【第56回】TechnologyとScience~お金をドブに捨てちゃいませんか?
Technology(テクノロジー:科学技術)の発達により、スポーツ界ではGPSや加速度センサーなどの機器を使ったデータの収集が行われています。
そのデータの収集には、大変な金額がかかることが往々にしてあります(車なんて全然買えるくらい)。
それゆえ「とりあえずデータをとったけど活用できなかったな」なんてのはお金をドブに捨てるようなものです。
大金をはたいて買った高級車でわざわざ底なし沼に向かってダイビングするようなものです。
「なんとなく正確なデータがたくさん取れたから損はしてないな」なんて人は、高級車を買って部屋に飾るだけで満足するタイプの人なのではないでしょうか。
乗ってなんぼでしょう車なんて。
車であれば免許さえあれば乗りこなすことが可能です。
しかしながらTechnologyをきちんと使いこなすには、Science(科学)への理解が必要になります。
先日、Technologyをスポーツ現場に提供しているCatapult社が主催するワークショップが催され、ページ運営者の佐々部がスピーカーとして「Scienceを活かしたTechnologyの活用方法」についてお話をさせていただきました。
本日はその内容の一部をご紹介します。
Technologyのみの使用
ここでいうTechnologyとは、GSPや加速度センサーなど、球技スポーツを対象とした運動量、運動強度などの測定機器のことを指すこととします。
陸上や水泳など連続的な動きが求められるスポーツにおいては、その運動量や運動強度はタイムや距離などから簡単に測定することができます。
一方、バスケットボールやサッカーなどの間欠的な動作を行うスポーツにおいては、このような運動量、強度の測定は難しいです。
しかしTechnologyを活用することで、その測定が可能になります!素晴らしい!
とはいっても、それが何なのでしょうか。
陸上トラック種目や水泳であれば、速ければ勝ちます。タイムがすべてだといっても過言ではありません。
一方、バスケットボールやサッカーもそうなのでしょうか?
運動強度を測定して、それが高まればオールオッケー?
もちろん戦術によっては運動強度がものを言う場合もありますが、そんな簡単なものではありません。
もしそうであれば、技術不足であっても無駄な動きの多いハードワーカーがNo1プレイヤーになってしまいます。。
以下のような扱い方はどうでしょうか?
最近、コーチは練習量を増やしました。
測定機器のデータからも練習量が増えてきていることが分かりました。
コーチが練習を観察していても、確かに動きの質(強度)が落ちているように感じます。
測定機器のデータからも練習の強度が落ちていることが分かりました。
。。この答え合わせに多額の資金が必要でしょうか?
このように「とりあえずTechnologyを使用してみました!」という状況は
砂漠の真ん中で、目的地も分からずに、よく見えるゴーグル(=Technology)を利用して、
「あ!サボテンがあったね!」
「大きな岩があるね!」
と言いながら彷徨っている状況と同じです。
目的地は?地図は?
Scienceのみの利用
このサイトでは以前から、Sport Science、Training Scienceの知見をご紹介させていただいています。
以前の記事(第39回、第49回)でも述べたように練習の量・強度をコントロールすることによって、怪我の予防、試合でのパフォ―マンスの最大化が期待できます。
例えば、普段の練習量の2.1倍以上の負荷をかけると怪我のリスクが急激に増大する(Hulin et al, 2015)ことが研究で明らかになっています。
また、試合でベストパフォーマンスを発揮するために、2週間前から徐々に練習量を落としていく方法(41~60%程度に)(Bosquet et al, 2007)がメタアナリシスの結果からも推奨されています。
せっかくこのような知見が明らかになっているのに、現場で活かさない手はありません!
。。。しかしながらこれらの知見は連続的なスポーツ(陸上や水泳)や、Technologyを使用して収集した球技スポーツのデータがもとになっています。
方向性が明らかになっているにも関わらず、球技スポーツでは練習量や強度が数値として分からないので、せっかくの知見も正確に活用できません。。
これは目的地までの最短ルートを示す地図を持っているのに、回りが霧ががかっていて回りが見えていない状況といっていいでしょう。
Scienceを活かしたTechnologyの活用方法
ここまで読んでいただければお分かりでしょうが、球技スポーツにおいてScienceを理解したうえでのTechnologyの活用ができることは大変な強みになります。
「疲労を抜くために練習量を落として」「怪我をしないために無理させず」
なんてどんなコーチでも考えるとは思いますが、試行錯誤、失敗も繰り返しているのではないでしょうか?
それであればスポーツ現場のスポーツ科学者が明らかにしてきた
「こんな試合前の調整が1番パフォーマンス上げたよ!」
「この練習量の調整なら怪我する可能性少ないよ!」
っていう知見をまずは採用してみるのが一番合理的ではないでしょうか?
このようにScienceとTechnologyを併用することで、より自信をもって、正しい方向に、綿密なプログラムを組むことができるので、あとは現場の感覚で少しの微調整を加えるだけです。
まとめ
ワークショップではまだまだ多くのことをお伝えさせていただいたのですが、長くなってしまうのでとりあえずこのへんで。。
Technology(GPSや加速度センサー)の使用って最先端っぽくてカッコイイですが、「Only Technology」になってしまっているチームも中にはあるのではないでしょうか。
もちろん「地図のない状況から新しい地図を作っていこうとしているんだ」人たちもいると思いますが、まずは先人たちが描いてきた地図を参考にしたほうが効率的では?
とはいっても屋内スポーツでのデバイスの活用なんて日本ではまだまだ広まり始めたばかりの分野。
私もチームで本当に120%活用できているかと言われればまだまだだと思うので、今後のインプット、アイディアの捻り出しを行って、より効果的なTechnologyの活用方法を探っていこうと思います。
佐々部孝紀(ささべこうき)
参考文献
Billy T Hulin, Tim J Gabbett, Daniel W Lawson, Peter Caputi, John A Sampson
The acute:chronic workload ratio predicts injury: high chronic workload may decrease injury risk in elite rugby league players
Br J Sports Med 2015
LAURENT BOSQUET, JONATHAN MONTPETIT, DENIS ARVISAIS1, and IN˜ IGO MUJIKA
Effects of Tapering on Performance: A Meta-Analysis
Med. Sci.Sports Exerc., Vol. 39, No. 8, pp. 1358–1365, 2007.
GPSでり「運動量」は測れないとおもうのですが。
コメントありがとうございます。
加速度センサーなどのデバイスと一括りにして運動量と表現しましたが、GPSの場合は厳密にいうと走行距離ですね。
言葉足らずで申し訳ありません。
返信ありがとうございます。運動量は質量と速度の積で求まる物理量です。同じ速度の場合、重たい方が止まりにくい、とかそういう時に使います。https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%81%8B%E5%8B%95%E9%87%8F
勉強になります。
今回は物理学の用語の「運動量(mv)」というよりは、現場でコーチたちとの会話で使用するときの「運動量(どれだけ選手が動いたか)」というニュアンスで使ってしまっていました。
ただ今回の記事は専門的な内容になるので、この場では適切な表現ではなかったかもしれませんね。
以後気をつけます。