった」のように選手自身も主観的に体感しうるのですが、客観的な測定も可能な成果です。

実際の現場では僕はどちらも大事にしています。

しかし一方で、主観的な成果については「プラセボ(思い込み)」も大きく関わるので、トレーニング効果の判定をそこだけに頼るのは推奨しません。

(例)『こんなに頑張ったんだから効果があるに違いない!』
『トレーナーさんが、動きが良くなったね!って言ってくれるからそんな気がしてきた』

このことを把握しているのであれば、『客観的な成果がなくても主観的な成果を感じるからそのトレーニングを続ける』というのは全然アリだと思います。
「シュートのときの身体の軸のブレ」なんて客観的にはなかなか評価できないですからね。(厳密にはバイメカ的知識と機材があれば可能ですが)

※ただ、客観的な成果が出てないのに、『主観的な成果があるでしょ?』という風にやたら誘導してくるトレーナーには注意してください。選手が感じるのは自由ですが。

さて、ここからは客観的な成果に関しての体幹トレーニングの効果の話です。

体幹トレーニングはパフォーマンス向上の効果がある?

結論から言うと、『体幹トレーニングは、科学的な観点からはそれ単体では確実な効果があるとは断言できないが、大事なピースの1つではある』というのが僕の意見です。あいまい。笑

考察を始める前に、体幹筋にフォーカスしたトレーニングに関するメタアナリシスを紹介します。

※ここでいう体幹筋は、体幹部の屈曲、伸展、側屈、回旋などに働く筋肉群のことです。

#44 Prieske et al., 2016

ここで示した通り、体幹トレーニングは、体幹の筋力を向上させることは間違いないようです。(そりゃそうや)

一方で、競技パフォーマンス(5000mのタイムや、ボート競技、水泳のタイム)の向上は示さなかったとのこと。

研究上では右のグラフの表のひし形が示している数値と、その上下に伸びている線(95%信頼区間)などが効果の判断材料になるのですが、パワー(ジャンプ力)はひし形がSMD=0.71とそこそこの数値を示しているものの、95%信頼区間がギリギリ0をまたいでしまっています。

つまり研究の結果としては『確かな効果がなかった』ということになるのですが、個人的な解釈としては「パワー発揮に効果がないことはないのかな~」という感じです。

一方でスクワットなどの下肢を中心としたウエイトトレーニングは、研究上でもスプリントパフォーマンスなどに対する『確かな効果』が示されているので、その観点から考えると『優先順位としては体幹トレーニングよりも下肢を中心としたウエイトトレーニングのほうが高い』とも言えるでしょう。

#21 Seitz et al, 2014

体幹トレーニングが効果を示す選手

ここから先は科学的な知見というよりも、僕自身の考えです。

『体幹トレーニングは、科学的な観点からはそれ単体では確実な効果があるとは断言できないが、大事なピースの1つではある』というのが僕の意見でしたが、もっと言うと

【こういう人には体幹トレーニングの効果があるだろうな】というパターンの選手がいます。

その前に、トレーニングの原則の1つである、『全面性の原則』について紹介します。

全面性の原則とは、身体の各部位(もしくは様々な体力要素)をバランス良く鍛えなさいよという原則です。

例えば上記の図のように、もも前や上半身などがやたら強くても、お尻や腹筋が相対的に弱ければ、発揮できるパフォーマンス(〇の大きさ)は小さくなってしまいます。

この考えでいくと、『体幹に限らず下半身も上半身も弱い選手』は体幹トレーニングを行ってもそこまで効果はないでしょうし
『体幹部が他の部位に比べて相対的に弱い選手』というのは、体幹トレーニングでパフォーマンスがアップするかもしれません。

 

ここで言う一般的体幹トレーニングというのは、メディアでもよく取り上げられる「自体重での体幹トレーニング」のことです。

このトレーニング(厳密にはエクササイズ)は、器具も、複雑な知識もいらないというのが大きなメリットです。(行いやすさに関しても、メディアで売り出すときの観点としても)

一方で、自体重でのトレーニングというのはどうしても限界があります。

例えば、弱点部位が体幹だったとしても、体幹以外の下半身や上半身の部位が非常に強い場合は以下のようになりますよね。

そういった場合は、下半身のウエイトトレーニングと同様、強度の高い体幹トレーニング(荷重デッドバグ、アブローラーなど)が必要になってきます。

まとめ

『体幹トレーニングは科学的な観点からは、それ単体では確実な効果があるとは断言できないが、大事なピースの1つではある』

『優先順位としては体幹トレーニングよりも下肢を中心としたウエイトトレーニングのほうが高い』

『全面性の原則から考えて、体幹が他部位に比べて相対的に弱い場合は体幹トレーニングは効果を発揮すると考えられる』

といった内容でした。

これらを総合して考えると、

【下半身を中心とした全身のウエイトトレーニング、プライオメトリックトレーニングなどの中に、最初から上半身、体幹部の高強度トレーニングもバランス良く取り入れる】というのが最もベターな選択肢でしょう。

結局魔法のようなトレーニングなんかはなく、必要なことをバランス良く取り入れること。足りないピースが明確なのであれば、そこに集中的に取り組むこと。

選手の皆さん、今年も地味なことを頭使って一生懸命がんばっていきましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


試合シーズンが一区切りして、今はスケジュール的に余裕が出てきました。

色んなことがインプットできるので超楽しいです。

アスリハ、S&C、教育学が今の軸ですが、このオフを期にもう1つ専門性の軸を増やそうと思っています!
(器用貧乏にならないよう注意します笑)


参考文献

Olaf Prieske, Thomas Muehlbauer, and Urs Granacher
The Role of Trunk Muscle Strength for Physical Fitness and Athletic Performance in Trained Individuals: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med 46:401–419. 2016

Laurent B. Seitz, Alvaro Reyes, Tai T. Tran, Eduardo Saez de Villarreal, and G. Gregory Haff
Increases in Lower-Body Strength Transfer Positively to Sprint Performance: A Systematic Review with Meta-Analysis. Sports Medicine · July 2014

 

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