【第172回】体力測定の結果は思った以上に活用出来るので、くそ程使っていきましょう!

トレーニング指導者であれば必ずおこなうであろう『体力測定』

数値として現状を把握するということはめちゃくちゃ大事です。

「いや、そんな数値に頼らなくても俺は普段の選手の動きを見ていればパフォーマンスもだいたいの体力は分かる」という神の目(?)を持った人ではない限り、実施すべきことであることは間違いないです。そんな人会ったことなし、僕には無理ですけど。

普段のトレーニング内で扱う重量が増えてきてるな、とか、練習中にばてなくなってきているな、とかはもちろん見ていたら感じ取ることは出来ますが、筋力が、パワーが、持久力がどの程度伸びてきているかは、測定を行わないと(もしくは速度デバイスなどでのモニタリングをしないと)分かりません。

ただし、『体力が伸びているか確認する』だけでなく、それを具体的にどのように可視化するか、どのように活用するかを具体的に考えるのはめちゃくちゃ大事です。

『体力測定をすること』ではなく『体力測定を活用すること』が大事。

これは1000回くらい言いたい。

体力測定の労力が10くらいだとしたら活用は100くらいいっときたい。

今回はそのアイディアをいくつか皆さんにも内容をシェアします。

そもそも体力とは?

一般の方はよく

体力=持久力

という勘違いをしてしまっているケースがありますが、持久力は体力要素の1つに過ぎません。

体力要素には、筋力、スピード、パワー、敏捷性(アジリティ)、持久力、柔軟性などが挙げられます。体育の授業でやった体力テストをイメージすると分かりやすいかもしれません。50m走とか握力とか測りましたよね。

体力測定を行うときは、まずその競技に必要な体力要素(筋力、持久力、アジリティなど)をピックアップし、その体力要素を測定する適切なテスト(スクワット1RM、20mシャトルラン、プロアジリティテストなど)を選定する必要があります。

体力測定の目的

体力測定の種目を選ぶ際に、その目的、言い換えると『活用方法』も明確にしておく必要があります。

僕の考える体力測定の目的は

①個人、全体の現状・成果の確認

②目標設定及びモチベーションアップ

③全体のプログラムへの反映(計画作り及びその修正)

④負荷設定への活用

になります。

以下それぞれについて解説していきます。

①個人、全体の現状・成果の確認

体力測定の推移を測って、個人の成果やチーム全体の推移を選手本人、コーチ・監督にフィードバックするのはマストです。

ここをちゃんと出来てなかったらチームをクビになってもしょうがない。それくらい大事です。

フィードバックの際にポイントとなるのは適切なグラフを活用すること

使うグラフは

✓推移・成果⇒折れ線グラフ

✓短所・長所の確認⇒レーダーチャート

あたりですね。

⇓これはめちゃくちゃ簡単な例です。昨年光電管も購入したのでここにスピードやアジリティも加えてるチームもあります。

レーダーチャートはチームの平均値を10点中の5点とかにする方法もあれば、外から引っ張ってきた目標値を◇点にするといった方法がありますが、僕は後者を活用しています。

しかしその数値の信頼性や妥当性に疑問がある場合は、無理にレーダーチャートは作らずに折れ線グラフだけでも良いかと思います。

明確な目標値がある場合は折れ線グラフの中に点線で示してあげたりすると、目標値との差も分かって良いですね。

②目標設定及びモチベーションアップ

こうったフィードバックシートを配布することは選手のモチベーションにもなります。

取り組みが足りなくて伸びていなかった選手は取り組みを変えるきっかけになりますし、順調に伸びていた選手はこのまま頑張ろうという動機になります。

そして次の体力測定の時期を明示して、ここまでにこれくらいは達成しようという短期目標を決めるのも超大事です。長期的な成長は結局短期的な変化の積み重ねなので。

1年間で成長出来なかった選手はそのままいけば4年間何も得ずに終わってしまいます。体力測定のフィードバックはそういった選手は行動を変えるきっかけにもなります。

チームとして取り組んでいることであれば、チーム平均でここまで達しようという目標を設定するのも良いかもしれませんね。

③全体のプログラムへの反映(計画作り及びその修正)

個人のフィードバックシートだけでなく、全体の平均値、もしくはポジションごと、学年ごとの平均値の推移も出してみましょう。

もしもターゲットとしていたはずの数値のチーム平均値が停滞してしまっていたら、チームとしての取り組みを変える必要があります。

負荷が低すぎたのか?

負荷が高すぎたのか?

提示した負荷で選手が実施出来ていなかったのか?

トレーニング以外の栄養・休養に問題があるのか?

そういった分析の機会になるはずです。

伸びていなかったという事実は測定をしなかったら明らかになっていないので、それが明らかになっただけでも大きな前進です。そこからさらに進むためにも何か取り組みを変えていきましょう。

④負荷設定への活用

負荷設定への活用というのも体力測定の重要な役割の1つです。

分かりやすい例でいったらスクワットの1RMから%で負荷を決める方法。

例えば1RMの85%で3レップ、とか75%で8レップといった設定です。

しかしトレーニングを実施するときはバックスクワット以外の種目も実施しますよね。

そういった場合に行うであろうメイン種目を全部測定するというのも1つの方法ですが現実的ではありません。

僕がよく行う方法は、例えなフロントスクワットやRDLの1RMはバックスクワット1RMの85%と仮定したり、ハイクリーン1RMはバックスクワットの67%に設定したりする方法です。

例えばフロントスクワットの1RMの75%は
バックスクワット1RM×0.85×0.75で計算するといった形です。

このバックスクワットに対する比率は文献も参考にする方法もありますが、自分が指導する集団の特性や普段のトレーニング状況も考慮するべきなので、上記の負荷設定は僕が指導するアスリート以外にもあてはまるとは限りません。しかしある程度は参考になるかと。

また、トレーニング指導者でも意外と出来ていない人もいるのが持久的トレーニングの負荷設定

全員一律で○往復を△秒、とか、ポジションごとの負荷設定とかを実施している現場が多いのではないでしょうか。(とか言いつつ僕も昔はそうやっていましたが。。)

意外とあいつ優秀なんですよ。20mシャトルラン。

20mシャトルランの回数からは20m往復走におけるMaximum Aerobic Speed(MAS)も算出出来るので、HIITの負荷設定に役立ちます。MASというのは最大有酸素性速度のことで、シャトルランを実施していてペースに間に合わなくなった最後の速度です。

テスト中の速度に関しては数回でレベルが上がるごとに0.5km/hずつ上がるようになっています。各レベルの速度は20mシャトルランを最初に報告した論文(Leger & Lambert, 1982)かWikipediaでも確認できるので是非。

スプリントの測定でMaximum Sprint Speedも測定出来ていたらAnaerobic Speed Reserve (ASR)も算出出来るので、ショートインターバルやスプリントインターバルも含め、めちゃくちゃ効率的なHIITの処方が出来ます。個人的には1分とかのロングインターバルはMASの110%などのMAS単独での走速度の計算で良いと思いますが、ショートインターバル(20-30秒とか)だとASRから算出したほうが良いかなと思います。

簡単な説明になりましたが詳細はまたどこかで説明出来ればと思います。

※HIITの種類はこちらの過去記事から!【第139回】筋力向上と持久力向上の両立のためのHIITの活用

また、ターンのスキルなどにも影響されるので妥当性はやや疑問がありますが推定のVO2max (ml/kg/min)も算出出来ます。

その数値と体重からVO2maxの絶対量 (ml/min)も算出可能なので、先行研究(Myles & Toft, 1982)の回帰式を参考にバイクのMaximum Aerobic Powerも計算してリハビリ中の選手の持久的トレーニングの負荷も設定出来ます。

