【第55回】静的ストレッチの誤解の誤解~パフォーマンスを向上しうる2つのメカニズム

「運動前の静的ストレッチはパフォーマンスを低下させる」

というのは多くの研究によって明らかとなっています。(前回記事

一方で運動前の動的ストレッチはパフォーマンスを向上しうるし、可動域の向上がパフォーマンス向上につながるピッチングなどの動作に関しては、静的ストレッチが一概に害ばかりだと言えない。(ただし、それでも動的ストレッチのほうが有益ではありそう)
というのが前回の内容でした。

加えてストレッチのみでは傷害発生の予防としてはあまり効果はないことも複数の研究の分析結果(メタアナリシス)からも言われていますし(Lauersen et al, 2014)、疲労回復効果もあまり期待できないとレビューされています(Barnett, 2006)。

最近の研究では今まで信じられてきた静的ストレッチの効果(パフォーマンス、怪我予防、疲労回復)は否定されてばっかりです。
誤解が解けるのは良いことですが、ここまでくると静的ストレッチがかわいそうになってきます。

(ただ、効果のないことを一生懸命やらされるアスリートのほうがよっぽどかわいそうですよね)

しかし静的ストレッチを庇うわけではありませんが、それでも静的ストレッチを行うメリットというのもあるんです。

本日はそのうちのいくつかをご紹介します。

柔軟性向上を目的とした静的ストレッチ

多くの研究で静的ストレッチのパフォーマンスへの効果について調べられています。

しかしその「パフォーマンス」というのは、スプリントスピードであったりジャンプ力であったり、いわゆる「体力要素」「身体能力」についてです。

たしかに運動前の静的ストレッチは上記のような「パフォーマンス」には悪影響かもしれませんが、「技術」を発揮するために柔軟性が必要というケースはしばしば見受けられます。

特にフィギュアスケートや新体操といった、全身を使った「表現」が必要なスポーツにおいては柔軟性は必ず必要でしょう。

そのような表現型のスポーツ以外にも、野球のスローイングのようにボールに大きな力を加える必要がある動作であれば、大きな可動域が大きな力積の獲得につながると考えられますし、バスケットボールのディフェンスのような動作であれば、股関節の柔軟性があったほうが筋力トレーニングでつけた力を効率的に多方向に伝えられるでしょう。

このような目的がある場合は、日ごろの練習・トレーニングの一環として静的ストレッチを行うことは理にかなっていますし、筋出力が落ちてでも柔軟性の向上を得たい場合は、運動前のストレッチも行ったほうがいいでしょう。

運動前の静的ストレッチでも筋出力を向上しうる

今までの主張といきなり相反することになりますが、運動前のストレッチでもやりようによっては筋出力を向上させます。

今まで述べていたのは「運動前の主働筋の静的ストレッチ」についてです。

実は「運動前の拮抗筋の静的ストレッチ」は筋出力を向上させることがSandbergら(2012)によって明らかにされています。

この研究ではハムストリングの静的ストレッチを行うことによる膝伸展トルクの向上と
股関節屈曲筋、足関節背屈筋群(図の紺色の筋群)の静的ストレッチを行うことによるジャンプ力の向上を報告しています。

(メカニズムについても色々考察できそうで面白いのですが、長くなりそうなので割愛させていただきます。。)

ただし、これはあくまでもジャンプや膝の単関節の伸展における話なので、スプリントなどその他の動作についても当てはまるかというと断言はできませんが、ストレッチを行ううえで非常に重要な知見であると考えられます。

まとめ

ひと昔前までは
「運動前にストレッチを行おう!疲労回復のために運動後もストレッチを行おう!」
という風潮でした。

今はで徐々にそれらの効果が否定されて
「静的ストレッチってそんなに行う必要ないんじゃない?」
という声も聞こえてきており
行き過ぎちゃうと「静的ストレッチは悪だ!」
なんて主張もたまに耳にします。

しかし今回紹介した
・柔軟性の向上
・拮抗筋ストレッチによるパフォーマンスの向上
の2点については、静的ストレッチはポジティブな効果を発揮するようです。

何回もこのサイトで主張させていただいていることですが
どんな方法もメリット・デメリットを有しています。
メリットを最大化できるように、そのときどきで適切な方法をチョイスしましょう!

 

The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials
Jeppe Bo Lauersen, Ditte Marie Bertelsen, Lars Bo Andersen
J Sports Med 2014;48:871–877

Using Recovery Modalities between Training Sessions in Elite Athletes Does it Help?
Anthony Barnett
Sports Med 2006; 36 (9): 781-796

 

 

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