【第57回】向上しやすい体力、しにくい体力

フリーでシュートを打つためのフォーメーションを覚えても、シュートが入らなければその戦術は成り立たない。

シュートフォームが綺麗であっても(技術があっても)、筋力がなければシュートの射程距離は短くなるだろうし、持久力がなければ後半にそのスキルは発揮できない。

このような「戦術」「技術」「体力」の関係性は、以下の図のように表すことができますよね。

私たちS&Cコーチは、この「体力」という部分を高める専門家であり、この「体力」を高めるのが「トレーニング」です。

この体力の向上具合を計るのが「体力測定」や「フィジカルテスト」と言われるものですが、みなさんも以下のような種目を中学、高校で体力テストを行ったことがあるかと思います。

・握力(背筋力)
・長座体前屈(立位体前屈)
・上体起こし
・反復横跳び
・立幅跳び(垂直跳び)
・50m走
・ハンドボール投げ
・1500m走
・20mシャトルラン

しかしこの中には、単純な「体力」というよりは、技術的な要素も大きく貢献するもの(ハンドボール投げなど)もあります。
一般的には「競技特異的な体力」とでも言いますでしょうか。
ここではこのような体力を、体力と技術の間、「技術的体力」と表現しておきます。

そして上で挙げた各体力を、基礎体力寄りか、技術的体力寄りかで考えると以下のようになるのではないでしょうか。

技術的体力の特徴は、
①慣れれば即時的に能力が向上する場合が多い
②競技によっては必要でない場合も多いこと
です。

例えば、今まで握力計を握ったことの無い子供が最初に握力を計った後、力を出すコツを数時間教えてもらった後に再度握力計を握っても、20%も握力を向上するなんてことは考えづらいです。

一方、一度も物を投げたことのない子供に、少し投げ方のコツを教えてあげると、ハンドボール投げの20%程度の向上は起こり得るのではないでしょうか。

長期的な変化においても、スプリントスピードやパワーに比べて、アジリティのほうが変動が大きかった(Rank Correlationが小さかった)ことが報告されています。(Hirose and Seki, 2015)

競技によっては必要ではない!なんて断言すると、厳密にはそんなことない!なんて意見も飛んできそうですが、ハンドボール投げがサッカーに活きるかを考えると微妙ですよね。。

一方で基礎体力《筋力・パワー(垂直跳び)・持久力》は、多くのスポーツに共通して必要ですし、この能力が技術的体力の基になっていますよね。

以上のことを踏まえると、以下のように整理できます。

技術的体力において、サッカーであれば10m×5 (アジリティ)、バスケットボールであれば助走付きジャンプの最高到達点、野球においては遠投の距離などが挙げられます。

これらの技術的体力の向上には、体力要素の向上、技術的アプローチのどちらも必要なので、S&Cコーチと技術的なコーチの協力が重要です。

一方で基礎体力の向上というのは、技術練習だけではなかなか補えません
それゆえ、S&Cコーチにとって最も重要な部分になります。

基礎体力の向上にはとても時間がかかります。

選手が効果を実感するのにはそれなりの時間を要します。

一方で「慣れていない技術的体力」というのは、選手はとても効果(?)を実感しやすいです。

各競技に応じた技術的体力であればすでに慣れている可能性が高いので、その競技とかけ離れた技術的体力のトレーニングを行えばメキメキそのスキルは上達します。

例えば「バランスボールの上に飛び乗ることができる能力」なんてものはここ(図でいう???の部分の技術的体力)に分類されるのではないでしょうか。

最初はなかなか難しいですが、スクワットの重量が上がっていくのに比べたらトレーニングの効果を比較的早く感じられそうです。

ただ、この「技術的体力」が活きるスポーツはなかなか限られているでしょうが。。。

また、とてもメジャーなトレーニングですが、「ラダー」も、目的が曖昧なまま行うと「???」の部分に分類されます。

「ラダー」→「アジリティを高める」
「バスケ」→「アジリティが大事」
バスケ選手はラダーをやればOK!

なんて論が通りそうですが、

それだったら
「バレーのスパイク」→「ボールに力を伝える練習になる」
「サッカーのシュート」→「ボールに力を伝えることが大事」
サッカー選手はスパイク練習をするべきだ!
も正しいことになっちゃいます。

バスケに必要なアジリティ(サイドステップやクロスステップで相手について行く・切り返す、1フェイクで相手を抜き去る)を鍛えるためにはラダーで足を細かく動かすよりも効率的なものがありそうですよね。

まとめ

体力要素は
・基礎体力
・技術的体力
に分けられる。

基礎体力の向上は多くのスポーツに共通して必要で、様々な技術的体力、技術の基になる。
一方で基礎体力の向上には時間がかかる。

技術的体力は、トレーニング、競技練習、(またはその間を補うトレーニング)によって向上が可能。
技術的体力は基礎体力に比べて変化しやすい。(特にその動作に慣れていなければ)

向上させる技術的体力が競技からかけ離れていると、競技パフォーマンス向上にはつながらない。

向上させる技術的体力が競技からかけ離れているほうが、上達も感じられやすいし、トレーニングをやった感がでる。

最後のはただのブラックジョークです。笑

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考文献
Norikazu Hirosea, Taigo Seki
Two-year changes in anthropometric and motor ability values astalent identification indexes in youth soccer players.
Journal of Science and Medicine in Sport, 2015

 

 

 

 

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