こんな感じでエクセルを作成し
✓体重
✓スプリントのテストの記録
✓持久力テストの記録(20mシャトルランなど)
✓ロングインターバルに活用するMASに対する%
✓ショートインターバルに活用するASRの%
を入力する欄を作っておけば、簡単にHIITの負荷設定が出来ます。

※MSSをターンありのランニングに変換する場合は少しタイムが遅くなるので注意。20mシャトルランで算出したMASを直線走に活用する場合も逆のことが起きます。

まとめ

体力測定の結果は

✓選手のやる気を引き出す個人フィードバックシートの作成

✓フィードバックシートを基に個人の取り組みの反省の機会を与える、短期目標設定をする

✓全体の傾向を把握し、トレーニングの方針の調整に活用

✓筋力測定はウエイトの負荷設定に活用

✓種目ごとのおおまかな重量の比率から他の種目の負荷設定にも活用

✓20mシャトルランからMASを算出し、HIIT(ロングインターバル)の速度を決定

✓20mシャトルランの結果と体重からバイクのトレーニングのおおまかな負荷を算出

✓20mシャトルランとスプリントスピードの測定からASRを算出し、HIIT(ショートインターバル)の負荷を設定

など、めちゃくちゃに活用出来ます。

『体力測定をすること』ではなく『体力測定を活用すること』が大事。

1000回言いたかったけど2回しか言えなかったです。

他にも色々あるのですが、文字数がとんでもないことになりそうなので今回はここまで。。

是非今回の情報をチームの取り組みにも活かしていってください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


最近は若手トレーニング指導者の人たちからキャリアについての相談を受けることも多くなってきました。

SNSやネット上だけでは伝えられないようなことを伝える場も作っていければいいなーとは思っているので、今後はそういったことにも力を入れていきます!


参考文献

Léger, L. A., & Lambert, J. (1982). A maximal multistage 20-m shuttle run test to predict VO2 max. European Journal of Applied Physiology and Occupational Physiology, 49(1), 1–12. https://doi.org/10.1007/BF00428958

Myles, W. S., & Toft, R. J. (1982). A cycle ergometer test of maximal aerobic power. European Journal of Applied Physiology and Occupational Physiology, 49(1), 121–129. https://doi.org/10.1007/BF00428970

【第168回】足首は硬いほうが良いってホント?ケースバイケースです!⇐めっちゃ解説します

「足首って硬いほうが良いんですか?」

という問いに対して、僕はプロとしてこう答えます。

「知らんがな」

まじで考えること多いんですよね。。。

本日は足首の硬さとパフォーマンスの関係についてのウソホントについて掘り下げていきます。

そもそも足首が硬いとは?

そもそも足関節の硬さというのも複数の要因に影響を受けます。

関節の可動性というのは多くの場合ROMテストで評価をされますが、研究においては最終域を被測定者の痛みや不快感を基準に測定しているケースがほとんどです。

そのため
✓ストレッチトレランス(ストレッチ痛に対する耐性)
✓筋腱のスティフネス
によって関節の可動性は決まってきます(Freitas et al., 2018)。

スティフネスというのは伸びづらさを示す変数で、スティフネスが大きい=伸びづらい=硬いということになります。

足関節の背屈可動域の場合、主に腓腹筋&ヒラメ筋からアキレス腱の硬さによって足関節のスティフネスが決まってくるということになりますね。

つまり一口に足首のか硬さといっても
①足関節のROM
②下腿の筋and/orアキレス腱のスティフネス
というものが存在し、

①は痛みの耐性という感覚的な要因と下腿の筋腱の硬さという物理的なものを含む総合的な可動域

②は下腿の筋and/orアキレス腱の物理的な硬さ

を示すということになります。

※このへんの詳しい定義は、昨年一新された日本スポーツ協会ATのテキストのストレッチングの項目で佐々部が解説しているので、手元にある人は是非確認してみてください!

足首の硬さとパフォーマンスの関係

足関節の硬さとパフォーマンスの関連について、硬いことのメリットを先に挙げると

(1)アキレス腱が硬いことによるRFD(瞬時に力を伝える能力)やRSI(バネのように跳ねる能力)の増加

(2)(1)を通したランニングエコノミーの向上

があります。

ランニングエコノミーとは、主に長距離などのランニングで余分な酸素を消費せずに走れる能力、同じ酸素消費量でも速く走れる能力を指します。

Konradら(2023)は
✓下腿の筋
✓アキレス腱
✓四頭筋
✓膝蓋腱
のスティフネスとランニングエコノミーの関係性について調べたところ、アキレス腱のスティフネスのみランニングエコノミーと相関を示したことを報告しています。

つまり、足首が硬いと言っても下腿三頭筋が硬さではなくアキレス腱の硬さが必要ということですね。

次は下腿の筋and/or腱のスティフネスではなく、ROMを測定し、ジャンプパフォーマンスとの関係性を評価した研究を2つ紹介します。

#98 Papaiakovou, 2013
#101 Panoutsakopoulos and Bassa, 2023

どちらの研究においても、CMJのような遅いSSCのパフォーマンスについては足関節の背屈ROMが大きいほうが有利だといえそうです。

一方で、ドロップジャンプのような速いSSC課題だと、背屈ROMが小さいほうがジャンプ時のRFD(力の立ち上がり率)が大きいことも報告されています。

この研究ではRSIは報告されていませんが、ジャンプ高と動作時間を見た感じだとRSIも足首が硬い選手のほうが大きそうですね。実際、アキレス腱のスティフネスが高いほどドロップジャンプの接地時間が短かったほとも報告されていますし(Abdelsattar et al., 2018)。

速いSSC、遅いSSCってなんやねんという方のために、動画でのイメージです↓
RSIというのは、速いSSC課題においていかに短い接地時間で高く跳ぶかという変数です。

ここまでのまとめ

✓足関節背屈ROMは大きいほどCMJのような遅いSSCのパフォーマンスは高い?

✓足関節背屈ROMが狭いほうがドロップジャンプのような速いSSCのパフォーマンスが大きい?

✓ランニングエコノミーやRSIの高さと関連があるのは下腿の筋ではなく腱の硬さ?

腱のスティフネスって変えられるの?

上記の観察研究の上方だけでは『足首の硬さがあったほうが良い!』『柔らかいほうが良い!』とは一概に言えなそうですね。

それにアキレス腱が硬いほうが良いとかいうけど、アキレス腱って固く出来るの?という疑問も浮かびます。

Burgessら(2007)はプライオメトリクスとアイソメトリックトレーニングの介入によって、どちらの群でも腱のスティフネスが向上したことを報告しています。

また、Albracht & Arampatzis (2013)の研究においても、足関節底屈のアイソメトリックトレーニング(足首を固定した状態でつま先を倒すような力を出すトレーニング)でアキレス腱のスティフネスが増加し、ランニングエコノミーが向上したことが報告されており、腱もトレーニングの介入で変化するということは間違いなさそうです。

また面白いことに、下腿を含む下肢の筋群へのストレッチの介入ではランニングエコノミーは低下しなかったことが報告されています(Nelson et al., 2001)。

しかしながらCooperら(2021)の研究においては筋束長が長いほどランニングエコノミーは低くなることも報告されているので、筋束長の適応を起こすほどの強度・期間でのストレッチは腱のたわみに影響を与え、ネガティブな効果を引き起こすかもしれません。

しかし同研究内で筋束長が長いほどパワー発揮能力が大きいことも報告されており、筋束長を大きくしたほうが良いのかはケースバイケースになりそうです。

まとめ

足首の硬さとパフォーマンスについて詳しく解説してきました。

またパフォーマンスとは異なる観点ですが、足関節背屈可動域が小さいほど膝蓋腱炎の発症率が高かったことが報告されています(Backman et al., 2011)。

考えること多すぎですね。笑

まとめ↓

✓足関節背屈ROMは大きいほどCMJのような遅いSSCのパフォーマンスは高い

✓足関節背屈ROMが狭いほうがドロップジャンプのような速いSSCのパフォーマンスが大きい

✓ランニングエコノミーやRSIの高さと関連があるのは下腿の筋ではなく腱の硬さ

✓速いSSCの能力(RSI)やランニングエコノミーを高めようと思ったら下腿三頭筋ではなくアキレス腱を硬くすべき?

