【第31回】スクワットの最大挙上重量を公平に「体重の〇〇倍」と評価するのは実は不公平?

スクワット(SQ)最大挙上重量

これはアスリートにとって非常に重要な数値の一つです。

人と比較すること自体に意味はないという意見もありますが、この数値を上げていくことで様々な利益が得られることは明白です。

よく「SQのマックスは最低自体重の1.5倍は上げろよー」とか聞きますけど、

最近、そのような「体重の〇〇倍」という評価に疑問を感じています。

 

SQの挙上重量の、「体重の〇〇倍」という評価

研究の世界ではそのSQの挙上重量を用いて、
トレーニング鍛錬者(Trained)
トレーニング非鍛錬者(Untrained)
を分ける場合があります。
そのときに、体重の1.5倍の重りをスクワットで挙げられたら鍛錬者、そうでなければ非鍛錬者、等の設定があります。

なぜそんなことをするかというと、鍛錬者と非鍛錬者では、トレーニングが身体に及ぼす影響が若干異なる場合があるからです。
極端な例でいうと、外でまったく運動しない肥満児だとランニングで筋力が向上する場合もありますが、アスリートだと逆に過度なランニングで筋力が低下する場合もある。てな具合です。

また、SQの挙上重量に対して1.5倍だとか2.0倍だとかの値を、選手の目標値に設定する場合もあります。

その、「体重の〇〇倍」という値(相対値)を用いる理由としては、
体重100㎏の人が持ち上げる100㎏と、体重50㎏の人が持ち上げる100㎏だと、すごさが違うじゃん!重りの重さを体重で割ったほうが公平じゃん!
という考えがあります。

 

相対挙上重量(体重の〇〇倍)の落とし穴

しかし、その相対値の使用が、逆に不公平な評価につながっているんじゃないかと感じることがあります。

特にバスケのような、身長のばらつきが大きいスポーツでは顕著です。

ガードの選手(170㎝台)ではパラレルSQで体重の2倍ほどの重量を上げる選手もいますし、体重の1.5倍の挙上なんて数か月トレーニングをすれば、ほぼ全員上げられます。
一方、センターの選手(2m級)では体重の2倍なんて上げられる選手は滅多にいませんし、なんなら1.5倍を上げられない選手もいます。

そもそも、相対挙上重量を用いている理由として
【体重が重いほうが挙上には有利】
という考えがあります。

 

しかしここで見落としがちなのが、
【身長が高いほうが挙上には不利】
という点です。

 

下の図のように、同じ重りを、長さの違う釣り竿で持ち上げるとします。
左の釣り竿が3m、右の釣り竿が4mなので、右の人のほうが4/3倍(1.33倍)重く感じるはずです。
※竿の角度は一緒で、たわみはないものとします

%e3%83%a2%e3%83%bc%e3%83%a1%e3%83%b3%e3%83%88

このとき、左の人が重りを3㎏から4㎏に変えると、同じ力を発揮するはずです。
重さ4×長さ3=重さ3×長さ4

このように重さと長さで決まる負荷(または発揮している力)を、
トルク(またはモーメント)といいます。

 

 

これは、人間の身体にもあてはまります。
身長150㎝の人と身長200㎝の人がSQをしている図を下に簡易的に表します。
※各部位の長さ、太さの比率は同じとする
※自体重は無視
青い丸が、100㎏の重りです。

%e8%ba%ab%e9%95%b7%e3%81%a8sq

身長200㎝の人のほうが筋量は多く、筋力もあるはずですが、
同じ100㎏でも、体幹が長いぶん200㎝の人のほうが発揮しなければならないトルクは大きくなります。

●体重は重い方が有利
●身長は高い方が不利

この2つを考えると、身長のばらつきの大きいスポーツにおいては、
相対挙上重量(体重の〇〇倍)
で評価するよりも
絶対挙上重量(〇〇Kgを上げられた)
で評価するほうが実は公平なのでは。

 

絶対挙上重量(〇〇kg)での評価

「同じ身長でも体重のばらつきはあるし、その場合は体重が重い方が有利じゃん」
という意見もあるかと思いますが、
【体重が重い】ということ自体がバスケ等のコンタクトスポーツにおいては評価の対象になります。
体重が軽く、スクワットも上がらない選手は、そもそも体重も増やしてください。
それこそ相対挙上重量で選手の評価を行うと、「体重を増やさないように挙上重量を増やす」なんて発想になりそうですし。(マラソン等の競技はそのほうがいいかもしれませんが)

そのため、僕はチームでSQの目標値を選手に提示するときは絶対値で示すようにしています。
(研究等で他の体力要素との相関をみたりするときは相対値で考えますが)

個人的にはトレーニング初心者の大学1年生でも、1年間きちんとトレーニングを積めば
パラレルバックスクワットの最大挙上重量、130㎏
程度は達成できると思っています。
(もちろん、身体の形態上難しい選手もいるかもしれません)

もちろん、目標値にのみにとらわれるのは良くないですが
・「当たり前」のレベルの高さ
・適切な目標設定
がトレーニングのモチベーションを高めるので、やはりある程度の目標設定はあったほうがいいのではないでしょうか。

意外とトレーニング初心者においては、
SQの100kgをすごいと思っている(「当たり前」のレベルが低い)選手も多いですしね。笑

 

おわり

 

追記

ついでにさっきの図の200㎝の人が、相対挙上重量ではどれだけ不利か、中学生レベルの物理と数学で計算してみました。
興味のある人はごらんください(笑)

 

150㎝の人がSQで100kgを上げられるとき、まったく同じ体格の200㎝の人は何kgを上げられる?

※身体の各部位の比率はまったく同じとする(体脂肪率も同じ)
※自体重は無視
※挙上はすべて股関節伸展トルクに依存するとしたら

%e8%ba%ab%e9%95%b7%e3%81%a8sq

●長さ(cm)4/3倍(1.33倍)
身長、体幹長

●面積(cm²)16/9倍(1.78倍)
筋断面積(単関節発揮トルク)

●体積(cm³)64/27倍(2,37倍)
体重

150㎝の選手

【身長】
150㎝
【体重】
50㎏
【股関節最大伸展トルク】
(a) N・m
【SQ最大挙上重量】
100kg
(相対挙上重量2倍)

200㎝の選手

【身長】
200㎝(←4/3倍)
【推定体重】
118.5kg(←64/27倍)
【股関節最大伸展トルク】
16/9×(a) N・m(←16/9倍)

股関節伸展トルクは16/9倍
体幹の長さが4/3倍⇒3/4倍不利
16/9×3/4=4/3
【推定SQ最大挙上重量】
133kg(←4/3倍)
(相対挙上重量1.13倍)

結果

150㎝の選手
【絶対挙上重量】100kg
【相対挙上重量】2.0倍

200㎝の選手
【絶対挙上重量】133kg
【相対挙上重量】1.13倍

この数字だけを見ても、相対挙上重量よりも絶対挙上重量のほうが公平そうですよね。

また、今回は無視していますが、200㎝の選手は自体重でのストレスが増すため、もっと挙上重量は落ちると考えられます。

これは現場感覚的な話になりますが、150㎝で50㎏、体脂肪率10%なんて人はごろごろいる印象がありますが、
200㎝118.5㎏、体脂肪率10%なんて、なかなかそんな身体作れない(笑)

上記2つを考えたら、200㎝の選手のスクワットの挙上は、実際にはもっと不利になると考えられますよね。

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【第31回】スクワットの最大挙上重量を公平に「体重の〇〇倍」と評価するのは実は不公平?” に対して3件のコメントがあります。

  1. yuki より:

    低身長の人がバーベルを担いだ場合と
    高身長の人がバーベルを担いだ場合とを比較した場合、
    高身長の人の方がバランスをとる体幹というか、エネルギーというか、
    たくさん必要かな?って感じます。
    わかりやすく例えるなら
    積み木を段々高くしていけばいくほど、やがてフラフラとしてくる。
    高層ビルも高くなればなるほど、地震で横揺れも大きくなる。
    よって、高身長の方がバランスをとるのが難しい。
    高身長は不利と感じますが、どうでしょうか?

  2. 通りすがり より:

    伝わるかどうか怪しいのですが(分かってない奴、と思われかねない)体型を同比率で4/3倍に拡大した場合、関節トルクは64/27倍になるはずです。関節そのものの大きさも拡大するので、トルクは筋断面積ではなく、結果的に筋体積に比例します。屈曲部と腱付着位置の距離が広がる事で、結局はてこ比が変わらないということです。ですから力発揮は16/9となるはずです。逆に関節のサイズが変わらないと仮定すれば、この記事の計算通りだと思います。どちらの仮定が現実的かは分からないですが「同比率で4/3拡大、体重は64/27倍」と仮定した訳ですから、関節のサイズや骨盤のサイズ、周囲の筋、腱の付着位置も同比率で変化すると考えるのが妥当でしょう。逆にそれが変わらないとするなら、体重が64/27倍にまで増えるのはおかしいです。
    この記事の計算ではあまりにも両者に差がつき過ぎていると感じます。

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