【第63回】アジリティの本質を理解する③効率的な方向転換に必要な動き

前回の記事では「アジリティ(方向転換動作)」にはいろんな種類があるから、必要なアジリティをチョイスしなければだめ!という説明をしました。

とはいったものの、Tテストであろうが10m×5であろうが、
どのような方向転換動作にも「減速」「ストップ」「再加速」というフェイズは含まれています。

そのため各テストに共通して必要なキネティクス(動力学:力発揮の方向、大きなど)が存在し、そのキネティクスを達成するために必要なキネマティクス(運動力学:動き方)が各テストで異なっていると僕は考えています。

「???」

という読者の方もいるかもしれないので、順を追って説明していきます。

地面反力(GRF)

地球上で上に跳んだり、前方に加速したり、ストップしたりできるのは地面に力を加えて逆向きの力(地面反力)をもらっているからです。

例えば、地面を下に押すと身体は地面から上向きに押されます。

地面を後ろに押すと身体は前方に押し出されます。

走っているときに足を前に出して踏ん張ると身体は後ろ方向に押されるのでストップができます。

 

下肢の筋力・パワーを鍛えることによって地面を強く速く押すことができるようになる≒大きな地面反力をもらうことができるようになる。

そのため下肢のレジスタンストレーニングによって身体能力が向上するのです。

しかしながらスプリントなどの水平方向への力発揮においては、大きな地面反力をもらうことだけではなく、どの方向への地面反力をもらうかも重要になってきます。

実際にMorinら(2011)は100m走と地面反力の角度についてのデータを収集し、100m走が速い被験者ほど平均して地面反力をより水平に近い角度に維持していたことを報告しています。

また同様にサイドステップを用いた180度の方向転換においても、Shimokochiら(2013)は方向転換能力に優れている被験者ほど地面反力が水平に近づいていることを報告しています。

スプリントにしろ方向転換にしろ、前後左右など水平面の動きにおいては、いかに地面反力を水平に近づけるか、言い換えると進みたい方向やブレーキの力を得たい方向の力(この場合は水平方向の力)を地面から得ることが重要であると考えられます。

水平方向の地面反力を得るためのキネマティクス

では水平方向への地面反力得るにはどうすればいいのか。

大きく分けて以下3つの方法が考えられます。

・進みたい方向に身体を傾けること

・足を重心から遠い位置につくこと

・重心を落とすこと

進みたい方向に身体を傾ける

Kugler and Janshen(2010)は短い距離のスプリントの場合、身体をより前方に大きく傾けているほうが、より大きな前方への地面反力が得られることを報告しています。

また、5m×2の180度の方向転換動作においてもSasakiら(2011)が上記の研究同様、方向転換後の進行方向により身体が傾いている被験者ほど方向転換スピードが速かったことを報告しています。

また、この研究では重心高は計測していなかったのですが、図のように身体を傾斜するのに伴って重心が低くなるし、重心に対する足の接地位置も遠くになることが予想できますよね。

足を重心から遠い位置につく

上記のように身体を傾斜することで自然と足の接地位置は遠くなると考えられるのですが、身体の傾斜といった戦略をあまり使うことのできない方向転換もあります。

例えば、バスケットボールなど比較的狭いコートの競技で用いられるサイドステップでの方向転換では、身体を進む方向に傾斜させて移動すると、逆方向に振られたときに対応が遅れるので好ましくありません。

そのためこのような方向転換では、股関節を適度に外転(左右に開く)することによって足の接地位置を遠くし、地面反力を水平に近づけることができます。

実際にサイドステップでは股関節が外転するほど地面反力が水平に近づくことも明らかとなっているのですが(Inaba et al, 2013)、かといって足を開き過ぎると下肢の屈曲伸展をうまく使えないですし、次の動作(スプリントなど)への移行もしづらいですよね。。
適度にというのがポイントです。

重心を落とす

先述したShimokochiら(2013)のサイドステップの研究では地面反力の解析だけでなく動作解析も行われ、方向転換能力の優れている選手ほど地面反力が水平に近く、なおかつ重心が低いことが報告されています。

上記のInabaら(2013)の研究と統合して考えると、サイドステップでの方向転換においては身体の傾斜をあまり用いることができないので、
・股関節の外転
・重心の低下(下肢の屈曲)
2つの戦略によって地面反力を水平に近づけることができると考えられます。