✓腱のスティフネスはアイソメトリックトレーニングやプライオメトリクスで向上する

✓数週間のストレッチであればパフォーマンスの低下に影響を与えないが、やりすぎると特定のパフォーマンスに負の影響がある?

✓足関節背屈ROMが小さいと膝蓋腱炎のリスクがある

ここまで読んでもらえば分かるかと思いますが、本当に考えることはいっぱいです。

1つの研究で結論は出せませんし、そこにいる選手のニーズによっても適切なアプローチは変わっていきます。

EBPの重要性を示す分かりやすい例ですよね。

1人1人のニーズに対して細かく評価をするのが理想ですが、僕も大人数に指導することは多いので、チームで指導するときは

●競技・トレーニングするうえで困らない程度の最低限の背屈可動域を獲得させる

●アキレス腱のスティフネスを高めるために短いSSCを含むプライオのトレーニングを入れる

あたりに僕は落ち着いてます。

最低限の背屈可動域というのは競技によって少しずつ変わると思いますが。

みなさんの思考の整理に今回の記事が役立てばうれしいです!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


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参考文献

  1. Abdelsattar, M, Konrad, A, and Tilp, M. between Achilles Tendon Stiffness and Ground Contact Time during Drop Jumps. ©Journal Sport Sci Med 17: 223–228, 2018.Available from: http://www.jssm.org
  2. Albracht, K and Arampatzis, A. Exercise-induced changes in triceps surae tendon stiffness and muscle strength affect running economy in humans. Eur J Appl Physiol 113: 1605–1615, 2013.
  3. Backman, LJ and Danielson, P. Low range of ankle dorsiflexion predisposes for patellar tendinopathy in junior elite basketball players: A 1-year prospective study. Am J Sports Med 39: 2626–2633, 2011.
  4. Burgess, KE, Connick, MJ, Graham-Smith, P, and Pearson, SJ. Plyometric vs. isometric training influences on tendon properties and muscle output. J Strength Cond Res 21: 986–989, 2007.
  5. Cooper, AN, Mcdermott, WJ, Martin, JC, Dulaney, SO, and Carrier, DR. Great power comes at a high ( locomotor ) cost : the role of muscle fascicle length in the power versus economy performance trade-off. J Exp Biol , 2021.
  6. Freitas, SR, Mendes, B, Le Sant, G, Andrade, RJ, Nordez, A, and Milanovic, Z. Can chronic stretching change the muscle-tendon mechanical properties? A review. Scand J Med Sci Sport 28: 794–806, 2018.
  7. Konrad, A, Tilp, M, Mehmeti, L, Mahnič, N, Seiberl, W, and Paternoster, FK. The Relationship Between Lower Limb Passive Muscle and Tendon Compression Stiffness and Oxygen Cost During Running. J Sports Sci Med 22: 28–35, 2023.
  8. Nelson, AG, Kokkonen, J, Eldredge, C, Cornwell, A, and Glickman-Weiss, E. Chronic stretching and running economy. Scand J Med Sci Sport 11: 260–265, 2001.
  9. Panoutsakopoulos, V and Bassa, E. Countermovement Jump Performance Is Related to Ankle Flexibility and Knee Extensors Torque in Female Adolescent Volleyball Athletes. J Funct Morphol Kinesiol 8, 2023.
  10. Papaiakovou, G. Kinematic and kinetic differences in the execution of vertical jumps between people with good and poor ankle joint dorsiflexion. J Sports Sci 31: 1789–1796, 2013.Available from: http://dx.doi.org/10.1080/02640414.2013.803587

【第162回】速いSSCと遅いSSCは別物?それぞれの特性について整理する

前回の記事では【第161回】プライオメトリクスの基本ーSSCとは?ピュアコンセントリックとは?というタイトルで、SSCについて解説しました。

ドロップジャンプのような速いSSCと、カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)のような遅いSSCでは動作自体が異なるということに触れました。

今回は「じゃあ一体どんな感じで違うんだい」ということを少し掘り下げてみようと思います。

(速いSSCと遅いSSCのイメージ⇓)

 

重心高、関節角度の観点から

遅いSSCの代表的な動作であるCMJ、速いSSCの代表的な動作であるDrop Jump(Bounce)について比較してみましょう。

CMJでの沈み込み幅は33.0±4.1㎝

Drop  Jumpでの沈み込み幅は15.5±4.3㎝

であったことがMarshall & Moran(2013)の研究で報告されています。

また同じ研究で、沈み込んだ時の各関節の角度は

CMJ
股関節:59.5±16.5°
膝関節:83.6±11.4°
足関節:57.1±6.1°

Drop Jump(Bounce)
股関節:119.1±13.4°
膝関節:100.9±7.5°
足関節:57.7±5.1°

※数字が小さいほどより屈曲している

といった数値が報告されています。

接地時間、動作時間の観点から

関節角度や沈み込み幅が違うということは、接地時間、動作時間も違うと考えられます。

ドロップジャンプの接地時間は0.2-0.3秒程度であることが報告されており(Hunter & Marshall, 2002;Abdelsattar et al., 2018)、CMJの動作時間は0.4-0.8秒程であることが報告されています(Marshall & Moran, 2013)。

ちなみにスプリントや陸上の跳躍動作(走り幅跳びや走り高跳び)の接地時間は0.1-0.2秒程度なので速いSSC(Taber et al., 2016)、バレーボールのスパイク時のジャンプのような深い沈み込みをするジャンプの動作時間は0.3-0.4秒ほどなので遅いSSCに分類されると考えられます(Wagner et al., 2009)。

関節で発揮する力の観点

このように動作が異なるということは、発揮している力(関節トルク・パワー)にも違いがありそうですよね。

下のスライドの棒グラフの赤い部分が股関節オレンジの部分が膝関節灰色の部分が足関節で発揮したパワーになります。

CMJや、CMJのように行うDrop Jumpでは股関節でのパワー発揮が大きくなっていますが、Bounce Drop Jumpではそれらのジャンプよりも膝関節の発揮パワーが大きくなっており、足関節の発揮パワーも大きいようです。

以上の点をまとめると、Slow SSCの代表的動作であるCMJとFast SSCの代表的動作であるDrop Jumpの特性は以下のようなものになります。

各動作のパフォーマンスを高めるには?

各関節パワーから考えると、CMJのパフォーマンスを高めるためには股関節での大きなレンジでの力発揮やパワー発揮が重要になると考えられます。

RDLのようなヒップヒンジを大きく使う種目を実施したり、ハングクリーンのように股関節で大きなパワー発揮をする種目の実施に加え、CMJ自体をトレーニングとして実施することが効果的かと考えられます。

一方でDrop JumpのようなFast SSCの種目では膝関節や足関節でのパワー発揮が重要になります。

ウエイトトレーニングに関してはプッシュプレスやジャークといった股関節の大きなヒンジを使わずに一瞬でパワーを発揮する種目を実施するのが良いのではないでしょうか。

また、アキレス腱スティフネス高いほどDrop Jumpの接地時間短い(Abdelsattar et al., 2018)ことが報告されています。

ポゴジャンプやDrop Jumpといったプライオメトリクスによってアキレス腱のスティフネスは向上することも報告されていますが、同様に足関節のアイソメトリックなトレーニングでも腱スティフネスの向上は報告されています(Burgess et al., 2007)。

アキレス腱炎を患っている選手であったり、発症リスクの高い競技の場合はアイソメトリックトレーニングを活用するのもありかもしれませんね。

まとめ

CMJのような遅いSSCと、Drop Jumpのような速いSSCでは動作の特性が大きくことなるという内容でした。

多くのスポーツにおいてこれらの能力は両方とも大事になってくるので、どちらか一方には隔たらないようにバランス良く向上させていきましょう!

※そもそもの基礎筋力があるのが大前提なので、まずは男性は体重の1.5倍、女性は体重の1.2倍程度のスクワットをパラレル以下で上げられるように頑張りましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


パエリアってお店で食べるやつより自炊で2000円くらい課金して作った具沢山のやつのほうが豪華で美味しかったりしますよね。


参考文献

  1. Marshall, B. M. & Moran, K. A. Which drop jump technique is most effective at enhancing countermovement jump ability, ‘countermovement’ drop jump or ‘bounce’ drop jump? J. Sports Sci. 31, 1368–1374 (2013).
  2. Hunter, J. P. & Marshall, R. N. Effects of power and flexibility training on vertical jump technique. Med. Sci. Sports Exerc. 34, 478–486 (2002).
  3. Taber, C., Bellon, C., Abbott, H. & Bingham, G. E. Roles of maximal strength and rate of force development in maximizing muscular power. Strength Cond. J. 38, 71–78 (2016).
  4. Wagner, H., Tilp, M., Von Duvillard, S. P. V & Mueller, E. Kinematic analysis of volleyball spike jump. Int. J. Sports Med. 30, 760–765 (2009).
  5. Abdelsattar, M., Konrad, A. & Tilp, M. between Achilles Tendon Stiffness and Ground Contact Time during Drop Jumps. ©Journal Sport. Sci. Med. 17, 223–228 (2018).
  6. Burgess, K. E., Connick, M. J., Graham-Smith, P. & Pearson, S. J. Plyometric vs. isometric training influences on tendon properties and muscle output. J. Strength Cond. Res. 21, 986–989 (2007).

 

【第159回】スポーツドリンクは薄める?そのまま飲む?そこにきちんと理由はありますか?

夏場のスポーツ活動中の飲み物、何を飲みますか?

水?麦茶?スポーツドリンク?緑茶?

もしあなたがイギリスのクリケット選手であれば休憩中に紅茶を飲むかもしれませんね(ガチ)。

試合中に、一定のオーバーが経過した場合、または時間が経った場合にはドリンクタイム、ティータイム、ランチタイムなどが入り試合を休憩する。(Wikipedia『クリケット』より)

というのはさておき、これから気温も上がってくるので熱中症予防のためにも、パフォーマンスを落とさないためにも水分補給は大事ですよね。

運動中の水分摂取は真水よりもナトリウムなどの電解質が含まれているほうが良いとされています。

なぜなら汗にはナトリウム等も含まれており、真水の摂取だとそれがどんどん薄まっていってしまうからです。

体内の電解質の濃度が薄まると低ナトリウム血症という症状を引き起こすことがありますが、軽度のものでもスポーツ活動には大きなデメリットがあります。

そのため運動中の水分補給にはスポーツドリンクなどがおすすめなのですが、本日の話題は『スポーツドリンクを薄めるか?』という点です。

スポーツドリンクは薄めたほうが良い?

巷では『スポーツドリンクは薄めたほうが良い!』という意見を目にすることもあります。

ツイッターでもアンケートをとってみたところ、皆さんこのように答えてくれています。

全体の3分の1以上の人が薄めて飲むとのこと。

その理由としては

✓そのままの濃度では浸透圧が高く吸収が遅くなる

✓糖分過多だから

といった形で、ナトリウムなどの電解質や糖質の濃さに言及されていることが多いです。

ではスポーツドリンクの濃さはどのくらいなのでしょう?

そもそも人体のナトリウム濃度は140mmol/L程度であり、運動選手の汗に含まれるナトリウムの濃度は40mmol/L程だと報告されています(1)。

そしてスポーツドリンクやOS-1といった飲料のナトリウム濃度は下記の図のようになります。

スポーツドリンクは汗よりも少し薄い濃度になっており、身体のナトリウム濃度よりは全然薄いことが分かりますよね。

そのため、『ナトリウム濃度が身体に対して濃すぎる』という意見には疑問が残ります。

脚のつりやすさ

次に、『脚のつりやすさ』という点に目を向けて、飲むものを考えていきましょう。

Lauら(2019)は被験者を暑熱環境で運動させ、体重の2%ほどを汗をかいた状態で筋肉のつりやすさを測定しました(3)。

その結果、ただの脱水状態では筋肉のつりやすさに変化はなかった一方で、真水を摂取した後は筋肉がつりやすくなり、OS-1を摂取した後では筋肉がつりづらくなったことが報告されています。

これはOS-1にはナトリウムなどの電解質が多く含まれており、真水の摂取では体内の電解質濃度が薄まってしまったためと考えられます。

OS-1自体は脱水時に補給するためのものであり、普段飲むためのものではありませんのでご注意を(公式HPにも記載はあります)。

一方でスポーツドリンクを薄めて飲むと、ナトリウムなどの電解質の濃度が薄くなり真水に近くなるので、もしかしたら筋肉がつりやすくなるかも?と考えられますよね。

吸収のされやすさ

さて、水分の吸収のされやすさについてはどうでしょうか。

大塚製薬さんは『ポカリスエットは薄めると吸収スピードは変わりますか?』という問いに対して以下のように回答しています。

ポカリスエットは、「水分とイオン(電解質)のスムーズな吸収」を探求し、現在の内容成分に決定しています。ポカリスエットが甘いのは、水分の吸収をより速くするのに適した糖分を、適切な濃度で配合しているからです。水で薄めてしまうと「水分とイオン(電解質)のスムーズな吸収」が損なわれてしまうのでおすすめしておりません。(ポカリスエット公式HP)

つまり、そのまま飲んでねってことですね。

またPochmullerら(2017)の研究(2)では長時間に及ぶ運動の場合、6~8%の糖質の濃度のドリンクの摂取が推奨されています。

そのため、吸収率の観点からもエネルギー補給の観点からも、スポーツドリンクは薄めずにそのままの摂取のほうがよさそうです。

まとめ

スポーツドリンクを薄めて飲んだほうが良いか?という問いに対しては

✓汗をかいた後にナトリウムなどの電解質の濃度が薄い飲み物を飲むと体液が薄まって筋肉をつりやすくなる

✓スポーツドリンクを薄めて飲むのは販売している企業も推奨していない(吸収効率の観点から)

✓エネルギー摂取の観点からも、そのままの濃度のほうが良さそう

といったことから、僕自身は今のところそのままの濃度で飲むように選手に指導しています。

もちろん、上記を理解したうえで他の意図(例えば、少し薄いほうが量を飲める気がするなど)があってあえて薄めているなら良いかと思いますし、あくまでも『スポーツ活動中』の話なので、日常の水分摂取の場合はまた変わってくるかと思います。

ただ昔からなんとなくそう言われてきたから薄めてるというかたは、熱中症予防の観点からも、パフォーマンス維持の観点からも一度見直してみるのも良いかもしれません!

執筆者:佐々部孝紀


めちゃくちゃ久しぶりの更新になりました。。

新年度で新しい仕事も頂きいろいろと忙しさMaxでしたが、落ち着いてきたのでまたぼちぼち更新していきます!


参考文献

  1. Lau, W. Y., Kato, H. & Nosaka, K. Water intake after dehydration makes muscles more susceptible to cramp but electrolytes reverse that effect. BMJ Open Sport Exerc. Med. 5, (2019).
  2. Pöchmüller, M., Schwingshackl, L., Colombani, P. C. & Hoffmann, G. A systematic review and meta-analysis of carbohydrate benefits associated with randomized controlled competition-based performance trials. J. Int. Soc. Sports Nutr. 14, 1–12 (2016).
  3. Baker, L. B., Barnes, K. A., Anderson, M. L., Passe, D. H. & Stofan, J. R. Normative data for regional sweat sodium concentration and whole-body sweating rate in athletes. J. Sports Sci. 34, 358–368 (2016).

【第150回】RFDの高め方~腱にも着目したトレーニング

前回の記事ではRFDの基礎知識とその重要性について解説しました。

おさらいすると

・RFDは力を一気に出す能力

・ジャンプやスプリントでは短い時間で地面から力(正確には力積)を貰わなければいけないのでRFDめっちゃ大事

・RFDとパワーは異なる要素

といった内容でした。

今回はRFDに貢献する要素についてもう少し掘り下げ、その向上の方法について解説していきます。

EMD~電気機械的遅延

RFDと関連する要素にEMD(Electromechanical Delay)というものがあります。

日本語に直訳すると『電気機械的遅延』です。

(何かいきなり難しい言葉が出てきた。。読むのヤメょ。。)

そう思う気持ちもわかります。

ただなるべくわかりやすく説明するのでもう少し読んでみてください。

関節が動くときって、脳・神経からの命令で筋肉が収縮する⇒腱が骨に力を伝える⇒関節が動く、という現象が起きますよね?

EMD(電気機械的遅延)というのは

●神経から命令を出されたタイミング

●実際に関節が力を発揮したタイミング

のずれ(=遅延)を表したものになります。

そしてその遅延が起きる要因の一つに、筋がグッとなったときの腱のビヨ~ンがあります。

もうちょっとちゃんと表現すると、腱スティフネス(≒腱の硬さ)が不足している場合、筋の収縮時、腱の余計な伸長による関節への力の伝達効率の低下が起こります。

その結果、十分な腱スティフネスがある場合と比較して、神経の活動・筋の出力は同じなのに力が伝わるのが遅くります。

一方で十分な力発揮時間があれば腱スティフネスが低くても徐々に張力を発揮できるので、RFDには差が出るけれど最大筋力には差が出ないという状態にもなり得るでしょう。

つまりRFDを向上させるためには最大筋力の向上だけでなく、腱スティフネスの向上も重要になってくるのです。

実際にWuら(2010)のプライオメトリクスの介入研究では、腱スティフネス増大とEMDの低下が報告されており

Costaら(2010)の高ボリュームのストレッチの介入研究ではEMDの増加とRFDの低下が認められています。

これらの結果から考えて、腱スティフネス向上⇒EMDの低下⇒RFD向上、といった流れが見えてくるでしょう。

腱スティフネスを高めるには?

腱スティフネスと一言に言っても大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋等の腱でそれぞれ役割が異なってきます。

個人的に特に重要だと考えているのがアキレス腱のスティフネス。

長距離選手においてはランニングエコノミーとの関連も報告されていますし(Albracht&Arampatzis, 2013)、ドロップジャンプのようなSSC課題、スプリントにおいても重要だと考えられます。

Burgesら(2007)の研究ではプライオメトリクスと足関節底屈のアイソメトリックトレーニングでの腱スティフネス向上の効果を検証したところ、どちらも有意にアキレス腱の腱スティフネスを向上させたことを報告しています。

スクワットやデッドリフトでは股関節や膝関節を中心に大きな力・パワーを出す能力が鍛えられますが、最終的に地面に力を加えるのは足部になります。

その中心となるアキレス腱のスティフネス向上、足関節のRFD向上のためにもプライオメトリクスや足関節のアイソメトリックなトレーニングは有効でしょう。

(膝関節・股関節に着目した考察も違った視点で色々考えられるのですが、本日はいったんここまでで。。)

まとめ

●RFDを向上させるには最大筋力でそのピークの山の高さ自体を向上させることも有効だが、力の伝達効率を向上させるために腱スティフネスを高めることも大事。

●腱スティフネスの向上⇒EMD(電気機械的遅延)の減少⇒RFD向上につながる

●腱スティフネスを向上させるためにはプライオやアイソメトリックエクササイズも有効

もちろん、コンセントリックやエキセントリックの動きを伴う運動も有効である可能性も高いですが、他の要素も絡んでくるのでここでの議論は一旦置いておきます。

また、腱スティッフネス以外の構造的要因(筋束長、CSAなど)や神経的要因ももちろんRFDに関与すると考えられます。

前回の記事と合わせて読むことで、少しはRFDに対するよく分かんない感が減れば幸いです!

【第149回】爆発的力発揮!RFDの基本を理解する

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


今年4月からの国立スポーツ科学センターでの勤務も半年が経過し、だいぶ生活スタイルも落ち着いてきました。

他の現場も毎日充実しており、ほんまに周りに恵まれたな~という毎日です。

そろそろ中堅どころの年齢に片脚をつっこんできたので、業界の後輩さんたちにも何かできればな~と思っていろいろ考えています。


参考文献

  1. Albracht, K and Arampatzis, A. Exercise-induced changes in triceps surae tendon stiffness and muscle strength affect running economy in humans. Eur J Appl Physiol 113: 1605–1615, 2013.
  2. Burgess, KE, Connick, MJ, Graham-Smith, P, and Pearson, SJ. Plyometric vs. isometric training influences on tendon properties and muscle output. J Strength Cond Res 21: 986–989, 2007.
  3. Costa, PB, Ryan, ED, Herda, TJ, Walter, AA, Hoge, KM, and Cramer, JT. Acute effects of passive stretching on the electromechanical delay and evoked twitch properties. Eur J Appl Physiol 108: 301–310, 2010.
  4. Wu, YK, Lien, YH, Lin, KH, Shih, TTF, Wang, TG, and Wang, HK. Relationships between three potentiation effects of plyometric training and performance. Scand J Med Sci Sport 20: 80–86, 2010.

 

 

 

【第149回】爆発的力発揮!RFDの基本を理解する

RFD (Rate of Force Development)

という言葉を聞いたことありますか?

体育系大学やスポーツ系専門学校のバイオメカニクス関連の授業では必ず出てくる単語ではないでしょうか。

日本語でいうと「力の立ち上がり率」です。

大きな力をどれだけ短い時間で出せているか?という指標で、前回紹介したIsometric Mid-Thigh Pull(IMTP)やBiodexなどの機材で測定可能です。(前十字靭帯のリハビリを経験した選手は測ったことがあるかもしれないですね!)

RFDの重要性

スプリント中の接地時間は0.1~0.2秒程度(Kale et al., 2009)、ジャンプの上昇局面動作時間は0.2~0.5秒程度であることが報告されており(Marshall et al., 2013)、この短い時間でより大きな力積を得ることがパフォーマンス向上には必要になります。

※スプリントに関しては接地前の振り下ろしによる力の発揮も関わりますし、CMJだと下降局面ですでに発揮している力も関与しますが、今回の記事では触れません。あしからず。

(力積とは?を解説した記事はこちら⇓)

【第110回】スポーツ選手も物理学を知ることでパフォーマンスが上がる?~力積とは?パワーとは?

IMPTのように下肢3関節を伸展するように力を発揮したとき、0.1秒の時点でPeak Force(最大の力)の50%強、0.2秒の時点でも80%程度の力しか発揮出来ていないことが報告されています(Wang et al., 2017)。

接地中になるべく大きな力を出したいのに、RFDが低いと接地期前半での力があまり出せず、大きな力が出せ始めたぞというところで離地をしてしまうということになります。

一方でRFDの高い選手は離地までの間により大きな力積を稼ぐことが出来、その結果高いジャンプ力や速いスピードを達成できると言う訳です。

また、RFDが大きく早い段階から力を加えることが出来ると、離地までの時間も早くなると考えられます。

※力積は時間×力なので、時間の成分が少なくなるぶん力積にはマイナスに働きますが、その分初期の力発揮の増大がそれ以上の貢献をするでしょう。

バスケットボールやバレーボールなどの対人競技であれば『高く』跳ぶだけではなく、『早く』跳ぶ必要がある場面もあるので、なんかもう、RFDめっちゃ大事。

RFD≠パワー

RFDってなんだか雰囲気『パワー』にも似てますよね。

爆発的な力発揮ってところが特に。

(パワーについては⇓)

【第111回】(続)スポーツ選手も物理学を知ることでパフォーマンスが上がる?②~パワーへの理解を深める

しかし特にIMTPで測定するようなRFDの計測時、筋肉はパワーを発揮していません

「え?」

って思った方もいると思いますが

「そりゃそうやろ」

って思った方もいるかと思います。

そりゃそうやろ派の人はここから先は読まなくて大丈夫です。次回作にご期待ください。

 


制作・著作
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さて、パワーを発揮していない件についての解説です。

前回の記事でも紹介した通り、RFDは力÷発揮するまでの時間で算出されます。

 

図では0.25秒(250ms)になっていますが、ここは様々な時間で測定可能です(だいたい50ms~250msが多いです)。

そしてその測定の多くはIMTPやIsometricなレッグエクステンションなどで測定されることが多いです。

そう、Isometricなので、パワー=力×速度は0なんですよね。

たまにRFDを『力の立ち上がり速度』と訳している文も見ますが、ここから考えても『力の立ち上がり率』のほうが訳としては適していることが分かりますよね。

研究の中にはコンセントリック収縮でのRFDも測定しているものもあるのでそちらはパワー発揮をしていることになりますが、どちらかと言えば少数派です。

つまりRFDが高いということは

・速度ではなく力に着目したときの

・収縮初期の力発揮が

強い!

ってことなので、それがイコール力積の大きさに繋がるという訳ではありません。

接地期後半の速い速度での力積獲得とは違う要素になるので。

しかし言い方を変えると

ジャンプなどの運動課題においては

①上昇局面初期での力の立ち上がり&大きな力(≒RFD)

②上昇局面後半の大きな速度での力・パワー発揮

が必要だと考えられるので、結局なにが言いたいかというと、RFD=パフォーマンスに直結というわけではないものの、RFD、めっちゃ大事。

まとめ

今回はRFDとはなんぞや?と、パワーとの違いについて解説しました。

次回も(やる気が出れば)RFDを高めるために必要な要素について解説しようと思います!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


参考文献

  1. Kale, M, Aşçi, A, Bayrak, C, and Açikada, C. Relationships among jumping performances and sprint parameters during maximum speed phase in sprinters. J Strength Cond Res 23: 2272–2279, 2009.
  2. Marshall, BM and Moran, KA. Which drop jump technique is most effective at enhancing countermovement jump ability, “countermovement” drop jump or “bounce” drop jump? J Sports Sci 31: 1368–1374, 2013.
  3. Wang, R, Hoffman, JR, Tanigawa, S, Miramonti, AA, La Monica, MB, Beyer, KS, et al. Isometric Mid-Thigh Pull Correlates with Strength, Sprint, and Agility Performance in Collegiate Rugby Union Players. J Strength Cond Res 30: 3051–3056, 2016.

最近は貝を捌くのにはまっています。

ホッキ貝はめちゃくちゃ簡単なのですが、赤貝が難しい。

殻同士のスペースがないので、最初に殻を力ずくでずらさないといけないので。(出来たら超楽しい)

あ、1月あたりにまたセミナーを開催しようと思うので、日程等決定し次第このブログで周知しようと思います!

 

 

 

 

【第148回】最近キテる新たな測定”Isometric Mid-Thigh Pull”とその代替手法

2020年の春、多くのチームはコロナの影響で活動を自粛し、ジムも閉鎖。

高回数の自重のトレーニングで筋肉をパンプさせることは出来ても、最大筋力に近い力を発揮するのってなかなか難しい時期でしたよね。

そのころから僕が注目していた種目が

『Isometric Mid-Thigh Pull(アイソメトリックミッドサイプル)』

です。

文字通り
・Isometric  ⇒等尺性の収縮で
・Mid-Thigh⇒太ももの真ん中(のバーを)
・Pull           ⇒引っ張る
という運動です。

バー以外でも足元で踏んだ強めのバンドやタオルを引っ張ることで、最大筋力を発揮出来るというのがこの種目の特徴です。

こんな感じで、家トレでも使用していました。

そんなIsometric Mid-Thigh Pullはここ10年、研究の世界でも頻繁に用いられるようになってきています。

Google Scholarで『Isometric Mid-Thigh Pull』で検索したところ、
1950~2010年の研究が527件
2011~2021年の研究が1760件と
ここ10年で発表されている研究数も急増しています。
(2021年9月現在)

※過去のブログにおいてもIsometric Mid Thigh Pull(以下:IMTP)を活用している研究を紹介しています!⇒【第34回】スクワットの深さ②Quarter SQを使うシチュエーション?

そしてこれらの研究においてIMTPはトレーニングの手段としてよりは、測定の手段として用いられているケースが多いです。

IMTPで測定出来る項目は?

IMTPの測定と聞いてもパッとイメージは出来ないかもしれませんが、Googleで画像検索をかけるとこんな感じで測定の様子が出てきます⇓(2021年9月現在)

測定としてのIMTPは、プラットフォームの上に立ち、固定されたバーを全力でひっぱることで足元に発生する反力を測定します。

この写真を見ても分かる通り、ここ10年で広まってきた研究なので『フォームの統一性がまだとれていない』という問題点もあるのですが、大体の研究では『クリーンのセカンドプルの姿勢』で引くように指示が出されています。

数年以内にはガイドラインもまとまってフォームの統制もとれてくると思うので今後の動向を待ちましょう。

そしてその際測定可能な数値の代表的なものとして

・Peak Force
・RFD

が挙げられます。

Peak Force

Peak Forceは文字通り発揮した最大の力です。

「そんなんスクワットとかデッドでも測れるやん?」

と思うかもしれませんが、IMTPの測定の良いところはその簡便さ。

スクワットやデッドリフトの1RM測定、もしくは3RMなどの測定のデメリットは『潰れるまで実施しなければならない』ということ。

IMTPであれば全力で5秒程度プルをすると、それだけで最大の力が分かります。

また、スクワットやデッドリフトと比べてフォームの習得が安易であること、特に軽度屈曲位で測定するので股関節が硬くボトムの姿勢を取れない選手には便利です。

(とはいえそもそも適切なスクワット姿勢を深く取れないこと自体が大問題なので、そういった選手はそちらの習得が最優先ですが。。)

またIMTPのPeak Forceはスクワットとの高い相関が報告されている(Wang et al., 2016)一方で、スクワットの介入よりもヒップスラストの介入のほうがIMPTのPeak Forceを高めたとの報告もあります(Contreras et al., 2017)。

ヒップスラストのほうがスクワットよりもより股関節が伸展位に近い肢位で大きなトルクを発揮するので、IMTPのPeak Forceを高めるには軽度屈曲位での負荷のほうが効率が良いという可能性を示しているのではないでしょうか。

スクワットとIMTPのPeak Forceは似て非なるものなので、並行して測定する意義もありそうですね。

RFD

次にRFDですが、これはRate of Force Developmentの略で、力の立ち上がり率のことです。

図の通り、既定の時間までに発揮出来た力をその時間で割ることで算出出来ます。

※図では250msだが、100msや200msなど、様々な時間設定で算出可能

見たかを変えると、図のRFDがさしている点線の傾き=RFDということですね。

この能力は『短い時間でいかに大きな力を発揮できたか』を示す数値で、アスリートにとってはものすんごい大事なものになります。

これがパッと測定出来るのもIMTPの強みですね。

RFDについてはまた次回深堀りします!

IMTPの代替手法

Peak ForceもRFDも簡便に測定できるといっても、、

そう、プラットフォームなんて大学などの研究機関じゃない限り、普通のスポーツ現場にはありません。あしからず。

しかしながら30歳代以上の方なら1回くらいは触ったことあるであろう『あれ』でPeak Forceは測定可能のようです。

そう、背筋力計です。

頭の良い研究者がいたもんで、「フォースプレートなんて手に入らん現場もあるんやけん、背筋力計の取っ手をラットプルダウンのグリップに付け替えて測定すればええんやない?」という考えを基に、一般的なIMTPと背筋力計を用いたIMTPの比較が行われています(Till et al., 2018)。

 

この研究では日本の竹井機器工業の背筋力計(日本の皆さんがよく見るやつ)を用いて、IMTPのフォームで引っ張った力と、フォースプレートでのIMTPのPeak Force(絶対値&体重を引いた値)を比較しています。

一般的な背筋力の測定においては膝は伸展位、股関節を屈曲位で測定しますが、この研究においてはIMTPの測定なので膝も股関節も軽度屈曲位で実施されています。

また、背筋力計は㎏でフォースプレートはN(ニュートン)で測定結果が表示されるので、1㎏=9.81Nとして比較しています。

その結果、2つの数値の相関係数(r)は0.90と、非常に高い相関を示しました。

もちろん完璧な一致というわけではありませんが、現場レベルの代替手法としては十分でしょう。

しかしながらRFDは算出出来ないので、どうしてもRFDの測定がしたい!という場合はフォースプレートを手に入れるしかなさそうですね。

まとめ

IMTPの測定と、その代替手法についてまとめました。

トレーニング内での取り扱い重量を記録することでもある程度成長は可視化することは出来ますが、より細かなアプローチをするには今回紹介したIMTPの測定やF-V Profileの測定が有効な場面もあるかもしれません。

また冒頭で紹介した通り、フォースプレートがなくとも重りが無い時の高強度トレーニングの一環として活用するのもありでしょう。

次回は(やる気が出れば)RFDについて深堀りした記事を書こうと思います!


参考文献

  1. Contreras, B, Vigotsky, AD, Schoenfeld, BJ, Beardsley, C, McMaster, DT, Reyneke, JHT, et al. Effects of a Six-Week Hip Thrust vs. Front Squat Resistance Training Program on Performance in Adolescent Males. 2017.Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27253835%5Cnhttp://Insights.ovid.com/crossref?an=00124278-201704000-00016
  2. Till, K, Morris, R, Stokes, K, Trewartha, G, Twist, C, Dobbin, N, et al. Validity of an isometric midthigh pull dynamometer in male youth athletes. J Strength Cond Res 32: 90–493, 2018.
  3. Wang, R, Hoffman, JR, Tanigawa, S, Miramonti, AA, La Monica, MB, Beyer, KS, et al. Isometric Mid-Thigh Pull Correlates with Strength, Sprint, and Agility Performance in Collegiate Rugby Union Players. J Strength Cond Res 30: 3051–3056, 2016.

 

【第142回】脳にアプローチすることでROMが向上するというオカルトのような本当の話

ROM (Range of Motion)は柔軟性を表す代表的な指標です。

学術論文上でのROMの定義は、多くの場合『関節を他動的に動かして、不快感が生じたポイントorその直前の角度』で表されることが多いです。

一方で臨床だと、トレーナーなどの測定者の感覚(エンドフィール)を基準にして測定する場合も多いですよね。

上記の痛み基準のROMにしろ、エンドフィール基準のROMにしろ、ROMが広がることによって行いたい動作を行いやすくなったり、以前のブログでも紹介した『力積』の増加による投球速度の向上などが期待出来ます。(こちら

さてROMを向上させるための手段として、皆さんは真っ先に何を思い浮かべますか?(ストレッチ)

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このブログを読んでいるひとの10割ほどの人が、ストレッチをまず想像したことでしょう。 続きを読む 【第142回】脳にアプローチすることでROMが向上するというオカルトのような本当の話

【第135回】スポーツ選手も物理学を知ることでパフォーマンスが上がる?③モーメントアームについて理解する

スポーツ選手であっても身体や栄養のことを初め、多くのことを学ぶ必要があります。

その中の1つが『物理学』

以前の記事(こちらこちら)でも以下のようなものを解説しました。

🔻力積=力×加える時間

🔻ものを投げたり、物体に力を加える運動課題では力積を高めることが重要

🔻力積を高めるには力を大きくするだけでなく、大きな可動域を用いて長い時間力を加える戦略もとれる

🔻パワー=力×速度

🔻瞬発的な力発揮が求めらる運動課題全般においてパワーは重要

🔻パワー発揮は運動課題によって、大きな速度のパワー発揮もあれば大きな力のパワー発揮もある

今回は『モーメントアーム』につて解説していこうと思います。

支点、力点、作用点

モーメントアームについて理解するにあたって、まずは

・支点

・力点

・作用点

について理解しましょう。

てこの原理で考えると分かりやすいのですが、支点力点の距離に対して、支点作用点の距離が短くなると、より大きな力が発揮できます(=小さな力でも重い物を持ち上げられます)。 続きを読む 【第135回】スポーツ選手も物理学を知ることでパフォーマンスが上がる?③モーメントアームについて理解する

【第132回】その日に身体パフォーマンスを高める裏技集~スポーツ科学を活かしたコンディショニング

大事な試合、大事なトライアウト、、どうしても結果を出したい日ってありますよね。

しかしその日だけやる気スイッチを入れたとしても、根本は日ごろの積み重ね。

付け焼刃の小技だけで大きな結果を出すのは難しいです。

とは言いつつもその日の過ごし方でパフォーマンスが左右されてしまうのも事実。

今回はその日、その時にパフォーマンスを高めるための科学的方法をお伝えします!

その①栄養・サプリメント

まず王道のものとして、栄養摂取・サプリメントが挙げられます。

代表的なものとして
・糖質
・水分
・カフェイン
等が挙げられます。

糖質

糖質いついては、数日前からの糖質摂取を多くして、身体にグリコーゲンを蓄えるグリコーゲンローディングが良く知られていますよね。

(詳しくはこちら→【第90回】アスリートが絶対に知っとかないといけない栄養のこと②~十分なエネルギー摂取はパフォーマンスを高める!

一方で、運動直前、運動中の糖質摂取も、特に持久的なパフォーマンスを高めるということがメタアナリシス(5)でも示されています。

また、その論文内では著者らは特に6~8%の糖分濃度のドリンクの摂取を推奨しており。この6~8%がどのくらいかというと
・ポカリスエット→6.2%
・アクエリアス→4.6%
と、市販のスポーツドリンクがだいたいそのくらいの糖質濃度になっています。

(日本コカ・コーラ公式HP、ポカリスエット公式HPより)

ここでお気づきかもしれませんが、持久的運動を行うアスリートがスポーツドリンクを薄めて飲むというのは、パフォーマンス発揮の観点においてはマイナスかもしれません⚠

水分

水分の摂取は大きなパフォーマンス低下を招きます。

しかし言い換えると、ライバルが水分摂取をおろそかにしている間に自分がしっかり水分を摂取できていたら、相対的にパフォーマンスが向上するとも言えます。

水分の不足は持久力で約8%、筋力・パワーで約6%の低下を招きます(6)。

(詳しくはこちら→【第101回】水を飲むだけでパフォーマンスが上がる?~水分状態が筋力・持久力に与える影響~

しかしここで注意が必要なのは、跳躍種目のように自体重が重くなると不利に働くような種目においては水分の摂取のし過ぎはパフォーマンス低下を招く可能性があるということ⚠(6)。

一方で同じパワー発揮の種目でも、投擲やウエイトリフティングなど、自体重ではなく他の物体にパワーを伝える種目であれば体重増加のデメリットは限りなく少ないでしょう。

カフェイン

カフェインには一時的な
・認知機能向上
・筋力、パワー向上
・全身持久力、筋持久力向上
の効果が認められています(4,7)。

これは脳・中枢神経の興奮が高まることによるものと考えられています。

推奨される摂取量・タイミングは体重×3㎎~を運動1時間前
これは体重70㎏であれば210㎎のカフェイン、コーヒーに換算すると400ml程度(スタバのトールや350mlコーヒー缶より少し多い程度)に相当します。

一方で
・睡眠の阻害
・主観的ストレス増加、コルチゾールの分泌
といったデメリットもあるので、摂取量、タイミングには注意が必要です。

その②テンポの速い音楽を聴く

テンポの速い音楽を聴くと、疲労の発生を遅らせることで、筋持久力が向上することが知られています(2)。

#76 Centala et al., 2020

テンションを上げて出せる筋出力を大きくする上では『テンポの速い曲』が良いでしょうが、このデータはあくまでも筋出力の観点の話。

試合前に緊張が高まり過ぎてから回ってしまうという選手は、逆にテンポのゆっくりとした曲を聴いて気持ちを落ち着かせるのも良いかもしれません。

その③色を活用する

こちらも面白い研究なのですが、目にしている色によっても発揮出来る筋力は違ってくることが報告されています(3)。

#60 Elliot, 2011

赤色のような興奮に繋がる色のほうが発揮できる筋力は高くなるようです。

しかし試合においては身に付けることが出来るユニフォームの色は決まっていますし、自分たちが赤を身に付けるのと同時に相手選手も赤を見えているので、相対的なパフォーマンスアップをあえて色で狙うというのは難しいかもしれません。

一方で、トライアウトの体力テストのようなシチュエーションで赤いものを身に付けるという戦略は有効かもしれないですね。

その④アップをしっかりと行う&中間冷却を活用する

これは言わずもがなですが、アップをしっかりと行うことでパフォーマンスアップが期待できます。

特に瞬発系のパワー発揮においては、筋肉の温度がものすごく大事です。

筋温1度あたり4%のパワーの変化があることが示されており(1)、が36度から39度になることで、約12%のジャンプ力向上の効果が期待できます。

これはトップレベルの選手だとなかなか大きな差ですよね。

これからの寒い時期には、アップ時の長袖長ズボンはマストと言って良いでしょう。

詳細はこちら→(【第44回】Warm Upの科学~基礎編

一方で、特に暑熱環境課の持久的運動においては、体温の上昇のし過ぎは持久的パフォーマンスの低下を招きます。

そのため球技スポーツのような瞬発力も持久力も求められるようなスポーツは、アップと中間冷却(ハーフタイムでのクーラー、風などを活用したクーリング)を併用して、ちょうど良い体温を保つことが必要です。

詳細はこちら→(【第45回】Warm Upの科学~球技スポーツへの応用

まとめ

試合でのパフォーマンスを決めるのは

①普段の練習、トレーニングの積み重ね

②試合前数日~2週間ほどの調節(ピーキング)

③試合当日の過ごし方

に分けられます。

試合やトライアウトの日のパフォーマンスアップの戦略として、③試合当日の過ごし方の中から

🔻栄養(糖質、水分、カフェイン)

🔻音楽、色の活用

🔻十分なアップや中間冷却

を紹介しました。

ただ、これらを十分に活用するには個人の特性や種目の特性を十分に理解する必要もあります。

そういった場合の相談役としての僕ら専門家ですが、これらの知識を選手自身も知ってるというのは非常に重要です。

是非大事な試合の前にはこの記事を見返してみてください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


12月20日(日)のトレーニング科学会大会(オンライン)のシンポジウムにて講師を務めさせていただきます。

オンラインで参加もお気軽に出来ると思うので、お時間のある方は是非!

https://www1.doshisha.ac.jp/~training/index.html


参考文献

  1. BERGH, U and EKBLOM, B. Influence of muscle temperature on maximal muscle strength and power output in human skeletal muscles. Acta Physiol Scand 107: 33–37, 1979.
  2. Centala, J, Pogorel, C, Pummill, SW, and Malek, MH. Listening to Fast-Tempo Music Delays the Onset of Neuromuscular Fatigue. J strength Cond Res 34: 617–622, 2020.
  3. Elliot, AJ and Aarts, H. Perception of the color red enhances the force and velocity of motor output. Emotion 11: 445–449, 2011.
  4. Higgins, S, Straight, CR, and Lewis, RD. The Effects of Preexercise Caffeinated Coffee Ingestion on Endurance Performance: An Evidence-Based Review. Int J Sport Nutr Exerc Metab 26: 221–239, 2016.
  5. Pöchmüller, M, Schwingshackl, L, Colombani, PC, and Hoffmann, G. A systematic review and meta-analysis of carbohydrate benefits associated with randomized controlled competition-based performance trials. J Int Soc Sports Nutr 14: 1–12, 2016.Available from: http://dx.doi.org/10.1186/s12970-016-0139-6
  6. Savoie, FA, Kenefick, RW, Ely, BR, Cheuvront, SN, and Goulet, EDB. Effect of Hypohydration on Muscle Endurance, Strength, Anaerobic Power and Capacity and Vertical Jumping Ability: A Meta-Analysis. Sport. Med. 45: 1207–1227, 2015.
  7. Warren, GL, Park, ND, Maresca, RD, McKibans, KI, and Millard-Stafford, ML. Effect of caffeine ingestion on muscular strength and endurance: A meta-analysis. Med Sci Sports Exerc 42: 1375–1387, 2010.