【第49回】怪我を防ぐための3つの視点
怪我の中には、受傷してしまうと半年以上、場合によっては1年間もスポーツができないものもあります(前十字靭帯損傷など)。
そんなに練習できない期間があると、今まで練習で積み重ねてきたものが無くなってしまう可能性も大いに考えられます。
逆に「怪我を防ぐ」ができれば、間接的に競技パフォーマンスを向上させることができるとも言えます。
そして怪我を防ぐための方法は、大きく分けて3つ考えられます。
怪我を防ぐための3つの視点
以前の記事(【第35回】AT目線、S&C目線)と重複する部分はありますが、怪我の原因としては
・身体の各組織(筋肉や腱、関節)が弱い、硬い
・ミスユース(身体の誤った使い方)
・オーバーユース(負荷のかけすぎ)
が主に考えられます。
これらの各要素に対してアプローチをすることで、怪我を大幅に減らすことができると考えられます。
身体の各組織を鍛える
筋力トレーニングによって、筋肉を鍛えられるのはもちろんですが、ウエイトトレーニングを行っている人のほうが関節(軟骨、靭帯)や腱の強度も高いことが報告されています(Hartmann et al, 2013)。
また、ウエイトトレーニングを行うことによって傷害の発生率が約1/3になる(Lauersen et al, 2014)というデータもあるので、「身体の各組織を鍛えることによって怪我を予防できる」というのは間違いないでしょう。
ミスユースを改善する
例えば、前十字靭帯などの膝の外傷は
・膝が内側に入る動作(Hewett et al, 2005)
・下肢の屈曲が浅い動作(Yu and Garrett, 2007)
によって受傷のリスクが高まると言われています。
そして、そのような動作を修正するような自体重のトレーニングを行うことで、前十字靭帯の発生率を低下させたという報告もあることから(Myklebust et al, 2003)、少なくとも前十字靭帯の予防はミスユースの改善によって可能でしょう。
他にも
背中が丸まった姿勢・反った姿勢→腰痛
足の外側に乗るクセ→捻挫
など、傷害によってリスクになる姿勢や動作があると考えられ、それらを改善することで各傷害の発生率は低下させることができるのではないでしょうか。
また、ウエイトトレーニングを正しいフォームで行うことで身体の組織を強くしつつ、ある程度まではミスユースを改善することも可能です。
しかしながら誤ったフォームでウエイトトレーニングを行うことで、このミスユースを助長してしまうことがあるのもまた事実です。
オーバーユースを防ぐ
練習の負荷というのは、強度と量の掛け算で決まります。
強度というのは、練習でいえば激しさ、スピード、コンタクトの強さで、
ウエイトトレーニングでいえば重さになります。
量というのは時間、回数、セット数あたりで表されます。
激しい練習を長時間行うと、負荷は大きくなります。
単純に練習での怪我を少なくしたければ、強度も量も落とせばよいでしょう。
しかし、それでは試合との強度が違い過ぎて試合で怪我をするかもしれませんし、何より常にそんな練習をしていたら試合に勝てませんよね。
とは言ってもどのくらいの強度・量が適切かというと、その選手たちの体力レベルによります。
また同じくらいの体力レベルであっても、ミスユースの程度、基礎筋力のレベルによって怪我をする負荷は変わってくるでしょう。
しかし共通して言えることとしては
急激に負荷を上げると傷害の発生リスクが高まるということ
これは体力レベルが低くても高くても言えることだと考えれます。
実はこのことについても研究がされていて、まず過去4週間の負荷の平均のことを慢性負荷(Cronic Work Load)、その週の負荷のことを急性負荷(Acute Work Load)と定義されています(Hulin et al, 2015)。
※この研究では走行距離を負荷として定義
例えば、上記のような慢性負荷(1~4週目が20、30、20、30という負荷:数字は適当)だと平均は25になります。
ここで急性負荷が慢性負荷の平均の約2倍以上、つまり1週間で約50以上になると怪我が急激に増加してしまったというのがこの研究の結果です。
極端な例で言えば、2週間のオフの後(慢性負荷の3週目、4週目が0の状態から)、急にオフ前と同じような負荷で練習をしてしまうと、オフ前と同じ練習にも関わらず怪我をしてしまう場合もあるということ。
もちろん、徐々に負荷を増加していけば負荷を無限に高くできるかというとそういうわけではありませんが、
負荷を高めるのなら、計画的に、徐々に高めなければいけない
ということです。
まとめ
怪我は、身体の弱さ×ミスユース×オーバーユースで起きます。
(もちろん、他の細かな外的要因もありますが)
もし怪我で困っているアスリートがいたら、今一度自分が怪我をしてしまった原因がどこにあるのかを考えてみてください!
Analysis of the Load on the Knee Joint and Vertebral Column with Changes in Squatting Depth and Weight Load
Hagen Hartmann, Klaus Wirth, Markus Klusemann
Sports Med (2013) 43:993–1008
The effectiveness of exercise interventionsto prevent sports injuries: a systematic reviewand meta-analysis of randomised controlled trials
Jeppe Bo Lauersen, Ditte Marie Bertelsen, Lars Bo Andersen
Br J Sports Med 2014;48:871–877
Mechanisms of non-contact ACL injuries
Bing Yu, William E Garrett
Br J Sports Med 2007;41
Biomechanical Measures of Neuromuscular Control and Valgus Loading of the Knee Predict Anterior Cruciate Ligament Injury Risk in Female Athletes
Timothy E. Hewett,*†‡ PhD, Gregory D. Myer,† MS, Kevin R. Ford,† MS, Robert S. Heidt, Jr,§ MD, Angelo J. Colosimo,‡ MD, Scott G. McLean,|| PhD, Antonie J. van den Bogert,|| PhD, Mark V. Paterno,† MS, PT, and Paul Succop,¶ PhD
The American Journal of Sports Medicine,2005 33(4) pp. 492-501
Prevention of Anterior Cruciate Ligament Injuries in Female Team Handball Players: A Prospective Intervention Study Over Three Seasons
Grethe Myklebust, MSc, PT, Lars Engebretsen, MD, PhD, Ingeborg Hoff Brækken, MSc, PT, Arnhild Skjølberg, PT, Odd-Egil Olsen, MSc, PT, and Roald Bahr, MD, PhD
Clinical Journal of Sport Medicine, 2003, 13:71–78
The acute: Chronic workload ratio predicts injury: High chronic workload may decrease injury risk in elite rugby league players
Billy T Hulin, Tim J Gabbett, Daniel W Lawson, Peter Caputi, John A Sampson
Br J Sports Med 2015
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