まとめ

前回の記事で紹介した通り、方向転換動作(アジリティを評価するテスト)は複数存在し、それぞれで求められる能力は違う。

しかし「減速」「ストップ」し「再加速」を行う課題であるというのは共通なので、どのような方向転換動作であっても地面反力を水平に近づけることは重要。

そして地面反力を水平に近づけるには
・進みたい方向に身体を傾ける
・足を重心から遠い位置につく
・重心を落とす

といった戦略が考えられ、方向転換動作の特性に合わせて適したテクニックを採用する必要がある。

以上になります。

さて、次回でアジリティシリーズはラストの予定です。

ネタバレになってしまいますが「効率的な方向転換動作というものがあるものの、それを行うにはやっぱり筋力が必要」といった内容です!

ではお楽しみに~

アジリティシリーズ全④回
第④回はこちら

佐々部孝紀


参考文献

Jean Benoît Morin, Pascal Edouard, and Pierre Samozino, “Technical Ability of Force Application as a Determinant Factor of Sprint Performance,” Medicine & Science in Sports & Exercise, 2011 <https://doi.org/10.1249/MSS.0b013e318216ea37>.

Yohei Shimokochi and others, “RELATIONSHIPS AMONG PERFORMANCE OF LATERAL CUTTING MANEUVER FROM LATERAL SLIDING AND HIP EXTENSION AND ABDUCTION MOTIONS,GROUND REACTION FORCE, AND BODY CENTER OF MASS HEIGHT,” J Strength Cond Res, 27.7 (2013), 1851–60.

F. Kugler and L. Janshen, “Body Position Determines Propulsive Forces in Accelerated Running,” Journal of Biomechanics, 43.2 (2010), 343–48 <https://doi.org/10.1016/j.jbiomech.2009.07.041>.

Shogo Sasaki and others, “The Relationship between Performance and Trunk Movement during Change of Direction,” Journal of Sports Science and Medicine, 10.1 (2011), 112–18.

Yuki Inaba and others, “A Biomechanical Study of Side Steps at Different Distances,” Journal of Applied Biomechanics, 29.3 (2013), 336–45.

画像引用元
http://jp.freepik.com/index.php?goto=41&idd=36067&url=aHR0cDovL3d3dy5zeGMuaHUvcGhvdG8vMTEwNDU0
作成者:James Allen

 

Follow me!

【第63回】アジリティの本質を理解する③効率的な方向転換に必要な動き” に対して5件のコメントがあります。

  1. KAZZILLA より:

    ご無沙汰してます。いつもこのブログで勉強させていただいてます。
    今回の水平方向の地面反力を得る3つの方法のうち、重心を落とすというのは他の2つの姿勢をとった事により結果として重心が落ちるのでしょうか?それとも重心を落とす事自体に意味があるのでしょうか?
    例えばサイドステップで
    ①重心から接地までの距離が同じでも重心の低い方が有利なのか?
    ②切り返しの瞬間だけ重心を落とすのと常に重心を低く保っているのとで違いはあるのか?あるとしたらどちらが有利なのか?
    フォームが変われば発揮出来る筋力も変わるので単純に比較出来ないとは思いますが、少し気になったので質問させていただきました。あくまで好奇心からですので真面目な回答でなくても結構ですf(^_^;

    1. sasabekouki より:

      コメントありがとうございます。
      同時に起きている現象なので、どちらが先かというのはあまり述べることはできませんね。
      重心から接地までの距離が同じであれば、重心が低い方がよりGRFは水平方向に傾くので、その点では有利になると考えられます。
      ただ記事内にもある通り、無理に重心を落としたせいで下肢の伸展がうまく使えないのなら本末転倒ですね。
      ②に関してはあまり断言はできませんが、SSCの活用や、垂直GRFの増加による摩擦力増加(スリップ防止)という観点からは急激に重心を落とすといった方法も有効になってくるのではと思います!

      1. KAZZILLA より:

        回答いただきありがとうございます。
        昔バスケットボールをやっていてカットインの際に腰を落とす事で切り返しが素早くなる感覚は有ったので今回の内容は実感として分かりやすかったのですが、なにぶん昔の事ですので「そういえばどんなタイミングで腰を落としていたかな?」とふと気になり質問させていただきました。
        お忙しい中お手間をとらせ申し訳ありません。

sasabekouki へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA