【第58回】FMSはスクリーニングに有効なのか??

Functional Movement Screen(FMS™:以下FMS)、日本語で訳すと機能的動作検査とでもいったところでしょうか。

トレーニング指導をされている方でしたら一度は耳にしたこはあると思います。

簡単に説明すると、「動きの質」を評価する7種類のテスト、各3点満点、合計21点で評価を行い、点数が低い(一般的には14点以下の)選手は怪我のリスクが高いので注意しましょう。といったものです。
※詳しくはCook et al (2007)

私自身大学在学中にFMSについても勉強したり、FMSの研究をされている方の測定をお手伝いしたりしていたので、割と親しみのあるテストです。

しかし今年「FMSって実はあんまり怪我を予測せんのじゃないの?」といった論文(Newton et al, 2017)が発表されました。

え、そーなんや、と思いつつ、とそういえばあんまりFMSについての研究って読んだことないな。と思ったので、今回の記事では目ぼしい研究をいくつか読んでみた結果をまとめてみました。

14点以下は怪我が多いよ!のソース

FMSはCookら(2006)によってその方法が紹介され、その翌年にKieselら(2007)によって、怪我の発生に対する予測効果が検証されています。

研究の内容をざっと紹介すると以下のようになります。

【方法】

被検者:サッカー選手46名

シーズン前にFMS(21点満点)を測定

シーズン中に傷害を受傷した選手と、未受傷の選手のFMSのスコアをTテストで比較

※傷害発生の定義は3週間以上の離脱

【結果】

傷害発生群(10名)のスコア
14.3±2.3

傷害非発生群(36名)のスコア
17.4±3.1

*両群間には有意差ありp<0.05

ROCカーブから、感度を最大(偽陰性の確率を最小)にしつつ特異度を最大(偽陽性の確率を最小)にするカットオフのスコアを計算
14以下をリスク群と抽出するのが良い!

どうやら14点という根拠はここからきているようです。

ちなみに14点以下の選手は傷害の発生率(OR)が11.7倍も高いようです。
これは大きいですね。

一方、この研究には引っかかる部分もあって、①離脱3週間未満の場合を傷害として定義していない②「傷害」とだけ表されその内約が示されていない。
といったところです。

意地悪な人が読んだら「3週間未満の怪我では有意差が出なかったから載せてないんじゃないのー?」なんて思われそうです。僕はそんな意地悪じゃないですよ。

また、Zalaiら(2015)は以下のように各テストと特定部位の傷害発生の関係を報告している一方、トータルスコア(21満点)と傷害発生との関係性は見いだせていませんでした。

被検者:サッカー選手20名(少ない?)

足首の傷害
発生群 :HSのスコア1.67±0.50
非発生群:HSのスコア2.07±0.20 *p<0.05

膝の傷害
発生群 :DSのスコア1.67±0.51
非発生群:DSのスコア2.21±0.42 *p<0.05

股関節・鼠蹊部の傷害
発生群 :DSのスコア1.67±0.51
非発生群:DSのスコア2.21±0.42 *p<0.05

HS・・・ハードルステップ

DS・・・ディープスクワット

写真は(Cook et al, 2006)

FMSの有用性を示さなかった研究

一方、冒頭で紹介したNewtonら(2017)の研究では、上記2つの研究よりも方法が比較的きっちりしてるなという印象。

被検者も十分(84人、統計パワーは0.8以上)
傷害はノンコンタクトのもののみを採用(コンタクトの傷害ではハプニング的要素が大きくなるので)
その中でさらに、全体、重篤な傷害(28日以上離脱)、慢性障害に分けての分析も行う

といったものです。

被検者:ユースサッカー選手84名

【結果】

傷害(ノンコンタクト)全体
受傷群 :15.8±1.8
非受傷群:15.3±2.7

慢性障害
受傷群 :16.1±1.8
非受傷群:15.3±1.9

重篤な傷害
受傷群 :15.7±1.8
非受傷群:15.5±1.9

どれも群間で有意差なしp>0.05

このように、先述した2つの研究とは異なり、FMSの有用性(傷害発生率の高い選手の識別)は実証されませんでした。

まとめ

FMSの合計スコア(21点満点)の低さが傷害受傷のリスクになるかというと、研究結果によって異なるのでなんとも言えませんが、まったく関係がないとも言えないでしょう。

被検者特性によって異なるのか(大人vsユース世代)、傷害の定義によって異なるのか(コンタクト含む、ノンコンタクトのみ、個々の傷害)、今後の研究に期待です。

そもそもスクリーニングは、それ自体を行うことが目的ではなく、抽出されたエラー動作を改善することが目的。

かといって「HSができないからHSの練習をしよう」「DSができないからDSの練習だ」なんてのは、個人的には効率が悪いと思います。。

どうやらFMS14点以下、というものはそこまでエビデンスが強いものではないので、
《FMSの考え方を応用して、自分のチームのトレーニングとリンクしやすいように改良し、チームでのトレーニング指導の際のグループ分け(動作習得済・動作未習得 など)に使う》
個人的にはこれくらいの活用方法が良いのではと考えています。

追記

本文中でも紹介したDSの矢状面の写真、「ばりButt Winkしとるやんけ」なんて思うのは僕だけでしょうか。。笑

佐々部孝紀(ささべこうき)

参考文献

Florence Newton, Alan McCall, Desmond Ryan, Colin Blackburne, Karen aus der Fünten, Tim Meyer, Colin Lewin & Robert McCunn
Functional Movement Screen (FMS™) score does not predict injury in English Premier League youth academy football players
Science and Medicine in Football,  2017 VOL. 1, NO. 2, 102–106

Gray Cook, PT, OCS, Lee Burton, MS, ATC, Barb Hoogenboom, PT, EdD, SCS, ATC
PRE-PARTICIPATION SCREENING: THE USE OF FUNDAMENTAL MOVEMENTS AS AN ASSESSMENT OF FUNCTION – part 1
NORTH AMERICAN JOURNAL OF SPORTS PHYSICAL THERAPY   |   MAY 2006   |   VOLUME 1, NUMBER 2

Kyle Kiesel, PT, PhD, ATC, CSCS, Phillip J. Plisky, PT, DSc, OCS, ATC, Michael L. Voight, PT, DHS, OCS, SCS, ATC
CAN SERIOUS INJURY IN PROFESSIONAL FOOTBALL BE PREDICTED BY A PRESEASON FUNCTIONAL MOVEMENT screen?
NORTH AMERICAN JOURNAL OF SPORTS PHYSICAL THERAPY   |  AUGUST 2007   |   VOLUME 2, NUMBER  3

D Zalai, G Panics, P Bobak, I Csáki, P Hamar
Quality of functional movement patterns  and injury examination  in elite-level male professional football players
Acta Physiologica Hungarica, Volume 102 (1), pp. 34–42 (2015)

 

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